推測と仮眠と

六弥太オロア

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  途上、ヤシと先

3.

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連絡があった件。
適当なのは誰だろうか。
九十九つくも社の中にて。
連絡があった件で。

ならば数登珊牙すとうさんがか。
それで、連絡が来た。ということで。
ので九十九社としては。
人員が一時減ることになる。

「タンパねえ。やっぱりそれだと海とか近いんだろうな」

八重嶌郁伽どうらいくか

次呂久寧唯じろくねい

「そう。というかあたし行ったことないので。たぶんですけれどね。なんでもフロリダには青いカジノ! 青いのがあるらしいんですよ!」

「青いの」

「すっごいみたいです! その獅堅しすえの知り合いは実際に行ったわけじゃあない! らしいのですがね」

「行ってないんだ」

「はい。ただ内観はすごいみたいです。その人のそのまた知り合いの話によると。有名人の衣装とか飾ってあって。更に水の流れる装飾とかいろいろ」

「あんたのっている知り合いってのは。路面電車に乗ったって人と同じ?」

「そうです。その人は外観だけは見たってことで」

「どんななの」

「かなり目立つ青。すっごいきらめきで周りに反射が~! 自分の眼がかないくらい。とか」

「あんたの例えは酷いが。すごいんだな」

郁伽は苦笑した。

「実際に検索して画像見ちゃった方が早い」

と寧唯。
手を伸ばしてササッと。

「青いカジノは形がですね。ギターの形をしているということです」

「ギターの形?」

「そう。あのげんの張ってある細長い部分じゃなくて、なんというか鳴らす時に響かせる本体みたいなところですね。穴の開いている」

「穴の開いているのはアコースティックだよ。青いギターのはエレキじゃない? あとね。ネックとヘッドとボディ」

と郁伽。

杵屋依杏きねやいあ

実際に検索で出た画像を見て、三人は眼を見張った。
すごい。
ただただ、すごい。
そうとしか言いようがない。
ギターの建物。そして青。
空も青い。その周辺にあるもの全てが青い。
オーシャンブルーが陸上に存在している。

依杏は話の最初から。
あまり、ついて行っている感覚がない。
カジノ。

依杏。

「確か」

「なに」

と郁伽。

依杏いあ

「いま零乃れのさんもフロリダにる。とかでした?」

「その青いカジノとはまた別らしいよ」

「カジノの話題は、零乃さんにも続くのですね」

と寧唯。

郁伽。

「そうね。いろいろカジノはあるらしいし」

「行ったってことですか。零乃さん」

と依杏。

郁伽。

「仕事で、らしいよ。ただアイツの場合。一度ドームで大騒ぎしたとかで余計こっちに居づらいってのもある」

「零乃さんがあのことに。直接荷担していたっていう証拠。何もないでしょう」

「ただ珊牙さんがさんが零乃のことを追っていただけ。ということにはなっている」

「そんな感じなのは知っています」

「あと釆原うねはらさんはじめとする記者たちの猛攻ってところね」

「それはありますね。誇張はあると思ったりしますが」

零乃に関する一連の本当のところ。
それがどうかはさておき。
アイドルという立場だった。
日本では。
いま日本にいない今。
零乃に関するその後の報道はあまりない。

郁伽。

「香炉に関する一連の云々うんぬんっていうのはさ。所有者も零乃宛という感じになっていた。みたいだったし。確かに直接的な証拠は何もない。あと詳しい事情を知っているなら、釆原さんとか記者だろう。珊牙さんよりも」

依杏。
デスクへ行き引き出しをあさった。
中から取り出したのはノート。

「なあにそれ」

と寧唯。

次呂久翠授じろくすいじゅ
寧唯に抱かれ、抱っこ用のゆったりしたベルト付きのでゆるく。
翠授は寧唯の方へは向いていない。
ゆったりしたベルトと抱っこ用のまま。
郁伽の方へ身体からだを向けている状態である。
抱かれている割には自由に行動出来る状態。
緩くしてある。
翠授の身体は、寧唯の膝へ近くなっている。
座っているまではいかなくて。

依杏。

「新聞記事。零乃さんが関わったやつかもしれない。ドームとか倒壊の話題の記事。それを取っておいたの」

「なるほど」

翠授は手に。
赤。

「これはタンパにちなみってことですか?」

そのメダルを示して。
郁伽。

「そうね。何枚か。送って寄越したからここにあるわけで」

「零乃さんがですね」

「そう」

「タンパですか」

と依杏。

何枚かある。
コインのようでもある。
よくけなんかに使うような形の円い。
と言っても依杏は映像でしか見たことがない。
そういうのとは少し違う。

赤くて人差し指と親指でまむことが出来る。
翠授にとってみれば掴みやすい。
そんなコンパクトサイズもの。
赤くて円い金属製。
明るく。
その表面が光に当たると反射する。
翠授にはそれが面白いのかもしれない。
と依杏は思う。

郁伽。

「タンパというか。正確には私も場所とか位置は分からないんだけれど。割と小さいカジノらしい。『ソフトリーアズ』っていう」

依杏。

「行ったってことですか」

「いや。行ったっていうか」

と郁伽。

「怪我したっていう話は。あんたも聞いたでしょう。零乃が。だから、ただ行ったんじゃなくて、このメダルの方が。あいつにとっては成り行きみたいなものじゃない。零乃は仕事で呼ばれて行って」

「そのソフトリーアズに」

「そう」

「そこって西海岸なんですか」

と寧唯が口を挟む。

「だからさ」

と郁伽。

翠授はつまらなそうな顔をしている。
赤いメダルを二枚持たせてやる。

「そこにパソコンがあるから。さっきみたいにササッと調べるんだったら。調べたら」

「えー」

と寧唯。

翠授。

「うー」






電話の鳴る音。
それを取る音。
三人の居るのとは別の部屋からであろう。

「電話ですねまた」

と依杏。

「ちょっと行ってきます」

「あーい」

と郁伽。

依杏はすたすた行った。

寧唯。

「電話多いんですか?」

「珊牙さんからだと思う」

「なるほど」

翠授の遊んでいるメダル。
多くみられるひっかききず
その表面の状態。
割と、汚れを綺麗に拭き取ってある印象。
翠授は今、口に入れてはいない。
手でいじくり回している。

「景品で貰ったとかですか?」

と寧唯。

郁伽は表面を見ている。
多くのひっかき傷の中で。
わずかに読み取れる部分。
「1」「9」「5」。

「景品っていうよりも。たぶん記念みたいなもの」

「記念ですか」

「ちょっと変わったカジノらしいからね」

「ちょっと変わった。ですか。どんなですか」

「だからさ、そこにあるって言っているのよ。検索用のやつが」

「やつがー。あーはいはい分かりましたよ。じゃあ、なんかクッキーとか下さーい」

「翠授ちゃんの口にはそっちの方がいいかもね。はいはい」

郁伽。

クッキーとそれから。
若干ふやかす用の幼児用ミルク。
翠授は抱っこ用から解放された。
寧唯から、郁伽の胸に翠授。
クッキーはしゃぶる翠授。






十月。秋。
九丁目の気温。
それほど下がってはいない。
十月。
先程から話題に上がっているフロリダ。
あまり気温は下がってはいないという。

新聞記事がきっかけ。
英語での記事。
それが電話という形で伝わる情報になる前に。
何行程かあったのであろう。

翠授はクッキーの他にも、手に持っていたものがある。
赤いメダルからは既に、興味がれている様子。
片足のない状態。
姿はバーチャルアイドルを模した人形。
所謂いわゆるフィギュア。
ちなみに歯がない場合でも大丈夫な用のクッキー。

しゃぶる翠授を抱いたまま、郁伽は尋ねる。

獅堅しすえさんがフィギュアとかどうとか前。言っていたね」

「そうですね。ただ翠授の今持っているやつは、獅堅のじゃないです」

「オフィシャルのやつ?」

「そう。所謂いわゆる公式販売のです。いま話題になっているU-Orothéeユーオロテ

「なんかミーハーっちゃミーハーな持参物ってわけだな」

「そうなりますかねえ」

寧唯は言いながら。
寧唯もクッキーを取った。

「ああ。おいしい」

「そりゃよかった」

郁伽は翠授を、寧唯の方へ向ける。
郁伽の膝の上で抱っこの形。

寧唯。

「翠授は。そのユーオロテのフィギュアが手にしっくりくるみたいですから」

Se-ATrecシーアトレックは確か」

と郁伽。

「中の人の身代わりが見つかったんだっけ」

「そうなったって話ですね。だから若干キャラとか声が変わったんじゃ。ないかっていう。そのすじうるさいマニアからの指摘はあるようですな」

「指摘か。確かにねえ」

「そうです。その筋の眼と耳というのは誤魔化ごまかすのが。とても難しい」

寧唯はうなずいて言う。

郁伽。

「そうね。分かるかもしれない」

「彼らは眼も耳も。好きなものに向けているときは戦闘状態みたいなもんですからね」

「アドレナリンみたいなものかね」

「よく分かりません」

「でもユーオロテの場合は身代わりともいかない」






新聞記事。
自身にアバターを着せて、活動するバーチャルアイドル。
架空の仮想の空間内。
そこで自由に動き回ることの出来る存在。
あるいはそれを許された存在。
実際の人間が演じている。
映像の中で生き生きとするのはアバターだ。
その非現実と現実の不思議な融合。
それを仮想という空間で見ることが出来るようになった。

アバターでの表現も多様。
自分の望む容姿や音声を。
大抵の場合なら作ることが可能である。
そのための費用は犠牲になるものの。
「実際の自分」という枠を仮想上で。
「超える」という感覚。

というものがどんどんひろがっていく中。
仮想というものが、出来たからというのもある。
仮想には境目がない。
つなぐデバイスその他があれば。
そしてバーチャルアイドルもまた。
あまり境目のないものになった。
ということで。

シーアトレックが活動自体下火になった一方いっぽうで。
ユーオロテはどんどん境をなくして、なんでも。

「英語圏」

「そういうこと」

と郁伽は新聞記事を示す。

九十九つくも社が呼ばれるのは大抵この話題」

「言いづらいけれど。死にネタですね」

「そういうことね」
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