転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

文字の大きさ
上 下
21 / 83
一章 真紅の王冠(レグルス編)

19.誘拐の真相(後編)

しおりを挟む
「実際に生まれた子どもの髪は金ではなく、前王妃様の髪に似た黒に近い茶髪だったそうです。そして、前王妃様の護衛騎士には黒髪の方もいたそうです」

「それだけで……ただ自分の髪の色と似た子どもが生まれただけ?」
「ええ、それだけで十分だったんです。前王妃様の祖父に当たる方は若い頃奔放な方で庶子も沢山いたそうで、前王妃様の家門は後継者問題でとても苦労されたようですよ」

 呪いの言葉を吐いた女の予言通り、黒に近い髪の色の子供が生まれた。たったそれだけのことだった。それでも、十分だった。
 ただの妄言が限りなく真実に近い何かになった瞬間だった。

「姉は『あの日は部屋を出入りする者が多く、慌ただしい様子だった』と言っていました。そのとき、姉は出産予定日よりも出産が早くなったせいで慌ただしいのだとばかり思っていました。しかし、その後、本当に前王妃様は亡くなってしまった。前王妃様は難産の末、子どもと一緒に亡くなったのだと周囲から言われ、姉もそうだとずっと思っていたのです」
「わたしも父上から難産で弟と一緒に亡くなったと聞いた」
 レグルスの言葉にテオも頷く。

「ええ。ですが、予定の出産の時期からずれたせいで国王陛下はそのとき出産には立ち会えなかったはずです。実際にどのような状況で亡くなったのかご存知ありません」
 テオの言葉にレグルスは何も言えずに黙り込んでしまう。
 勿論、俺も周りの騎士や兵士も何も言えずにじっとテオの言葉を待った。

「姉が前王妃殺しに気付いたのは随分後のことでした。姉の定期検診をしていた医師が前王妃様から生まれた子が濃い茶色の髪だったこと、お産は順調に進んでいたはずが前王妃様が亡くなったことを漏らしたのです。その後、その医師は自殺しました。その医者は前王妃様の遠縁の者でした」

 テオは視線を少し落とし、俯くと静かに息を吐いた。

「姉は自分のしたことを悟りました。自分の言葉で前王妃様を怪しんだ者が生まれた子どもの髪を見て、本当に不義の子だと思った者が証拠である子どもを殺したのだと。それを拒んだ前王妃様まで殺してしまったのだと。あの日、順調なはずのお産で人の出入りが多かったのは、部外者ーー本当に不義の子が生まれるのかどうか気になった前王妃様の生家の者が数人の紛れ込んでいたせいだろうと姉は思いました」

 小さな呪いは消えず、人を介す間に悪意を溜め込み、届いてはならぬ者に届いてしまった。そうやって大きな悪意になった呪いはレグルスの実母を殺してしまったのだと、テオは言う。

「そんなの嘘だ。だって、母上は嫉妬なんて……いつも優しくて」
 レグルスは譫言のように呟く。
 もう既にテオから聞いた内容で、とっくに知っているはずなのにやはり信じることが出来ないらしい。

 俺はデネボラのことを全く知らない。
 でも、レグルスの言うのことは知っている。レグルスの母上は優しいだけではない。必要とあれば厳しい言葉も掛けて、いつもレグルスを導いてくれる人だと言う。レグルスの言葉を信じるなら、とても強い人なのだろう。

「姉は本当に恐ろしいことをしたと悔いていました。心の底から悔いていたからこそ、貴方に人一倍愛を注ぎ、力になろうとしたんです」

 テオの言葉からも、デネボラはあの姿に似合わず真面目な性格をしているように思えた。

 強くて真面目で、普段から自分というものを理性で動かすことができると思っている人。だからこそ、自分を追い詰めて、追い詰められて感情を制御できなかったとき、どうしようもなくなって呪ってしまったのかもしれない。
 俺にはデネボラを責めることが出来ないと思った。

「それなのに、この男はそれに付け込んで姉を脅したのです。この男は卑怯者です。『王子の母上を殺したのはお前だろう。黙っていてほしければ協力しろ。少し外に出てもらって助け出すふりをするだけだ。王子には危害を加えない』と言って脅してきました。僕は反対しました。罪を重ねてほしくなかったから。しかし、姉は寧ろ罪を重ねることで断罪してほしかったのでしょう。この男に協力したのです」

 テオが言い終わる頃には、辺りは静かになった。誰も何も言えずにレグルスを見つめた。
 レグルスだけが真っ白な顔をしてテオをずっと見ていた。

 静寂を破ったのは、勿論あの男だった。
「違うんだ! 全部あの女の妄想だ! あの女にみんな騙されている!」
 アクアオーラは叫ぶ。先程自白したばかりだと言うのに、往生際の悪いやつだ。

「いえ、少なくとも、デネボラ様が妊娠できないことと、王子の母君の生家では当時の当主が王子の母君が亡くなったすぐあとに自殺していることは確認しております。そこから、推測されることは……もう分かりますよね?」
 ランブロスは冷たく突き放すように言った。

「くそ、くそ、くそ!」
 もう打つ手がないと思ったのか、アクアオーラは叫びながら、地面を何度も蹴りつけた。その姿はいっそ哀れだ。

「俺もついでに話をしてもいいですか?」
 リゲルは楽しそうにアクアオーラに向かった。年相応の少年のような笑顔。しかし、その顔には悪意が滲んでいるように見えた。

「なんだ! 言ってみろ!」
 ヤケクソのようにアクアオーラは答えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫かぶり令嬢は王子の愛を望まない

今井ミナト
恋愛
【あざとい系腹黒王子に鈍感干物な猫かぶり令嬢が捕まるまでの物語】 私、エリザベラ・ライーバルは『世界で一番幸せな女の子』のはずだった。 だけど、十歳のお披露目パーティーで前世の記憶――いわゆる干物女子だった自分を思い出してしまう。 難問課題のクリアと、外での猫かぶりを条件に、なんとか今世での干物生活を勝ち取るも、うっかり第三王子の婚約者に収まってしまい……。 いやいや、私は自由に生きたいの。 王子妃も、修道院も私には無理。 ああ、もういっそのこと家出して、庶民として生きたいのに! お願いだから、婚約なんて白紙に戻して! ※小説家になろうにも公開 ※番外編を投稿予定

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!

小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。 これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。 真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。

処理中です...