推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

38.

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IDロック盤。
少し熱を持っている。
夏の午後の暑さか。
参拝客がカードを通して、ここを開閉したから。
まだ、それが残っているから?

そして、無駄に温かい。
これはイレギュラーだ。
何せ、一人で来るはずだった。
今、ロック盤にはもう一人の手がある。
私の手の上に?






手に別の手が、重なっている。
明らかに自分の手ではない。
大きさも違う。
色も違う。
温度。
ぬくい。
二つ。
そしてその手は、既に私が、どこかで見た手である。






もくめさん」

まるでブツ切りにされた感じ。
言われた。

「こんにちは」

数登珊牙すとうさんがさん。

そしてあたし。
寧唯ねいは思いつつ。
慌てた。
いた。

「ど、どうしたんです」

ゆっくりIDロック盤から、ふと寧唯の手が下ろされた。
数登が差し出したのは、ポシェット。

「あ……それ」

「お届けを」

「お届けをって、どういうことですか」

「探していたのではありませんか」

「別に探してなんか」

と言って、寧唯は身震い。
言葉に詰まる。

「探していました。だけれど数登さんは、なんで」

「いけませんか」

「手を離して。本堂裏に居たはずじゃ」

「居ました。でも、無理にでも急用が出来ましてね。ポシェットの件で」

寧唯の手を離す数登。
‬一方、ポシェットを受け取ったのは寧唯。






「六月の時は、普通の学生鞄でしたね」

寧唯は眼をぱちくりやって、それからそむけた。

「レストランの時に、ですよね」

付け加えて言う。

「ええ」

数登は苦笑した。

「とある参拝の話をしましょう。ここへは、荷物を軽くして。いらっしゃる方がまず普通。僕が九十九つくも社から、こちらへ派遣されている間の観察によりますが」

数登は続ける。

「参拝客は、各々荷物を持って慈満寺じみつじへ来る。写真へ写っていた、あなた方も同じく」

「私が郁伽いくか先輩に送ったの、見たんですね。本堂裏で」

「ええ。オウスケはショルダータイプのスポーツバッグ。杵屋きねやさんはリュックサック。ビーズと白いマスコットが付いていた。そして杝さん。あなたは」

寧唯はかぶりを振る。

「あなたの荷物は、ここに」

数登はポシェットを示した。
寧唯。

「別にそんなの、写真を見ただけじゃないですか。それに、私のポシェットがなくなる可能性だってあった。長い時間、どこかに置いたままにしておいたんでしょうから」

「参拝へ大荷物で来る女性の方は、僕の観察上、皆無です。そして慈満寺では、人が亡くなっています。ただ盗難が起きた事例というのは、僕が知る限り。限りなくゼロに近い」

「だから? お話はそれだけですか」

と寧唯。

釆原うねはらさんたちと、イアンはあなたのこと探しています。本堂裏に、あなたが居ないんなら猶更なおさらです」

「あなたも探されています」

寧唯はかぶりを振った。

数登は続ける。

「ロックを開けようとしていた。違いますか?」

「違いません。でも数登さんがここに居る理由にはならないでしょう!」

寧唯。

「寧唯さんがロックを開けようとしていたのなら、僕には理由になります」

と数登。
  
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