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「鳴」を取る一人
58.
しおりを挟む「あのね。あんた。九十九社だか、なんだか知らないけれど」
と、怒留湯基ノ介。
数登珊牙へ向けて。
桶結千鉄。
「知っているでしょう。西耒路署でも、結構普段から、世話になっているところですよ」
「そうだっけ」
「検死では特にね。憶えていないんですか」
「細かいことは憶えていない。俺は係的に、情報もでかいのしか眼が行っていないんでね」
と、怒留湯。
「お世話になるって、つまりはさ、遺体関連のみだろう。俺だって社名くらいは知っている。知っていると思うよ」
「今更全然、説得力ないですがね。うちの署なら知っていて当然です」
「数登さんと、九十九社がつながらないし」
「それは見た目の話でしょうに」
「だよ」
「なら少し、でかい声。抑えませんか」
「分かった。とにかくだ」
怒留湯。
「あんたの捜査は正式なものじゃあない。俺らはよくよく、あんたを聴取するから。それは分かった?」
「ええ」
数登は微笑んだ。
怒留湯は急に、失速気味になる。
気圧された感じ。
数登の手元のファイル。
主に慈満寺関連の人々の情報。
載っている名前で目立つのは、
鐘搗紺慈。
鐘搗深記子。
円山梅内。
田上紫琉。
岩撫衛舜。
以下、慈満寺職員。
もう一人、
西梅枝宗次郎。の情報。
慈満寺は人の出入りが激しいのだと、岩撫衛舜は言う。
提灯の明かり。
雇っている人々の数を増やしたのは、恋愛成就キャンペーン以降と彼は言う。
「一時期ですが。経営が、危なくなったとかでね」
岩撫が言った。
「慈満寺のです。だけれど恋愛成就キャンペーン以降は持ち直した、と聞きますね」
数登はそれを、黙って聞いている。
岩撫。
「正確なところは分かりませんが、資金繰りのために企画されたものだ、という噂もありますね」
「恋愛成就キャンペーンが、でしょうか」
と数登。
「ええ。私よりきっと、円山さんの方がその辺。詳しいはずです」
と岩撫。
「第一に。ここ一帯は山です。山でしょう。ね」
「ええ」
「山に関してならこの辺一帯で、例えばですね。寺もそうですけれど、小店も多い一帯なんです。土地の売買なんていう話も、出て来ましてですね」
「地下で遺体が出たとか出るとか、何かそれと、つながりがあるの。今の話は」
怒留湯は岩撫へ尋ねる。
「売買なんて話、鐘搗の御住職の口からは。一切出なかったけれど」
「つながりがあるかどうかは、さておきです。慈満寺にそんな話が出たというのを、私は否定しません」
「別の方面で、いろいろ話題が出て来たな。で? 続きも聞きたいけれど」
「ええ。桶結さんにも先程。慈満寺の上の方々にとって、捜査が行われているということ自体が。面白くないのだってね。私はお伝えしました」
怒留湯。
「どういう意味?」
岩撫。
「意味も何も。実際、鐘搗住職はそういう話を刑事さんへ。なさらなかったのでしょう」
「しなかった」
「では、なおさら捜査のしがいがあります。刑事さん方」
数登は微笑んだ。
怒留湯。
「あんたのこと。俺らはどう捉えたらいい」
「お好きなように」
怒留湯は、帽子の上から頭を掻いて。
「何かさ、とにかく正式な捜査じゃないんだから。あんたの情報は、俺らが率先して貰うからね」
「ええ」
「で」
と釆原凰介が脇から。
「岩撫さんより円山さんの方が、資金繰りの話に詳しいってのは。どういうことですかね」
岩撫。
「いや、単に私よりここへいる歴が、長くてらっしゃる。その円山さんがです。同じセキュリティ担当なんかへ、こぼれる話とか。いろいろあるわけです」
「なるほど」
「染ヶ山で出土品がとれるとかいう話、あなたがたご存知です」
「知っています!」
杵屋依杏はしんがりの位置から、挙手して言った。
ずっと聞きっぱなしだったので、そろそろ声を出してもいいかな、と彼女は思ったのである。
ようやく会話に、参加出来た依杏。
いずれにしろ、岩撫の積もる話は、まだまだ出る。
ということなのだろう。
だったら刑事さんの聴取も、細かくなって一回や二回じゃ終わらないのかなあ……。
とかちょっと、依杏は思ったり。
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