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途上、ヤシと先
8.
しおりを挟む「ところで」
数登珊牙。
「その手書きのものは」
黒田縫李へ尋ねる。
「ああ。一応だけれど。折角来るってんだから」
縫李は箸を置きつつ。
「調べたついでにね」
「何をです」
「あなたが今後の会合で、話題に出すであろう。その場所にまつわり」
と言って縫李。
紙片を置く面積を増やし始めた。
テーブルの上。
蟹と黒い粒を載せた丼は、少々脇に寄せ。
紙片の載った面積が拡がる。
縫李。
「U-Orothéeが死んだっていう舞台の話。というかソフトリーアズだ」
数登は紙片を見つめた。
縫李は続ける。
「ソフトリーアズは変わったカジノ、だっていうのは何となく。あなたも知っているでしょう」
仕事で来たんなら。
当然下調べはしているよな。
とか縫李は思いつつ。
数登。
「零乃さんその他怪我があり、ユーオロテが亡くなり。カジノ内賭けにも変わった部分があること」
「うん」
「名前の由来としては、《ソフトリー》とあって。ジャズからという説もある」
「いや、それもあるけれど」
と縫李。
「そもそも。何故あなたがユーオロテのことで、サラソータへ彼女の情報などを追ってきているのか。ということも気になるがね」
「長くなりますので割愛を。確か、ゲーム開発の方と。演出家の方が、ソフトリーアズに携わっている。と聞きましたがね」
「そう」
と言って縫李。
差し出した一枚の紙片に、二名の顔写真。
女性と男性。
女性のほう。
波打つ髪の、艶のある赤味。
鋭い目つきに。
瞳孔の色は褐色で鼻梁は、くっきりしている。
唇にほんのりと塗られた赤。
男性。
演出家の方は顎鬚と、それから短髪の短い銀色。
瞳孔は緑。
「デルフィナ・レナルド。それとウェス・シーグレイ。レナルドがゲーム開発で、シーグレイが演出家だ」
情報サイトのまとめページ。
それから、オンラインゲーム。
その他宣伝に関するもの。
コピーの数々。
縫李の持って来た紙片に、載っている。
「レナルドが携わるゲームであればね。基本、大丈夫ということらしい」
「大丈夫というと」
「賭けの話だ。アカウント売買みたいなもの」
「アカウント売買」
「そう。ソフトリーアズの変わった点。その一」
一枚を、数登の前に押し出しつつ。
縫李。
「というかその一も何もね。アカウントに賭けるっていうのが。一番変わっている点と言える」
レナルドが開発者とされている。
「ナイツ・オブ・ロイト」
「エメラルダ・エメラルデ」
様々ゲームのタイトルがある中。
カジノでアカウントを賭ける対象。
主に「ニッカトール・ダウナー」。
「ダウナーは鎮静の意味だ。あとは造語らしい。というかゲームのタイトルがほぼほぼ造語だ」
と縫李。
数登。
「アカウントに賭ける。つまりゲームは、カジノでもプレイがあると」
「そう」
「RPGではない」
「うん。ニッカトールで展開しているのは、オンラインとソフトウェア。ゲーム機と両方だ」
「展開が広い」
「そうそう。両方で取り扱われているけれど、アカウントはどちらも。同じものでプレイする」
「なるほど」
と数登。
「カジノの賭けにおいて。ゲームプレイにて、アカウントが使用される」
「そう。カジノはカジノ。賭けは賭け。だからeスポーツとは違うけれど」
と縫李。
「eスポーツで扱われるゲームに関してはさ。やっぱり透明性がそれなりにある。でもカジノで使うゲームってのは、透明とダークの中間ってところかな」
数登は紙片を見つめつつ、聞いている。
縫李。
「ただ物好きは物好きを、呼ぶんだろう。ニッカトールの場合、固定層ファンが多くて成り立っているらしいからな」
「アカウント売買は。通常あまり行わないことですが」
と数登。
「そうだね」
「特にゲームアカウントの場合は、運営側でも禁止にしている所が多いと。あまり詳しくはありませんが」
「そう。それで透明性って言ったんだ。でもソフトリーアズだと違うんだろうから」
縫李は続けた。
「ニッカトールはRPGではないけれど。ゲームの方は、育成の部分もある。だけれど基本的にはプレイする連中の腕次第らしい。テクニック重視のバトルゲーム」
「なるほど」
「ただ向かってくる敵に、対抗するっていうより。隠れている奴を、いかに見つけることが出来るか。とか、そんなところにコアな奴がつくらしい。クリーチャー対人。というよりも人対人タイプのゲーム」
「テクニックと腕がなければ。育成及び、アカウントに紐づいたステータスも上がりにくい」
「そういうこと。ステータスはむしろ育成しにくいゲームなんだと」
「育成しにくい。ですか」
「だからこそ。ステータスの高いアカウントっていうのは、すごく重宝される。とからしいよ」
「ニッカトール・ダウナー」のタイトルがついたパッケージ。
オンラインでの宣伝。
いずれも、紙片上では画像の状態だ。
「ニッカトール・ダウナー」。
造語かつ鎮静。
オンライン版では、チームを作ってプレイをするという形式になる。
だがゲームの基本としては、単独でのプレイだ。
主人公となるプレイヤーには。
予め、とある区画の陣地が割り当てられている。
基本的に武器は使わない。
身体能力か、特殊能力のスキル。
キャラクターに予め備わっているものだ。
だが、その能力ゲージや限度の多くは。
陣地に紛れている主人公の敵側キャラクター。
主人公の所属する、陣地防衛側としての敵と言えるか。
それを見極めるために。
スキルの大半が必要となる。
そのため、キャラクターで能力の上限値いっぱいを使える。
というわけではない。
逆に、限度の中でプレイヤーの腕が必要となるゲームだ。
敵側の区別となるもの。
敵キャラクター体内に刻印されている識別番号。
あるいは、体表面上の特殊なタトゥー。
あるいは各々、敵味方両方で持っているキャラクターの「電気信号」の若干の違い。
以上、三種類のみである。
敵側を区別するために、各々キャラクターの持つスキルが必要となる。
区別の対象となる、三種類のうち。
確実に判別可能になるのは。
各キャラクターの反応率としては、一種類のみ。
アンドロイドやヒューマノイド。
ではなく、生身の人間というのが基本設定。
そして舞台としては近未来。
ゲーム全体の設定としては所謂、SFもの。
スキルを使わないアクションが多彩。
スマホではプレイしにくい点。
そこがコアなファンに受けている。
大画面専用、というところか。
「そう。ゲーム開発のレナルドってのが。変わり者らしくてさ」
と、縫李が言い。
「ゲームの敵で、単独プレイっていうと敵はさ。大体システムだけで動くやつだ」
「COMと表示される?」
「いや。ニッカトールではアカウントを使うでしょう。だから敵と味方で、アカウント単位でね。最初から割り振られる形になっている」
「システム内に保存された、アカウントの登録情報などが。敵側キャラクターに反映をされていると」
「システム上だけのCOMとかそういう敵っていうのは、少ないらしい。実際のプレイヤーアカウント情報が、ランダムで自動で。ゲーム内に配置される敵側として割り振られる。とかね」
「オンラインや賭けに。その方が使用しやすいと」
「そんな感じかもね。殴り合いゲームってのには。変わりないと思うよ」
縫李は淡々と言った。
「なるほど」
と数登。
縫李。
「殴り合いだから。あなたもさっき言ったけれどゲームプレイがある。賭けの場合もそうなる」
「ええ」
「ソフトリーアズでいうとプレイヤー同士での。試合って形になるのかな。たまにAI同士での試合も、あるらしいけれど」
「基本は、カジノに来ている面々で?」
「そう」
と縫李。
「AI同士の場合は、カジノに来た連中がね。AIが使うどっちかのキャラが勝つかに賭けて。というか、正確にはキャラに紐づいているアカウントに。だな。それに賭ける」
数登は手を組んで、聞いている。
縫李は続けた。
「実際に賭けに勝てば。アカウントと金が入る。そんで負けたアカウントに賭けた奴は、金の損害だ」
「ええ」
「七分間四試合で試合全体は二十八分。敵側を見つけるのには七分のうち、割り当てて一、二分くらいだ。試合でプレイヤー同士ならばプレイヤー各々で、動かすキャラに賭けてプレイする」
「自身のアカウントに賭ける。勝ち続ければ四回賭け金が入る。ということでしょうか」
と数登は尋ねた。
「自身のアカウントっていうよりも」
と縫李。
「ステータスだけは振り切っていて元の所有者の、手からは離れている。そういうアカウントに賭ける。つまり、自分より強者のアカウント目当てで、カジノに賭けに来るわけ。ゲームプレイをするつもりである、連中はね」
数登は肯いた。
縫李。
「試合も。予めカジノ側で用意していた、強者のアカウントを使って行われる。ニッカトールのね。だから、自分の本来持っているアカウントは、使わない。カジノ内では」
「ほう。だからアカウント売買」
「そう。自分とは全く他人のアカウントを使うし、それに賭けるの。ステータスが強いやつね。カジノの賭け用に、予めカジノ側でそういうのを保管しておいて。使うわけ」
「そこで。既に売買が発生している」
「そういうこと。ソフトリーアズとニッカトールのプレイヤー。アカウントを買う方と売る方だ。で、その売るアカウントってのは強くなきゃいけない。弱いアカウントに賭けたって、意味ないからな。買う側のソフトリーアズとしても」
「ステータス目当てで賭けをする。ということですね」
「要するにそっちも。アカウント売買ってことだけれどね。ただカジノであるソフトリーアズ側で、提携もしているのがレナルドだから。通常でなら問題でも、ゲーム開発者の。その大元が売買を認めている。だからソフトリーアズだと問題にならない。とまあ」
長々説明して。
縫李は、だらだらとなった様子。
背凭れへ身体を預けた。
「言ったでしょう。変わり者だって」
「ええ」
「大元が変わり者なのには変わりない。eスポーツ市場でもバカにならない。とかいう話だっていうしな」
「勝ち続ければ四回の賭け金及び。賭けたアカウントが手に入ると」
「そういうことだ」
縫李は身を起こした。
「ステータスの高さっていうのはゲーム市場では。ニッカトールに限らず。どのゲームでも、重宝されるからバカにならないってこと。だからカジノへ賭けにやってくる連中も。そりゃ強者が多いってことで」
「その強者は。一アカウントにどのくらい賭けを」
と数登。
縫李。
「あんまり詳しいことは知らない」
「なるほど」
「第一。俺自身、ソフトリーアズに行ったことは。ないから」
「ほう」
「零乃の方がその辺り。詳しいかも分からないな」
数登も姿勢を直す。
縫李。
「ただ強者が、自分に見合うかそれ以上のステータスに賭けるんだから。安くて。安くてだよ。千ドル単位とかから賭けるんじゃない? 強者連中から見れば、それでも足りないかもな」
「なるほど。価値に見合うか否か」
「そう。アカウントの価値が、どの程度の相場かにもよる」
取引。
賭けの対象となるアカウント。
それは元々の所有者の手を離れているが、ステータスは残っている。
システム上の数値としてだ。
自分より強いか、自分に見合うアカウント。
そういったアカウントへ賭けるため、テーブルにやって来るのは。
生業がプロゲーマー。という面々が多い。
実際、賭けるからにはプレイは避けられない。
縫李。
「実力派が、そういうアカウントを狙いに来るっていうのは。そうだけれど、あとはその賭け額が、どのくらいまで上がるかってところだね。《ソフトリーアズの目玉》とかいうからにはね。俺はよく分からんが」
「ええ」
「まあさ」
と縫李。
「ゲームのアカウントに高額を賭ける奴も、奴だけれど。連中からすれば。賭けに勝っていけばだよ。勝ち続けて実際、手に入ればね。アカウントが」
「ええ」
「長期的に見ても、現実での収入にいい、アカウントが手に入るわけだ。強者連中から見て、強いアカウントしかソフトリーアズは保管しない。だから敢えて賭ける。勝てば万々歳。収入よし。そういうことじゃない?」
「なるほど」
「でさ」
「ええ」
「ニッカトールのアカウントを。ユーオロテが持っていたとかなの?」
数登。
縫李に言われてポカンとなっている。
縫李。
「ユーオロテと。ソフトリーアズの、アカウント売買は何か関係あるの?」
数登は苦笑。
縫李。
「関係がないのなら」
「ええ」
「あまり今の話と。ユーオロテは関係が、ないんじゃないの」
数登。
「そうかもしれません」
「というかゲームの賭けの話は。俺からか」
と縫李は言った。
数登は、小さなケースと。
小冊子を取り出した。
ケースを開けてみせる。
砂粒程度の破片。
「零乃さんから。送られて来たものです」
縫李は見つめている。
「こちらは。ソフトリーアズに関連がありかつ舞台にも」
「そうそう」
縫李は言った。
「何となくさ。そっちの方が、関係があるよな。現時点では」
「ユーオロテと」
「そう」
縫李は苦笑。
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