推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

54.

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「侵入」とか「不正」とかいろいろ言われていたけれど、実害がないという。
あくまでも。ひとえに。数登すとうさんに、協力するために造った。
そんなことを言っていた、麗慈れいじくんの「侵入」システムだ。と思われる。

杵屋依杏きねやいあは思った。

今。その話題を、桶結千鉄おけゆいちかねの前で出すか? 出さないか?
セキュリティの話。
岩撫衛舜いわなでえいしゅんの、話では。
システムの分岐へ、鐘搗麗慈かねつきれいじが自ら構築した「侵入」システムが関わっているということは。
まだ、分かられていない様子だ。
依杏の見たところ。






「過去に起きた事例」

と、刑事の桶結千鉄。

「では岩撫さん。地下の件は既に」

「知っています。もちろん」

岩撫。

「だから円山まるやまさんの云うように。地下入口を最初から閉じておけば、よかった」

「閉じておけば、よかった」

桶結はメモを始める。

「では。今日の午後三時四十分から、午後五時頃まで。どこで何をされていましたか」

岩撫。

「ええとですね」

顎を撫でる。

「鐘を御存知で?」

「鐘」

「恋愛成就キャンペーンの目玉です。鐘楼見ました? 鳴らすんです」

「鳴らす」

「ええ。私は桶結さんの仰っている時間帯に、ずっと。あすこへいました。鐘楼にです」

「なるほど」

「女の子たちと一緒に、鐘を撞くんです」

「証明出来る方は」

「もちろん。田上たがみという私と同じ、僧侶です」

と岩撫。

「祈祷へ回るのは、偉い方々で。我々のような僧侶は、実働部隊。田上もその一人です。フルネームは田上紫琉たがみしりゅう。私と一緒に鐘楼へいました」

「そこで、参拝客の女性と。鐘を撞いていた」

「ええ。恋愛成就キャンペーンですから。なんなら、参拝客の女の子たちにも、話を訊いてください」

と言い終えて。

「私も鐘は、撞いていましたけれど。その前にも、鐘がゴンゴン鳴りました。勝手に。いろいろ重なったから、円山さんも地下入口のこと、余計に心配したのだと」

「勝手に鐘が鳴った」

桶結は呟いた。

岩撫は尋ねる。

「あれ、ご存知ない?」

「今、いろいろ聞きこんでいる最中でしてね。細かい部分は除き」

「そうか。ええと、いや、あんまり勝手に鐘が鳴ったことに関しては」

岩撫は、少し数登を見つつ。

「遺体が出た今となっては、あまり重要な点とは。言えないんじゃないですか。恋愛成就キャンペーンが始まる、もっと前の。時刻の出来事ですもの」

依杏も気になった点。

「第一条件にはなり得ない」

言った当の数登が、その梵鐘を勝手に鳴らした張本人なのである。
恋愛成就キャンペーンが始まる、少し前の時間帯でだ。

だけれど、遺体の出たのは。その時間帯ではなかった。
地下にも参拝客は居たし、そのまま何事も起きていなかった。

数登は変わらず。
平たい畳へ、寝たまま。






「少なくともですね」

岩撫は、真面目な顔になる。

「先程言った勝手に鐘が鳴った件ですけれど。鳴らしたのは女の子、たちのせいではない。でしょう?」

と数登へ。

「だと思いますがね。どうでしょう」

言って微笑む様子の数登珊牙すとうさんが
  
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