ユニークシリーズ

サカナ丸

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ユニーク:魔法刺激部の悲劇な喜劇

2-1襲撃!エリートの背中には大きな秘密

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 嬉しいか嬉しくないか、クロミエがゴミのような――いやカスのような魔法刺激部へ入部を果たした。クロミエにとって幸か不幸か、これで一緒に膝を抱えて寂しがる仲間が増えたというわけだ。ちなみに魚は邪魔なのでリコッタが帰らせた。
 こうして新メンバーが増えたものの、特にやることはない。
 一応、リコッタ曰くこの部活は魔法を研究する部活なのだが、一人だと研究の範囲が狭く、寂しさに膝を抱えることが多い。
 膝を抱えている一部始終をチラ見した生徒によると『あの膝の抱え方はもはや黒魔術』と評判も悪い膝の抱えっぷりである。
「さて、これからどうするクロミエ」
 二人仲良く横並び、現在進行形で膝を抱えているわけだが、打開策は沸いてこない。リコッタには日常的なことだが。
「クロミエさんは、一年生のときも稀にこうしてたんですか」
「稀だと? バカ言うな、毎日だ」
「でもでも、最初にここ入ったときは、膝を抱えてないって言ってたじゃないですか」
 確かに言っていた。
「もうお前は立派な部員だ。少しは心を開いたということだな」
「その結果が膝抱えですか」
「何を言うか、この部活の醍醐味だぞ」
 こんな不毛な会話だけしていても、不毛に時間を浪費するだけだ。不毛に体力を消耗し、不毛な青春を過ごすハメになる。
 ここまで、大した動きはない。ただ半魚人妖精を召喚しただけだ。ド派手な魔法の一つでも出しておかないと華がないだろう。
 二人揃って重い膝を伸ばそうとしたそのとき、不意に扉が開かれた。
「魔法刺激部! リコッタ・シャウルス! 覚悟しなさい!」
 怒り全開で姿を現したのは、別の部活で不毛な努力を継続中の部長、ルクロン・ヤールスバーグである。
 光を浴びて艶を煌めかせるロングヘアーに切れ長の目。サファイヤのように蒼く透き通った瞳に粉雪のような素肌。
 校内アンケート結果によると、学校内でも指折りの美人で、町を歩けば男という男が振り返るらしい。
 その異名”リコッタによく名前を間違えられるもノリ突っ込みが冴えわたる限界突破のエリート。背中に秘密があるよ!”である。
「貴様、たしかロコモコ・ハンバーグだったか」
「そうそう、ジューシーなハンバーグに目玉焼きを乗っけ――ってルクロンよ! ルクロン・ヤールスバーグ!」
「どっちでもいい。で、マカロニ・コーンスープ様が由緒正しき我が部活にどういった御用で」
「そうそう、穴の開いたマカロニと甘ぁいスープが美味しくて――ってルクロンよ! ワザとやってるでしょう!」
「気づいたか? ワザとだ」
 一目瞭然。この二人、犬猿の仲である。
「ところでルクロン、ちょっと言いたいことがある」
「な、なによ」
「犬猿の仲とよく言うが、確かに私たちはまさにそれだ。だが犬と猿が仲良くしている映像はネットでよく見かける。実は犬と猿ってそんなに仲が悪いワケではないと思いつつも、やっぱり私はお前が気に食わないから、それはもう犬猿の仲と言っても差し支えがないと思う」
「はぁ……?」
「要するに、私はお前が嫌いだ」
「知ってるわよそんなこと!」
 開幕早々、喧嘩腰で四股を踏む。犬猿どころか、竜虎のレベルである。
「で、どういう御用だ? サインならくれてやるぞ」
「どういった御用も何もないでしょう、我が部活への被害の賠償に来たのよ!」
「我が部活? えーと、肥溜め観察部だったか?」
 怒りのあまりルクロンの額に血管が浮かぶ。
「違う! ホウキ部!」
「たしか、定期的にお漏らしをする部活だったか?」
「バカ言わないで、私たちがするのは普通のお漏らしよ!」
 そういう問題ではない。
「で、なんの用だっけ? 握手なら後でしてやるよ」
「あなたが現れる度に、私は迷惑ばかりよ!」
「アライグマか?」
「洗われたんじゃなくて現れたの!」
「どんなアライグマだ?」
「そうそう、毛並みがよくてとっても可愛い――ってアライグマじゃないわ!」
「で、なんの話だっけ?」
 ルクロンの体が温度計のようにつま先から上へ真っ赤に染まる。
「だーかーら! ホウキよ! 魔法使いが乗るあのホウキのこと!」
 ホウキ部とはなにか。
 部員が二十名ほどの大人数で、ホウキに対する情熱だけは誰にも負けない連中が集まっている。
 活動内容は何か? とにかくホウキでいろいろする部活である。
 浮遊の効果を持つ魔法カードや風魔法の魔法カード。もしくは重力魔法などを駆使すれば、ホウキで飛ぶことができる。
 ホウキレースや、ホウキに乗って剣を交わすホウキチャンバラ、ホウキにのってどれだけ高く飛び上がれるか競うホウキジャンパー、ホウキに乗ってホウキを背負ってホウキで校内のホウキを掃除するホウキラッシュなど、とにかくホウキ尽くしの競技である。
「で、部員が二人に増えた我が栄光ある魔法刺激部様が、どのようなご迷惑をかけたかな?」
「な――部員が二人……?」
 リコッタの横で膝を抱えていたクロミエを確認し、ルクロンの顔が引きつる。
「彼女は、確かクロミエなんとか……なるほど、学校内でも陰の薄い二人が一緒というわけね」
「ふん、甘いな。陰っていうのはな、たとえ薄くても重なれば濃くなるものさ」
 カッコよく言ってるが、つまり負け惜しみである。
「それより、被害の話よ」
 話が逸れたので、ルクロンは咳ばらいをして軌道修正する。
「リコッタ・シャウルス、あなたのふざけた魔法のせいよ!」
「私がやったなんて証拠はないだろう」
「あんなことするのはあなただけよ! そのせいでホウキが五本も破損したのよ! 弁償しなさいよ!」
「心配するな、あれは廃棄予定だぞ」
「そんな予定なんてないわ! あれはバリバリ現役よ!」
「別にいいだろう。ホウキの一本や二本くらい」
「五本だって言ってるでしょう!」
「はいはい。で、何をお望みで?」
「何って、謝罪と賠償に決まってるでしょう!」
「そんなに謝罪が欲しいなら別の人に頼めばいいだろ」
「あなたが謝罪しなければ意味ないのよ! それに、あなたには具体的な説明をする義務があるわ」
「あーはいはい。じゃあお前らの苦痛に歪む顔を思い出しながら説明してやるよ」
「普通に説明しなさい!」

 数日前、リコッタは一人で超上級魔法の練習をしていた。ちなみに超上級魔法はその辺の魔法使いには扱えない代物で、下手に使えば世界を崩壊しかねないため法律で禁止されている。しかしあらゆる世界を経験し元天使であるリコッタにはお茶の子さいさいだ。
 超上級魔法の名は、七大魔法と恐れられるシュロップシャー・ブルー。
 名前だけは知られているが、その威力や効果は謎だらけである。何しろこの魔法、最大限のパワーで扱える人間がいない。
 魔法学者などによれば”とりあえず世界崩壊レベルだから使わんといて”とされる威力らしい。
 当然、高校生の分際でそんな魔法を放ったところで本来の威力は期待できない。そう、普通の高校生ならば。
 リコッタはスーパーで売っていたカードパックから出たレア魔法カードを自らの魔力で超進化させ、無事にシュロップシャー・ブルーの魔法カードを入手してしまった。以前から壊滅させてやろうと企んでいたホウキ部に放つつもりである。
 そもそも世界崩壊レベルの魔法を一部活に放とうとしていること自体が大きな過ちだが、リコッタにはそんな常識など通用しない。
 グラウンド上、リコッタから数メートル奥では例のホウキ部がホウキの素振りをしていた。
 なぜ素振りなのか。ホウキなら乗ったり飛んだりするのが定番の練習だと思われがちだが、ホウキ部はそんな安直な練習などしない。もっとスポ根である。
 ホウキらしからぬ練習を繰り返すが、部員は不満を漏らさず素振りを続ける。それはルクロンの統率力が成せる強制という名の崇拝だ。
 ちなみに素振りは剣道スタイルではなく野球スタイルである。
 熱心な素振りの最中に超上級魔法が襲撃してきたら困るだろーなーとリコッタは考え、遠慮なく放ってやることにした。嫌いなホウキ部が途方に暮れる有様を想像しながらニヤニヤするリコッタは、まさに悪党と言っても差し支えない。
 シュロップシャー・ブルーのカードをカードリダーに装填し、呪文の詠唱を開始する。リコッタにかかれば、呪文くらいそれっぽいことを言っておけば唱えられる。
 人気、成績、美貌、全てを兼ね備えたルクロンを中心に、嫉妬全開で魔法を放つ。ボウリングの玉ほどの青白い光弾が、眩いフラッシュを放ちながら一直線に突き進む。
 万が一大陸が崩壊すれば己の肉体も海の藻屑へと沈むので威力は少し抑えたが、それでも人に向けて良い呪文ではない。
 そんなものリコッタは無視だが。
 予想通り、リコッタのお粗末魔法はホウキ部御一行に命中。ボウリングのピンが如く散り散りに吹っ飛んだものの、幸いにもケガ人はゼロで済み、不幸にもホウキが折れた。
 ざまぁみやがれ! リコッタの心中ではそんな罵倒が木霊し、リコッタの優越感と開放感は頂点に達した。
「ウハハハハハ!」
 下品な嗤い声をあげながら凶悪な顔で腕を組みほくそ笑む姿は悪魔――堕天使そのもの。
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