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一、溺愛始めました。

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「これでも我慢した方なんだ。ルカの寝顔を見るともっと触れたくて堪らなくなる。気持ち良くなって欲しいし、気持ち良くなりたい。でも、お前が嫌なことはしたくない」
 そう言って、魔王は俺の顔にキスの雨を振らせた。
 先程とは違う、触れるだけのキスは穏やかで優しくてこれはこれで悪くない。

 でも、それとこれとは話が別だ。

「嫌なことをしたくないって言うけどさ、お前、人が寝てる間に勝手に魔力を流すなよ。怖いだろ?」
「怖い?」
「そうだよ。自分の知らない間に……し、処女喪失したかと思うだろ!」

 耳が熱い。きっと俺の顔は真っ赤に違いない。
 男の俺が童貞喪失の前に処女喪失を気にする日が来ようものとは思ってもみなかった。
 自分で言ってて恥ずかしくなる。

「どうしたら、怖くなくなる?」
 魔王はじっと俺を見つめて尋ねる。

 どうやら魔王はどうしても俺に触れて魔力を流したいらしい。
 魔王にとってメリットなんてなさそうなのになんでそんなにしたがるんだよ。

「ちゃんと許可取って、合意の元すればいいんだよ。当たり前だろ?」
「分かった」
「大体、今だって触っていいって許可してない。キスくらい我慢しろよ」
「気持ちよくなかったのか?」
「それは……よかったけど」

 確かに気持ちはいいんだ。
 お互いの境界がなくなってぐずぐずに理性が溶けるようなキスも、柔らかく落とされるだけのキスも、与えられるものは全部、気持ちがよくて困るくらいだ。
 ちゃんと話したいのに、魔王のことが知りたいのに、気持ちよくなって全部どうでもよくなるのはまずい。
 
「ならいいだろう?」
 低く魔王は耳元で囁く。
 いつもならムカつく、自信満々の声なのに何だか心臓が痛む。

「ダメなんだって」
「何故?」
 今度は色気たっぷりにお腹の中が疼くような低い声で囁かれる。

「あっ、ダメ……ダメだからっ、許可してない、ダメっ」
 俺は答えにならない答えを漏らす。

「答えになってないな」
 魔王はそう言って笑った。

 耳介に濡れた舌が触れる。
 それからゆったりと弄ぶように舐め上げられ、耳輪を甘く噛まれる。
 水音を立てながら何度もそうされては俺の腰は簡単に砕けてしまう。

「これもダメか?」
「あ、いい……きもちい……っ」  
 慣れない耳への愛撫に思わず声が漏れた。

「そうか、いいんだな」
「違っ……まだ話はおわ……終わってない……っ」

 快感のあまり出た言葉を魔王は俺へ触れる許可だと受け取ったらしい。
 慌てて取り消そうとするが、もう遅い。

 魔王の愛撫は止まらない。
 耳朶を擽るように幾度も舐められる。
 柔らかい舌先が当たる度、もどかしいような感覚になる。

「ちゃんと聞いてやる。だから、話してくれ」
「んっ……ん、話せな……あ、あ♡」
「嫌ならやめようか?」
「嫌じゃない。嫌じゃないけど、俺は、魔王と、話したいっ……んっ♡」

 息が上がり、甘い声が何度も出て、上手く話せない。
 まただ。また、流される。
 ちゃんと魔王と話さなきゃならないのに。
 その為にこうして待ち伏せしていたのに。

「聞いてるぞ」
「だから……っ……あっ」
「もう口は塞いでいないのだから話せるだろう?」

 耳から首、鎖骨、胸へと、魔王の舌が這う。
 時折、舌が離れ、リップ音を立ててきつく肌が吸われる。
 身を竦めるような短い痛みが走った。
 吸われた胸元を見ると、赤い痕が幾つも並んでいた。
 魔王はそれを満足そうに見下ろしてからまた胸元に口づけをした。

「あっ、あ♡」
 聞かせるようにあからさまに音を立てられては、余計興奮して言葉が出てこない。

 丁度、魔王の旋毛が目の前にあった。
 俺は行き場のなくなった手を回すと、魔王の頭を抱いた。
 風呂に入りたてなのかやたらといい香りがする。
 俺は大きく息を吸う。
 魔王の旋毛の匂い、嫌いじゃない。

「ルカ、教えてくれ」
 甘えるように胸を吸いながら魔王は呟く。

 何を教えたらいいんだっけ。
 俺はぼんやりとしてくる頭を必死に動かす。
 嗚呼、そうだ。言わなきゃならないことがあるんだ。

「俺の方が、教えて欲しい。だって、俺、魔王のこと、知りたかった。知る権利があると思った。父様と母様を殺した理由も、傷付けるくせに愛してるみたいな態度をとる理由も……」
 息も絶え絶えに、悶えるように俺は魔王の髪を掻き抱く。

「それは……」
 魔王は言葉を選んでいるようだ。
 考え込むように小さく唸る。

 魔王の言葉を待ってはいられない。
 気持ち良すぎて理性が溶けきる前に言いたいことを全部言わなきゃ。

「ん、んんっ……きもちい……なんで、こんな気持ちよくする、の。こんな風にされたら、魔王のこと、嫌いになれない。嫌いなままがよかった」
「まるで告白だな」

 魔王は笑う。
 バカにされたと思い魔王の顔を見ると、魔王は優しい目で俺を見つめていた。
 いつからそんな目で俺を見ていたんだ。

 俺は恥ずかしくなって目を逸らした。
 そんな優しい顔見ていられない。

「告白じゃない。俺は本当に、お前の、気持ちが知りたい……っだけ……」

 魔王は俺をきつく抱き締めた。

「私のルカが可愛すぎる……惚れ直した」
「ん……可愛いって俺は男だ……」
「分かっている」
「分かっているなら……こんなこと……」

「やめない。気持ちよくしてやりたい」
 魔王の声が一層低くなった。
 そんな声で囁かれたら抵抗できなくなる。
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