推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

29.

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とりあえず。
先程、杝寧唯もくめねいっていたこと。
地下への入口について。
円山梅内まるやまばいないが騒いでいた、件の「不正アクセス」が、逆に良かったという説。

「むしろ監視カメラを、円山さん以外が更に、張っていたとかいう」

という寧唯の発言。

先程のは、むしろというか。
要するに、当たってもいたぞ。
ということになり。

山門の辺りで、杵屋依杏きねやいあ釆原凰介うねはらおうすけの会った。
少年一人。
依杏視点でなら、鐘搗麗慈かねつきれいじ
その麗慈が、地下側の監視カメラを張っていた犯人。
という。






数登すとうさんから。
スマホ向こうの、大枠の話によれば。

まず。
麗慈くんは、件の入口監視カメラに。
遠隔で張り付いて、見ていた。
方法としては、普通には禁止のはずの、不正アクセスである。

一方いっぽう
円山さんは、地下の入口を閉じたがっていた。
どちらも、やりたいこととしては同じだろう。

それで、慈満寺じみつじ側はどうするの?
過去に人が死んだ地下について、何かするか。
それとも。別の。
更に違う料簡りょうけんが、慈満寺にあるのか。

不正アクセスを内部の人間に黙って、内部の人間が行った?
それって、どういう状況?
さすれば悪いと、言い切れる状況?

そして、今や、寧唯も居ない。






このあたりには。
先程、依杏いあ寧唯ねいが腰掛けていたような石。
みたいなものはなく。
おおよそ行く人来る人は、参拝目的で。
ちょうど、本堂裏に回ることの出来る辺り。

依杏は全く、それまで気づかなかった。
寧唯が、居ないことについて。

数登珊牙すとうさんがとのスマホ側やりとり。
その声は、いつしかんでいた。

いつの間にか。
依杏と釆原の二人。
寧唯が居ないということだけのみ、話題になる。

「本当に居ないの?」

釆原凰介うねはらおうすけはポツリ。

辺りを見回すも、人。人。人。
喋る、はしゃぐ。
騒ぐ、群れる。
参拝。
ぞろぞろ。
誰が誰か、区別がつかない。

逡巡しゅんじゅん

「でも、さっきまで。そっちとここで。一緒に居たと思ったから……」






梵鐘ぼんしょうが鳴っても、人が死んでいない」。
一点目。
宝物殿が、ひらけない理由は?
二点目。
地下入口での騒ぎと、不正アクセス。
三点目。

そして寧唯が、突然いなくなった。
何処へ行ったろう。
四点目。

何故?
これも、オカルトの類とかで。
およそ片付けられる話なのだろうか。

依杏いあは、焦って来た。

寧唯はいつから居なかった?
地下で?
何処に?
そこから?
それとも、まだ?

今度は、四点目が中心の問題になるのか?
人が死ぬかもしれない、ことより?






「どうしましょう」

それのみ。
依杏は言えなかった。













「次にかねが鳴るのは、恋愛成就キャンペーンの時間中です。僕は少し、寄る所があるので」

そう言って、数登珊牙すとうさんがは現場を後にする。
現場と言っても、本堂裏側には。
今時点で、二人のみ。

八重嶌郁伽やえしまいくかと、鐘搗麗慈かねつきれいじ

「地下入口の制御をしていた。というか」

と郁伽。

「大枠としてはだ。慈満寺への、許可のないアクセスを。麗慈くんが触っちゃったみたいな? 地下入口が心配で?」

「まあ、そういうことですね。いずれにしろ、必要案件だったから。そうしたまで。で、釆原凰介うねはらおうすけさんからのファイルは、ぼくら側で受け取りな感じになるの?」

「と思うけれど。というか受け取らないと。数登さんが困るじゃない」

「そういうもんですかね」

「地下で人が死んだ理由っていうのを、知りたいんでしょう。あなたも。せっかくの資料だろうと思うけれど」

「えっと。まあね」

麗慈はちょっとだけ。
苦笑しつつ言った。

「死ぬ死ぬとか、まあ過去二回あったし。ちょっと怖くはあります。話題的に」

「それは、あたしも思う」

と郁伽。

「慈満寺の境内さ、結構ひろいよね。あたし道々走って来たから、よく把握してないけれど」

「脚が素速いんでしょう。瞬発力? あなたはぼくとは別で、ずっと。たぶん」

と、麗慈はつっけんどんに返す。

「で、釆原凰介さんたちは。どのくらいで来るなとか、あるんですか?」

「そうねえ。まだ時間的にも掛かるだろうと、思うけれど」






郁伽は麗慈に言いながら、釆原のあしが気掛かりだった。

脚に傷を負っていたという、釆原の話題を。
慈満寺じみつじに来て、初めて知った彼女。
それも「美野川嵐道みのかわらんどうを偲ぶ会」の時のもので、まだ傷痕は残っている。
とか。
大怪我だ。

よく分からない気持ちになり、結局。
急いて急いて。
ここまで、ザーッと一人で走って来てしまった。

で、今いるのが。
郁伽と麗慈二人のみ。
本堂裏というわけで。

「とにかくファイルを受け取るまでは、私たちで時間がありそう。ってことだと思う」

と再度、郁伽。

「なんかあれば、釆原さんとかもくめに。連絡取ればいいし」

「そうですかね。あなたがそう言うんなら。では早速」

と麗慈。

「実験二回目です。一緒に来てもらえませんか」

「どこに行くの?」

「さっきも言ったけれど。その後ろ、鉄扉てっぴがあるでしょう。奥に部屋があって。前の時も、ぼくはあの部屋で、一人で変な音を聴いてたので。今回も同じことをします」

「すいぶん粘るのね」

「そう。とにかく、まあ一回目は失敗した。次は二回目ってことになります」

「恋愛成就キャンペーンで、鐘が鳴るのを待つぞと」

「です。珊牙さんがさんが、梵鐘ぼんしょうを鳴らしてもだめだった。だったら、キャンペーン中はどうなのってことで」

「でもさあ」

と郁伽。

「実際に、どうなの? オカルトな理由とかで、何か寺側で起こるとかあるんでしょう」

「うーん。こう見えても、慈満寺も結構。順々にデジタル化してきている気がするんですけれど……」

と麗慈。

「そのへんは、あれ。オールマイティにオカルト。とかじゃないですか?」

「なにそれ」






郁伽の求めるもの。

そこはマニアックなので。
御開帳ごかいちょうだの。
人間が見ちゃいけない秘仏ひぶつだの。
あと、人が二人も死んだ件。
寺という場所。

そこらへんを、上手い具合に混ぜ合わせて。
慈満寺で起きる怪奇ぞ!
みたいな方向性を。
話題に出来たら、マニアとしてはとても良いだろう。
とか郁伽は、一個人として思っている。

ただ、現実にはそうもいかない。
オカルトで人が死ぬなんていうのは、結構。
おとぎ話側、みたいなことになりつつある。

現にこうして、慈満寺内部の。
それも少年の麗慈が、人が死んだ件の「物理的な理由」を。
派遣に来た、数登という大人と。
探求しようとしているのである。






「【慈満寺で鐘が鳴ると人が死ぬ】っていう、噂なんだけれどね」

八重嶌郁伽やえしまいくか

鉄扉の向こう。
そこへ入ったら、例のおとぎ話的な雰囲気が、また出たので。
郁伽は言ってみる。

「うん。で?」

と、鐘搗麗慈かねつきれいじは多少うわずって。
困った様子で返す。

せっせと脚を運ぶ。

「すいません。ここの道。暗くて」

「確かに。でも、あたしにはなんか面白い」

と郁伽はなかば、はしゃいで言う。

声も互いに、大小反響し合う。
そんな空間である。
言うなれば洞窟。
心臓の鼓動。

「秘仏もさ、ここの通路を通ったわけ?」

「そうです。ただ、普通は大人、何人かで運ばないと無理。ぼくが運んだわけじゃないんで」

と麗慈。

「部屋まで行くのには、結構暗いんで。足元、気を付けて」

「了解」

「あなたの興味のある秘仏も、一緒に部屋へ置いてあります。今」

「ほんとう?」

「なんだか元気ですね」

「いやあ。説明抜きにしてさ。オカルトマニアとしては嬉しい感じよ。ここ」

と郁伽。
   
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