転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

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三章 薄藍の魔導書(アルファルド編)

15.犬猿の仲?

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「嗚呼、もう焦れったいですね!」
 うっとおしい雨音を吹き飛ばすように俺は叫んだ。

 アルファルドとミモザの仲が全く進展しないからだ。このままだと、何の進展もないまま、社交界のシーズンが終わり、二人ともそれぞれの家の領地に戻ることになる。

 何としてでも、手紙のやり取りができるくらいの仲に進展をさせたいところだが、いくつかの問題があった。何とかしてその問題を解決したいものだが、俺の力不足もあり、何ともならない。

 ミモザがこんなにもツンデレだとは思わなかった。甲斐甲斐しくお世話をするくせに、興味は無いと言って好意ををひた隠しにしているのだ。

 もっとも俺がもっと上手くミモザの言動を引き出してやればこんなことにはならなかったはずだ。俺が百戦錬磨の恋愛マスターだったら良かったのに。

 そもそも、そうであれば、レグルスとの婚約問題も即行解決。ミモザとアルファルドもラブラブ。悩みの大半は消え、俺は自由な転生ライフを送っていたのかもしれない。

 しかし、現実の俺はクソヘタレの恋愛下手野郎なのだ。全く無力すぎる。

 いや、俺がダメでも、せめてアルファルドがもう少し女性に積極的だったら話は別だったはずだ。しかし、残念ながらアルファルドは所謂、草食系男子だったようで、ミモザが現れるだけで俺の後ろに隠れるのだった。

 少しは慣れてくれ、アルファルド。そう思うものの、やはり人は自分で変わろうとしない限り、変わらないものだ。そして、アルファルドは変わる気があまりないらしい。

 俺のこの焦れったい気持ちが分かるだろうか。九話かけてやっと想いが通じたと思いきや、やっぱり最終話の終わる時間ギリギリまですれ違う恋愛ドラマを見せられているような気分だ。

(俺は気が短いんだよ! さっさとくっつくならくっつけ!)

「ああ、もう!!」

「アルキオーネ?」
「アル?」
 気づけば、リゲルとアルファルドは驚いたようにこちらを向いている。

 まずい。今、叫ぶことじゃなかった。俺は後悔しながら口を押さえた。

 因みに、今日は珍しくミモザはおらず、代わりのようにリゲルが遊びに来ていた。

 どうやらミモザは何処かのお茶会にお呼ばれしているらしい。ミモザがいればこれをきっかけに恋が進展なんてことがあったかもしれないが、そうはいかないようだ。

「何、何? どうしたの?」
「ちょっと、しんぞうがとまった」

 二人は口々にそう言った。

 そして、互いの顔を見合わせてから、何故か同時に不機嫌な顔をする。

「お前、アルキオーネが人殺しみたいに言うのはやめろよ」
「いってない」
「はぁ? お前の心臓が止まったらアルキオーネが人殺し扱い受けるんだぞ?」
「ひゆがわからないのはばか」
「比喩なら分かりやすく言うんだ。分かりにくい比喩は比喩ではないんだよ」

 見ての通り、最近分かったことだが、アルファルドとリゲルは相性が最悪だった。

 これはアルファルドとミモザをくっつける上でも非常に大きな問題だ。

 リゲルはアルファルドの言動に明らかに苛立つし、アルファルドは言わなくていいことまで言ってくれる。義理の兄弟になったら恐ろしいことになりそうだ。アルファルドとミモザの仲を取り持つよりも先にコイツら二人の仲もなんとかしてやらなければならない。

「すみません。わたくしが急に大きな声を出すからいけないんです」

 俺は慌てて頭を下げた。俺の頭一つで雰囲気が変わるのなら安いものだ。

「アルキオーネは、」
「アルは、」
「「わるくない!」」
 二人の声が重なる。

「真似するなよ」
「まねしてない」

 リゲルとアルファルドは睨み合う。俺が頭を下げたことを二人揃って無に帰してくれるな。息がぴったりなくせに本当に仲が悪いんだから。

「嗚呼、もうやめてください。分かりましたから。リゲルも、アルファルドも、わたくしも、皆悪くないです。これ以上喧嘩をするなら、わたくしを倒してからにしてください。剣でも、カードゲームでも、何でも相手になってやりますよ!」

 俺は二人を睨みつけてやった。

「カードゲームならまだしも剣だなんて、アルキオーネとそんなことする気ないよ」

 慌てた様子のリゲル。片やアルファルドの方はぼうっとした顔で俺を見つめた。

「カードゲーム?」

 アルファルドが首を傾げる。

「七並べとか、ババ抜きとか、神経衰弱とかやったことないですか? アルファルドはあまり顔色が変わらないからダウトとか、インディアンポーカーとか向いてると思いますよ」

 アルファルドはピンと来ていないらしく、首を傾げたままだ。アルファルドはカードゲームをしたことがないらしい。

 そこで俺は思いつく。ここでカードゲームの一つや二つをして、上手く仲を取り持ってやるのはどうだろう。二人の仲が少しでも良くなれば、ミモザだってやりやすくなるかもしれない。

 俺は微笑みを浮かべた。

「やってみたら分かると思うんですけど……」

 俺はちらりとリゲルを見る。

 リゲルは少し嫌そうな顔をしてからため息を吐く。

「じゃあ、試しにやってみる? 言っておくけど、初めてでも俺は手加減しないよ」

 アルファルドも一瞬嫌そうな表情をするが、カードゲームによほど興味があったのだろう。ゆっくり大きく頷く。

「じゃあ、カードゲーム大会でも始めますか! 人数は多ければ多いほど盛り上がりますからね。メリーナとアントニスも誘いましょう」

 俺はメリーナとアントニスを誘いに行くため、部屋を飛び出した。

 *

 カードゲームなんて子どもの遊びと思っていたが、皆夢中になってやるものだから白熱した。中でも意外だったのが、メリーナだった。

「みなさん、思った以上に弱いですね」

 メリーナは困ったように微笑みながらカードを切る。

 神経衰弱、七並べ、ババ抜き、ダウトなどルールが簡単なものは一通りやってみたが、メリーナは何をやっても一位か二位だった。しかも、二位だったのはババ抜きだけだ。ほぼ無敵と言ってもいいほどの強さだった。

 メリーナが唯一最初に上がれなかったババ抜きで一番に上がったのはアルファルドだ。アルファルドは奇跡的に配られた手札が良く、直ぐに上がってしまったのだ。

 それ以外に関しては、アルファルドは初めてだということもあり、ルールを覚えるところから始めなければならなかったので苦労しているようだ。しかし、最下位になってしまっても楽しんでいるような様子だった。

「次は、大富豪で勝負を!」

 リゲルは真剣な表情でメリーナにそう言った。

 手加減しないと言っていたリゲルは実は強くも弱くもない。いつも二位から四位を行ったり来たりしているような調子だ。

 ただ、少々負けず嫌いなようで、時々目つきが鋭くなることがあった。勿論、その顔は直ぐに笑顔に変わるのだが、俺はリゲルがいつブチ切れるのかと戦々恐々としていた。

「大富豪は細かいルールがあるし、ローカルルールも多いから、覚えるのが大変ですよ。やめときませんか?」

 アントニスが嫌そうな顔をする。アントニスはカードゲームが苦手らしい。大抵、四位か最下位になってしまう。

 確かに俺に誘拐を阻止されたり、憲兵に誤解されたり、普段から運も良くないようだ。大富豪なんて運の要素も強いもの、勝てる気がしないのだろう。

「嗚呼、初心者には荷が重いもんね」

 リゲルは憐れむようにアルファルドを見る。明らかな挑発だった。

「やる」

 アルファルドはリゲルを見ることなく、即答した。

「無理だって」
「アル、おしえて」

 アルファルドはリゲルを無視して俺を見つめた。

「仕方ないですね。一番簡単なルールで行きましょう」

 俺はため息を吐き、皆にルールを確認しながら、大富豪のやり方を教えた。

「わかった」

 アルファルドは物覚えがいいようで、直ぐにルールを覚えて頷く。そういえば、神経衰弱のときも二番目に多くのカードを取っていた。

「おまえにはまけない」

 アルファルドは宣言するようにリゲルに向かって指を突き付けた。

「いい度胸だね」

 リゲルの顔は笑顔だったが、目には怒気がこもっていた。

 仲を取り持つつもりがとんだことになった。俺はひやひやとしながら、大富豪を始めた。

 結果はやはりメリーナの圧勝で、富豪が俺、平民はアルファルド、貧民がリゲル、大貧民がアントニスと並んだ。ギリギリであったが、宣言通り、アルファルドはリゲルに勝った。

 アルファルドは冷たい目でリゲルを見た。

 リゲルの瞳には怒りの炎が青く灯る。

「もう一度!」

 今度はリゲルがアルファルドに指を突き付ける。

「じょうとう」

 アルファルドは呟く。

 この後も数回、大富豪は続いた。勿論、一度もメリーナは負けることがなかったし、アルファルドとリゲルは平民と貧民を行ったり来たりするのは変わらなかった。

 でも、なんだかんだゲーム中、二人は時折悪口や憎まれ口を叩いていたが、まるで犬や猫が戯れているようにも見えた。本当に仲が良いのか悪いのか分からない。 

 でも、二人とも何だか楽しそうだからいいか。俺は二人を見て微笑んだ。
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