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2巻

2-1

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 第一話 いや、俺はやばくねぇだろ


 俺――ないぜろが変な眼鏡の兄ちゃんに異世界っつーとこに転生させられてから、どのくらい経っただろう。
 眼鏡の兄ちゃんは自分のこと神だとか言ってたが、本当にさんくさい奴だった。
 でも、あいつのおかげでチビ共と友達になれたわけだし、グス公たちにも会えたわけだ。一応そこらへんは感謝している。
 チビ共は、この世界の精霊ってやつらしい。グス公が教えてくれた。
 そういや、グス公って本名なんだっけな? グレイス……だったか? まぁなんでもいいや。グス公はグス公だしな。
 あいつがオルフェン王国の王女様ってのは、どうも納得いかねぇ。いつも、あわあわ、グスグスしてやがるし。それを言ったら、あいつの姉ちゃんのアマ公……アマリス? も暴走癖のある変な奴だしなぁ。本当にこの国は大丈夫なのか?
 グス公のメイド、リルリだけが頼りだ。腹が立つことも多いが、案外しっかりしてやがる。
 ……あいつら、今頃大変だろうなぁ。


 俺たちがリザードマン討伐を終えて、リザードマンの落とした黒い石と精霊解放軍のことを国王おっさんに報告したのが昨日のこと。
 精霊解放軍ってのは、王族と敵対してて、人が精霊を使っていることが許せずに、精霊を解放しようとしてる奴らのことらしい。そいつらが扱っているのが黒い石で、触れた者の魔力を吸い上げる危険なものって話だ。
 その黒い石をなぜリザードマンが持っていたのかは分からないが、リザードマンのに近い村で、精霊解放軍の奴らが検問みてぇなことをしていたから、何か関連があるんだろう。
 そんなわけで、グス公とアマ公は帰るなり黒い石と精霊解放軍の調査を進めることになった。
 俺もそれを手伝うことになっていたんだが……結局、リルリの助言で城を出ることにした。
 リルリは、城の中枢に精霊解放軍が潜り込んでいると言っていた。だから俺の特殊性がバレれば間違いなく精霊解放軍に狙われるし、グス公たちが危険な目にう可能性も高くなる、と。
 この世界の人間には見えないはずの精霊が、俺には見える。それは精霊解放軍にとって喉から手が出るほど欲しい力だ。
 俺はグス公たちに迷惑をかけたくねぇ。だからグス公とアマ公には何も言わずに城を出て、自分なりに精霊解放軍のことを調べることにした。
 それに、あの黒い石を見たとき、チビ共はすげぇ怖がってた。黒い石も精霊解放軍も、チビ共にとって悪いもんに決まってる。俺はチビ共を悲しませる奴らを許せねぇからな!
 まずはチビ共と一緒にカーラトっつぅ町を目指す。そこで情報収集したら、チビ共と最初に出会った精霊の森に行って手がかりがないか調べてみる。
 その後は……まぁ、そんときに考えるか。


 ――数日後。
 運よく通りがかった乗合馬車に乗れた俺は、カーラトの町に到着していた。
 まぁ言うまでもねぇが、乗せてもらうのには苦労もあった。いつも目がこえぇってビビられている俺は、気を遣ってフードで顔を隠してたんだが、それでかえって怪しまれちまった。
 でもまぁなんだ、最後には誠意が伝わったっていうか、乗せてもらえた。
 ……嘘だ。前乗ったときと同じ御者の人だったから、頼み込んで乗せてもらった。
 ボソボソと「一緒にいた女の子がいない」とか、「人売り」とか言われてたみてぇだが、たぶん気のせいだ。
 最近耐えるということを覚えた気がする。間違いなくあの三人のおかげだろう。なのに、感謝よりもため息が出るのはなんでだ? ……深く考えるのはやめておくか。
 俺は、とりあえずエルジジィに会いに行くことにした。いや、他に知り合いもいねぇしな。
 町は別段変わりもなく、俺は真っ直ぐエルジジィの作業場所みたいな家に辿たどり着いた。

「おい、エルジジィいるか?」
「おぉ? 若いの! 久しぶりじゃのぉ! 鉄パイプの調子はどうじゃ!」
「いや、そんなに経ってねぇだろ……。鉄パイプは調子いいぞ」

 エルジジィはキョロキョロと俺の周りを見ている。何か探してるみてぇにだ。

「赤い髪の娘はどうした?」
「あぁ、グス公は王都に置いてきた」
「む、そうなのか。それで、一人でわしに会いに来たのか?」

 一人。なんかその言葉は、一瞬胸に来るものがあった。まぁこれが何かは分かってる。じきに慣れんだろ。
 俺は胸に手を当て、うずきを抑える。そして、そのまま話を続けた。

「ちょっと知りたいことがあるんだが、どうすりゃいいかが分からねぇんだ」
「ほほう、知りたいことか。何じゃ? 力になるぞ!」

 エルジジィに聞く、か。その発想はなかった。情報屋みてぇなのがいれば紹介してもらおうと思ったんだが……。案外黒い石とかについて何か知ってるかもしれねぇ。どうもエルジジィはただものじゃない感じがするんだよなぁ。

「おう、それじゃぁ聞くけどよ。黒い石について何か知ってるか?」
「何じゃそれは。知らん!」

 気のせいだった。速攻で否定しやがった。
 どうやら俺には人を見る目がねぇらしい。いや、目つきがこえぇとか言われるせいでこれまであんまし人と接してこなかったんだから、あるわけねぇか。
 まぁ今の感じを見ると期待はできなそうだな。一発でうまくいくなんて、そんな話があるわけがねぇ。
 俺はそう思い、諦めながらも、一応次の質問をエルジジィにした。

「あー……。じゃぁ、精霊解放軍ってのは知ってるか?」
「知ってるぞ」
「あぁそうか。ならやっぱ、とりあえずは森に行ってみるしかねぇか」
「いや、知ってるぞ」

 さて、森には明日向かうとして、今日は宿でもとるか?
 ――だが、この世界の金銭感覚みてぇのが分からねぇんだよなぁ。そのへんのことは、グス公に頼っちまってたからな。野宿でもいいっちゃいいんだが……。

「で、精霊解放軍の何が知りたいんじゃ?」
「あぁ、なんか安宿とか知ってっか? なるべく金を使わないで済ませてぇんだが」
「ん? ならうちに泊まれ! 男一人くらい全然構わんぞ!」
「お、まじか? わりぃな。代わりに仕事でも手伝えばいいか?」
「む、そうじゃな。倉庫でも少し整理するかのぉ。手伝ってもらえるか?」
「おう、お安い御用だぁ」

 俺はエルジジィと倉庫に向かった。この倉庫は懐かしいな。ここで今着けてる鎧をもらったんだよなぁ。ついこの間のことなのに感慨深い感じがしやがる。
 で、まぁきたねぇ倉庫の中で同じ種類の武器をまとめたり、防具を一箇所に集めたり、あぁだこうだして夕方まで整理作業をした。こき使われた感じもしたが、まぁ一宿一飯の礼ってやつだ。
 チビ共もこっそり手伝ってくれたが、途中からはどこからか持ってきた小さな剣と盾でチャンバラをし始めた。しょうがねぇよな、剣とか見たら、男だったらテンション上がっちまう。いや、こいつらの性別知らねぇけど。
 で、あっという間に夕飯だ。エルジジィの作った飯は、うまかった。うまかったが、手抜きだった。まぁ、男料理ってやつだな。男だけだから構わねぇが。
 食後の茶をすすっていたら、エルジジィは不意に話を切り出した。

「なぁ若いの。そろそろ流すのをめてもらいたいんじゃがな」
「あぁ? 流す? 何をだ?」
「いや、だから精霊解放軍の何が知りたいんじゃ」

 は? 何言ってんだエルジジィは。精霊解放軍のことは……あれ? よく考えたら、知ってるって言ってた……か?

「エルジジィ知ってんのか!?」
「いや、ずっとそう言ってたんじゃが……」

 エルジジィは、やっと話が通じたという顔をしていた。うん、わりぃ。知らないって決めつけて流してた。
 年寄りとの会話はそこそこ流すのがコツだと、田舎のじいさんを相手して学んでたんだが、その先入観がまずかったな。本当にわりぃことをしちまったと思うが、まぁ勘弁してもらおう。悪気はなかったからな。
 ともかく、知ってるなら話ははぇぇ。今欲しいのは、何よりも情報だ。

「そうだな、なんであいつらのこと知ってんだ?」
「武器を卸したことがあるからじゃな」
「は? あんなやべぇやつらに武器を売ったのか?」

 おいおい、村でちらっと見ただけでも、あの黒づくめの奴らは危険だって分かったぞ?
 ……いや、よく考えたら、そうでもねぇな。ただ黒いだけで、あっさり通してくれたか。
 だけどなぁ、それがバレたらエルジジィは王国に狙われたりするんじゃねぇのか? 何かやばそうな感じがするけど、平気なのかこれ?
 そんな俺の気持ちなど露知らず、エルジジィは平然としていた。

「やばい? ただ精霊を解放しようとしているだけじゃろ。そもそも武器なんてのは使う者次第じゃ。やばいというなら、お主にだって武器を渡せんことになるだろ」
「いや、俺はやばくねぇだろ」

 俺の前にエルジジィは無言で鏡を置いた。なんだこの、てめぇのつらを見直してみろと言わんばかりの行動は。
 黙ってる俺を見て言い返せないのだと受け取ったらしく、エルジジィは頷く。納得いかねぇな……くそが。

「十人十色と言ってな。十人いれば十の色があるもんじゃ。考え方もそれぞれってことじゃな。別に、奴らは人間を皆殺しにしますとかって言ってるわけでもないじゃろ? 精霊なんぞいなくても、生活はできるからのぉ」

 エルジジィの考えは俺に近いもんだった。確かに精霊のいない世界から来た俺からすれば、精霊がいなくても……つまり魔法なんか使えなくても生きていけると思える。
 でも、この世界の住人でそう考えてる奴に会ったことはなかった。……いや、いたな。精霊解放軍はそう考えてるから行動してるんだ、たぶん。
 つまりなんだ? あいつらは悪い奴らじゃねぇのか? また分からなくなってきた。

「若いの、お主は少し変わってるな」
「あぁ? 変わってる?」
「うむ。普通の人ならば、精霊解放と言われたら悩みもせんで否定する。だが、お主は悩んでおる」
「まぁ、そりゃ色々な……」
「別に事情を聞く気はない。わしにも、王国と精霊解放軍のどちらが正しいのか、あるいはどちらも間違いなのか、そのあたりはよく分からん。なので最初から善悪を決めつけるのではなく、色々な話を聞いて判断したらどうじゃ? お主はそれができる人間じゃ」

 色々聞いて決める。確かにそれは大事かもしれねぇ。
 この世界では、エルジジィみたいにどちらが正しいかを決めない人は少数派だ。
 大多数は王国を支持していて、残り少数が精霊解放軍みたいな考えなのかもしれねぇ。……いや、それすらまだ俺には分からねぇ。
 やることの一つが決まった気がする。それは、色々なところに行って色々な人の話を聞く。
 これだな!

「ありがとな、エルジジィ! 少しやることが分かった気がするぜ!」
「お! そうか! そりゃ良かったのぉ!」
「おう。それで、他に何か精霊解放軍の情報はねぇのか?」
「ふむ。そうじゃなぁ……。大精霊がなんたらとか言っていたかのぉ。後は知らん」
「大精霊ってなんだ?」
「知らん! わしは鍛冶以外のことには興味がないからな!」

 なるほど。頼りになるが、肝心なところで頼りにならねぇ。
 ……でもまぁ、すげぇジジィだな。俺は嫌いじゃねぇ。
 っと、そうだ。まだ聞きてぇことがあるな。

「精霊解放軍の居場所は知ってるか? 後は、ボスとかも知りてぇな」
「居場所は知らん。武器はこの店に来て依頼して、できた頃に取りに来ていたからな。そいつらは黒いローブを着けていて、顔すら分からんかった。ボスなんてもっと分からん」
「いや、そんな怪しい依頼受けんなよ……」
「別に怪しくはなかったぞ? 依頼のときに脅されたわけでもないし、報酬もしっかり払ってくれたしのぉ。武器や防具を欲しがる奴は、身元を明かしたがらない者も多いから、しょうがないじゃろ」

 そんなもんなのか? なんか、人の命を奪うもんを作ってるっつぅのに軽い気が……いや、ちげぇな。
 さっきエルジジィは言ってた。武器は使う奴次第だって。作ったエルジジィに非があるわけじゃねぇな、うん。
 バットだって野球の道具なのに、それで人を殴る奴がわりぃわけだしな。
 使う奴次第、か。なんか大事なことを学んだ気がする。
 俺は、間違った使い方をしたらいけねぇ。そう思いながら、ぎゅっと鉄パイプを握った。


 とりあえずだが、少し目標がしっかりしてきた気がする。
 まずは精霊の森。その後は色んなところに行って情報を集めつつ、自分で見て決めるしかねぇってことだ。
 なんか、冒険っぽいよな。少しわくわくしてきやがった!
 俺はチビ共と地図を見ながら、こんなとこに行ってみるのはどうだろう? こっちもよくねぇか? とか話しながら、その日は眠りについた。



 第二話 うぜぇ、やっぱり埋めるか


 朝はエルジジィと飯を食って、昼飯用の弁当と干し肉をもらった。さらに餞別せんべつだとか言って、黒いマントまでもらっちまった。わりぃな。

「じゃぁ行くか。世話になったな、また来る」
「いつでも来い!」

 エルジジィとの別れはあっさりしたもんだった。……でも、俺にはそれが心地よかった。


 俺はチビ共と町を出て、南東の精霊の森へと向かった。
 外はいい天気で、散歩気分で歩いて行くことができる。
 あー、こういうのいいよな? なんか、のんびりできる。馬鹿な奴らが泣きわめくことも、怒鳴りつけてくることも、皮肉たっぷりに笑われることもねぇ。
 だが、そこには少しだけ寂しさもあった。……ちっ、騒がしいのに慣れすぎちまったな。
 元々俺は一人だったんだ、戻っただけだろ。
 そう考えていると、俺のズボンのすそがくいっくいっと引っ張られた。
 あぁ、わりわりぃ。俺は一人じゃなかったよな!
 訴えかけるチビ共の頭をでると、嬉しそうに笑ってくれた。へへっ、本当に気のいい奴らだ。


 特に魔物に襲われたりもせず、俺は順調に森へと辿たどり着き、中を進んだ。
 道に迷うこともなく森に入ったが、聞いた話によると、普通の奴は精霊の森を見つけられないらしい。俺は迷ったことがねぇんだけどなぁ。
 一体どういうからりかは、よく分からねぇ。チビ共と一緒なのが関係してるのかもしれねぇな。まぁ、とりあえず俺は迷わないってことが分かった。それだけで十分だ。
 木漏れ日の中を歩き、俺はチビ共と過ごした洞窟へ行き着いた。
 あの頃と何も変わっていない。まるでここだけ時間が止まってるみてぇだ。そんなに時間は経ってないのになぜか懐かしく感じちまうが、そんなものかもしれねぇ。
 ひとまず今日はここに泊まる。俺は野宿の準備をし、周囲を探索することにした。なんとなくだが、ここには何かがあるんじゃねぇかと思ったからだ。
 まぁ何よりここは居心地がいいんだよなぁ。空気が澄んでるっていうか、力が湧いてくるっていうか。不思議な感じだ。


 一通り泊まるための準備を済ませ、気分がいいまま周囲を探索する。が、特に変わったこともなければ、おかしなもんもなかった。つまり、何も手がかりなしってことだ。
 うぅん、何かあると思ったんだがなぁ……。
 とりあえず、洞窟の前に戻ってチビ共に話しかけた。

「なぁチビ共、何かここに変わったとこってねぇか?」
「あるがな」
「お、そうか? ならそこに案内とかしてくれっか?」
「案内というか、ここが変わってるがな」

 ……ん? 〝がな〟?
 聞き覚えのない声に気づき、俺は慌てて振り返った。
 そこにいたのは、岩みたいな着ぐるみを被ったおっさんだ。チビ共と似たような格好で察しはつく。精霊に憧れる変質者だ。

「お、やっと気づいたがな」
「おらぁ!」

 俺は問答無用で鉄パイプで殴りつけた。
 変態だ、間違いねぇ! チビ共に手は出させねぇぞ、くそが!


「おら! てめぇここで何してやがる!」
「ちょ、いたっ。やめっ、やめるがな!」
「うるせぇ! チビ共危ねぇぞ! 離れてろ!」

 くそっ。案外かてぇ! 手足を亀みたいに岩の中に引っ込めてるせいで、効果的なダメージを与えてる気がしねぇ。
 何かいい手はねぇか……?
 そうだ。ちょうどいいもんがあるじゃねぇか。
 俺は野営用に用意しておいたたきぎに、火打ち石で火をけることにした。叩いて駄目なら、燃やすしかねぇよなぁ!!
 カチッカチッカチッ。
 火がかねぇ! 待ってろよ! 今すぐ火だるまにしてやらぁ!

「待つがな! 本当に待つがな! 火は熱いがな!」
「熱くないと意味がねぇだろ!」
「落ち着いて話し合うがな!」
「変質者と話すことはねぇ!」
「私は土の大精霊だがな!」

 ピタリと、俺は手を止めた。
 大精霊? そんな話を確かにエルジジィから聞いた。
 なんだったか? 精霊解放軍が何か言ってたとかって……こいつが? どう見ても変質者だろ。
 俺がチビ共を見てみると、頷いている。……なるほどな。どうやら俺の意見に賛成みてぇだ。
 カチッカチッカチッ。

「嘘だな。待ってろ、すぐ燃やしてやらぁ!」
「待ーつーがーなー!」

 火がいたところで、俺はおっさんとチビ共に押さえられた。
 ちっ。後少しで火だるまにできたのによぉ。油とかねぇか? 油をぶっかけたら、より効果的じゃねぇか?

「まだ物騒なことを考えてるがな? 落ち着いて欲しいがな! 話し合おうがな!」
「がながなうるせぇ! てめぇが大精霊だって証拠はあんのか!」
「しょ、証拠?」

 俺は慌てている変質者に無言で火のいたたきぎを構えた。
 変質者は焦りながら、両手だけでなく全身を使って無実だとアピールしてやがる。そんなことで油断はしねぇけどな。

「待つがな! 本当に待つがな! 証拠ならほら、精霊と同じ格好をしてるがな!」
「同じだぁ? さんくささしかねぇだろうが!」
「ほ、本当だがな! 頼むから勘弁して欲しいがな!」

 ……どうやら本当に危害を加える気はねぇみてぇだな。
 とりあえず、俺は火のいたたきぎの中に戻した。すぐ手を伸ばせば取れる位置だけどな。
 だが、こいつが大精霊だとは信じられねぇ。絶対に変質者だろ。
 疑いはこれっぽちも晴れていねぇが、話くらいは聞いてやるか。

「まぁ一応話は聞いてやる。だが嘘臭かったら燃やすぞ」
「分かったがな! ありがとうございますがな!」

 仕方なく、俺は火の近くに座った。
 恐る恐るだが、同じように変質者も座る。びくびくとおびえた目をしているが、こっちの油断でも誘ってんのか?
 それに、かなりげっそりしてる気がする。たぶん森で迷子になったかなんかで、ろくなもん食ってねぇんだろう。まぁ悪い奴じゃなかったら、飯くらいは食わせてやるか。

「で、てめぇは何者だ」
「土の大精霊だって言ったがな!?」
「……まぁそれじゃぁそんな感じで、一応話を続けるか」
「まったく信じてないがな!?」

 半泣きになりながら変質者は話を始めた。
 それよりも、岩から見えてる足のすね毛が気になる。いや、綺麗にられてたらそれはそれで腹が立つんだけどな。

「あ、そ、そうがな。証拠といえば、ここは精霊の森がな」
「おう、そうらしいな」
「人間は入って来られないがな!」
「ダウトだ。俺は人間なのに入れてるからな、死ね」

 俺は躊躇ためらわず火のいたたきぎつかみ、構えた。
 変質者は飛び上がり、俺から距離をとって必死な形相をしている。

「待つがな! 待つがな! 零が入れたのには理由があるがな!」
「理由? なんだそりゃ? 後、なんで俺の名前を知ってんだ」
「零のことはここに住んでたときから知ってるがな。それと理由は、零が特別だからがな!」

 俺がここに住んでたことを知ってる? 怪しい。
 なのにチビ共は、変質者に懐いてる感じがする。もしかして悪い奴じゃねぇのか? ……いや、だまされてるだけな気がする。やっぱり話次第ではぶっ飛ばそう。
 俺はそう心に決めながらも、一応たきぎを元の場所に戻した。

「で、俺が特別ってのはどういうことだ」
「なんで自分に精霊が見えるのか、考えたことはないがな?」
「神様とかって奴がくれたスキルだろ」

 確か、あのメガネは『精霊に愛されし者』っつーやつを俺にやるとか言ってたと思う。

「違うがな。スキルはあくまで本人の資質によるがな。資質を最大限まで伸ばしたのがスキルで、資質がなければスキルは得られないがな」

 あー……つまりなんだ? できることしかスキルにならないってことか。ってことは、あのメガネは、俺の素質ってやつを伸ばしたってことになるのか?

「まぁそういうことだがな。だから、零には精霊が見えてるがな」
「あぁ? 俺は何も言ってねぇぞ?」
「人の表層意識くらいなら読み取れるがな! 大精霊だがな! 見直したがな?」
「うぜぇ、やっぱり埋めるか」
「埋める!? やめて欲しいがな!」

 こいつはどうやら本物みてぇだ。チビ共の反応や、こいつの特異性を考えれば納得できる。
 だが、見た目はやっぱさんくさい。これもきっと読み取ってんだろ。てめぇ怪しいぞ。
 土の大精霊は、どうやら本当に俺の考えてることが分かるらしい。俺を見ながら、結構へこんでやがった。

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