転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

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二章 碧緑の宝剣(リゲル編)

0.護衛騎士の捜し物

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 薄暗い廃墟に鮮血が舞う。 
 そこには大勢の男たちに囲まれた少女と少年がいた。

 少年の名はリゲル・ジェード。優秀な武人を輩出することで有名なジェード家の長男だ。例に漏れず、リゲルは武術に優れ、剣の才能に恵まれていた。リゲルが剣を持てば、大抵の大人は制圧できる。それが多勢に無勢でも変わることはない。

 それは誰もが知っていることなのに、一緒にいる少女は違った。わざわざリゲルを心配して後を追ってきたというのだ。
 リゲルは擽ったいようななんとも言えない気持ちで少女を横目で見た。

 少女は緊張した面持ちで剣を構える。

(つい数ヶ月前は剣を構えることさえままならなかったと言うのに……)

 リゲルは頬に付いた返り血を拭うと、凶悪な顔で笑った。

「死にてぇやつは前に出ろ!」

 男たちはリゲルのただならぬ雰囲気に気圧されたように動けなくなる。
 それは隣に立っている少女も言えることだった。明らかに青ざめた顔をして前を見据えている。 

 誰もが恐れ、怯えている。

(昔からそうだ。俺が剣を握ると、皆そんな顔をする。)

 リゲルは小さくため息を吐いて剣を握り直す。

(この子は……アルキオーネは違うと思ったのに。いや、期待するなんて無駄なこと。それに一人は慣れている。)

 リゲルは諦めるように笑った。そのときだった。少女がキッとリゲルたちの方を睨んだ。

 少女はリゲルの後を追うように駆け出していた。そして、滑り込むようにして、リゲルの背中に自身の背中を合わせた。

 リゲルは驚きながら、肩越しに少女を見た。少女は小さく体を震わせている。

(嗚呼、無理をしているのか。そんなに震えて剣を握って。怖くないはずがないだろうに。)
 愛おしむようにリゲルは目を細め、頬を緩めた。

 刹那、殺気がした。リゲルは反射的に剣を振った。急に頭に血が上る。

 鮮血が迸る。少女の顔にそれがかかった。少女は呆けた顔のまま、かかったものを手の甲で拭う。手袋が赤く濡れる。少女はじっと自分の手を見つめていた。

(怯えている……?)

 リゲルは少女の顔を見て笑った。
 少女の瞳は暗く、闇夜のように美しい。その瞳にはもう怯えは浮かんでなかった。

 たったそれだけで、リゲルは肯定された。そして、漸く、自身の理解者に出会えたのだと確信した。
 妹を失った焦りと不安に入り交じって、歓喜が広がる。

(まだだ。まだミモザは見つかっていない。)

 リゲルの体は弾かれたように動き出していた。そして、無駄のない動きで確実に敵を減らしていく。

 リゲルは目を凝らした。
 目当ての、自分の妹の姿はその場にはないようだった。

(ミモザはどこだ?)

「お前か? お前がミモザを!」
 少女を守るようにしながら、向かってくる相手を斬り倒す。いくら斬っても斬り足りない。

「くそっ! ミモザ! ミモザぁあああ! 何処にいるんだああああっ!」
 リゲルは苛立ったように何度も妹の名を呼んだ。

 やはり返事はない。

 リゲルの胸は押し潰されそうになる。苦しくて苦しくて、それを掻き消すようにひたすら剣を振った。しかし、剣を振れば振るほど、心の奥で不安とは別の感情が噴き出してくるのが分かった。
 リゲルの顔が歪む。

「頼む……返事をしてくれ」
 リゲルは絞り出すように呟く。

(嗚呼、何故こうなったのだろう。)
 リゲルはその言葉を飲み込んだ。
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