推測と仮眠と

六弥太オロア

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  途上、ヤシと先

9.

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そもそも。
関係があるのか。
それとも関係が、ないのか。

話題に出た、とある女性。
U-Orothéeユーオロテ
実名でいうとドロテア・A・ローチャ。
「ニッカトール・ダウナー」のアカウントを彼女が持っていたか、いなか。
そんな情報は、そもそもとする。

ソフトリーアズにて。
カジノの目玉とされている、一部のテーブル。
所謂いわゆる「アカウント売買ゲーム」。
一般的に見ても、その売買ゲームのほうが。
ソフトリーアズという、カジノで目立つ情報だ。
そのカジノ舞台上で、ユーオロテが亡くなった情報よりもだ。

彼女はバーチャルアイドルからの
生身の人間として、おおやけへ出るにあたってはまず。
インディーズだから、「アカウント売買ゲーム」よりも。
確実に目立たない。
黒田縫李くろだぬいは実際、あまりユーオロテの情報を知らずにいた。






「ニッカトール」の話題。
一旦打ち切った数登珊牙すとうさんがと、縫李。
テーブルを挟んだ、そのあいだ
両者の丼。
沈黙が落ちる。

それから話し手が、数登へ移った。
ユーオロテその他バーチャルアイドルの話。
情報などを縫李へ。

自然、ソフトリーアズの舞台へ。
話題の流れは移って。
紙片を各々めくり始め。
ソフトリーアズ内に併設されている舞台の写真へ。

「約、一週間前に」

と数登は言った。

「送られてきたのが、こちらの破片」

ケースを示す数登。

縫李も紙片から眼を、上げて見た。

数登。

「それから簡単に。調べていただいた」

「調べたの」

「ええ。いまの破片を。一部唾液の成分と思われるもの。それが出ました」

縫李。

「ソフトリーアズに関連する破片なわけ?」

「ええ。零乃れのさんが舞台上にて取ったもの。だとか」

「大きさ。砂埃くらいしかないけれど」

数登は肯いた。

縫李。

「零乃がって言うけれど。どこの部分なの? その舞台の」

と縫李。

数登はかぶりを振る。

「正面辺りだったと。ただ漠然としています」

「ああそうだな。あまりにも漠然としている」

ユーオロテが亡くなった。
今からみると、それは約二週間前のことだという。

それから、ソフトリーアズの舞台上。
そこで怪我をした黒田零乃くろだれの
数登へ問題の舞台で取った、という破片を送りつけた。
らしい。
ユーオロテの場合よりも、多少軽いと言えるだろうか。
零乃の場合は死ななかった。
いずれにしろ怪我をしたが。

零乃が舞台で怪我をしたのは。
ユーオロテのそれより遡る。
今からいうと約、一か月前。

「一週間前ね」

と縫李。

「今も零乃が怪我の療養をしているのは。そうだけれど」

更に紙片を捲る。

「その最中さいちゅうに舞台とやらへ冷やかしにでも。行ったのかな」

「その冷やかしの間に。採集した」

「かもしれない。その辺りは零乃と俺で話していない。あなたの話題に出なきゃ、今の今まで破片のことなんて知らなかった。いずれにせよアイツの怪我は、良くなっている。そういうことじゃない」

怪我だけじゃなく、零乃の場合は休暇の意味もあるんだろう。
とか思って、縫李は肩をすくめた。

数登。

「ユーオロテと零乃さんの間。何か関わりはありましたか」

「そっちの名前というかさ」

「ええ」

「実名の、ドロテアの方で関わりがあったくらい。でもメインといったら彼女の場合、あれでしょう。俺はよく知らないが」

「詳しくはないのは僕も同じです」

「あなたの場合は一応、以前に関わりがあったという点では。俺より詳しいだろう。ただ彼女の活動がバーチャルメインだっていう、情報くらいは知っていたよ。あなたがさっき説明した」

「ええ。そのすじでこちらも。いろいろ。それで今回は」

「あなたがこっちに来ていると」

「ええ」

「それさ」

と縫李は破片を示して、言う。

「唾液ってことはなんだろうな。簡単な検査だけでしょう?」

「ええ」

と数登。

「特定の誰かという点までは。成分構成がそうだった。というだけ」

「たぶんさ」

と縫李。

「誰かひとが亡くなったっていう。その近い日に舞台で。何かイベントやるとか、そういうのはないよね。通常は」

数登はきょとんとした。

「縫李さんは。イベントをやるかたのアテが?」

「いや。アテじゃなくて」

縫李は数登を見えた。

「そもそも。近い日でもない」

「ほう」

「ユーオロテが亡くなるなんてのはさ。ソフトリーアズとか、その舞台にとってはだ。想定外の話でしょう。想定内じゃあないと思うよ。そもそも、俺は彼女の活動に詳しくない。ただ……」

「ただ?」

「今度。知り合いがさ。ソフトリーアズの舞台で。ライブを」

「ほう」

「ユーオロテがライブやるっていう。何日も前からまれていた。だから」

縫李は、少々気まずそう。

数登は言った。

「縫李さんは本当に。ユーオロテに関しては。何も知らないと」

数登は手を組んで縫李を見つめた。
縫李の眼の玉を見つめる、その視線。

「いや」

と縫李は眼をらす。

「俺、そもそもソフトリーアズに行ったこと。ないし。言っただろ」

肩をすくめる。

「逆にあなたの方が。情報を持っているでしょう」

「現時点では」

と数登。

「ユーオロテこと。ドロテアがカジノの舞台で倒れ亡くなったこと。そして零乃さんから、送られて来た唾液の成分がいま手元にあり。僕は小冊子を持っている。ということのみ」

数登は表情を緩め。
手は小冊子に。

「恐らく偶然ではないと。思います」

「偶然ではない?」

縫李は眼をまたたく。

「何が」

数登。
小冊子を捲って「フィガロの結婚」。

中を見て反応したのは縫李だった。

「演出が。シーグレイだな」

「ええ」

「ただこれ。冊子のは。ソフトリーアズの舞台じゃないけれど」

「ええ」

縫李は一度身を引いた。

「俺は。行ったことはない。ソフトリーアズに。ないんだけれど」

「ええ」

「あなたはさ」

「なんでしょう」

「俺がそっちに宿の提供をする。それ以外に考えたいこと。こちらに要求したいことがある。違う」

「違いません」

数登は微笑んだ。

縫李。

「そんなにはっきり言う」

「ええ」






今度、ソフトリーアズの舞台にて。
ライブをやるのはトリー・エーカだ。
考えているとすればまず。
早速だが、この数登という人物は。
自分を疑っているのかもしれない。
あるいは、「知り合い」と自分が言った、トリーのことを。
と縫李は思う。

だが、どの点で?
ソフトリーアズに、行ったことのないのは事実だ。
俺は。だがそれ以外の周りはどう?
割と。
割とカジノに近しいのかもしれない。

縫李。

「宿以外だと何? レンタカーとか? 時間帯的にはまだ、いいかもしれないが」

数登は改めてというふうに。
縫李を見つめる。

宿の提供だけじゃ終わらない?
それとも、カジノのゲームの話に。
俺が入れ込みすぎたのだろうか。
俺の周囲の人間が、カジノへ近いところへ居るのであれば。
それに俺も含まれるという、数登という人物なりの屁理屈か。

「連絡を取ってみた方が。いいかもしれませんね」

と数登は言った。

「連絡を取ってみる?」

と縫李。

「誰に?」

「ええ。ただ僕の場合。今は憶測ということになりますが」

「言っている意味が分からないのは置いておくよ。あのさ」

と縫李。

「“シーグレイ”ってなっているけれど。この冊子はどこで手に入れた?」

数登はかぶりを振る。

「落ちて来たところを拾った。という方が正しいでしょう。時に」

と言って数登は手を組む。

「そのあなたの《知り合い》というかたが。カジノでライブをすると」

「あまり。何度も言うけれど」

縫李は肩をすくめた。
やっぱり。
疑いたいらしいな。
と思いつつ。

「ユーオロテの件とは何も関わりはない。ただ舞台が同じだけだ」

「では。その《知り合い》の方の。宿泊場所はどうでしょう」

縫李は眼をぱちくりした。
宿泊場所?

数登は続ける。

「ライブに赴く場合。例えば。ソフトリーアズのホテルなど」

「それは併設のってこと」

「ええ」

カジノ併設のホテル。
そういうカジノは多い。
ソフトリーアズは、でかいカジノという感じではない。
規模的には、それほど大きくはないし。
あと俺の知っていることと、いったら。
近くに自分の働いている寿司屋の、系列店があるとか。
そのくらい。

俺も連絡を取るべきか。
トリーに。
だが今、連絡を取るのはどうだろうか。
しかし。
仮にも。
数登という人物は、宿の要求だけじゃないと仮定する。
俺の知らない部分で、俺の知らない点について疑いを持っている。
と仮定して。

トリーに連絡を取らない。
取らない場合は。
輪をかけて更に、どこか変な方向に行きそうな気がしてならない。

と縫李は思った。
咄嗟に思った。

「クラニークホテルっていうのがある」

と縫李は、数登へ言った。

「ほう」

「ソフトリーアズで。カジノやる連中がよく泊まる」

数登の眼の奥。
少々緩んだものを、縫李は見てとった。
続けた。

「あと。カジノでライブする人たちも泊まるって聞く。実際、いつからは分からないけれどトリーも」

と言って縫李は口をつぐんだ。
口がすべった。
時すでに遅し。
数登はただ微笑んでいる。
縫李の表情は若干険しくなった。
名前が口から滑って、出てしまった。

「僕の行く今後の会合は。ユーオロテの自宅で行われます」

と数登は言った。

「そちらのホテルに。あしを向ける予定はまだ、今のところ」

「ないから行きたいって」

「ええ」

縫李。
少々考えて。

「宿代に追加にするけれど」

「構いません」

と数登は言った。

仕事で来ている。
というか仕事以外にこの人物は。
動く。
というか調べるつもりでいる。
それは分かった。
なら軍資金はあるんだろうから。

「今から? レンタカー?」

と縫李は言った。
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