転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

文字の大きさ
上 下
79 / 83
四章 深緑の髪飾り(領地編)

0.囚われの姫と騎士様

しおりを挟む
 青く高い空をミモザは見上げた。本来であればこの空の下で皆と祭りを楽しんでいるはずであった。それなのに何故、一人になってしまったのだろう。
 ミモザは自分の軽率さを呪った。

「いいか、俺がこの女を殺すんじゃない。この国がこの女を殺すんだ!」
 目の前の男は剣を握り締め、叫んだ。

(もうダメかもしれない……)

 ミモザは自分の胴体と頭がお別れするであろう未来を覚悟した。
 ぐっと目を閉じ、衝撃と痛みを待つ。できれば一思いに、痛みは一瞬で済ませて欲しいと願うばかりだった。

 その刹那、甲高く、金属と金属がぶつかり合うような音がした。何の音だか分からないが、予想していた痛みはいつまで経ってもミモザを襲うことはなかった。

 ミモザは恐々と目を開いた。
 濡羽色とでもいうのだろうか、黒は艶やかに青や紫帯びて輝く。そこに濃い紅色の布がはためいた。それが少女の長い髪と真紅のストールだと気付くまで時間はかからなかった。
 ミモザはその黒と赤のコントラストに目を奪われる。こんな、命の危機というときに目を奪われるなんてと思うが、理性とは逆に瞳はそれを見つめていた。

「ミモザ様!」

 気遣うように振り返る少女の瞳は夜の色に輝いていた。真っ黒なのにキラキラと輝いていて、とても不思議な瞳をしているミモザは思った。

「ど、うして?」
 ミモザはうわ言のように呟く。

 男の剣を受け止めていた少女の剣からはギリギリと不快な音が聞こえてくる。少女は今にも押し切られてしまいそうな姿勢になる。余裕がないはずなのに、少女は微笑みを浮かべた。

「どうして? 当たり前じゃないですか」

 いつもそうだ。危険を顧みず、このヒトは私を助けに来る。 
 まるで、絵本の中の騎士のようだとミモザは思った。確か、姫に忠誠を誓う騎士は姫に危機が迫ると、ちょうどこんな風に助けに来るのだ。幼い頃、そんな世界に憧れていたことを思い出す。

 勿論、ミモザはそんな世界に憧れるような子どもではない。それでも、目の前の少女の行為に胸をときめかせていた。鼓動する心臓の音を聞きながら、ミモザは少女の言葉を待った。

「勿論、わたくしがそうしたいから、です!」

 そう言って少女は剣を振った。
 遅れて斬撃の音がした。目の前の少女が切られたのかと驚いたが、違ったらしい。倒れたのは自分を切り殺そうとしていた男だったことに気づく。

 周囲からは、わっと歓声が上がった。

(まただ……)
 ミモザはまた救われたのだと思った。


―――――――――――
少し更新ペース落ちます。すみません。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫かぶり令嬢は王子の愛を望まない

今井ミナト
恋愛
【あざとい系腹黒王子に鈍感干物な猫かぶり令嬢が捕まるまでの物語】 私、エリザベラ・ライーバルは『世界で一番幸せな女の子』のはずだった。 だけど、十歳のお披露目パーティーで前世の記憶――いわゆる干物女子だった自分を思い出してしまう。 難問課題のクリアと、外での猫かぶりを条件に、なんとか今世での干物生活を勝ち取るも、うっかり第三王子の婚約者に収まってしまい……。 いやいや、私は自由に生きたいの。 王子妃も、修道院も私には無理。 ああ、もういっそのこと家出して、庶民として生きたいのに! お願いだから、婚約なんて白紙に戻して! ※小説家になろうにも公開 ※番外編を投稿予定

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...