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3-5 呪いを乗り越える簡単な対策
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……目の前には、誰もが目を奪われるであろう、透き通るような白い城が建っていた。
しかし、城の外はひどい荒れ地となっており、いくつもの十字架が立っている。十字架には黒いなにかが鎖で縛りつけられており、呻き声を上げていた。
あの壁の向こう、城の中には楽園のような光景が広がっているのだろう。そんなことを思いながら、自分の横にある十字架に触れる。ガシャリと鎖が音を立てた。
「――お前も直にこうなる」
忽然と現れた、黒い布を纏った骸骨が言う。手には鎌を携えており、本などで見た死神そのものだった。
死神が、城を指差す。
「あれがカルトフェルン王国だ」
次に、十字架たちを指差す。
「これが六番目の者たちだ」
なるほど、と頷く。自分の末路もこれなんだと理解した。
よくある話だが、国の繁栄のために生贄を捧げたのだろうか? と安直に考えたのだが、死神は口をカタカタと揺らした。
「そんな大層なものじゃない。これはただの暇つぶしだ。それより見ろ、これを。《運命のダイス》だ」
人の運命を暇つぶしだと明言した死神の手には一つの黒いダイス。
指で摘み、全面を見せてくれたが、1から6までの一般的なダイスだった。
「これが普通の人の運命だ。1から3は良い結果を、4から6は悪い結果を。数字が大きいほど、悪い結果を齎す。そして、カルトフェルンの王族たちのダイスはこっちだ」
同じように見せられたダイスの目は、112236と書かれている。
たった一つの6を引かない限り、良い結果しか出ない。それが、王族たちのダイスだった。
では、俺は違うのだろう。そんな当たり前の答えを思い浮かべると、死神は三つ目のダイスを取り出した。
134566、と書かれている。ほぼほぼ死ねと言わんばかりのダイス目だった。
死神はカタカタと笑う。
「面白いだろ? 六番目に産まれたという理由だけで、お前はひどい目に合い、他の者たちは良い思いをしている。世の中は、とても不条理だと思わないか?」
一瞬、その通りだと思ったが、すぐに眉根を寄せる。
そもそもの原因は死神なのに、なにを言っているんだ? と。
カタカタ音が止まり、とてもつまらなさそうに死神は息を吐いた。
「本当にお前はつまらない。あまり憎まない。あまり恨まない。負の感情が少なすぎる。……しかも、ここ最近のお前はダイス目が良すぎる。何度も1を出し、4や5を乗り越えてしまう。とても、とても、つまらない」
死神の目の奥、黒い闇の奥に小さな青い炎が灯る。ブルリと背筋が震えた。
しかし、その炎はすぐに消える。死神は、やれやれといった様子で口にした。
「まぁいい。次は6が出るかもしれないからな」
ポーンと、気安く運命のダイスが放られる。人の運命を軽々に決めないでもらいたい……。
渋―い顔でダイスの元へ向かう。次のダイス目は――。
――翌朝。
まだ夢見心地なまま、身支度を整え司令室へ向かう。
すぐにファンダルたちを連れ、リックがオリアス砦へ現れる。一時的に、エルフたちに預かってもらっていたのだ。
「なんか色々言ってたが、聞き流しておいたで」
解放してもらい、逃げようとでも思っていたのだろう。しかし、そんなことが許されるはずもなく、ファンダルは諦めたように肩を落としていた。
他の部下たちも立場を理解したのだろう。暴れるでもなく、ただファンダルのせいにして許しを得ようとしていたが、その全てを無視した。甘い蜜を吸うだけ吸っておいて、自分だけ逃れようなんて都合の良い話は無いのだ。
すでに出立の準備を終えているティグリス殿下の元へ赴く。ティグリス殿下は、オーレルと陛下(全身鎧)を連れ、こちらへ近寄って来た。
一礼し、ファンダルを突き出す。
「ティ、ティグリス殿下! 違うのです! どうか、弁明をさせてください!」
「安心しろ、これからゆっくり聞いてやる。……なんせ、お前が死ぬまで時間はたっぷりあるからなぁ」
これにて一件落着……と思っていたのだが、予想外の人物が口を開いた。正体を隠しているはずの陛下だ。
「待て、ティグリス。ファンダルがどこにいる?」
「は? いや、見れば分かるでしょ。そこのポッチャリ野郎ですよ。ここ何年かで、数回会っているから間違いありません」
その言葉に、陛下は驚きの声を上げた。
「バカな……。だとすれば、いつからだ? 数年前から? ……いや、違う。二十年以上前のオリアス砦に配属されたときから、この者がファンダルを名乗っていたということか?」
「……あぁまさか、僥倖僥倖。城まで行く手間が省けましたな」
陛下の言葉も、ファンダルの言葉の意味も分からない。頭は混乱しているままだったが、自然と口は開いていた。
「エルペルト! 陛下を守れ!」
「オーレル! オレのエフォートウェポンを寄越せ!」
ファンダルの体がブレた後、姿が消える。
後方から聞こえた鈍い音で、後ろにいるのだと気付いた。
「クッソがぁ!」
「ギリギリ、でしたね」
ティグリス殿下の剣は折れ、鎧にも深い爪痕が刻まれている。エルペルトも避けきれなかったのか、その身で防いだのか。左腕から血を流していた。
その光景を見て、ファンダル?は嗤った。
「はい、残念。ワタクシだけを見過ぎです」
言葉の意味を理解し、全員が同時に目を向ける。
陛下のすぐ後ろには俺を襲った黒い影がおり、手の武器を――。
「甘い!」
振り下ろすより早くスカーレットが斬りかかり、黒い影は飛び退った。
心臓に悪すぎる。誰かが一瞬でも遅れたら、大変なことになっていた。
「……エフォートウェポン持ちが二人とは、ワタクシたちでも厳しいですね。撤退しますか」
「逃がすと思ってんのか? あぁ!?」
吠えるティグリス殿下に対し、ファンダルはニタァッと笑った。
次の瞬間、ファンダルの体は真っ白に輝き……弾けた。
なにが起きたのか分からない。ただ、目も耳もおかしくなっているせいで、自分の叫び声すら聞こえない。声を出しているはずなのに、それが分からなくなっているのだ。
結局、落ち着きを取り戻すのには小一時間を要した。
……あの後、ファンダルの体を脱ぎ捨てて現れた者は、黒い影と共に立ち去ったらしい。驚くことに、いきなり背に羽が生えて、空を飛んで逃げたとか。
体を変化させるなんて、獣人にも魔族にもできない。元々持っている体を変えるなんて、この世の摂理に反している。
しかし、エルペルトとティグリス殿下がいたせいか、彼らはその隙に姿を消したようだ。不利を悟ったのかもしれない。
話を聞いた陛下の判断は早かった。
「急ぎ城に戻る」
誰もが一大事だと分かっている。反対する者はいなかった。
黒い影がいたことから、ホライアス王国の仕業かもしれないと話はしたが、俺だけが聞いた一言は証拠に弱く、決定打にはならなかった。
急ぎ出立の準備を整える中、陛下が言う。
「此度の件は緘口令(かんこうれい)を敷く。様々な可能性が考えられる以上、迂闊な行動はとれず、相手に悟られるわけにもいかない。それと、オリアス砦の守備を強固にしたいが、これも内々にやらねばならない。もし、ホライアス王国の仕業でなかったとすれば、軍備の増強も簡単にはできない。余計な諍いを生むかもしれんからな」
「……はい」
とてつもなく面倒なことになっている。
陛下はこう言っているのだ。気付かれぬよう、守備を厚くし、軍備を増強しろ、と言われている。無理難題も良いところだ。
頭を抱えていると、ティグリス殿下に頭を掴まれ、ブンブンと振り回された。
「ぎゃああああああああああああああ!?」
「ちょっと頭を撫でたくらいで騒ぐんじゃねぇ!」
撫でた? 今のを獣人の間では撫でたというのか? いくら獣人とのハーフだからって、半分は人間だろ? 人間のほうに考えを寄せてくれよ……。
目を白黒させていると、ティグリス殿下が言った。
「とりあえず、この問題が片付くまではオレが味方だ。安心しろ」
ティグリス殿下はニカッと笑っているが、全く安心はできていない。しかし、一時の休戦協定が結べたことで、城との繋がりができたのは大きい。
これから起きた問題はティグリス殿下に投げつけ、手柄を立ててしまった場合もくれてやろう。うん、これはおいしい。
「っと、準備ができたな。必要なもんはあるか? 今の内に教えてもらえれば、戻り次第送ってやるぜ」
「お金ください」
「……お、おう」
あまりにも分かりやすい要求だったためか、ティグリス殿下は苦い顔をしていた。仕方ないだろう、こっちは金が無いんだ。
これでもう少ししたら、金銭的な問題は解決する。大抵のことは金があればどうにかなるので、大きな躍進だった。
そうだ、金だ。もっともっと金があれば、色んなことができるんじゃないか?
ふと気付いた俺は、急いで司令室へ戻り、とても短い文の手紙を書き、封を施した。
「ティグリス殿下。これを、他の兄弟姉妹に渡してもらえますか?」
「あぁ? 別に構わねぇが、なんだこれは?」
「内緒に決まってるじゃないですか」
「……可愛くねぇ弟だなぁ」
ブツクサ言いながらティグリス殿下は馬へ乗り、陛下の隣へ駆けて行った。
そして、二人と軍は移動を開始し、立ち去って行く。長い視察だったなと、息を吐いた。
見送った後、俺はすぐにエルペルト、スカーレット、ジェイ、リック、シヤ、といった主だったメンバーを集めた。
色々と考えはしたが、他に方法が思いつかない以上、これしかない。
「実は、みんなに頼みがある」
「なによ、改まっちゃって」
「どうやら俺は呪われていて、このままでは早逝するらしい。死を誘うらしくてな。ここ最近の出来事も、俺のせいかもしれない」
「……は?」
軽口を叩いていたスカーレットが、大きく口を開いて固まっているのは中々に面白い。それは他の面々も変わらず、一人を除けば唖然としている。
俺は椅子に背を預け、一つ頷いて最後の一言を告げた。
「助けてくれ」
各々が反応を見せる中、想像通りというか。
エルペルトだけが、「お任せください」と、深々と頭を下げていた。
しかし、城の外はひどい荒れ地となっており、いくつもの十字架が立っている。十字架には黒いなにかが鎖で縛りつけられており、呻き声を上げていた。
あの壁の向こう、城の中には楽園のような光景が広がっているのだろう。そんなことを思いながら、自分の横にある十字架に触れる。ガシャリと鎖が音を立てた。
「――お前も直にこうなる」
忽然と現れた、黒い布を纏った骸骨が言う。手には鎌を携えており、本などで見た死神そのものだった。
死神が、城を指差す。
「あれがカルトフェルン王国だ」
次に、十字架たちを指差す。
「これが六番目の者たちだ」
なるほど、と頷く。自分の末路もこれなんだと理解した。
よくある話だが、国の繁栄のために生贄を捧げたのだろうか? と安直に考えたのだが、死神は口をカタカタと揺らした。
「そんな大層なものじゃない。これはただの暇つぶしだ。それより見ろ、これを。《運命のダイス》だ」
人の運命を暇つぶしだと明言した死神の手には一つの黒いダイス。
指で摘み、全面を見せてくれたが、1から6までの一般的なダイスだった。
「これが普通の人の運命だ。1から3は良い結果を、4から6は悪い結果を。数字が大きいほど、悪い結果を齎す。そして、カルトフェルンの王族たちのダイスはこっちだ」
同じように見せられたダイスの目は、112236と書かれている。
たった一つの6を引かない限り、良い結果しか出ない。それが、王族たちのダイスだった。
では、俺は違うのだろう。そんな当たり前の答えを思い浮かべると、死神は三つ目のダイスを取り出した。
134566、と書かれている。ほぼほぼ死ねと言わんばかりのダイス目だった。
死神はカタカタと笑う。
「面白いだろ? 六番目に産まれたという理由だけで、お前はひどい目に合い、他の者たちは良い思いをしている。世の中は、とても不条理だと思わないか?」
一瞬、その通りだと思ったが、すぐに眉根を寄せる。
そもそもの原因は死神なのに、なにを言っているんだ? と。
カタカタ音が止まり、とてもつまらなさそうに死神は息を吐いた。
「本当にお前はつまらない。あまり憎まない。あまり恨まない。負の感情が少なすぎる。……しかも、ここ最近のお前はダイス目が良すぎる。何度も1を出し、4や5を乗り越えてしまう。とても、とても、つまらない」
死神の目の奥、黒い闇の奥に小さな青い炎が灯る。ブルリと背筋が震えた。
しかし、その炎はすぐに消える。死神は、やれやれといった様子で口にした。
「まぁいい。次は6が出るかもしれないからな」
ポーンと、気安く運命のダイスが放られる。人の運命を軽々に決めないでもらいたい……。
渋―い顔でダイスの元へ向かう。次のダイス目は――。
――翌朝。
まだ夢見心地なまま、身支度を整え司令室へ向かう。
すぐにファンダルたちを連れ、リックがオリアス砦へ現れる。一時的に、エルフたちに預かってもらっていたのだ。
「なんか色々言ってたが、聞き流しておいたで」
解放してもらい、逃げようとでも思っていたのだろう。しかし、そんなことが許されるはずもなく、ファンダルは諦めたように肩を落としていた。
他の部下たちも立場を理解したのだろう。暴れるでもなく、ただファンダルのせいにして許しを得ようとしていたが、その全てを無視した。甘い蜜を吸うだけ吸っておいて、自分だけ逃れようなんて都合の良い話は無いのだ。
すでに出立の準備を終えているティグリス殿下の元へ赴く。ティグリス殿下は、オーレルと陛下(全身鎧)を連れ、こちらへ近寄って来た。
一礼し、ファンダルを突き出す。
「ティ、ティグリス殿下! 違うのです! どうか、弁明をさせてください!」
「安心しろ、これからゆっくり聞いてやる。……なんせ、お前が死ぬまで時間はたっぷりあるからなぁ」
これにて一件落着……と思っていたのだが、予想外の人物が口を開いた。正体を隠しているはずの陛下だ。
「待て、ティグリス。ファンダルがどこにいる?」
「は? いや、見れば分かるでしょ。そこのポッチャリ野郎ですよ。ここ何年かで、数回会っているから間違いありません」
その言葉に、陛下は驚きの声を上げた。
「バカな……。だとすれば、いつからだ? 数年前から? ……いや、違う。二十年以上前のオリアス砦に配属されたときから、この者がファンダルを名乗っていたということか?」
「……あぁまさか、僥倖僥倖。城まで行く手間が省けましたな」
陛下の言葉も、ファンダルの言葉の意味も分からない。頭は混乱しているままだったが、自然と口は開いていた。
「エルペルト! 陛下を守れ!」
「オーレル! オレのエフォートウェポンを寄越せ!」
ファンダルの体がブレた後、姿が消える。
後方から聞こえた鈍い音で、後ろにいるのだと気付いた。
「クッソがぁ!」
「ギリギリ、でしたね」
ティグリス殿下の剣は折れ、鎧にも深い爪痕が刻まれている。エルペルトも避けきれなかったのか、その身で防いだのか。左腕から血を流していた。
その光景を見て、ファンダル?は嗤った。
「はい、残念。ワタクシだけを見過ぎです」
言葉の意味を理解し、全員が同時に目を向ける。
陛下のすぐ後ろには俺を襲った黒い影がおり、手の武器を――。
「甘い!」
振り下ろすより早くスカーレットが斬りかかり、黒い影は飛び退った。
心臓に悪すぎる。誰かが一瞬でも遅れたら、大変なことになっていた。
「……エフォートウェポン持ちが二人とは、ワタクシたちでも厳しいですね。撤退しますか」
「逃がすと思ってんのか? あぁ!?」
吠えるティグリス殿下に対し、ファンダルはニタァッと笑った。
次の瞬間、ファンダルの体は真っ白に輝き……弾けた。
なにが起きたのか分からない。ただ、目も耳もおかしくなっているせいで、自分の叫び声すら聞こえない。声を出しているはずなのに、それが分からなくなっているのだ。
結局、落ち着きを取り戻すのには小一時間を要した。
……あの後、ファンダルの体を脱ぎ捨てて現れた者は、黒い影と共に立ち去ったらしい。驚くことに、いきなり背に羽が生えて、空を飛んで逃げたとか。
体を変化させるなんて、獣人にも魔族にもできない。元々持っている体を変えるなんて、この世の摂理に反している。
しかし、エルペルトとティグリス殿下がいたせいか、彼らはその隙に姿を消したようだ。不利を悟ったのかもしれない。
話を聞いた陛下の判断は早かった。
「急ぎ城に戻る」
誰もが一大事だと分かっている。反対する者はいなかった。
黒い影がいたことから、ホライアス王国の仕業かもしれないと話はしたが、俺だけが聞いた一言は証拠に弱く、決定打にはならなかった。
急ぎ出立の準備を整える中、陛下が言う。
「此度の件は緘口令(かんこうれい)を敷く。様々な可能性が考えられる以上、迂闊な行動はとれず、相手に悟られるわけにもいかない。それと、オリアス砦の守備を強固にしたいが、これも内々にやらねばならない。もし、ホライアス王国の仕業でなかったとすれば、軍備の増強も簡単にはできない。余計な諍いを生むかもしれんからな」
「……はい」
とてつもなく面倒なことになっている。
陛下はこう言っているのだ。気付かれぬよう、守備を厚くし、軍備を増強しろ、と言われている。無理難題も良いところだ。
頭を抱えていると、ティグリス殿下に頭を掴まれ、ブンブンと振り回された。
「ぎゃああああああああああああああ!?」
「ちょっと頭を撫でたくらいで騒ぐんじゃねぇ!」
撫でた? 今のを獣人の間では撫でたというのか? いくら獣人とのハーフだからって、半分は人間だろ? 人間のほうに考えを寄せてくれよ……。
目を白黒させていると、ティグリス殿下が言った。
「とりあえず、この問題が片付くまではオレが味方だ。安心しろ」
ティグリス殿下はニカッと笑っているが、全く安心はできていない。しかし、一時の休戦協定が結べたことで、城との繋がりができたのは大きい。
これから起きた問題はティグリス殿下に投げつけ、手柄を立ててしまった場合もくれてやろう。うん、これはおいしい。
「っと、準備ができたな。必要なもんはあるか? 今の内に教えてもらえれば、戻り次第送ってやるぜ」
「お金ください」
「……お、おう」
あまりにも分かりやすい要求だったためか、ティグリス殿下は苦い顔をしていた。仕方ないだろう、こっちは金が無いんだ。
これでもう少ししたら、金銭的な問題は解決する。大抵のことは金があればどうにかなるので、大きな躍進だった。
そうだ、金だ。もっともっと金があれば、色んなことができるんじゃないか?
ふと気付いた俺は、急いで司令室へ戻り、とても短い文の手紙を書き、封を施した。
「ティグリス殿下。これを、他の兄弟姉妹に渡してもらえますか?」
「あぁ? 別に構わねぇが、なんだこれは?」
「内緒に決まってるじゃないですか」
「……可愛くねぇ弟だなぁ」
ブツクサ言いながらティグリス殿下は馬へ乗り、陛下の隣へ駆けて行った。
そして、二人と軍は移動を開始し、立ち去って行く。長い視察だったなと、息を吐いた。
見送った後、俺はすぐにエルペルト、スカーレット、ジェイ、リック、シヤ、といった主だったメンバーを集めた。
色々と考えはしたが、他に方法が思いつかない以上、これしかない。
「実は、みんなに頼みがある」
「なによ、改まっちゃって」
「どうやら俺は呪われていて、このままでは早逝するらしい。死を誘うらしくてな。ここ最近の出来事も、俺のせいかもしれない」
「……は?」
軽口を叩いていたスカーレットが、大きく口を開いて固まっているのは中々に面白い。それは他の面々も変わらず、一人を除けば唖然としている。
俺は椅子に背を預け、一つ頷いて最後の一言を告げた。
「助けてくれ」
各々が反応を見せる中、想像通りというか。
エルペルトだけが、「お任せください」と、深々と頭を下げていた。
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