推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

27.

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慈満寺じみつじかねが鳴ったら、人が死ぬ」。

入屋いるや高校のうわさ
意図的な誇張で、大胆な字の羅列。
含みを増大させる?

実際に。
結果として、人が死んだために、決してうそではない。
入屋高校内へ、でんと構える字の羅列。






人が地下で死んでいた。
そして、嘘のない噂として。
どちらにせよ、結果は大騒ぎだった。
休み時間、あるいは、いつでも。

「【梵鐘ぼんしょうが鳴ったら人が死ぬ】。今回は、なかった」

杝寧唯もくめねい

杵屋依杏きねやいあ

「そうなるの?」

「今のままだったら、そうじゃない?」

「じゃあ、以前の二回の事件は?」

「偶然には思えないけれど」

と寧唯。

「想像しなくてもさ。地下の同じ場所で、人が死んでいたんでしょう」

「その時って、寧唯はさ」

と依杏。

慈満寺じみつじに居たことになるっけ?」

「そう。慈満寺へ来ていた時だったわな。恋愛成就キャンペーン、何回か来ている。イアンに言ったよね」

と寧唯は、依杏へ振る。

「結構言われた。それで、聴取とかはされたの? てことは警察か……」

「警察が警察出来ないんじゃ、意味ないもの」

苦笑しつつ。
寧唯は続けた。

「さすがに居たよ。あの時は二人目が地下でって。あ……」

PとMと「88:88」。
腕時計だ。

「意味ないや。電池切れだろう」

依杏。

「88。時間何時か見る?」

「いい。で、とりあえず話をかれて。警察の人によると、死因は自然死だった」

「訊いたのか」

「うん」






噂は目立った。
偶然で、済むものだったろうか?
所詮意味のない「88:88」と同じ類だったか。
それとも?

確かにPとM。
午後だから。

依杏いあ

「地下入口、閉じると思う?」

「さあ。深記子みきこさん側と、円山さん側の場合でフィフティ、フィフティってとこでは?」

と寧唯。

腰掛けているのは、依杏と寧唯の二人だけ。
足音がした。
何人かの声もそぞろ。

「今は数登すとうさんにファイルを、渡す。地下へ行くのは距離的にも。遅いでしょ」

寧唯が言った。

位置的には、地下と離れたところ。
本堂寄り。
到着未満の場所。






よく見れば、空の青。
ミニマムな蜂。

こういう場合、よく声が通る。
座る依杏と寧唯、それ以外の参拝客。
「PM」と午後。

よく通って、目立っていて。
今。依杏の耳に。
で、釆原凰介うねはらおうすけが来た。

「それ、一旦こっちに」

ひらいたファイルへ手で示して。

特に意味もなく。

「どれでしょう?」

と依杏。

釆原。

「開いたの、閉じて」

「え」






足音が近づいて来る。
慌ただしい感じになった。

依杏は一瞬、よく分からず。
こちらへ少しずつ近づいてくる。
刺々とげとげしく。
鐘搗紺慈かねつきこんじ

「あ」

瞬間、まずい。
と依杏は思った。

寧唯。

「紺慈、地下じゃなくて。こっちに来るっぽいけど」

釆原。

「早く、それ渡して」

少々、戸惑いつつ。
渡したのは依杏。

釆原は、慌ただしくファイルを、仕舞った。

「何か。取材を?」

依杏には、山のように思われた。
間髪は入れない。
そんな感じで、鐘搗紺慈かねつきこんじ

ころもが、かなり立派なのが。
日の光に映えていた金糸が。
より目立って、しっかりと依杏の眼に映る。

豪華だ……。
とか半ば、茫然した彼女。

「あまり座らないでいただきたい。境内にある石のたぐいへは」

依杏と寧唯は、慌てて立ち上がる。
おっと思った瞬間。
鐘搗とぶつかった。

ぶつけて来た?
わざと?
と思う依杏。

「すみません」

と釆原。

「ここは、エリアがひろくとられていますからね」

鐘搗。

「取材する事項? ないでしょう。取ってつけた用事くらいしか」

「きつい一言ですね」

「ええ。あまり記者に、寺へ介入して欲しくないものでしてね」

「不祥事は追っていませんが。何か新しいことでも?」

鐘搗はかぶりを振った。






人が死んだら、不祥事扱い?
絵として合っている?
今の場合、依杏にはよくわからない。

鐘搗紺慈と、数登珊牙すとうさんが
因縁があるという。

釆原から聞いた事情。
今、散っている火花。
喧騒?
お堂の近くでないことも、影響したか?
どうか?

鐘搗。

「数登と落ち合うためでは?」

釆原。

「何のことでしょう。たまに記者だって、寺の参拝には来ますよ」

「今、数登が何処かと、訊いているつもりなんですがね」

「さあ。とにかく」

釆原は地下の方へ手で示した。

「あちらで今、ごうごうと大騒ぎになっています。数登が居るとすれば、地下かもしれませんが」

「どこからの情報で」

「不毛な情報じゃありません。職員の方々に聞いていただければ。皆さん御存知だと思いますが。実際、深記子さんも地下へ入って行かれました」

「地下入口、閉じたほうがいいって。僧侶の方々も結構、おっしゃっていました」

と依杏も言ってみる。

「安全を確認してから、キャンペーン開催したほうが。いいんじゃないかと……」

「また地下のことですか」

鐘搗は苛立ちを、隠そうともしない。
取って返す。
依杏と身体からだがぶつかる。
まただ。

豪華な衣の金糸きんし
かすれて繊維が付着。

「えっと。わざとやってるよね」

ひそめて依杏。

「電話、どうでしょうか」

と釆原に振り。

「大丈夫?」

「そんな強くではなかったです」

釆原が一言。
依杏に言いかけて、再びスマホ。
鳴るというか、振動。

「なんだ?」

「伝言は伝えておきましたから」

数登珊牙すとうさんがが、電話の向こうで。

「その後、いかがです?」

「そっちへ向かうところだって、さっきも言ってる」

「その件で、伝言です。八重嶌郁伽やえしまいくかさんと麗慈れいじが本堂裏に居ます。少し、用事が出来たもので。今から別の場所へ、向かうことになりました」

「は?」

釆原うねはらは眼をぱちくり。

「ですので、裏では郁伽さんたちと合流していただければ。すみません。急ぎでしてね」

と数登。
苦笑しているように言った。

「あの! ひとつだけいいですか!」

と依杏。

「なんでしょう」

宝物殿ほうもつでんの扉って、何が理由で閉まっているんでしょう?」

「その件については、まだ」

と数登。

「まだ?」

と依杏は眼をぱちくり。

数登。

「今はとにかく急ぎです」

「急ぎ急ぎ、続けてわれても困るな」

と釆原。
   
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