転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

文字の大きさ
上 下
83 / 83
四章 深緑の髪飾り(領地編)

4.楽しいお泊まり

しおりを挟む
 **

 ダイニングルームへ向かうと、お父様とお母様が席に着いていた。
 珍しいこともあるもんだ。お父様は視察だ、会議だ、交渉だと忙しそうに夏でも各地を走り回っているし、お母様も何やら夜遅くに帰ってくるときもある。家族揃ってゆっくりと食事するのは一週間ぶりだ。

 今日はそれに加えてミモザもいる。
 やっぱり、メリーナや使用人たちがいるとはいえ、一人の食事というのは味気ないものだ。やっぱり、食事はみんなでとる方がいい。こころなしか料理もいつもより美味しく感じる。

 お父様が先日まで居た国の話から、王都で流行した菓子、ジェード家の領地の特産品や政治について、たくさんの話をして、その日の食事を楽しく終えたのだった。

 さて、お待ちかねのお泊まりイベント。何をするのが正解だろうか。
 ご飯を食べたり、枕投げや恋話をしたり……いやいや、ラブコメにおいて欠かせないイベントを忘れてはいけない。

 そう、お風呂イベントだ。風呂場で裸で遭遇とか、一緒にお風呂みたいなイベントは欠かせないだろう。
 それなのに、この世界の風呂は客室や個室には一つずつバスタブが備えてあってそこにお湯を運ぶタイプの造りなのだ。よって、キャッキャウフフな風呂イベント発生しようがない。
 例外は以前のアルファルド全裸疾走事件のみである。

 男女でお泊まりってなったら、絶対にお風呂イベントはかかせない。それがないなんてどうかしてると俺も思う。
 しかし、ないものはないのだ。仕方がない。

 それに、仮にミモザの裸を見たとしよう。
 もしも、リゲルにバレたらどうなるか。考えただけで恐ろしい。
 一応、女だから殴られたり、斬られたりはしないとは思う。
 でも、下心があって見たとなったら話は別だ。バレたら絶対にただじゃ済まないだろう。

 やっぱり、お風呂イベントがなくて正解だ。これで良かったんだ。
 俺は少しガッカリしながらいつものように一人のお風呂を楽しんだ。

 **

「ミモザ様、お話をしましょう」 

 俺はベッドの上に座り込んで、自分の横をぽんぽんと叩く。

 お風呂イベントがないことですっかり落ち込んでいたが、ずっと落ち込んでいるわけにもいかない。
 こうなったら、他のお泊まりイベントを楽しむまでだ。

「あの、本当にこんな姿で?」

 ミモザはまだ扉の近くでもじもじとしながら、顔を真っ赤に染めていた。

「ええ、勿論です! パジャマパーティーならパジャマは必須です!」

 俺は力いっぱい頷く。

 俺は本物の美少女のネグリジェ姿が見れたことに感動していた。
 アルファルドのネグリジェ姿も確かに可愛らしかったが、あれは男だからな。ありがたみが違う。
 
「お姉様は恥ずかしくないの?」 

 ミモザは自分のネグリジェに目を落とした。どうやら、ネグリジェ姿が恥ずかしいらしい。

 俺はネグリジェの裾をつまみ上げる。

 そうか。そう言えば、これはこの世界では恥ずかしい恰好という認識だった。家族や使用人に見られることがあっても他人に見られることはなかなかないものだ。
 でも、俺はもう既にアルファルドにも、リゲルにも、ネグリジェ姿を見られている。減るものでもないし、ミモザにだけ隠す理由もない。

「ミモザ様になら大丈夫ですね」
「はあ?」
「だって女同士ですし」
「いや、そう、そうなんだけどぉ……」
「もう、いいから早く座ってくださいって」

 そう言って、もう一度、ぽんぽんとベッドを叩いた。

 早くしないと、メリーナかお母様が来て「まだ起きているんですか?」って言われてしまう。
 そうしたら、さっとミモザと布団に隠れてやり過ごすんだ。修学旅行にありがちな先生たちの巡視みたいだ。
 それすら、なんだか待ち遠しい。

「早くしないと寝る時間になっちゃいますよ?」

 俺は期待に満ちた顔でミモザを見つめた。

「う、うう……分かったわよ」

 ミモザは観念したように俺の横に座った。

「さて、ミモザ様、何についてお話しますか? やっぱり二人きりじゃないとできない話がいいですよね」
「え!」

 ミモザは大きな声で叫ぶ。
 おいおい、あんまり大きな声で叫ぶとまずいぞ。

「どうしました!?」

 大きな音を立てて、扉を開けたのはアントニスだった。

「嗚呼! なんでもないから大丈夫です、アントニス!」
「そうでしたか、失礼しました」 

 アントニスは顔を引っ込めた。

 ほらな。アルファルドの母親が侵入した一件から、叫ぶとアントニスが入ってくるシステムが採用されたんだ。
 大声を出そうもんならすぐに飛んでやってくることになっている。

「ミモザ様、大きな声を出してはいけません。秘密の話です。小さな声でお話しましょう」
「そうですね」
「じゃあ、何を話します? やっぱり、恋の話ですか?」
「恋ですか?」

 ミモザは緊張したような声を出す。

 やはり、想い人がいるらしい。
 俺はアルファルドの話だろうと言ってやりたいのを堪える。

 相手はツンデレだ。無理に言わせようとすれば、絶対に認めない。寧ろ反発するだけだ。
 もうすでに一度失敗しているし、同じ轍は踏むつもりはない。
 自然と言える雰囲気を作って、俺も協力する流れにしなければならない。

「ええ、そうです。お年頃なんですから、そういうお話がしたいんです」
「やっぱり、聞きたい?」
「やっぱりと言うことはあるんですよね?」

 俺の言葉にミモザはしまったという顔をした。

(ふふふ、ミモザさん、甘いですよ。本当は恋バナしたくてしょうがないんでしょう。だから、ついぽろっと言ってしまうんです。俺にはすべて分かっているんだから隠しても無駄です。)

「ほら、男性もいないし、お母様やメリーナたちも聞いていないから本心を語るのにすっっごくいい機会じゃありませんか?」

 俺は「すごく」のところを強調するように力を込めてそう言った。

「でも……」
「わたくしもぜひしたいなって。ダメですか?」

 俺はミモザの手を取る。
 そして、ミモザの目をじっと見つめた。
 ミモザは暫く考え込むようにうーっと唸る。

「そうよね……普段はそういう話はできないもの。しましょう」

 やっと観念したようにミモザは頷く。

「ありがとうございます」
「じゃあ、お姉様からね」
「え……」
「お姉様も話したいのでしょう? お先にどうぞ」

 話したいと言った手前、そう言われては逃れる術はない。

 やばい。自分が何を話すかなんて考えてなかった。
 慌てて考えてみるがなかなかいい具合の恋話が思いつかない。
 素直に女の子が好きだなんて言えるわけもないし、どうしたらいいのだろう。

「やっぱり、お姉様はレグルス殿下のことが……」
「え、ええ! 勿論、もちろんレグルス様のことですよ!」

 そうだ、レグルス。俺にはレグルスがいるじゃないか。
 俺はミモザの言葉に大きく頷く。

「ねぇ、じゃあどこが好きなの?」

 ミモザがわくわくとした目で俺を見つめる。

(そんな期待されても面白いエピソードなんてないですよ、ミモザさん!!)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

猫かぶり令嬢は王子の愛を望まない

今井ミナト
恋愛
【あざとい系腹黒王子に鈍感干物な猫かぶり令嬢が捕まるまでの物語】 私、エリザベラ・ライーバルは『世界で一番幸せな女の子』のはずだった。 だけど、十歳のお披露目パーティーで前世の記憶――いわゆる干物女子だった自分を思い出してしまう。 難問課題のクリアと、外での猫かぶりを条件に、なんとか今世での干物生活を勝ち取るも、うっかり第三王子の婚約者に収まってしまい……。 いやいや、私は自由に生きたいの。 王子妃も、修道院も私には無理。 ああ、もういっそのこと家出して、庶民として生きたいのに! お願いだから、婚約なんて白紙に戻して! ※小説家になろうにも公開 ※番外編を投稿予定

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...