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三章 薄藍の魔導書(アルファルド編)
14.大きな世話だとは分かってる
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アルファルドとミモザの仲を取り持ってやろうと決めたのは、自分の中でも当然のことのように思えた。
友の妹は自分の妹とはいかずとも、それなりに大切にしてあげたいと思う。それに、俺は一途な女の子に滅法弱いのだ。そういう子に接していると、庇護欲が湧く。何とかしてやらねばと使命感のようなものを感じてしまう。
前前世か、前前前世くらいはきっと世話焼きババアだったに違いない。
しかし、俺は大きな壁にぶち当たっていた。恋のキューピットとやらは何をするべきなのか分からなかったのだ。
よく考えると、俺、まともに恋愛してこなかった。
前世を思い出す。付き合った人数で言えば、片手で足りるくらい。
いや、見栄を張りました。本当は二人でした。それでも、十九歳なら、控えめな人数とはいえ、特別少ないというわけではない。と思いたい。
そんな俺は女の子から告白されたことは無い。
だから、モテるかどうかで言ったら、モテない方。タイミングの悪いことに好意を抱く相手には彼氏がいたり、告白しようとしたら前日に彼氏が出来ていたり、上手くいっても妹を理由に二週間以内に振られるというのがパターン化していた。
相手に好きな人がいるなら奪え? 略奪愛? 無理無理無理。
そんな情熱があったら、彼女も勉強も運動もなんでもござれだったのだろうけど、残念ながらそんな根性はない。
妹は「これと決めたら頑張れる」なんて褒めてくれていたけど、実際のところ、俺は根性なしのクソ野郎だ。「これと決めたら」ではなく、「これしか頑張れることがないから頑張る」のが俺の性分なのだと思う。
そういう人間だから、失恋しても立ち直りは早くて、振られても直ぐに別の女の子にアタックすることが出来た。世の中に可愛い女の子は沢山いるのだから、凹んでる方が勿体ない。
それに、この世には俺のことをよく理解してくれる「妹」という存在があった。だから、彼女なんていなくても、そこまで困ることはなかった。
今世はといえば、レグルスに求婚されているのと、時折、リゲルが「俺の背中は一生君に守ってもらいたい」とか、周りの人間を勘違いさせるようなことを冗談で言ってくれるくらいだ。
本当、恋愛ってなにそれって状態。
勿論、メリーナのことは好きだけど、そもそも相手にされていないし、それが恋愛感情なのかと言われるとかなり微妙。ガランサスで会ったスーに関しても、可愛いなと思うし、ドキっとすることはあったが、子どもに恋愛感情を持つというのはないだろう。恋愛には縁遠い人生を送っている。
そんな自分の恋愛も満足に出来たと言える自信がないのに、果たして、ミモザとアルファルドをくっつけることなんて出来るのだろうか。俺は深く考えた。
「お姉様?」
ミモザの声がした。
そうだ。今日もいじらしいことにミモザが遊びに来ているんだった。
俺ははっとして顔を上げた。
ミモザと目が合う。ミモザは上目遣いで俺を見つめていた。そんな可愛い顔は俺なんかにするんじゃなくて、アルファルドにしてやればいいのに。そうしたら、唐変木のアルファルドだって胸の一つや二つときめかせてくれるだろう。
「どうなさいました?」
「あの……お姉様はアルファルド様のことをどう思っているの?」
ミモザは躊躇いがちに問う。
来た。これは気になるアルファルドと一緒にいる俺への牽制と見た。
ここはちゃんとアルファルドは恋愛対象ではないことをアピールしつつ、横にいるアルファルドにさりげなくミモザがお前に好意を抱いているのだと教えるチャンスだ。慎重に言葉を選ぶ必要がある。
「家族ですかね」
「家族……?」
ミモザが眉間にしわを寄せ、意味深長に呟く。
まずい。家族というのは夫婦という意味も含まれるんだった。どうやら、慎重に言葉を選ばなきゃと思っていた矢先に不用意な発言をしてしまったようだ。
そういうわけじゃない。俺が言いたいのは、親子愛とか兄弟愛の方だ。
「あの、誤解のないように言いますけど、アルファルドを弟とか子どものように思っているということですよ!」
「やっぱり!」
ミモザの表情が一気に明るくなる。
そして、俺の手を両手で包むと、顔の近くにぐっと近づける。
「そう、そうよね! 二人はまるでカルガモの親子のようで微笑ましいもの」
カルガモ……ニュースで見たことがあるぞ。ふわふわとした毛の子ガモがお尻をぷりぷりと動かしながら親ガモについていく姿とアルファルドが重なる。そう思うと、アルファルドの奴、滅茶苦茶可愛いな。
俺は思わずニヤニヤと上がりそうになる頬を必死で下げ、普通の表情を装う。
「そうなんです。だから、疾しいことは何一つありません」
「嗚呼、良かった」
ミモザはほっとしたように微笑んだ。
よし。これで上手く恋愛対象でないアピールはできた。あとは、アルファルドにさりげなくミモザの思いを気づくように誘導してやるだけだ。
「なんで、ミモザ様はそんなことをお聞きになるんですか?」
「そ、それは……」
ミモザは俺の手を離して、顔を赤くして下を向く。そして、もじもじと両手を擦り合わせる。
(言え、言うんだ、ミモザ! 今がチャンスだ! 一思いに、さあ、言ってしまえ!)
俺はじっとミモザの応援するように祈る。しかし、ミモザは言いづらそうにずっともじもじとしている。嗚呼、もう、焦れったい。
そういえば、肝心のお相手は何をしているのだろう。ずっと横にいるはずなのに、アルファルドは一切、言葉を発することはなかった。
俺はちらりとアルファルドの方に目をやった。アルファルドは話に全く興味のなさそうにぼんやりと俺のドレスについているレースを見つめていた。
(お前は少しは興味を持てよ。)
俺は肘でアルファルドの腕を小突いた。
アルファルドはぼんやりとした顔でこちらを見た。
(さあ、ミモザ、今がチャンスだ。 早く言ってくれ!)
「それは?」
「それは……」
「ミモザ様、さあ、仰ってください。」
「それは……お姉様が最近アルファルド様にかかりきりで社交界に顔を出さないでしょう? それで色々と噂になっているのよ。体がお悪いとか、レグルス殿下以外の想い人がいるから気まずくて顔が出せないんだとか。お姉様と私は仲が良いと皆に思われているから、良く聞かれるのよ! それで本当なのかなって事実関係を知りたいと思って、ね?」
ミモザはごまかすように微笑んだ。
俺はずっこけそうになる。
(なんだ、その言い訳は! 無理矢理すぎるだろ。せっかくなんだから本当のことを言えよ!)
「事実にありません。わたくしがアルファルドを恋人のように思うことは絶対にありませんから! それよりも、本当にそんなことでわたくしをお疑いに? もっと何か理由があるんじゃないですか? 例えば、ミモザ様がアルファルド様をどう思っているかとか……」
俺は焦れて核心に迫るようなことを言ってみる。
お願いだから素直に言ってくれよ、ミモザ。しかし、その願いは空しくあっさりと否定される。
「ないないない! 私がアルファルド様を好きなわけがないでしょ!」
ミモザは真っ赤な顔で力いっぱい首を振ってくれる。
お前、今は告白のタイミングだっただろうが。嗚呼、否定したから今ので暫く告白できなくなったぞ。ツンデレすぎるよ、ミモザ。
俺は苛々と頭を抱える。
横では、アルファルドが興味なさそうにまた俺のドレスに施されたレースに目を落としていた。
俺には、コイツらくっつけるの無理かもしれない。俺はため息を吐いた。
友の妹は自分の妹とはいかずとも、それなりに大切にしてあげたいと思う。それに、俺は一途な女の子に滅法弱いのだ。そういう子に接していると、庇護欲が湧く。何とかしてやらねばと使命感のようなものを感じてしまう。
前前世か、前前前世くらいはきっと世話焼きババアだったに違いない。
しかし、俺は大きな壁にぶち当たっていた。恋のキューピットとやらは何をするべきなのか分からなかったのだ。
よく考えると、俺、まともに恋愛してこなかった。
前世を思い出す。付き合った人数で言えば、片手で足りるくらい。
いや、見栄を張りました。本当は二人でした。それでも、十九歳なら、控えめな人数とはいえ、特別少ないというわけではない。と思いたい。
そんな俺は女の子から告白されたことは無い。
だから、モテるかどうかで言ったら、モテない方。タイミングの悪いことに好意を抱く相手には彼氏がいたり、告白しようとしたら前日に彼氏が出来ていたり、上手くいっても妹を理由に二週間以内に振られるというのがパターン化していた。
相手に好きな人がいるなら奪え? 略奪愛? 無理無理無理。
そんな情熱があったら、彼女も勉強も運動もなんでもござれだったのだろうけど、残念ながらそんな根性はない。
妹は「これと決めたら頑張れる」なんて褒めてくれていたけど、実際のところ、俺は根性なしのクソ野郎だ。「これと決めたら」ではなく、「これしか頑張れることがないから頑張る」のが俺の性分なのだと思う。
そういう人間だから、失恋しても立ち直りは早くて、振られても直ぐに別の女の子にアタックすることが出来た。世の中に可愛い女の子は沢山いるのだから、凹んでる方が勿体ない。
それに、この世には俺のことをよく理解してくれる「妹」という存在があった。だから、彼女なんていなくても、そこまで困ることはなかった。
今世はといえば、レグルスに求婚されているのと、時折、リゲルが「俺の背中は一生君に守ってもらいたい」とか、周りの人間を勘違いさせるようなことを冗談で言ってくれるくらいだ。
本当、恋愛ってなにそれって状態。
勿論、メリーナのことは好きだけど、そもそも相手にされていないし、それが恋愛感情なのかと言われるとかなり微妙。ガランサスで会ったスーに関しても、可愛いなと思うし、ドキっとすることはあったが、子どもに恋愛感情を持つというのはないだろう。恋愛には縁遠い人生を送っている。
そんな自分の恋愛も満足に出来たと言える自信がないのに、果たして、ミモザとアルファルドをくっつけることなんて出来るのだろうか。俺は深く考えた。
「お姉様?」
ミモザの声がした。
そうだ。今日もいじらしいことにミモザが遊びに来ているんだった。
俺ははっとして顔を上げた。
ミモザと目が合う。ミモザは上目遣いで俺を見つめていた。そんな可愛い顔は俺なんかにするんじゃなくて、アルファルドにしてやればいいのに。そうしたら、唐変木のアルファルドだって胸の一つや二つときめかせてくれるだろう。
「どうなさいました?」
「あの……お姉様はアルファルド様のことをどう思っているの?」
ミモザは躊躇いがちに問う。
来た。これは気になるアルファルドと一緒にいる俺への牽制と見た。
ここはちゃんとアルファルドは恋愛対象ではないことをアピールしつつ、横にいるアルファルドにさりげなくミモザがお前に好意を抱いているのだと教えるチャンスだ。慎重に言葉を選ぶ必要がある。
「家族ですかね」
「家族……?」
ミモザが眉間にしわを寄せ、意味深長に呟く。
まずい。家族というのは夫婦という意味も含まれるんだった。どうやら、慎重に言葉を選ばなきゃと思っていた矢先に不用意な発言をしてしまったようだ。
そういうわけじゃない。俺が言いたいのは、親子愛とか兄弟愛の方だ。
「あの、誤解のないように言いますけど、アルファルドを弟とか子どものように思っているということですよ!」
「やっぱり!」
ミモザの表情が一気に明るくなる。
そして、俺の手を両手で包むと、顔の近くにぐっと近づける。
「そう、そうよね! 二人はまるでカルガモの親子のようで微笑ましいもの」
カルガモ……ニュースで見たことがあるぞ。ふわふわとした毛の子ガモがお尻をぷりぷりと動かしながら親ガモについていく姿とアルファルドが重なる。そう思うと、アルファルドの奴、滅茶苦茶可愛いな。
俺は思わずニヤニヤと上がりそうになる頬を必死で下げ、普通の表情を装う。
「そうなんです。だから、疾しいことは何一つありません」
「嗚呼、良かった」
ミモザはほっとしたように微笑んだ。
よし。これで上手く恋愛対象でないアピールはできた。あとは、アルファルドにさりげなくミモザの思いを気づくように誘導してやるだけだ。
「なんで、ミモザ様はそんなことをお聞きになるんですか?」
「そ、それは……」
ミモザは俺の手を離して、顔を赤くして下を向く。そして、もじもじと両手を擦り合わせる。
(言え、言うんだ、ミモザ! 今がチャンスだ! 一思いに、さあ、言ってしまえ!)
俺はじっとミモザの応援するように祈る。しかし、ミモザは言いづらそうにずっともじもじとしている。嗚呼、もう、焦れったい。
そういえば、肝心のお相手は何をしているのだろう。ずっと横にいるはずなのに、アルファルドは一切、言葉を発することはなかった。
俺はちらりとアルファルドの方に目をやった。アルファルドは話に全く興味のなさそうにぼんやりと俺のドレスについているレースを見つめていた。
(お前は少しは興味を持てよ。)
俺は肘でアルファルドの腕を小突いた。
アルファルドはぼんやりとした顔でこちらを見た。
(さあ、ミモザ、今がチャンスだ。 早く言ってくれ!)
「それは?」
「それは……」
「ミモザ様、さあ、仰ってください。」
「それは……お姉様が最近アルファルド様にかかりきりで社交界に顔を出さないでしょう? それで色々と噂になっているのよ。体がお悪いとか、レグルス殿下以外の想い人がいるから気まずくて顔が出せないんだとか。お姉様と私は仲が良いと皆に思われているから、良く聞かれるのよ! それで本当なのかなって事実関係を知りたいと思って、ね?」
ミモザはごまかすように微笑んだ。
俺はずっこけそうになる。
(なんだ、その言い訳は! 無理矢理すぎるだろ。せっかくなんだから本当のことを言えよ!)
「事実にありません。わたくしがアルファルドを恋人のように思うことは絶対にありませんから! それよりも、本当にそんなことでわたくしをお疑いに? もっと何か理由があるんじゃないですか? 例えば、ミモザ様がアルファルド様をどう思っているかとか……」
俺は焦れて核心に迫るようなことを言ってみる。
お願いだから素直に言ってくれよ、ミモザ。しかし、その願いは空しくあっさりと否定される。
「ないないない! 私がアルファルド様を好きなわけがないでしょ!」
ミモザは真っ赤な顔で力いっぱい首を振ってくれる。
お前、今は告白のタイミングだっただろうが。嗚呼、否定したから今ので暫く告白できなくなったぞ。ツンデレすぎるよ、ミモザ。
俺は苛々と頭を抱える。
横では、アルファルドが興味なさそうにまた俺のドレスに施されたレースに目を落としていた。
俺には、コイツらくっつけるの無理かもしれない。俺はため息を吐いた。
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