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二章 碧緑の宝剣(リゲル編)
28.ガランサスはまだ続く
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*
憲兵たちが到着したころには、外はもう真っ暗でいつもなら夕食を済ませているような時間になってしまっていた。
どうやらあちらにも誘拐犯の仲間がいたらしい。人数が多く手間取ったが、芋づる式に捕まったという。だから、時間がかかったらしい。
ある程度の状況説明を終えると、憲兵たちは「遅いので、後処理はこちらに任せてもう帰っていい」と言ってくれた。俺たちは疲れていたし、素直にそれ言葉に従った。
憲兵たちに後処理を任せ、リゲルと別れてから、俺とアントニスは血でドロドロになったコートを街でこっそりと処分してから屋敷に帰った。血塗れのコートなんて持って帰ったらメリーナが卒倒してしまう。
勿論、処分したなんて言えないので、コートは失くしたことにした。前日も帽子を失くしていたし、メリーナが不審に思うことはないだろう。
実際、帰りが遅くなってしまったので、メリーナには多少怒られたが、それ以外は何も言われなかった。
「あら、これはどうしたんですか?」
「え?」
安心したのもつかの間。ズボンについた小さな血痕がついているのを見つけられたときはひやりとした。俺たちはそれをアントニスが俺に絡んできたごろつきを倒してついたシミということにして事なきを得た。
「お嬢様、明日の予定は如何します?」
就寝前、メリーナが俺に向かって聞いた。
明日――ガランサス三日目は誰とも約束はしていない。それに今日は散々歩き回ったり、動き回ったりして肉体的にも精神的にも疲れていた。何も考えたくない。
「明日はお休み! ディーナも家庭教師のみなさんもガランサスでお休みなので、わたくしもお休みします! アントニスもメリーナも明日はお休み! 一緒にだらだらしましょう!」
俺はそう宣言した。
メリーナは目を丸くしたが、くすくすと笑う。
「では、アントニスにも伝えておきますね」
こうして、宣言通り、ガランサス三日目はアントニスとメリーナと三人で屋敷でだらだらと過ごしたのだった。
***
ガランサス四日目。今日はレグルスとリゲルとの約束の日だった。
俺は朝から準備ばっちりだった。が、気分はあまりよくなかった。
逆に、今日のメリーナは気分が良いようで鼻歌を歌っていた。
そりゃあ、そうだろう。俺はメリーナの言う通りに、綺麗に髪を結い上げられ、パステルカラーのオレンジのドレスを着ていた。
(くそ。「エスコートしてくれる王子に恥をかかせてはいけません」「オブシディアン家のためです」なんて言われたら、男の子みたいな恰好なんてできないじゃないか!)
俺は涙を呑んで全力で可愛らしい恰好をしてやった。
そんなわけで可愛い恰好をした俺は、アントニスと一緒に待ち合わせ場所の噴水の下で待っていた。
恥ずかしい。こんな目立つところでパステルカラーの可愛らしい服を着ているなんて。
いや、まだパステルカラーでも色が違っていたり、パンツだったら耐えられるが、今回はフリルやレースがふんだんに使われたドレスなのだ。アルキオーネに似合いすぎて皆の視線が集中する。確かにアルキオーネは美少女なのだが、中身の俺は男なのだ。悪いことをしているような気がしておかしくなりそうだ。
俺は泣きそうだった。
(早く来いよ! 男ども!)
俺は祈るようにじっと辺りを睨んでいた。
「アルキオーネ!」
最初に着いたのはリゲルだった。
「リゲル?」
一緒に居るのはミモザと、ベラトリックスだろうか。リゲルは一人で来ると言っていたはずだが、どうして二人がここにいるのだろう。
「おはようございます、ベラトリックス様、ミモザ様」
「おはようございます、アルキオーネ様」
ベラトリックスは優雅に会釈をした。ミモザは黙ったまま、ベラトリックスとリゲルの陰に隠れる。
(あの、俺は何かしましたか?)
「ほら、何か言うことがあるんだろう? そのために母さんがここまで来たんだぞ?」
リゲルはミモザの背中を押した。ミモザは嫌がるような素振りを見せるが、リゲルの馬鹿力によって俺の前に出てくる。
ミモザは顔を真っ赤にして、ふるふると頭を振って隠れようとしていた。言いたいことがあるのか、ないのか分からない。別に俺はどっちでもいいのだが。
俺は黙って兄妹の攻防を見ていた。
「ミモザ!」
リゲルは叱りつけるように叫んだ。ミモザは観念したように俺の前に恐る恐る出てきた。
「アルキオーネ様、先日はありがとう」
そう言って頭を下げる。
「いえ……」
沈黙。
(まさか、これだけじゃないよな?)
俺はミモザの言葉を待った。ミモザは頭を上げるが、下に目線をやったまま、黙りこくる。
(おいおい、そのまさかだったりするのかよ。)
俺はどう声を掛けていいのか困り果ててしまう。
「ミモザ!」
リゲルがもう一度叱咤する。
ミモザの体が飛び上がった。その目にはじわりと涙が浮かんでいた。やばい。泣くぞ。
俺は咄嗟に身構えた。
「そうよ。私が悪い。悪いから、迷惑をかけてごめんなさいいいい!」
そう叫んでミモザは泣きだした。やっぱり思った通りだった。
「あの……迷惑なんて全然。一昨日も謝っていただきましたし、怪我もないですし」
嘘だった。首の辺りには、首を絞められたときに外そうとして自分でつくった小さなひっかき傷があったし、掴まれた腕は青あざになっている。
(思い出したら腹が立ってきたわ。あのクソ野郎。女の子の体になんてことをしてくれる。)
俺の腸は煮えくり返っていた。
でも、泣いている女の子の前でそんなこと言えるわけがない。俺はひたすらミモザのご機嫌取りをするしかなかった。
「本当に大丈夫ですから!」
「本当?」
「本当です。一昨日も言いましたが、わたくしは怒ってません」
「ア、アルキオーネ様あああ。本当にごめんなさいいいい」
ミモザはくしゃくしゃな顔で泣き叫びながら俺に抱きついた。俺は呆気にとられて、ミモザにされるがままになる。
(もう好きにしてくれ。)
俺は天を仰いだ。
「俺からも改めて謝罪させてほしい。実は、あの後、ミモザと会話をしたんだ」
「それは、何よりです」
「俺のせいでミモザを不安にさせていたみたいで。それでミモザが怒って、離れた隙に誘拐されたんだ。本当に迷惑を掛けてすまなかった」
どうやら、ミモザは「リゲルの中で自分の存在が小さくなってしまうのではないか」という不安をきちんと伝えたようだ。
きちんとリゲルに伝えられたのならよかった。
「いえ、それよりも二人が和解できたのなら良かったです」
二人しかいない兄妹なのにすれ違うのは寂しいことだ。ちくりと胸が痛むが、俺は知らないふりをした。
「本当にありがとう」
リゲルは笑う。
「さて、ミモザ、お兄ちゃんとアルキオーネ様はこれから遊びに行くのです。そろそろお暇させていただきましょう」
「いやよ!」
ミモザは離れまいと俺に必死にしがみついた。何故こんなことになっている。
(お前は蝉か!)
「いやじゃありません! 行きますよ!」
「やだ! やだ!」
「貴方の我儘にみんなを付きあわせるのではありません。行きます!」
ベラトリックスは俺からミモザを剥がしてから、暴れるミモザを抱えた。
「じゃあ、アルキオーネ様、この度は本当にありがとうございました。今日は簡単なご挨拶程度にさせていただきますが、日を改めてお礼させていただきますね」
「あの……お礼なんて……」
「いえ、お礼させていただきます。では!」
そう言って二人は嵐のように去って行った。
「なんだったんですか?」
アントニスは口を開けたまま呟く。
「さあ?」
俺もアントニスと同じような顔をしてアントニスと顔を見合わせた。
レグルスに会う前から疲れた。俺はため息を吐いた。
「変な顔をしてどうしたんだ?」
レグルスの声がした。
そちらを振り返ると、案の定、レグルスがいた。どうやらミモザとベラトリックスのことは見えていなかったようだ。首を傾げている。
良かった。もしも見られていたら一昨日のことを説明しなきゃいけなくなる。一昨日のことを説明していたら、なかなか遊びに行けないじゃないか。
「なんでもありません! 早く美味しいものが食べたいです。ね、リゲル?」
「え? あ、そうだね」
「お? おお、さっそく行こう!」
そう言うレグルスの背中を俺は押した。
リゲルやアントニス、レグルスの護衛がそれに続く。
ちらりと俺は後ろを覗いた。レグルスは護衛を二人連れていた。どちらも俺の知らない顔だ。
そういえば、ランブロスはどうなったのだろう。ふとランブロスのことが頭を過ぎるが、それを聞くにはやっぱり一昨日の話から始める必要がある。
「ランブロスは弟たちと家に戻ったようだよ」
リゲルはこそっと耳打ちをした。
「え?」
「気になったんでしょ?」
「え、ええ」
「あそこにいた子どもたちは薬の飲まされていたみたい。だから今は付きっきりで面倒を見てるって。でも、少し時間はかかるけど良くなるってさ」
「おい! 二人で何を話してるんだ!」
俺たちがひそひそと話していると、レグルスは大きな声を上げ、割って入る。
「あ、いえ」
「まずはどこに行こうかって話していたんだよ。レグルスはどこに行きたい?」
俺が焦っているとリゲルはすぐに答える。流石は頼りになる男だ。
レグルスは考え込むような素振りを見せる。
「最後でもいいから雑貨屋も見たいんだが……」
レグルスが控え目にそう言った。いつも主張が激しいレグルスなのに珍しいこともあるもんだ。
「雑貨屋ですか?」
「母上に贈り物を……」
「仲直りしたのですか?」
「いや。まだ、母上のお加減が良くないようで、見舞いの品を……」
レグルスは暗い顔で首を振った。どうやら、まだレグルスはデネボラを許せていないらしい。それでも見舞いをするくらいには心を許せてきているようだ。
「心配ですね。じゃあ、元気になるように一緒に素敵なものを選びましょう! ね、リゲル」
「勿論! 一緒に見よう」
俺たちが手を差し伸べると、レグルスは顔を上げた。
「ありがとう」
レグルスは微笑むと俺とリゲルの手を取った。
さて、今日は始まったばかりだ。
「デネボラ様の贈り物は探しますけど、その前に遊び倒しますよ!」
俺たち三人は仲良く手を繋ぎ、店に向かって走り出した。
憲兵たちが到着したころには、外はもう真っ暗でいつもなら夕食を済ませているような時間になってしまっていた。
どうやらあちらにも誘拐犯の仲間がいたらしい。人数が多く手間取ったが、芋づる式に捕まったという。だから、時間がかかったらしい。
ある程度の状況説明を終えると、憲兵たちは「遅いので、後処理はこちらに任せてもう帰っていい」と言ってくれた。俺たちは疲れていたし、素直にそれ言葉に従った。
憲兵たちに後処理を任せ、リゲルと別れてから、俺とアントニスは血でドロドロになったコートを街でこっそりと処分してから屋敷に帰った。血塗れのコートなんて持って帰ったらメリーナが卒倒してしまう。
勿論、処分したなんて言えないので、コートは失くしたことにした。前日も帽子を失くしていたし、メリーナが不審に思うことはないだろう。
実際、帰りが遅くなってしまったので、メリーナには多少怒られたが、それ以外は何も言われなかった。
「あら、これはどうしたんですか?」
「え?」
安心したのもつかの間。ズボンについた小さな血痕がついているのを見つけられたときはひやりとした。俺たちはそれをアントニスが俺に絡んできたごろつきを倒してついたシミということにして事なきを得た。
「お嬢様、明日の予定は如何します?」
就寝前、メリーナが俺に向かって聞いた。
明日――ガランサス三日目は誰とも約束はしていない。それに今日は散々歩き回ったり、動き回ったりして肉体的にも精神的にも疲れていた。何も考えたくない。
「明日はお休み! ディーナも家庭教師のみなさんもガランサスでお休みなので、わたくしもお休みします! アントニスもメリーナも明日はお休み! 一緒にだらだらしましょう!」
俺はそう宣言した。
メリーナは目を丸くしたが、くすくすと笑う。
「では、アントニスにも伝えておきますね」
こうして、宣言通り、ガランサス三日目はアントニスとメリーナと三人で屋敷でだらだらと過ごしたのだった。
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俺は朝から準備ばっちりだった。が、気分はあまりよくなかった。
逆に、今日のメリーナは気分が良いようで鼻歌を歌っていた。
そりゃあ、そうだろう。俺はメリーナの言う通りに、綺麗に髪を結い上げられ、パステルカラーのオレンジのドレスを着ていた。
(くそ。「エスコートしてくれる王子に恥をかかせてはいけません」「オブシディアン家のためです」なんて言われたら、男の子みたいな恰好なんてできないじゃないか!)
俺は涙を呑んで全力で可愛らしい恰好をしてやった。
そんなわけで可愛い恰好をした俺は、アントニスと一緒に待ち合わせ場所の噴水の下で待っていた。
恥ずかしい。こんな目立つところでパステルカラーの可愛らしい服を着ているなんて。
いや、まだパステルカラーでも色が違っていたり、パンツだったら耐えられるが、今回はフリルやレースがふんだんに使われたドレスなのだ。アルキオーネに似合いすぎて皆の視線が集中する。確かにアルキオーネは美少女なのだが、中身の俺は男なのだ。悪いことをしているような気がしておかしくなりそうだ。
俺は泣きそうだった。
(早く来いよ! 男ども!)
俺は祈るようにじっと辺りを睨んでいた。
「アルキオーネ!」
最初に着いたのはリゲルだった。
「リゲル?」
一緒に居るのはミモザと、ベラトリックスだろうか。リゲルは一人で来ると言っていたはずだが、どうして二人がここにいるのだろう。
「おはようございます、ベラトリックス様、ミモザ様」
「おはようございます、アルキオーネ様」
ベラトリックスは優雅に会釈をした。ミモザは黙ったまま、ベラトリックスとリゲルの陰に隠れる。
(あの、俺は何かしましたか?)
「ほら、何か言うことがあるんだろう? そのために母さんがここまで来たんだぞ?」
リゲルはミモザの背中を押した。ミモザは嫌がるような素振りを見せるが、リゲルの馬鹿力によって俺の前に出てくる。
ミモザは顔を真っ赤にして、ふるふると頭を振って隠れようとしていた。言いたいことがあるのか、ないのか分からない。別に俺はどっちでもいいのだが。
俺は黙って兄妹の攻防を見ていた。
「ミモザ!」
リゲルは叱りつけるように叫んだ。ミモザは観念したように俺の前に恐る恐る出てきた。
「アルキオーネ様、先日はありがとう」
そう言って頭を下げる。
「いえ……」
沈黙。
(まさか、これだけじゃないよな?)
俺はミモザの言葉を待った。ミモザは頭を上げるが、下に目線をやったまま、黙りこくる。
(おいおい、そのまさかだったりするのかよ。)
俺はどう声を掛けていいのか困り果ててしまう。
「ミモザ!」
リゲルがもう一度叱咤する。
ミモザの体が飛び上がった。その目にはじわりと涙が浮かんでいた。やばい。泣くぞ。
俺は咄嗟に身構えた。
「そうよ。私が悪い。悪いから、迷惑をかけてごめんなさいいいい!」
そう叫んでミモザは泣きだした。やっぱり思った通りだった。
「あの……迷惑なんて全然。一昨日も謝っていただきましたし、怪我もないですし」
嘘だった。首の辺りには、首を絞められたときに外そうとして自分でつくった小さなひっかき傷があったし、掴まれた腕は青あざになっている。
(思い出したら腹が立ってきたわ。あのクソ野郎。女の子の体になんてことをしてくれる。)
俺の腸は煮えくり返っていた。
でも、泣いている女の子の前でそんなこと言えるわけがない。俺はひたすらミモザのご機嫌取りをするしかなかった。
「本当に大丈夫ですから!」
「本当?」
「本当です。一昨日も言いましたが、わたくしは怒ってません」
「ア、アルキオーネ様あああ。本当にごめんなさいいいい」
ミモザはくしゃくしゃな顔で泣き叫びながら俺に抱きついた。俺は呆気にとられて、ミモザにされるがままになる。
(もう好きにしてくれ。)
俺は天を仰いだ。
「俺からも改めて謝罪させてほしい。実は、あの後、ミモザと会話をしたんだ」
「それは、何よりです」
「俺のせいでミモザを不安にさせていたみたいで。それでミモザが怒って、離れた隙に誘拐されたんだ。本当に迷惑を掛けてすまなかった」
どうやら、ミモザは「リゲルの中で自分の存在が小さくなってしまうのではないか」という不安をきちんと伝えたようだ。
きちんとリゲルに伝えられたのならよかった。
「いえ、それよりも二人が和解できたのなら良かったです」
二人しかいない兄妹なのにすれ違うのは寂しいことだ。ちくりと胸が痛むが、俺は知らないふりをした。
「本当にありがとう」
リゲルは笑う。
「さて、ミモザ、お兄ちゃんとアルキオーネ様はこれから遊びに行くのです。そろそろお暇させていただきましょう」
「いやよ!」
ミモザは離れまいと俺に必死にしがみついた。何故こんなことになっている。
(お前は蝉か!)
「いやじゃありません! 行きますよ!」
「やだ! やだ!」
「貴方の我儘にみんなを付きあわせるのではありません。行きます!」
ベラトリックスは俺からミモザを剥がしてから、暴れるミモザを抱えた。
「じゃあ、アルキオーネ様、この度は本当にありがとうございました。今日は簡単なご挨拶程度にさせていただきますが、日を改めてお礼させていただきますね」
「あの……お礼なんて……」
「いえ、お礼させていただきます。では!」
そう言って二人は嵐のように去って行った。
「なんだったんですか?」
アントニスは口を開けたまま呟く。
「さあ?」
俺もアントニスと同じような顔をしてアントニスと顔を見合わせた。
レグルスに会う前から疲れた。俺はため息を吐いた。
「変な顔をしてどうしたんだ?」
レグルスの声がした。
そちらを振り返ると、案の定、レグルスがいた。どうやらミモザとベラトリックスのことは見えていなかったようだ。首を傾げている。
良かった。もしも見られていたら一昨日のことを説明しなきゃいけなくなる。一昨日のことを説明していたら、なかなか遊びに行けないじゃないか。
「なんでもありません! 早く美味しいものが食べたいです。ね、リゲル?」
「え? あ、そうだね」
「お? おお、さっそく行こう!」
そう言うレグルスの背中を俺は押した。
リゲルやアントニス、レグルスの護衛がそれに続く。
ちらりと俺は後ろを覗いた。レグルスは護衛を二人連れていた。どちらも俺の知らない顔だ。
そういえば、ランブロスはどうなったのだろう。ふとランブロスのことが頭を過ぎるが、それを聞くにはやっぱり一昨日の話から始める必要がある。
「ランブロスは弟たちと家に戻ったようだよ」
リゲルはこそっと耳打ちをした。
「え?」
「気になったんでしょ?」
「え、ええ」
「あそこにいた子どもたちは薬の飲まされていたみたい。だから今は付きっきりで面倒を見てるって。でも、少し時間はかかるけど良くなるってさ」
「おい! 二人で何を話してるんだ!」
俺たちがひそひそと話していると、レグルスは大きな声を上げ、割って入る。
「あ、いえ」
「まずはどこに行こうかって話していたんだよ。レグルスはどこに行きたい?」
俺が焦っているとリゲルはすぐに答える。流石は頼りになる男だ。
レグルスは考え込むような素振りを見せる。
「最後でもいいから雑貨屋も見たいんだが……」
レグルスが控え目にそう言った。いつも主張が激しいレグルスなのに珍しいこともあるもんだ。
「雑貨屋ですか?」
「母上に贈り物を……」
「仲直りしたのですか?」
「いや。まだ、母上のお加減が良くないようで、見舞いの品を……」
レグルスは暗い顔で首を振った。どうやら、まだレグルスはデネボラを許せていないらしい。それでも見舞いをするくらいには心を許せてきているようだ。
「心配ですね。じゃあ、元気になるように一緒に素敵なものを選びましょう! ね、リゲル」
「勿論! 一緒に見よう」
俺たちが手を差し伸べると、レグルスは顔を上げた。
「ありがとう」
レグルスは微笑むと俺とリゲルの手を取った。
さて、今日は始まったばかりだ。
「デネボラ様の贈り物は探しますけど、その前に遊び倒しますよ!」
俺たち三人は仲良く手を繋ぎ、店に向かって走り出した。
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