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「問」を土から見て
16.
しおりを挟む「西耒路署では『抗争は下火になった~』とはならないでしょうね」
「下火」とはいうものの、実際に下火になったわけではない。
というのは、安紫会の事務所で起きた抗争については現に、逮捕者も出ているわけで。
下火に「なった」「ならない」と言ったのは、五味田茅斗。
日刊「ルクオ」。
「とはならないって、なんで」
菊壽作至が尋ねた。
「だって、逮捕者は増え続けているって話ですから」
「西耒路署に入る奴?」
五味田は肯いた。
その他の署でも増えている可能性はあったが、五味田は西耒路署の現状しか分からなかった。
週刊誌で取り上げられている。
大手メディアなどによる報道は、下火になった抗争。
といっても安紫会の事務所で起こった抗争は、小さなものでもなく。
菊壽と五味田は巻き込まれた。
菊壽は週刊誌を手に持って、それをさっきから読んでいる。
一方五味田は、他社の新聞だ。
五味田は菊壽の後輩。
そして二人は記者である。
日刊「ルクオ」。
「新聞では下火だろうけれど、逮捕者が入るから西耒路署では忙しいんじゃないすかね。あとから組員が見つかったりする場合が多いらしくて」
「週刊誌には今も、抗争の話題がちゃんとあるよ」
「鮫淵親分のことが全般を、占めているんじゃないすかね」
五味田としては、「抗争よりも親分の方が話題だ」という持論。
「さあねえ。いずれにせよ週刊誌は大入り満員だ。鮫淵とか貫禄あるもんな」
小さな抗争ではなかった。
鮫淵柊翠は、安紫会の親分。
実際には抗争に参戦していない。
ただそこは親分。
参戦していようがいまいが西耒路署には居る。
大人しい組として知られる安紫会。
あまり普段問題は起こさない、大人しい組として知られたが。
抗争となると話は別なのだろう。
安紫会は乗り込まれた側である。
仕掛けたのは阿麻橘組だったとされる。
ただそこは、安紫会は組事務所だった。
準備は怠りないようである。
「安紫会の事務所はミサイル搭載しているらしいです。つまり抗争に際しての万が一、対応は事務所なりにしていたと。だけれど阿麻橘組に乗り込まれちゃった」
日刊「ルクオ」。
菊壽と五味田。
その二人だけでなく社全体で、下火になってきている抗争の話題。
だが報道では、取り上げていない話題もある。
菊壽と五味田はそれが気に掛かっている。
下火なのは抗争の一方で、その最中に姿を消した入海暁一の安否はいまだ不明。
敢えて報道側は、「失踪」のことを取り上げていない。
抗争が起こってから、五日が経過している。
菊壽と五味田、それから釆原凰介は、失踪前に入海を張っていた。
「搭載といえば」
菊壽が言った。
五味田はきょとんとする。
「お前のはどうなん」
「え」
五味田は眼をぱちくり。
「搭載すか」
「そう。調子はどう」
「い、いや……どうとか言われましても」
赤くなる五味田。
「その話は釆原さんとしていたはずなんだけれどな」
「舐めるなよ。お前の情報なんてごまんと溢れているんだから」
「いやそれ困りますよ! 困るなあ……」
「実際に劒物大学病院へ行ったって話じゃないか」
入海暁一もまた、劒物大学病院の医師だ。
「い、行きましたよ行きました! 俺、自重してますからね!」
「整形外科の下か」
「え」
と五味田が振り返ると、釆原だった。
抗争で、釆原は劒物大学病院へ搬送された。
匕首で腹部を刺されたのである。
一方の五味田。
彼は匕首でもなんでもなく、自主的に脚を運んだのである。
整形外科の下の階だった。
「釆原さん」
五味田はシュンとして言った。
菊壽と五味田の席へ寄る釆原。
「俺の搭載の話題。菊壽さんに知られています」
釆原は少し考えてから、言った。
「情報漏洩だな」
「どこからなんでしょうか」
菊壽はツッコんだ。
「俺らは仮にも記者だよ」
「そうでした。あの、俺の搭載の方は調子いいです。はい」
「そりゃ何よりだな」
五味田はまだ顔が赤い。
釆原は苦笑する。
「良かったな」
「良かったです」
釆原は、五味田の運動の大体がベッドの上、であることを把握している。
菊壽が把握しているかどうかは、いまいち定かではない。
「整形外科か……とすると。話題は劒物大学病院へ戻るな」
菊壽が言った。
「うん」
釆原。
「親分と抗争の話題はまだ、週刊誌にはある。実際話題にもそこそこなっている。ただ、整形外科と失踪の件はねえな」
菊壽は数ページ、週刊誌をめくっていく。
「整形外科はないでしょうよ」
五味田は少しむくれて言った。
釆原は菊壽の週刊誌を覗いた。
「うちのルクオでも出していないからな。情報」
「うん」
実際、他の報道がそうであるように、入海暁一の失踪については「ルクオ」でも取り上げていない。
安紫会。
主に西耒路署の管轄内だ。
そこを張る。
実際に張った。
安紫会の話題が日刊「ルクオ」側に届いて、先手で動いた。
それが釆原と菊壽と五味田である。
ちなみに五味田は、釆原にとっても後輩。
記者と刑事。
黙っていないのが西耒路署だ。
三人を追っかけてきたのが強行犯係の二人だった。
安紫会を張った理由。
入海がそこへ、往診に来ていたためである。
更に言えば強行犯係の、怒留湯基ノ介。
彼はもともと、安紫会の細々に関して端緒で噛んでいたところだった。
怒留湯と、それから桶結千鉄。
釆原と菊壽と五味田。
刑事と記者。
とはいうものの、安紫会の抗争少し前から手を組んで、抗争に巻き込まれたのだった。
安紫会ではその日、いろいろ起こった。
抗争、盗難、その後の難事、入海の失踪。
「お前らこそ、大丈夫なのか」
釆原は尋ねた。
「大丈夫って、なに」
菊壽は言う。
「怪我とかさ」
「ああ、俺は無傷だったよ。言っていなかったっけ? そんでこいつも搭載は万全と。いやいやよかったな」
「搭載はもういいですってば」
五味田は赤い。
なんとか二人とも、抗争に際しては応戦。
そして怪我はなかったのである。
「釆原さんは刺されたとこ、どうなんです」
五味田は尋ねる。
「なんとか」
釆原は苦笑した。
入院と傷口の縫合。
劒物大学病院だった。
「痛いとかないんです」
「ないよ」
「そんならよかったです。入院短かったんでしょう」
「あんまり気にしなくていいよ。ちゃんと傷は塞がった」
「そうですか……」
五味田。
「で、こっからは入海暁一の話題とかになります?」
「そうしようか」
釆原は言った。
菊壽は週刊誌を持ってはいるものの、その眼は二人の方へ。
「失踪についてだな。西耒路署では手掛かりゼロ。右往左往らしい。いろいろ今、俺も当たってみている」
「早速行きますかね」
「そう」
釆原が腰掛けたので、菊壽と五味田は椅子を寄せた。
菊壽は手元を覗き込む。
釆原はメモを手渡してやる。
「洗っている段階」
菊壽はメモを見ながら言った。
「うん。小規模だが」
五味田もメモを見ながら、肯いている。
「大学病院側と安紫会のつながり。なるほど。入海先生は実際に往診へ行ったわけだから。釆原さんと菊壽さんはその様子を見ていますしね」
「お前は正面の門をね」
「そうですね……でも正面からじゃ入海先生は見えませんでした。阿麻橘組の数人は居たけれど」
菊壽は小型カメラを持参していた。
その映像を怒留湯と釆原と共有。
安紫会の事務所外側から、入海の様子を張っていた。
五味田は桶結と組んだ。
事務所正面を張った。
抗争の起きる少し前である。
「安紫会と劒物大学病院につながりは、あるかどうか。そりゃ、当然あります。入海先生のことがまずひとつ。だから病院側を調べる価値っていうのは大いに」
五味田は肯きながら言った。
「うん。ただ大学病院側は、何か手掛かりを掴んだりしたのか。入海先生のこと」
菊壽は言う。
だが考え込んだ。
「掴んでいればもう少し動きがあってもおかしくない」
「そういうことだな。俺は少し病院側を当たってみたけれど、手掛かりというにはまだまだ」
釆原はそう言った。
「やっぱりな」
「うん」
入海暁一。
整形外科を担当。
だが意外と何でも診る医師。
釆原の担当だった。
何時から何時。
何をしていたか。
前後の時間。
安紫会の事務所へ、入海が往診へ出掛けるまで。
釆原のメモにある。
数人。
大学病院関係者のプロフィール。
名前、出身大学、どこで何をしていたか。
余談として血液型と、それから連絡先。
「西耒路署では最近、DNA鑑定が多い」
「そういえば多いな。最近一人判明したんだろう」
「阿麻橘組の他殺体」
「そうだ。それに肖った感じっぽいな」
菊壽は苦笑した。
「そうかもね」
釆原。
九日。
抗争の起きる二日前。
安紫会から、劒物大学病院へ連絡が入る。
連絡を受けたのは青奈。
受付嬢だ。
安紫会の若頭である伊豆蔵蒼士への、往診。
青奈から連絡が回る。
連絡が回ってそれがまず、湖月康天へ入る。
医師二人が動く。
「中逵景三と螺良青希。事務所へ行ったんだな」
菊壽は言った。
釆原は答える。
「ああ。午後に。恐らく安紫会から直接の詳しい話を、受けるためだ」
医師二名、中逵と螺良。
それから案内として研修医の、軸丸書宇。
「安紫会から直接の詳しい話」を受けるため。
安紫会の事務所へ赴いた三人。
「怒留湯さんたちの間で抗争の前にさ。『安紫会の事務所で動きがあった』とか何とか話題に上がっていた。俺はそう記憶していたんだが」
菊壽が言う。
「事務所の動きっていうよりそれって、劒物大学病院のこの」
示す。
「三人の動きだった、っていうことじゃないか?」
「うん」
釆原は言う。
「動きの情報についてはさ。俺たちが勝手に『掴んだ』形になる。西耒路署としては本来困る行動だった。だから、『動き』については安紫会の動きだったかどうか。それとも医師三人の動きかどうかだったか。正確には何とも言えない」
菊壽が言った。
「阿麻橘組の、他殺体が出たのは九日より前だ」
「そう。直接の抗争の原因は、その他殺体が出たからだと。『安紫会の事務所で動きがあった』ことについてはまず、この劒物大学病院。他殺体の件があったとすれば、更にもう一つだ。阿麻橘組の動きがあった。そう考えることも出来る」
「実際に俺らが事務所へ駆けつけた時も、阿麻橘組の奴ら居たからなあ」
菊壽は頭に手をやって言った。
「『安紫会の事務所で動きがあった』件については既に、怒留湯さんが端緒で噛んでいた。だから動きとしては他殺体に掛かる何かと、端緒の件で二つ。大きいものとしてあったのはそれ。あるいは医師の動きか」
菊壽。
他殺体。
DNA鑑定があった。
結果として出たのは、阿麻橘組に居た力江航靖という人物。
頭部がなかった。
安紫会の事務所で抗争の起こった前後。
他殺体も関係しているとされる。
対立勢力である阿麻橘組が乗り込んだというのがまず第一。
釆原のメモ。
入海暁一が往診へ出掛けるまで。
氏名とその他の情報。
大まかな個人情報。
数名の劒物大学病院関係者たち。
劒物燦。病院長。
担当は内科。
湖月康天。
湖月は入海と出身大学が同じである。
外科全般。
東若大学の出。
安紫会から「往診の頼み」を受けて出掛けた医師二名。
中逵景三と螺良青希。
三十代。
菊壽は血液型の欄を全て飛ばす。
中逵の大学名は眼に止まった。
「安紫会の洋見仁重と、中逵は出身大学が同じ」
洋見仁重。
安紫会の幹部候補とされている組員だ。
「そうか……それで安紫会の事務所へ最初に、中逵をやったんだな。事務所でやりとりしやすいのは彼だとかね」
「なら、その中逵先生に最初は、往診を依頼する形になったかもしれません。安紫会側は」
五味田は肯いて言う。
午後零時から午後二時。
中逵と螺良、それから研修医の軸丸。
安紫会の事務所を訪問。
九日午後七時~、安紫会の事務所を訪問。
入海暁一。
「入海先生が一度訪ねている。つまり入海先生に切り替わった」
菊壽。
背もたれへ体を預けている。
週刊誌はいま、放り投げられている。
どこにあるか分からない。
「入海先生が、自分から変更を申し入れた可能性もあるかな」
五味田は何か書き始める。
ずらっと医師の名前が紙の上へ並ぶ。
「安紫会の事務所へ往診があるよってなった時に。入海先生が行くとなった、前後で関わった人は五人です」
釆原は椅子を更に寄せた。
と、電話が鳴る。
誰かが取る。
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途端に広がる静けさ。
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釆原たちがたむろしている小規模地帯。
だがこちらは、割とすぐ弛緩。
菊壽は壁の時計に眼をやる。
午後一時。
「ガセかなあ」
五味田は首を傾げた。
「落ち着かねえな。どっか出掛けて話そうか?」
菊壽が言った。
「劒物大学病院へ行こう。座れるところあるだろう」
五味田は慌てた。
「いやこの話題で病院はまずいんじゃないすか」
「何はともあれ場所は変えようか」
釆原が言った。
菊壽と五味田は肯く。
五味田は喫茶が良いと言う。
菊壽は和食が良いと言う。
釆原はどちらでも良いと言った。
日刊「ルクオ」の入るビル。
両隣。
それぞれ和食の店と、喫茶店。
どちらだ。
どちらか。
いずれにしろ、どちらも数分の距離だ。
「お二人はご遠慮なく! 食べちゃったりしてください。俺適当にします」
五味田は言った。
彼はカフェオレ一択だった。
開放的だ。
釆原は思った。
ガラス張りの窓。
店内の入口と中に入った印象。
えらい違いがあった。
動から静。
中へ「入る」というよりも、印象としては開放だった。
午後一時を少し過ぎ。
喫茶店。
店内はそれなりに混んでいる。
丁度昼時だ。
庭の緑は眼に落ち着く。
店内、賑わう声は騒がしいものではなかった。
全体の色調としてはオーカー。
あるいはアンバー。
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レコードの針と盤。
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今、店内としては有線のようで。
五味田は席に腰掛けたその途端に、店員を呼んだ。
彼はメニューを見なかった。
大丈夫なのだろうか。
とばかり、菊壽は眼をぱちくり。
三十分で戻る。
一報やら何やら入った時に対応出来るようにするために。
釆原と菊壽。
慌ててメニューに眼を通した。
店員は下がり、数分で戻って来る。
だが釆原と菊壽が注文すると、更に早く戻って来た。
玉子とベーコンのサンドイッチ。
ヨーグルトが添えられたメニュー。
同じメニュー。
それが二人分だ。
「俺は水でいいや」
菊壽は飲み物を頼まなかった。
頼むこと自体が面倒のようだ。
サンドイッチをむしゃむしゃしながら言う。
「で、劒物大学病院から話を訊いた印象では、どんな感じだったの」
菊壽は釆原へ尋ねた。
店員が来て、釆原の前にコーヒーを置く。
「さっき五味田が書いたの、あるだろう」
「あ、いま出します」
言って五味田は取り出して置いた。
テーブルへ。
「安紫会の事務所な。入海先生が行くっていうその前後について、出なかったんだ話は」
釆原も頬張る。
五味田は眼をぱちくり。
「五人ともですか」
「うん」
「だとますます何かが気に、なりますね」
「いや……各々忙しいんじゃないの。だってほらさ」
菊壽はメモを示した。
テーブルの上にメモは二つ。
釆原のメモと、五味田のメモ。
そこへグラスに入った水が、置かれた。
「ごゆっくり」
店員はあっという間に去る。
三人は眼をぱちくりした。
名前の一人一人、それは五味田のメモ。
釆原のメモ。
何時頃、何をしていたかの行動。
九日、午後三時から午後六時の欄を眼で追い示す。
・劒物燦:東実大学へ午後二時から、会議のため不在
・中逵景三:油林大学。洋見と同じ大学。三十二。整形外科。午後三時、安紫会の事務所から戻る。医療機器の動作確認と整備
・螺良青希:三十。神経内科。中逵と同じ行動を午後三時頃まで。午後四時から学会向けの資料作成
・軸丸書宇:研修医、分野は薬学。午後三時半から大学の講義。論文執筆のため午後五時~午後六時に籠る。教授室
・湖月康天:朝から執刀、午後三時に終了。午後四時に早めに帰宅
「全員の情報が正確とは限らない。今のところはね」
釆原はコーヒーのカップへ、手を伸ばす。
菊壽は言った。
「入海先生が、『事務所へは俺が』。自分で名乗りを上げたかもしれない。だがもう一つある。誰かと話をした後に中逵と代わる必要が出た場合だ。なら、軸丸か中逵が入海先生の行動前後で関わった候補、になるんじゃない」
菊壽は言ってぐっと水を干した。
「安紫会の若頭の往診へ、行くかどうか。行かないか、行くか」
「何をもってこういう布陣になったかですよねえ」
五味田はカフェオレのカップを持った。
「入海先生の失踪につながるかどうかだな」
釆原も言った。
サンドイッチ一つ目を平らげる。
「明らかにこれだけじゃ情報は足りねえな」
言って菊壽は考え込む。
「西耒路署の方はどうやって当たる? 怒留湯さんと桶結さんを除き」
菊壽は言った。
釆原。
「西耒路署のネットワークは堅い。それが前提だ」
「俺らとしても、怒留湯さんや桶結さんとしても、ネットワークとなるとまずい。やれないことはないだろうけれど、何しろ警察だしな」
菊壽は考え込んだ。
「やれないことはないですが……」
五味田は肯いて言った。
菊壽はサンドイッチの二つ目を平らげる。
「情報共有はする。となると猶更ネットワークはまずい」
菊壽の手は匙へ。
そしてヨーグルト。
「うーん。それなら……」
五味田はメモを追加して書き始める。
怒留湯、桶結、清水、歯朶尾、炎谷。
名前が並ぶ。
「とりあえず、俺らが関わった西耒路署の刑事さんたち。安紫会の件に関しては五人です」
「安紫会とはつながると言える」
菊壽は言う。
「ええ。で、安紫会と劒物大学病院、安紫会と西耒路署ってつなげると可能性があるとすれば」
五味田は、釆原のメモを示した。
「軸丸っていう研修医。一番当たりやすそうです」
「なんで」
菊壽は尋ねた。
「なんか時間はあるかもしれませんから」
「アバウトだな」
「あと、『薬学』ってあります。なら刑事さん、特に鑑識の人たちとコネ多そう。とか、アバウトなんすけれど」
カップのカフェオレは残り少なに。
五味田。
釆原と菊壽は、手元のメモへ視線をやった。
「入海先生と西耒路署と、その中間。として軸丸ってことか。連絡先はあるの」
菊壽は尋ねた。
釆原はスマホを出す。
「あるよ。一応、いま挙がっている全員の分はね」
「西耒路署から当たるっていうのは、俺らとしてもリスク高そうです。だから」
五味田が言う。
ジェスチャー。
手でメモと、それから向かいの釆原と菊壽を交互に。
釆原は眼をぱちくり。
同じようにジェスチャー。
「共有ですね」
五味田は笑って言った。
「三人態勢なら、何かといいですから」
「二度目だな。一応それで助かっているのが現状」
菊壽は言う。
「なんかまあ、大きいことが起きなきゃいいがなあ」
菊壽は頭を掻いた。
「特に怪我には気を付けつつ」
菊壽は釆原に言った。
「うん」
釆原は言った。
それから、菊壽と五味田はスマホを取り出す。
劒物大学病院以下五名の連絡先。
菊壽と五味田へ。
「軸丸のこれ、捨てアカウントだな」
菊壽は眼をぱちくり。
「ああ、俺も同じく捨てアカウントを教えておいた」
釆原。
捨てアカウントでもメールアドレスの方だった。
「何かと良いかもしれません。情報漏洩だって言われたら、少なくとも躱せる。捨てアカウントなら、なんとかなりますから」
五味田は乗り気だ。
釆原は、軸丸へメールを入れた。
菊壽はスマホを見つめる。
「さっきのガセ。電話の件だ」
「なんの話すか」
五味田はポカンと言う。
「どうやらガセじゃなかったらしい」
軸丸は返信が早かった。
『俺、大した情報は持っていないし、さっきもあんまり話せることなかったですけれど、捨てアカじゃない方がいいですかね? 記者さんなら込み入った話の方がいいかもしれないし。情報としてはですね。良ければ本アドお送りしましょうか』
「電話、劒物大学病院からだったって」
菊壽は続けた。
釆原は眼をぱちくり。
「何て」
「いや、なんか先方も急ぎじゃなかったようだが……とりあえず一時半には出よう」
「そうだな。いま……軸丸からも返信が来ている」
釆原は画面を見た。
菊壽はヨーグルトを平らげる。
「何て来ました?」
五味田はカフェオレを干して、尋ねた。
釆原はスマホをテーブルへ置いた。
その画面を二人へ見えやすいように。
菊壽は眉をしかめる。
「西耒路署に、じかで行っちゃった方が早いかな」
「いや、俺らがっていうのはどうしてもの時です。西耒路署は、いま劒物大学病院に脚を運んでいるはずです」
「安紫会と抗争と入海先生の失踪から、五日経ったよ」
「ならより、軸丸が何か掴むかどうかを見ていた方がいいです」
「掴むねえ……なんか文面からいって。掴むとかそうは見えないな」
「記者なら可能性は少しでも追うんでしょう」
「まあな」
入海の失踪から五日。
そして、頭蓋骨のDNA鑑定の結果が出るのも、やはり五日後か……。
近づくにつれて動くことと変わること。
いろいろあるだろう。
釆原は思った。
「軸丸も、掴むことに関して乗り気っぽく見えます」
五味田が俄然乗り気である。
菊壽は苦笑した。
皿はカラになる。
釆原は軸丸に、
『支障ない程度で大丈夫』
と打った。送信。
「時間です」
五味田は言った。
「出よう」
菊壽。
「オーケー」
三人は腰を上げる。
日刊「ルクオ」。
電話の件だった。
やはりガセではなかったようだ。
肩を叩かれたのは釆原だった。
軸丸を含めて数名の関係者。
劒物大学病院。
入海暁一の失踪の件。
西耒路署の刑事も動いている。
入海の動向はどうだったか。
それを知っている者は居たか。
「失踪は他人事ではない」。
西耒路署の歯朶尾という鑑識は、そう云ったらしい。
入海の行動と思考は、安紫会の事務所へ行く前後でどうだったのだろう。
いまのところ情報は少ない。
入海暁一の自宅。
釆原も当たろうと考えていた。
だが既に、西耒路署から人数が寄越されているかもしれない。
日刊「ルクオ」への電話。
それは劒物大学病院からだった。
維鶴は留守。
彼女はこの日記事の取材があった。
それで、一日家にいなかった。
一方。
釆原は肩を叩かれたあと、自宅へ戻る。
入海が、釆原宅へやって来たのである。
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