98 / 136
「鳴」を取る一人
38.
しおりを挟む*
IDロック盤。
少し熱を持っている。
夏の午後の暑さか。
参拝客がカードを通して、ここを開閉したから。
まだ、それが残っているから?
そして、無駄に温かい。
これはイレギュラーだ。
何せ、一人で来るはずだった。
今、ロック盤にはもう一人の手がある。
私の手の上に?
手に別の手が、重なっている。
明らかに自分の手ではない。
大きさも違う。
色も違う。
温度。
ぬくい。
二つ。
そしてその手は、既に私が、どこかで見た手である。
「杝さん」
まるでブツ切りにされた感じ。
言われた。
「こんにちは」
数登珊牙さん。
そしてあたし。
と寧唯は思いつつ。
慌てた。
急いた。
「ど、どうしたんです」
ゆっくりIDロック盤から、ふと寧唯の手が下ろされた。
数登が差し出したのは、ポシェット。
「あ……それ」
「お届けを」
「お届けをって、どういうことですか」
「探していたのではありませんか」
「別に探してなんか」
と言って、寧唯は身震い。
言葉に詰まる。
「探していました。だけれど数登さんは、なんで」
「いけませんか」
「手を離して。本堂裏に居たはずじゃ」
「居ました。でも、無理にでも急用が出来ましてね。ポシェットの件で」
寧唯の手を離す数登。
一方、ポシェットを受け取ったのは寧唯。
「六月の時は、普通の学生鞄でしたね」
寧唯は眼をぱちくりやって、それからそむけた。
「レストランの時に、ですよね」
付け加えて言う。
「ええ」
数登は苦笑した。
「とある参拝の話をしましょう。ここへは、荷物を軽くして。いらっしゃる方がまず普通。僕が九十九社から、こちらへ派遣されている間の観察によりますが」
数登は続ける。
「参拝客は、各々荷物を持って慈満寺へ来る。写真へ写っていた、あなた方も同じく」
「私が郁伽先輩に送ったの、見たんですね。本堂裏で」
「ええ。オウスケはショルダータイプのスポーツバッグ。杵屋さんはリュックサック。ビーズと白いマスコットが付いていた。そして杝さん。あなたは」
寧唯はかぶりを振る。
「あなたの荷物は、ここに」
数登はポシェットを示した。
寧唯。
「別にそんなの、写真を見ただけじゃないですか。それに、私のポシェットがなくなる可能性だってあった。長い時間、どこかに置いたままにしておいたんでしょうから」
「参拝へ大荷物で来る女性の方は、僕の観察上、皆無です。そして慈満寺では、人が亡くなっています。ただ盗難が起きた事例というのは、僕が知る限り。限りなくゼロに近い」
「だから? お話はそれだけですか」
と寧唯。
「釆原さんたちと、イアンはあなたのこと探しています。本堂裏に、あなたが居ないんなら猶更です」
「あなたも探されています」
寧唯はかぶりを振った。
数登は続ける。
「ロックを開けようとしていた。違いますか?」
「違いません。でも数登さんがここに居る理由にはならないでしょう!」
寧唯。
「寧唯さんがロックを開けようとしていたのなら、僕には理由になります」
と数登。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。


無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる