次期勇者として育ててくれた家から絶縁されたのですが、勇者の替え玉として生きることにしました

黒井 へいほ

文字の大きさ
上 下
24 / 40
第三章 エルフの里

21話 問題を解決するための方針

しおりを挟む
 まず、長の周囲にいる年老いたエルフたちが叫んだ。

「この者たちが引き入れた!」
「魔族の仕業にしようとしていたのじゃ!」
「極刑に処すべきである!」

 賢く、冷静に判断をすると思われていたエルフでも、年老いてしまえばこんなものである。長年の凝り固まった思想から抜ける若さはすでに失われていた。

 マーシーは跪き、ただ話を聞く。
 アリーヌは、無罪を主張する。
 ローランは、粛々と言葉を耳に入れていた。

 場は落ち着きを取り戻さない。守旧派である年老いたエルフたちは怒声を浴びせ続けていた。そもそも、彼らは否定的な考えを持っている。ローランたちのせいにするのは、ごく自然な考えだ。

 チラリと、ローランはクルトを見る。この場をどうにかできる人物は一人だけであり、その唯一の人物であるクルトは、小さく手を上げた。それに合わせ、エルフたちは口を噤む。
 全員が注目する中、クルトは静かに言った。

「状況を鑑みるに、まず疑うべきはエルフだろう」
「長!? 仲間を疑うのですか!」
「森で扱える感知と隠蔽の魔法は完璧か?」
「もちろんであります! あれは我々が長い時間を掛け――」
「では、それを魔族や他種族が簡単に破れるのか?」

 クルトの冷静な判断に、年老いたエルフたちは小さくなる。
 しかし、口ごもりながらもまだ言う。

「……《紅炎》は一等級冒険者。なにかしらの魔道具を使用している可能性があります」
「ならば、なぜ堂々と森の中へと入った。犯人であるのならば、疑われることは分かっていたはずだ。そのなにかしらの魔道具を使用し、姿を隠していれば良いではないか」

 今度こそ完全に口を閉ざしたエルフたちに、クルトは立ち上がって言った。

「年を重ねしエルフたちよ。人を受け入れがたい気持ちは分かるが、目を曇らせてはならない。その蓄えた知識で、正しき答えを導き出してくれ。我らエルフこそが、もっとも精霊に愛されし種族である理由を、その身で証明するのだ」

 年老いたエルフたちは深々と頭を下げる。
 自分たちこそが至高の種族であり、精霊によって選ばれた存在であると、誇りを思い返し。

 誰もがクルトを尊敬の眼差しで見る中、ローランだけは不信感を覚えていた。
 公正明大な沙汰を下したように思えるが、エルフの内部に敵が潜んでいる可能性を示唆するのはどうなのだろうか。
 それはつまり、改革派の旗印である妹のレンカが疑われることに繋がる。

 しかし、ローランはそんな感情を決して表に出さない。他の者と同じように、憧れを持った眼差しをクルトに向け、頭を深々と下げた。


 落ち着きを取り戻した場で、クルトはローランたちを見た。

「冒険者諸君。汝らの疑いが完全に晴れたわけではない。この問題を解決するため、力を貸してもらいたい」
「寛大な沙汰に感謝いたします、クルト様。微力ながらお力添えになれればと思います」
「期待しているぞ」

 話が終わり、3人は別室へと案内される。全員が同じ部屋なのは、監視がしやすいという意味合いもあるのだろう。
 ローランが見張りの1人に聞くと、共に戦った3人のエルフはまだ意識を取り戻したばかりらしい。だが、ローランとマーシーの無実を訴えてくれたらしく、感謝の言葉を告げてもらえるように頼んだ。

 その後は全員がなにも話さない。盗聴されていることを考えてのことだ。
 部屋を見回っていたアリーヌは、首を傾げた。

「おかしいなぁ。わたしたち信用されてるみたい」
「見張りはいるが盗聴の類は無い。そういうことか?」
「わたしが見た限りだけどね」

 3人の中で、そういった技術に最も優れているのはアリーヌだ。彼女がそういう以上、疑いはある程度晴れている可能性が高かった。
 しかし、ローランの顔は渋い。彼の中ではなにかが納得いっていなかった。

「返却された荷物に異常は?」
「なにもなさそうかなー」
「こっちも大丈夫そう」

 無罪放免とはいくはずがない。となれば、一等級冒険者であるアリーヌでも気づけぬ仕掛けが施されているのかもしれない。
 相手は優れた隠蔽の魔法を扱う種族エルフ。そう考え動くことを、ローランは決めた。

「これから……いや、違うな」

 首を横に振る。今、ローランは自分の考えで動こうとしていた。しかし、今のローランはローランではない。勇者の替え玉だ。それを考えれば、方針は簡単に決まった。

「我々は問題解決に全力を尽くす。魔族の仕業であれば、それを討つ。もし他種族やエルフが行ったことならば、まずは事情を探ろう。脅されているのかもしれない」

 本来ならば、強い炎の魔法の使い手を探すべきだ。エルフは風の魔法を得手とするが、炎の魔法を得手とするものだって何人かいるだろう。
 しかし、それは探ったりはしない。エルフの長であるクルトが望む通りに、彼らと協力して解決する。罪を憎んで人を憎まず。それが、ローランの選んだ道だった。
 この案に、アリーヌが難色を示す。

「今回の件、普通に考えれば魔族の可能性は――」
「ボクはおにいさんに賛成だよ。頑張って調べていこうねっ」

 両手を上げ賛成を全身で表しているマーシーが、アリーヌにウインクする。
 それを見て彼女も理解した。効率的な考えをしているローランが、なぜ効率よりも優しさを優先した方針を立てたのかを。
 アリーヌは少しだけ優しい顔を見せた後、満面の笑みで手を上げた。

「なら、まずは現地の再調査からかな! がんばろー!」
「おー!」

 ローランはただ見ているだけだったのだが、2人からジトッとした目を向けられ、やりたくないという内心を作り笑いで隠し、同じように手を上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...