【R18】暗殺者のはずですが、何故か魔王に溺愛されてます。

シシカイ

文字の大きさ
上 下
48 / 52
二、追ってくる過去

18

しおりを挟む
 つまりだ、師匠は先代の魔王の子どもを身篭り、出産した。
 出産直後は死んだと思っていた息子が生きていた。それが例の色違いの魔王だった。
 師匠が自分の得意な魔法について話したら、あの色違い野郎はその知識を悪用して、幽閉されていた双子の兄を探すために魔族を殺していった。
 殺された魔族のうちの生き残りが俺。
 そして、俺は魔王から師匠に預けられたという訳か。

「あのさ、それって二人ともーー師匠も魔王も、全く悪くないよね。今の話を聞く限りだと、悪いのは先代の魔王って奴とかあの色違いの方だろ?」

 俺の言葉に師匠は首を横に振った。

「そう言ってくれるが、ワタシのせいで沢山の魔族が死んだことには変わりないんダ。何度もワタシは道を間違えた。祖国が滅びたときあの人の手を取らなければ、あの人から逃げずに話し合えていれば、子どもを産んだときちゃんとあの子たちを確認していたら、あの子に会ったときもう一人の存在に気付けていたら、ワタシが魔法の知識を与えなければ……何か一つでも違っていたら、お前の両親も生きていたダロウ?」
「そりゃ、たらればを言えばそうかもしれないけど……」

 それでも俺は納得出来なかった。

 師匠は少し暴力的だけど、いつも正しくて俺たちを導いてくれていた。
 そんな人が選ぶ道を間違えた、俺を守る責任があると言っている。きっとそれは師匠の中の認識ではそうなのだろう。
 でも、それって本当に正しいんだろうか。

 確かに俺は恨んで憎む相手が欲しいと思っていたけど、誰彼構わず恨みたい訳じゃない。
 師匠や魔王のような、どちらかと言えば被害者である側の者を責め立てるのはやっぱり違う気がする。

「俺はやっぱり師匠も魔王も悪くないと思うよ。確かに師匠が別の行動を取ってたら何かしら違っていたかもしれない。でも、師匠の立場では、よく知らない自分の産んだ子がそんな残酷なことするなんて予測がつかないだろ? 大体、魔王は全く悪いところがないじゃん。魔王の罪ってなんなの? 双子で生まれたこと? そんなの自分で選べないでしょ」

「私の一番の罪は、死ねなかったことだろうな。私が生きていなければこんなことにはならなかったのだから」
 魔王の声はひどく冷めていた。
 俺にはそれが許せなかった。

「は? お前がなんで死ななきゃならないんだよ」
「誰もが私の死を望んでいた。私はいらないものだったから」

 そう呟かれて、漸く魔王がどんな世界にいたのか思い至る。
  
 双子は世界の破滅、不幸を齎すものなんだろ。
 だとしたら、魔王がどんな人生を歩んできたのか、想像は難しくない。
 きっと生まれてからずっと隠されて、死を望まれて生きてきたのだろう。
 魔王は双子のうちの疎まれて捨てられる方だったに違いない。

 俺に対して、嫌われたくないと妙なへタレっぷりを発揮するのも、もしかしたらそのせいなのかもしれない。

「誰も、味方はいなかったのか?」
「いや……一人だけ。たった一人、自分の存在を認めてくれた人がいた」
「その人は助けてくれなかったの?」
「嗚呼」
「なんで? 味方だったんだろ?」
「仕方のないことだったんだ」

 心底、全てを諦めたような声にぞっとする。
 あのふてぶてしくて尊大で傲慢な魔王が、急に小さな子どものように感じた。
 全てに見放されたように、ただ膝を抱えてしゃがみ込む子どもの魔王の姿が浮かぶ。

「仕方なくないだろ」

 たった一人の味方にも守って貰えずに、どうして仕方ないなんて言葉が出てくるんだ。

 子どもの頃の魔王を思うと胸が痛かった。
 もしも過去に戻ることが出来るなら、小さな魔王を抱き締めてやりたい。
 そして、魔王を連れ出して何処までも遠くに逃げるんだ。
 子どもだった魔王に色んなものを見せて、色んなことをして、一緒に笑い合って、自分が死ねなかったことが罪だなんて言わせないようにしてやる。
 もしもなんてないのに、どうしようもなくくだらない妄想をする。

「そんな顔するな」
 魔王は俺を悲しげに見つめていた。

 俺は堪らず、手を伸ばして魔王を抱き締めた。
 今の魔王を抱き締めたって、過去の魔王には届かないのにどうしてもそうしたかった。

「俺はお前が生きててよかったと思うよ。死ねなんて言ったこともあるけど、本当に死ななくてよかった。だから、死ねなかったのが悪いみたいに言うなよ」
「ルカならそう言うかもしれないと思っていた」

 魔王は俺に手を回し、俺の腕に頭を預けるようにして顔を埋めた。
 どうしようもなく魔王のことが愛しくて、胸が詰まるように苦しくなった。

「魔王、俺にはお前が必要だ。だから死ぬな」
「ルカ……」
「それに、魔王を必要としてるのはきっと俺だけじゃないから。だから、生きてよ」

 誰にも迷惑を掛けず、一人で生きていくつもりでいたのに決心が揺らいでしまう。
 こんな魔王を一人にしておくなんてできない。
 いや、それどころか本当の意味で魔王を守れるのは俺だけなのではないかと錯覚すらしてしまう。
 俺がいることで魔王を苦しめてしまうかもしれないのに。

 俺は魔王を探すために襲われた魔族たちの生き残りなんだ。
 そのことで魔王の罪悪感を刺激してしまう可能性だって十分あるだろう。

 それでも、魔王の心の内を知ってしまったら、何処かへ行こうなんて気持ちが小さくなって萎んでしまった。
 もう少しだけ、こうしてそばにいていいんじゃないかと思ってしまう。

「そんな風に思っていたとはナ。ワタシだって、魔王には生きていて欲しいと思うヨ」

 師匠の呟きで俺は我に返った。

 なんということだ。師匠の前でいちゃついてしまった。
 急に恥ずかしくなって俺は魔王から手を離した。

「ほら、魔王。師匠だってそう言って……る、だろ」
「嗚呼、そうだな」

 魔王はそう呟きながら俺の手に自分の手を重ねる。
 名残惜しげに、愛しむように、自分の前に俺の手を引いて手の甲にキスをした。
 その顔はなんだか寂しそうで、悪いことでもしてしまったような気持ちになる。

「魔王は俺にいて欲しいの?」
「嗚呼、勿論だ」

 そう言って、魔王は俺の掌を自分の頬に導く。
 驚くほど滑らかな肌の感触を楽しんでいると、魔王はうっとりと頬擦りをする。
 魔王に求められていることに甘い愉悦を感じる。

 嗚呼、俺も魔王この人が欲しい。
 もっと求められて、もっと愛されたい。
 自分の欲望を満たしてくれるのは、きっと魔王この人だけなのだ。

「でも、俺は出ていくよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...