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「鳴」を取る一人
43.
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畳というか、藺草の香りがする。
何か変だ。
おかしい。
そう思った。
上を見たら天井。
間。
今日。さっきまで本堂の辺りに。
そう、居たはずなんだけれど。
今は室内。
杵屋依杏。
何故か、依杏の周りは布団である。
というか体が全部、布団の中にある。
ピンと張った布団。
要するに、横たわっている。
え?
本当に。
何故だ。
シーツがその体に掛かっていたのを、上半身を起こしたので跳ねのける。
和室。
なんだこれ。あたしのリュックか……。
と冷静になる依杏。
白いゴマフアザラシは、眼も。
コロコロと丸っこい体も、向こうを向いている。
リュックのマスコット。
意識の底に行った。本当に。
そこまでの感覚はあった。
あったけれど、それから、それから、今日。何だっけ……。
おおかた。所謂、気絶とかいうやつだろう。
依杏はまず、記憶をたどる。
杝寧唯。
釆原凰介さん。
数登珊牙さんへ、釆原さんは、持参のファイルを渡す予定でいた。
あたしと寧唯は、八重嶌郁伽先輩と会わなくちゃと思っていた。途中ではぐれた?
道々、鐘搗深記子さんと会って、話を訊かれた。
地下入口へ寄った。
セキュリティ担当だという、円山梅内さんから話を訊いた。
鐘搗紺慈とぶつかった。
ついで、本堂辺り。寧唯がいなくなった。
で、私は気絶をした。
何も、いまの時点で合流の目的を果たせていない。十中八九。
ずれたピント。私はこうして布団にいる。
室内は鮮やか。
外からの光で、部屋は紅色から黄色へ、自由に。
やや色が移り変わる。
ふと見れば、天井の照明は消されている。
夕方くらいかな。
依杏は思った。
ぼんやりしていた。
徐々に。眼の端で。
人が雑魚寝しているのを、依杏は微妙に理解する。
だがそれが本当の意味で理解へ、つながっていない。頭での整理がなされない。
依杏は、その眼をぱちくりして見つめた。
なんだっけ。
なんだか、この人をまず。起こさなくちゃいけない気がする。
誰?
とりあえず、まず。彼女は腕をわざと、大げさに振る。
体の上の方で。ちょっと。
だめだ。起きない。
数登珊牙さん。
か?
この人? 本当?
わずかに。安らかに寝息。
ああ、そうだ用事。
私と釆原さんと寧唯で、まさにファイルを渡そうとしている人。数登さんへ、だ。
依杏は眼が、微妙に。いや、大いに覚めてきた。
ついに彼と、今日。合流したことになる。
六月にレストランで会った件。
その時と、数登さんは、あまり全体的に。印象の上じゃ変わっていない様子。
ハーフだと、依杏は思っていたが。
やっぱりそう見える。背中を向けてはいるが。
頭髪が極端に短い、というか刈っている。
少々、回って見る。閉じられた眼瞼。
あの時見た瞳の、色は灰色だった。
と依杏は思いつつ。
とりあえず、まず部屋の状況。
エアコン。上方と。
ちゃぶ台。大きな畳の上。
掛軸。小さな花瓶。
脇の少し、一段高くなっている。部屋全体に比べれば、わずかなスペース。
それから襖。先ほど彼女が見た天井。
藺草。やっぱり畳。
掛軸の傍の花瓶には、カーネーションが。二本あり。
十中八九、起きる様子がない。数登珊牙。
そして依杏。
ドタラッと音。
開いた。
飛び込んで来た少年。
転がって来た、鐘搗麗慈。
「ここに居たのか! やっとですね」
と麗慈。
さて。数登は起きない。
「大丈夫ですか?」
「えっと……何が?」
と依杏。
麗慈は、ピンと来ていない表情。
「今日、突然倒れた。憶えていない?」
そう言ったのは釆原凰介。
麗慈に続き、部屋へ。
依杏。
「釆原さん。まず……ああ……じゃあ……ここは、どこですか」
「慈満寺の敷地内です。一応はね」
麗慈はどかんと胡坐をかいて、軽快に畳へ座る。
依杏は眼をぱちくり。
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