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第三章 エルフの里

21話 問題を解決するための方針

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 まず、長の周囲にいる年老いたエルフたちが叫んだ。

「この者たちが引き入れた!」
「魔族の仕業にしようとしていたのじゃ!」
「極刑に処すべきである!」

 賢く、冷静に判断をすると思われていたエルフでも、年老いてしまえばこんなものである。長年の凝り固まった思想から抜ける若さはすでに失われていた。

 マーシーは跪き、ただ話を聞く。
 アリーヌは、無罪を主張する。
 ローランは、粛々と言葉を耳に入れていた。

 場は落ち着きを取り戻さない。守旧派である年老いたエルフたちは怒声を浴びせ続けていた。そもそも、彼らは否定的な考えを持っている。ローランたちのせいにするのは、ごく自然な考えだ。

 チラリと、ローランはクルトを見る。この場をどうにかできる人物は一人だけであり、その唯一の人物であるクルトは、小さく手を上げた。それに合わせ、エルフたちは口を噤む。
 全員が注目する中、クルトは静かに言った。

「状況を鑑みるに、まず疑うべきはエルフだろう」
「長!? 仲間を疑うのですか!」
「森で扱える感知と隠蔽の魔法は完璧か?」
「もちろんであります! あれは我々が長い時間を掛け――」
「では、それを魔族や他種族が簡単に破れるのか?」

 クルトの冷静な判断に、年老いたエルフたちは小さくなる。
 しかし、口ごもりながらもまだ言う。

「……《紅炎》は一等級冒険者。なにかしらの魔道具を使用している可能性があります」
「ならば、なぜ堂々と森の中へと入った。犯人であるのならば、疑われることは分かっていたはずだ。そのなにかしらの魔道具を使用し、姿を隠していれば良いではないか」

 今度こそ完全に口を閉ざしたエルフたちに、クルトは立ち上がって言った。

「年を重ねしエルフたちよ。人を受け入れがたい気持ちは分かるが、目を曇らせてはならない。その蓄えた知識で、正しき答えを導き出してくれ。我らエルフこそが、もっとも精霊に愛されし種族である理由を、その身で証明するのだ」

 年老いたエルフたちは深々と頭を下げる。
 自分たちこそが至高の種族であり、精霊によって選ばれた存在であると、誇りを思い返し。

 誰もがクルトを尊敬の眼差しで見る中、ローランだけは不信感を覚えていた。
 公正明大な沙汰を下したように思えるが、エルフの内部に敵が潜んでいる可能性を示唆するのはどうなのだろうか。
 それはつまり、改革派の旗印である妹のレンカが疑われることに繋がる。

 しかし、ローランはそんな感情を決して表に出さない。他の者と同じように、憧れを持った眼差しをクルトに向け、頭を深々と下げた。


 落ち着きを取り戻した場で、クルトはローランたちを見た。

「冒険者諸君。汝らの疑いが完全に晴れたわけではない。この問題を解決するため、力を貸してもらいたい」
「寛大な沙汰に感謝いたします、クルト様。微力ながらお力添えになれればと思います」
「期待しているぞ」

 話が終わり、3人は別室へと案内される。全員が同じ部屋なのは、監視がしやすいという意味合いもあるのだろう。
 ローランが見張りの1人に聞くと、共に戦った3人のエルフはまだ意識を取り戻したばかりらしい。だが、ローランとマーシーの無実を訴えてくれたらしく、感謝の言葉を告げてもらえるように頼んだ。

 その後は全員がなにも話さない。盗聴されていることを考えてのことだ。
 部屋を見回っていたアリーヌは、首を傾げた。

「おかしいなぁ。わたしたち信用されてるみたい」
「見張りはいるが盗聴の類は無い。そういうことか?」
「わたしが見た限りだけどね」

 3人の中で、そういった技術に最も優れているのはアリーヌだ。彼女がそういう以上、疑いはある程度晴れている可能性が高かった。
 しかし、ローランの顔は渋い。彼の中ではなにかが納得いっていなかった。

「返却された荷物に異常は?」
「なにもなさそうかなー」
「こっちも大丈夫そう」

 無罪放免とはいくはずがない。となれば、一等級冒険者であるアリーヌでも気づけぬ仕掛けが施されているのかもしれない。
 相手は優れた隠蔽の魔法を扱う種族エルフ。そう考え動くことを、ローランは決めた。

「これから……いや、違うな」

 首を横に振る。今、ローランは自分の考えで動こうとしていた。しかし、今のローランはローランではない。勇者の替え玉だ。それを考えれば、方針は簡単に決まった。

「我々は問題解決に全力を尽くす。魔族の仕業であれば、それを討つ。もし他種族やエルフが行ったことならば、まずは事情を探ろう。脅されているのかもしれない」

 本来ならば、強い炎の魔法の使い手を探すべきだ。エルフは風の魔法を得手とするが、炎の魔法を得手とするものだって何人かいるだろう。
 しかし、それは探ったりはしない。エルフの長であるクルトが望む通りに、彼らと協力して解決する。罪を憎んで人を憎まず。それが、ローランの選んだ道だった。
 この案に、アリーヌが難色を示す。

「今回の件、普通に考えれば魔族の可能性は――」
「ボクはおにいさんに賛成だよ。頑張って調べていこうねっ」

 両手を上げ賛成を全身で表しているマーシーが、アリーヌにウインクする。
 それを見て彼女も理解した。効率的な考えをしているローランが、なぜ効率よりも優しさを優先した方針を立てたのかを。
 アリーヌは少しだけ優しい顔を見せた後、満面の笑みで手を上げた。

「なら、まずは現地の再調査からかな! がんばろー!」
「おー!」

 ローランはただ見ているだけだったのだが、2人からジトッとした目を向けられ、やりたくないという内心を作り笑いで隠し、同じように手を上げた。
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