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四章 深緑の髪飾り(領地編)
0.囚われの姫と騎士様
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青く高い空をミモザは見上げた。本来であればこの空の下で皆と祭りを楽しんでいるはずであった。それなのに何故、一人になってしまったのだろう。
ミモザは自分の軽率さを呪った。
「いいか、俺がこの女を殺すんじゃない。この国がこの女を殺すんだ!」
目の前の男は剣を握り締め、叫んだ。
(もうダメかもしれない……)
ミモザは自分の胴体と頭がお別れするであろう未来を覚悟した。
ぐっと目を閉じ、衝撃と痛みを待つ。できれば一思いに、痛みは一瞬で済ませて欲しいと願うばかりだった。
その刹那、甲高く、金属と金属がぶつかり合うような音がした。何の音だか分からないが、予想していた痛みはいつまで経ってもミモザを襲うことはなかった。
ミモザは恐々と目を開いた。
濡羽色とでもいうのだろうか、黒は艶やかに青や紫帯びて輝く。そこに濃い紅色の布がはためいた。それが少女の長い髪と真紅のストールだと気付くまで時間はかからなかった。
ミモザはその黒と赤のコントラストに目を奪われる。こんな、命の危機というときに目を奪われるなんてと思うが、理性とは逆に瞳はそれを見つめていた。
「ミモザ様!」
気遣うように振り返る少女の瞳は夜の色に輝いていた。真っ黒なのにキラキラと輝いていて、とても不思議な瞳をしているミモザは思った。
「ど、うして?」
ミモザはうわ言のように呟く。
男の剣を受け止めていた少女の剣からはギリギリと不快な音が聞こえてくる。少女は今にも押し切られてしまいそうな姿勢になる。余裕がないはずなのに、少女は微笑みを浮かべた。
「どうして? 当たり前じゃないですか」
いつもそうだ。危険を顧みず、この女は私を助けに来る。
まるで、絵本の中の騎士のようだとミモザは思った。確か、姫に忠誠を誓う騎士は姫に危機が迫ると、ちょうどこんな風に助けに来るのだ。幼い頃、そんな世界に憧れていたことを思い出す。
勿論、ミモザはそんな世界に憧れるような子どもではない。それでも、目の前の少女の行為に胸をときめかせていた。鼓動する心臓の音を聞きながら、ミモザは少女の言葉を待った。
「勿論、わたくしがそうしたいから、です!」
そう言って少女は剣を振った。
遅れて斬撃の音がした。目の前の少女が切られたのかと驚いたが、違ったらしい。倒れたのは自分を切り殺そうとしていた男だったことに気づく。
周囲からは、わっと歓声が上がった。
(まただ……)
ミモザはまた救われたのだと思った。
―――――――――――
少し更新ペース落ちます。すみません。
ミモザは自分の軽率さを呪った。
「いいか、俺がこの女を殺すんじゃない。この国がこの女を殺すんだ!」
目の前の男は剣を握り締め、叫んだ。
(もうダメかもしれない……)
ミモザは自分の胴体と頭がお別れするであろう未来を覚悟した。
ぐっと目を閉じ、衝撃と痛みを待つ。できれば一思いに、痛みは一瞬で済ませて欲しいと願うばかりだった。
その刹那、甲高く、金属と金属がぶつかり合うような音がした。何の音だか分からないが、予想していた痛みはいつまで経ってもミモザを襲うことはなかった。
ミモザは恐々と目を開いた。
濡羽色とでもいうのだろうか、黒は艶やかに青や紫帯びて輝く。そこに濃い紅色の布がはためいた。それが少女の長い髪と真紅のストールだと気付くまで時間はかからなかった。
ミモザはその黒と赤のコントラストに目を奪われる。こんな、命の危機というときに目を奪われるなんてと思うが、理性とは逆に瞳はそれを見つめていた。
「ミモザ様!」
気遣うように振り返る少女の瞳は夜の色に輝いていた。真っ黒なのにキラキラと輝いていて、とても不思議な瞳をしているミモザは思った。
「ど、うして?」
ミモザはうわ言のように呟く。
男の剣を受け止めていた少女の剣からはギリギリと不快な音が聞こえてくる。少女は今にも押し切られてしまいそうな姿勢になる。余裕がないはずなのに、少女は微笑みを浮かべた。
「どうして? 当たり前じゃないですか」
いつもそうだ。危険を顧みず、この女は私を助けに来る。
まるで、絵本の中の騎士のようだとミモザは思った。確か、姫に忠誠を誓う騎士は姫に危機が迫ると、ちょうどこんな風に助けに来るのだ。幼い頃、そんな世界に憧れていたことを思い出す。
勿論、ミモザはそんな世界に憧れるような子どもではない。それでも、目の前の少女の行為に胸をときめかせていた。鼓動する心臓の音を聞きながら、ミモザは少女の言葉を待った。
「勿論、わたくしがそうしたいから、です!」
そう言って少女は剣を振った。
遅れて斬撃の音がした。目の前の少女が切られたのかと驚いたが、違ったらしい。倒れたのは自分を切り殺そうとしていた男だったことに気づく。
周囲からは、わっと歓声が上がった。
(まただ……)
ミモザはまた救われたのだと思った。
―――――――――――
少し更新ペース落ちます。すみません。
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