推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

33.

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静かだった白い空間は、一変して賑やかになったと同時に。
賑やかさを越す。
あらゆる音が充満している。
祈祷、梵鐘ぼんしょう、本堂に居る人々。
全て、表側で発生している別の音同士で。ずっと。

どうやら、八重嶌郁伽やえしまいくか鐘搗麗慈かねつきれいじの居る、裏の部屋にて。
あまり防音という言葉の意味は、成り立たぬ。らしい。

郁伽が「周囲が一変している」と、思えたあたりから。
若干、宙に浮かんだスクリーンの、映像の乱れもある。
煌々としたそれ、ちらつきの振幅。
増える。
大なり小なり。

麗慈は、電波には別に異常なしという。
しかし、郁伽のスマホの電波には、そうではない。

何か、何か変な気がする。
でも、何が変なのだろう?






音の収集。
例えば。
その間、地下入口の見張りはどうなるか?
麗慈がヘッドホンを外したタイミングで。
こう尋ねる。

「いま、ちょうど梵鐘が鳴っているけれど、さ……」

かなり近くに行かないと、声が通らない。
賑やかさ?
手振りも加え。
床にへばりついている麗慈の元に、郁伽が行く。

「地下入口、どうしたらいいと思う!」

と、ずっと大声で。

「とりあえず、こう、見ていてくれるとね! というか連絡は!」

と、麗慈もひとたび大声で。

郁伽。

「取れていない! 言ったでしょう、電波が変だって。じゃあ、とりあえずスクリーンのほう、普通に見ておくから!」

「とにかく珊牙さんがさんと何らか、いや釆原うねはらさんか。連絡も取っててほしいですけれど! 今は地下入口も大事かも!」

「じゃあ、勝手に見ておくよ!」

「了解です」

で。
ふと。ついでに郁伽は、考えてみる。
電波が変なのは、やはり場所的なところもあると思われる。
地下の中はもっと、電波が届きにくいだろう。とか。

連絡をスマホで別に取るというよりも、地下入口に直接行くついでで。
釆原さんたちと、私が合流してみればいいんじゃないか?
とか。
郁伽の考え。






先程よりも、大体の映像が。
全てではないが。
やはり、鮮明ではなくなっている。
それでも、ずっと映っている何か。

地下入口、横からの映像。
上から見下ろすような。
郁伽は見ていて。

「誰か、来ているような……」

先程憶えた拡大、拡大で。
表情や人の顔までは分からない。
図面から抜けた部分は、見えない。

引き続いている、音の中。

梵鐘と祈祷の、大きな別々の音が此度重なる。
再び。
そこでスクリーンの映像が、かなり乱れた。

「あたし、直接地下入口に行って来るね!」

郁伽いくか

「なんで!」

麗慈れいじ

「一応、音は採れていますけれど! 映像は変ですか!」

「音、採れているの!?」

「さっきから鳴っています。変な別の音。この状況だったら、あんまり直接耳では聴こえないけれど。収集機材のほうには、やっぱり。しっかり反応があるんです」

少々、鎮まった。
ただ、鳴り響いていた梵鐘の余韻が、まだある。
突き抜けて大きな音だった。

再び、床に近づく郁伽。

「こう、誰か居たのよ。さっき。見ていて地下入口前」

「地下入口ですか? というかやっぱり閉じないんだから、誰彼居てもおかしくはないけれど……」

「そこなのよ。円山さんたちで、ロックを閉じる計画にもならないんだったら。変にここで、見張っているより。直接場所に行っちゃうほうが、早いと思ってね」

と郁伽。

「その間で、釆原さんたちとも。普通に? 合流出来ると思うけれど」

「さすがに、時間的にも。本堂裏に居ても、別におかしくはない」

と麗慈。

郁伽。

「あなたはずっと、ここで音を?」

「そうです。ぼくは離れられないんで、行ってください。ファイルが目的なんでしょう、元々」

再び、騒がしくなる。

「ねえ、なんか大丈夫?」

と郁伽。

麗慈。

「何がです?」

「わかんない。けれど」

ふいに、足元に違和感。

「なんか浮いてない?」

「浮いてないですよ。音がうるさいだけ……」

ついで、音に声を遮られ。
麗慈は再び、ヘッドホンに手を掛ける。
郁伽は行こうとして、足元がやはり浮くように感じる。

歩きづらい?
床が抜けた?
いや、ふらついているのは私の場合だけ?
私が?
おかしいな。

靴の裏で踏みしめる感覚が、根元からなくなった。
郁伽は倒れ込んだ。

おかしい。やっぱり。
表の音と、別の音?
振幅?
煩さが徐々に小さくなる。

なんでだ?
いや、これは頭の問題なのか。

煩いはずなのに、遠のいているのは私のほう。

麗慈が駆け寄って来たのだけは、郁伽にも判断出来る。
   
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