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3巻
3-1
しおりを挟む第一話 でかい豆って書いて大豆だ
あー! 森を出るってのも悪くねぇな!
精霊が増えすぎたからどうにかしてくれって神に頼まれた俺、真内零は、とりあえず隔離されていた精霊の森から地上に戻ってきた。
久しぶりのこっちの世界だ。なんか懐かしいな。
チビ共を見ると、俺と同じ気持ちらしく笑っている。これだけでいい気分になるってもんだ。
だが、右腕にはグス公。左腕にはリルリ。背中や頭にはチビ共。……すげぇ歩きにくい。
地上に戻ってきたら、なんでか知らねぇが、グス公とリルリがいたんだよな。とりあえず、三人でカーラトの町に向かって歩きだしたのはいいんだが……。
うざってぇから、俺は無理矢理二人を引き剥がした。不服そうな顔をしていたが、まぁ知ったことじゃねぇ。
「零さん! 久しぶりの再会ですよ? 感情が高ぶるのは仕方ないじゃないですか!」
「うぜぇ」
「うぜぇ!? うぜぇってなんですか!? こんな可愛い子と一緒なのに、うぜぇっておかしくないですか!?」
「あぁ、悪ぃ。訂正するわ。超うぜぇ」
「超うぜぇ!?」
正直な気持ちを伝えたつもりなんだが、グス公はぐすぐすぐずぐずと……。ちっとは王女らしくなってるかと思ったら、全然変わってねぇな。
それが分かっただけでも、口元が緩んだ。帰って来た。そういう実感がある。
しかし、少し気になるところもあった。
メイドのリルリは急に大人しくなり、しずしずと後ろを歩いている。
さっきまであれだけ騒がしかったのに、どうしたんだこいつは?
……再会してすぐはテンションが上がっちまってたが、少し経って落ち着きを取り戻したら、恥ずかしくなったのかもしれねぇ。
おう、ここは俺が気を遣ってやるか。仕方ねぇなぁ!
顔から零れる笑みを抑えられないまま、俺は二人に笑いかけた。
「あ、零さん。一年も離れてたんで、その目にまだ慣れません。もうちょっと時間をください」
「知ってた知ってた。どうせこうなるだろうってな!」
一年前と全く変わってねぇな。
だが、俺だって自分の目が怖いこと、笑うとさらに怖いことは自覚している。文句を言いたい気持ちはあったが、我慢だ我慢。
それは置いておくとしても、やっぱりおかしい。何がって、言うまでもなくリルリだ。
俺の知っているこいつだったら、「ははっ、目が怖いのを自覚しろよボケナス」とでも言ってきただろう。
なのに、今は違う。何も言わず、静かに歩いている。
なんか……怖ぇ! 頭でも打ったのか?
まじまじ見ていると、リルリがこほんと一つ咳払いをした。
「零様、私は一年前とは違います。主であるグレイス様の前で、零様に失礼な発言をするのは慎もうと思います」
「さっきは普通に話しかけてきたじゃねぇか」
「気のせいです」
「ん、そうか」
まぁなんか事情とか、心境の変化とかがあるんだろう。
少し寂しい感じもしたが、俺はそれ以上ツッコまないことにした。
成長か。成長……こいつらが成長?
そりゃもちろんおかしいことじゃねぇんだが、なんか釈然としねぇ。
だから、二人を改めて見てみる。
グス公はへらへらと笑っていて、隙あらば俺の腕に抱きつこうとしてくるので、そのたびに避けている。むすっとされたが、こいつのことはどうでもいい。
リルリはどうだ? どっか変わったのか? ふーむ……。
悩んでいると、リルリの横でチビ共が縦に重なり出した。肩車ってやつだ。
おいおい、危ねぇぞ? 一人二人じゃねぇし、崩れるんじゃないかと思って支えようとしたのだが、他のチビ共に止められた。どうも、見ていろってことらしい。
心配だがそのまま見守っていたら、チビ共はリルリと同じくらいの高さで重なるのを止めた。ふらふらしていて、見てらんねぇ。
一人おろおろしていると、一番上のチビが自分とリルリを比べるような仕草をしている。
何を比べているんだ? 何かを俺に伝えようとしていることは分かるが、肝心の内容が分からねぇ。
……と、以前の俺なら悩んでいたところだが、一年前とは違う。
この一年間で、俺とこいつらは一心同体ともいえる関係になった。言いたいことなんて、目を見ただけで大体分かる。
つまり、今こいつらは……自分たちのほうがリルリよりでかい! と、アピールしてるんだ。
でかいことをアピールする。なぜそんなことをしているのか……あれ? もしかして、こいつ……。
気づいた俺は、リルリの頭の上へ手を載せた。
「……零様、どうなさいましたか?」
「リルリ、お前でかくなってねぇか?」
「そうなんだ! やっと気づ……こほん、私も成長しております。身長も伸びました」
「おぉ、落ち着いた態度といい、本当に成長してるんだな。これじゃあもう豆粒とか言えねぇか」
俺の言葉を聞き、リルリは少しだけ微笑んだ。もっと素直に喜べばいいのに、面倒な奴だ。
しかし、こういう路線でいきたいと思ってるなら邪魔するわけにはいかねぇ。リルリの意思を尊重するのがいいだろう。
なら、もっと成長したことを褒めてやるか。実際、さっき言ったら喜んでたしな。
頭をがしがしと撫でながら、俺はリルリの成長を喜んでやることにした。
「成長した豆粒。つまり……大豆だな! 格上げしてやらぁ!」
「ダイズ……? 零さん、ダイズとはなんですか?」
「私も存じ上げません。ダイズとはどんなものでしょうか?」
あぁ? こいつら、大豆も知らねぇのか。
もしかしたら、こっちの世界にはないのかもしれねぇ。なら、教えてやらないと意味が伝わらないよな。
豆がでかくなったら大豆。そんな簡単な話を、俺はこいつらに説明してやることにした。
「大豆ってのは俺の世界にあった豆でな。でかい豆って書いて大豆だ」
「ぶふっ」
俺が教えてやると、なぜかグス公が噴き出した。
面白いことを言ったわけじゃねぇんだが、なんでだ?
首を傾げている俺の隣で、リルリは口元をピクピクさせていた。
グス公はまだ笑ってる。
「……うふふっ、大人になったということですよね? でも、結局、豆じゃないですか。大人になっても豆って! もう零さんったら! 豆から大きい豆って笑わせないでください!」
「そ、そんなに面白いことを言ったか? 俺は素直に褒めたつもりだったんだが……」
「殺すぞボケナス」
ぴたりと、俺とグス公の動きが止まる。そして同時にリルリを見た。
しかし、顔色一つ変えずに平然としている。何事もなかった、そんな感じだ。
今、こいつ変なこと言ったよな?
無言でグス公を見ながら、手でジェスチャーを送る。
グス公にもリルリの言葉は聞こえていたらしく、頷きながらジェスチャーを返してきた。
チビ共にもジェスチャーで聞いてみると、全員がこくこくと頷いている。やっぱり聞き間違いじゃなかったようだ。
どうする? 問い質すか? それとも流してやるか?
なんともいえない空気の中で考えていると、リルリが俺を見た。
「それはともかく、結局、何が起こっているのです? また世界が乱れているというお話でしたが……」
「あぁ、そうだな……まぁ簡単に言うと、チビ共が増えすぎてやべぇことになってる」
「一年前は、精霊が減りすぎていたんですよね? 何があったんですか?」
まぁ、リルリの疑問も当然だ。
俺のせいだと分かってるから多少気まずいが、二人に説明することにした。
一年間、俺が精霊の森で暮らしていたこと。
そこで、毎日穏やかに楽しく過ごしていたこと。
チビ共を増やすために頑張って働いて……しかし問題が起きてしまい、もやしメガネ――神が現れたこと。
今度はチビ共が増えすぎたせいで、世界に異常が起きるらしいということ。
最後まで聞いた二人は、はぁーっと深く息を吐き頷いた。
「つまり、零さんが精霊を甘やかしまくった結果、増えすぎたということですよね? 私も甘やかしてくださいよ!」
「箱入り姫をこれ以上甘やかしてどうすんだ」
「むぐー!」
頬を膨らませ、グス公は不服そうに俺を見ている。
リルリは、じっと考え込んでいた。
腕を組みながら、とんとんと自分の腕を叩くリルリ。一体何を考えているんだ?
不思議に思いながら、俺たちはリルリの考えが纏まるのを待つ。
そして、それはすぐだった。
「おかしいと思います。異常があるという連絡は受けておりません」
「異常が起きてねぇ? そんなわけないだろ。俺は未だにあのもやしメガネが神様だってことは少し疑っているが、あいつから話を聞いてんだぞ?」
「グレイス様、何かおかしなことが起きているという報告はありましたか?」
「精霊に関しての報告はありませんね。些細ないざこざはありますが……」
どういうことだ? もやしメガネがあれだけ慌てていたんだ、何も起きていないはずはない。
なのに、二人は平和そのものだと説明してくれた。
俺は闇の大精霊として、一年前に世界を変革した。
それは、人々がもう魔石を砕かないようにするためだ。
魔石ってのは透明で綺麗な石で、この世界では装飾品などに加工される。
だが、その正体は力を使い果たして眠っている精霊だ。
精霊は力尽きると黒い石になる。で、周囲の魔力を吸うことで魔石化し、十分な魔力が溜まると、また精霊として復活する。
そのことを知らなかった人々は、魔石を砕いて加工することで世界にいる精霊達の数を減らしちまった。その結果、世界の魔力が乱れたってのが一年前の状況だ。
俺はチビ共がこれ以上犠牲にならないために、精霊の森を隔離して、チビが黒い石になったら自動的にそこへ送られるような仕組みを作った。闇の大精霊の世界変革の力でな。
で、俺は減っちまった精霊を増やすために、隔離された精霊の森で、この一年頑張ってきたわけだが……。
俺がいなくなった後、世界にはこれといって大きな混乱は起こらなかったそうだ。むしろ、誰もが反省していたらしい。
何も知らずに魔石を砕き、加工していたこと。自分たちのせいで世界が危機に瀕していたことが分かって、皆言葉を失ったという。
もちろん、信じない奴もいた。
だがそれでも、多くの人が精霊を保護しようって動いた。
俺たちのやったことは無意味じゃなかった。人々は考えを改めたし、チビ共を守ることで、魔力の乱れの影響で暴走していたモンスターたちも落ち着いたってことだ。
一年間引き籠っていた俺にとって、二人が教えてくれた世界の変化は、とても嬉しく思えることだった。
「魔石は全て精霊の森へ移動します。人々は精霊の姿が見えないので、利用することもできない。そういった状況も良かったんでしょうね」
リルリはそう言って説明を締めくくった。
「……へへっ、チビ共に優しい世界ができた。それだけで俺は満足だ」
確かに満足はしている。……だが、十分か?
自分の中で、そうじゃないと訴える声がした。
そうだ、俺は満足していたらいけねぇ。
今度は、チビ共が増えてもいい世界を作らないといけねぇからだ。
……世界とかいうと大袈裟だな。前と同じだ、チビ共のために頑張る! それだけだ。
俺たちはその後も、止めどなくこの一年間のことを話す。
気づけば夕方。目の前にはカーラトの町が見えていた。
第二話 また会えてすげぇ嬉しいぞ
だらだら話しながら歩いて来たが、あっという間だったな。
現在の状況も確認できたし、悪くねぇ時間だったと思う。
カーラトの町はもう目の前。そんな時だ、グス公が俺の背中を突いた。
「なんだ?」
「一つ気になっていたのですが、零さんの髪……なんでそんなに伸びてるんですか?」
「あぁ、これか。切ろう切ろうと思ってたんだがな」
俺の髪は、肩にかかり背に当たるくらいまで伸びていた。元々ピンッと撥ねやすい髪だが、今はつやっとして真っ直ぐになっている。
日々、チビ共に髪を手入れされてたんだよなぁ。ついでに切ってもらっても良かったんだが、鋏がなかったからな。
鉈ならあったんだが、鉈で髪を切るのって怖くねぇか? ミスったら、変なとこを切っちまいそうでよ。
まぁ、その、なんだ? つまり、そういうことで髪は切らなかった。今考えると、覚悟を決めて切れば良かったと思う。
ビビッていたとは言いにくい。どう説明したもんかな……。
口籠っていると、ぽんっとグス公が自分の手のひらを叩いた。
「髪を伸ばしてみたかったんですね!」
「……そうだ! たまには悪くないかと思ってな! まぁうざってぇから、落ち着いたら切ることにすらぁ」
「では、その時には私がやらせていただきます」
リルリはどこから出したのか分からないが、鋏を指先に引っ掛けてくるくると回している。こいつに切らせると碌なことにならない気がする。
だが、鋏で切ってもらえるなら、痛くもねぇだろうし怖くもねぇな。
そう思い頷こうとしたんだが、リルリの怪しげな笑みが気にかかった。
「なぁ、お前なんか変じゃねぇか?」
「いえ、いつも通りです。成長して大豆になっておりますからね」
にたりと、リルリが笑った。
やべぇ。もしかして、こいつ怒ってんじゃねぇか!?
なんで怒ってるんだ? 分からねぇが、丁寧な口調のまま確かに怒っている。
も、もしかして……大豆か? 大豆がいけなかったのか? 豆粒を大豆に格上げしたことが、こいつの怒りを買ったのか?
鋏を振り回すリルリを見ながら、恐る恐る聞いてみる。
「な、なぁリルリ」
「大豆で結構ですよ、零様」
「いや、様とかいらねぇからよ。その、なんだ? えぇっと……あぁ面倒くせぇ! お前、俺に大豆じゃなくて、なんて言って欲しかったんだ!」
「……え?」
リルリの指から鋏が離れ、真っ直ぐにグス公へ飛んだ。
ギリギリのところで俺がキャッチしたから問題ねぇ。だが、グス公は俺の背に隠れ、ガタガタ震えだした。
自分の主を殺しかけたメイドは、なぜかもじもじしながら、俺のことをちらちらと見ている。
頬も少し赤くなっているし、なんなんだ? また隠し持ってる鋏が飛んできたりしねぇだろうな?
警戒しながら見ていると、ぼそりとリルリが呟いた。
「久しぶりに会った女性が成長していたら……褒めるべきではありませんか?」
「なるほど、褒めて欲しかったんだな。偉い偉い」
「それは子供にすることだろう! いい加減にしろボケナス!」
ぽんっと頭に手を載せたら、リルリは顔を真っ赤にして怒りだした。周囲には魔法で出した氷が浮かび上がり、その先はナイフのように尖っている。
化けの皮が剥げてんぞ? などと言う余裕はない。一瞬で、俺の命が危うい状況になっていた。
落ち着け、落ち着くんだ。チビ共も首を横に振っているし、俺は何か間違えたらしい。
何が正解だった? なんて伝えれば良かった?
今にも氷を射出しようとしているリルリを見て考えていたら、後ろに隠れているグス公が耳元で話しかけてきた。
「零さん、私も命が惜しいので、とてもとてもとてもとても言わせたくありませんが、協力します」
「お、おぉ? グス公にはリルリが怒ってる理由が分かってんのか?」
「はい、任せてください。私が言うことを復唱してください」
無言のまま、俺は頷く。今、頼りになるのはグス公だけだ。なんとなく癪だが、大人しく従うしかねぇ。
ぼそぼそと、グス公が言葉を告げてくる。俺は言われた通り、そのまま口にした。
「ひ、久々の再会でちょっと照れくさかったんだ」
「……照れくさかった? お前はそんな奴じゃないだろ」
「そ、そんなことねぇよ。なんだ、その……一年前とは全然違って、綺麗になっていたからな」
「……綺麗?」
綺麗ってなんだ? どうして、そんなことを言わせるんだ?
俺は首を傾げるが、実際リルリの様子がさっきとは変わっていた。
グス公やるじゃねぇか。頭は真っ白だが、お前の言う通りにしたお蔭で状況が好転してるぞ。
俺は素直にグス公の手腕に感心した。
リルリの周囲に浮かぶ氷が、少しずつ消えていく。よく分からねぇが、助かった。
どっと疲れを感じるが、グス公の呟きは終わらない。どうやら、まだ続けないといけないらしい。
ここまできたら、もう疑いはしねぇ。俺はグス公を信じ、言われるまま堂々と復唱した。
「あぁ、本当に綺麗になった……絶世の美女ってやつだ。お前と一緒にいられるだけで、俺は幸せだ。すごく、すごく綺麗になったなグレイス。……グレイス?」
「そ、そこまで言われると、こっちが恥ずかし……グレイス?」
「もうやだ零さんったら! 恥ずかしいじゃないですか!」
人を操り人形にしたグス公が、俺の背中をバシンと叩く。振り返ると、満面の笑みを浮かべているグス公。
俺とリルリは目を合わせ、そして細めた。
振り向き、後ろにいる馬鹿の首根っこを掴む。そして、前に引きずり出した。
「リルリ、こいつが元凶だ」
「グレイス様。少しお話があるのですが、よろしいですか?」
「ち、違います! 今のは零さんの本音で……」
「違ぇぞ」
「零さあああああああん!」
その後、「助けて助けて」というグス公の言葉は認められず、カーラトの町の前で正座だ。
リルリは鬼が憑いているかのようなオーラを放ち、グス公を睨みつけている。
やれやれ、どうしようもねぇ奴らだ。これっぽっちも変わってねぇ。
だが、町の前で王女を正座させてると、流石に通行人からの視線が痛い。それになんだ、チビ共も俺の足を突いている。助けてやれってことか?
チビ共は、全員俺を指差している。お前が悪い、そう言われているようだった。
……はぁ、仕方ねぇか。
「なぁ、お前ら」
「零さん、助けてくれるんですね!?」
「ボケナスはちょっと黙ってろ。グレイス様には一度しっかりと……」
「綺麗とかそういうのは分からねぇが、また会えてすげぇ嬉しいぞ」
二人が目を見開いて俺を見ている。だが照れくさくなって俺は目を逸らし、無視して歩き始めた。
ったくよぉ、恥ずかしいことを言わせるんじゃねぇよ。てめぇらが言わせたんだぞ? 分かってんのか?
ちっと舌打ちしながらチビ共を見ると、嬉しそうに笑っていた。
俺が素直じゃねぇと、こいつら厳しんだよなぁ……ったく。
「零さん! もう一回言ってください!」
「い、今なんて言った? 僕たちに会えて嬉しい。そう言ったのか?」
「うるせぇ! 俺はこれからエルジジィに会えるのが嬉しいって言ったんだ! さっさと行くぞ!」
うまく誤魔化したつもりだったが、二人はにやにやと笑っている。柄にもねぇことをしちまったな。
頭を掻きつつ、少し熱くなった顔を見せないようにしながら、俺は足を速めた。
第三話 お前ら俺のことが分かんねぇのか?
久々のカーラトの町は、何も変わってないように見えた。なんか、帰って来たって感じだな。
人がいる。他の町に比べて特別多いってわけじゃないんだろうが、一年間自分とチビ共だけで生活していた俺からすると、大量に人がいるように思えた。
なぜか目頭が熱くなって、鼻を擦った。精霊の森で暮らしていた時はいなくても平気だったのに、実際人を見たら感動する。俺も身勝手なもんだ。
たった一年、されど一年。俺は見る物全てを新鮮に感じつつ、きょろきょろと周囲を見ながら歩いていた。
「零さん、しっかり前を見て歩かないと危ないですよ」
後ろを歩いていたグス公が追いついてきた。
「仕方ねぇだろ。田舎もんだから、色々見たくなっちまうんだよ」
「別に零が田舎者だなんて思っていないさ。あっちでずっと頑張っていたんだろ。僕たちは知っているよ」
おいおい、俺を感動させようとしてんのか? 少しぐっときたが、町の入口で正座していたグス公を思い出し、すぐに感動は消えた。
あんなことをしてた奴らに言われてもなぁ……。
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