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一、溺愛始めました。

2※

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 何故だ。何故なんだ。
 何故、俺はベッドの上に落とされて、魔王に覆い被さられねばならぬ。
 いい人だなんてやっぱり勘違いだったんだ。
 コイツはやっぱりただの魔王だ。

 こんなところで純潔を散らすことになるのならせめて刺し違える覚悟で殺そう。
 そうだ。事情の説明など一切なく、そのまま殺るんだ。
 最初からそのつもりだったんだ。殺るなら今だ。今しかない。
 俺はもう殺意満々だった。

 腰の辺りを探る。
 確かこの辺にもナイフを一つ隠しているはずだ。
 しかし、ナイフはそこにはなかった。

「何を探している?」

「え、いや、別に……」
 俺はお願いだから誤魔化されてくれと念じながら明後日の方向を見た。

「じゃあ、別にいいか」
 魔王はあっさり頷くと、俺の首筋にキスを落とした。

「よくない! 全然よくないから! ナイフ! ナイフがないの!」
 俺は慌てて叫びながら、魔王の胸を叩く。

「嗚呼、今は必要ないだろう?」
 魔王は顔を上げ、微笑む。
 蕩けるような恐ろしく破壊力のある笑顔だった。

 俺は思わず赤面し、フリーズした。

 魔王はそれを見ると、満足げにすぐに首筋に顔を埋める。
 そして、何度も何度も啄むように首筋や鎖骨にキスを始める。
 最初はくすぐったかったが、そのうち背筋がゾワゾワとし始める。

 ダメだ。俺、流されてる。

「ふざけんな、俺は男だ!」
 俺は必死に魔王の胸を叩き、訴えた。

「知っている」
「知ってるならやめろ!」
「それは無理だな」
 魔王はすぐさま却下する。

 これはまずい。このままだと殺る前にヤられる。
 俺は何とか逃げようと身を捩るが無駄だった。
 ならばと脚を必死で動かし、手で魔王を押し返すが、力が強すぎた。

「ふ、ふふふ……」
 魔王の唇から笑みが零れる。

 魔王は顔を上げた。
 どうやら嗜虐心に火をつけてしまったらしい。
 嫌がる俺を見て楽しげに笑う。

「抵抗されるのもいいけど、舌を噛み切られたりするのは困るな」
 魔王が不穏なことを宣う。

 俺は怯えるように固く目を瞑る。そして、蛇に睨まれた蛙の気持ちになりながら、じっと見を固くした。
 暗い中、魔王の顔が徐々に降りてくる気配を感じる。

 しっとりとした柔らかいものが唇に触れるのが分かった。

 俺は怖怖と目を開けた。
 嗚呼、それは俺のファーストキス! ご無体な!

 魔王の舌がゆっくりと唇を撫でる。
 やがて柔らかくぬめったものがゆるゆると唇をこじ開けようとしてくるのが分かった。
 俺もヤられるばかりではいられない。お断りとばかりに唇に力を入れる。
 魔王の舌でも噛み切ってやればいいのだろうが、そんな余裕はなく、ひたすら防戦一方だ。

 すると、魔王の右手が胸へと伸びる。それは禁じ手だろう。
 俺は咄嗟に手で胸を隠した。

 ほっとしたのも束の間、分かっていましたとばかりに今度は下半身に何かが触れた。
 自分の柔らかいところに熱くて硬くて張り詰めたものが緩やかに当たり、擦りあげられた。
 思い当たるものは一つしかない。

 それは御法度中の御法度だって!
 俺はこれ以上、下半身が蹂躙されないように腿に力を入れた。

 意識が下半身にいったことで、わずかに腕の力が抜ける。その隙をこの変態が逃すわけがなかった。
 右手が腕の間を滑り込みあっという間に頭の上に持って行かれる。
 そして、奴の左手がもう一方の手を掴み、同じく頭の上に持って行かれ、右手と合流する。
 俺は両手を纏め上げられ、万歳の格好をさせられていた。

 魔王の左手がゆっくりと降りてきて、胸をまさぐった。
 円を描くように優しく揉まれる。

 脂肪も揉みごたえも無い胸を揉んでも楽しくないだろうに。
 俺はほんの少し魔王を憐れんだ。

 どうやら、魔王は俺の反応が悪かったのに気付いたようだ。

 すぐに動きを変えてくる。
 触れるか触れないかの微妙な力加減で乳首を刺激してきたのだ。
 気持ちいいような気もするが、もどかしい感じがする。
 乳首だけじゃなく、その周辺も一緒に撫でられる。
 もどかしくて俺はつい身を捩った。

 すると、魔王は急に力強く乳首を抓った。
 痛い。痛いはずなのに電気が走ったみたいに身体の中心を甘い痺れが襲う。
 初めての感覚に驚きながら、俺は背中を仰け反らせた。

 全身から力が抜けた。
 その隙に、唇をこじ開けるように魔王の舌が入ってくる。
 ゆっくりと味わうように歯列をなぞった後、俺の舌を確認するように数回つつくように舌が動く。

 俺はどうしていいのか分からず、ぎゅっと目を瞑った。

 舌が絡み合う。
 俺の舌は相変わらず、棒のようになっていたが、魔王の舌は何かを探すようにゆっくりと動いていく。
 口の端から涎が零れていくが、どうすることも出来ない。
 後から後から溢れるそれが頬を伝うのをただ感じていた。

 不意に上顎を舌で撫でられる。

 何かが足や背中からゾクゾクと這い上がる。
 下腹部が熱く、ギュッとする。
 ピクリと身体が跳ね上がった。

 もう一度、上顎を舌がゆっくりと這う。
 先程までの強烈な何かはなかったが、十分気持ちが良かった。
 長いこと口内を揉みくちゃにしてから魔王は満足したように唇を離した。

 思考が蕩けて、何も考えられない。
 全てがぼんやりとする。

 腕を押さえつけていた感覚が無くなるが、俺は動けずにいた。
 力の抜けた腿の間に魔王の脚が入り込む。
 布越しにやわやわと自分の熱く張りつめていたものが擦り上げられた。

「あ……あっ……それ、おちんちん……ダメっ、ダメだって」

 始めは全体を緩く擦るだけだったが、次第に、引っ掻くようにされたり、捏ねるようにされたり、色々な動きが加わっていく。
 先に指が触れるたび、身体が小さく跳ね上がった。

「ここか?」

 魔王は執拗にそこを擦り上げた。
 敏感な先っぽは擦り上げられると、もうダメだった。
 特に先端の窪んだところに触れられると感じすぎて痛いくらいになる。

「やめ。あ、ああ……ちが……違ぅ」
 お腹と腿が痺れ、舌が縺れる。

「違わないな。じゃあ、他はどうだろう」
 そう呟きながら、早く、時に遅く、焦らすように優しく、カリの部分を撫でまわしたり、俺の反応を楽しむように手を動かす。

 俺は火照った顔を手で覆った。

「隠すな」
 耳元で魔王が囁く。

 手が取り払われると、魔王の顔がすぐ側にあった。
 長い睫毛が揺れる。

「ンンっ……やぁ……やめろ……やめろってぇ」
「イキたいんだな?」
 優しく囁かれる。

「イ、キた……って……どう、い、う、いっっ……ああ」

 イキたいという意味が分からず尋ねたいのだが、上手く言葉にならない。

「分からないのか」
 楽しそうに魔王は笑う。

 されていることの意味は何となく分かるが、具体的な単語や内容まではよく分からない。
 分かるのは一つだけ。
 身体がとても辛いということだった。

 俺は首を振りながら魔王の腕に縋る。

「ん、ふぅ……た、す、け……」

 目尻が熱い。視界が滲む。

 魔王は俺の目尻を舐めると、微笑んだ。

「お望みとあれば」

 そう言うと、湿り気帯びたパンツが剥ぎ取られる。
 スースーとして心許無い。
 なんでもないことのように魔王は俺の股間を握ると擦りあげた。

「んっ……ン……」

 初めて直に他人に触れられたそこは張り詰めて、熱く蕩けそうだった。

「そう唇を噛むと血が出るぞ」
 そう呟いて、唇をまた塞がれる。

 魔王の舌が口内まさぐる。
 上顎が弱いことは既にバレているようで何度も執拗に撫でられる。

 もうこうなってくると力を入れることすらできない。
 ただ快感を貪って悶えるだけだった。

「上手い上手い。そうやって力を抜いていろ」

 唇を離した魔王は俺の頭を撫でた。
 その感触は懐かしく、とても心地よい。
 頭を撫でるのだったら、もっとしてもいいとさえ思った。

「まおぅ……」
「嗚呼、でも、このままイッてしまうと後がつらくなるな」

 縋るように魔王の名を呼ぼうとする俺に無情にも魔王はそう言い放った。
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