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「鳴」を取る一人
25.
しおりを挟む「要するに……」
と杝寧唯。
「その記録を消した誰かは、探しておいたら。かなり安心案件ていうか」
「消されているって、それは不正アクセスがあったら。セキュリティの面から、消えるデータっていうのもあるんじゃないですか」
と釆原凰介が、脇から言った。
「セキュリティで担当なさっているなら、被害防止のための措置でデータ削除とか、自動的なのが働くとか、あるのでは」
「他所から来たあなたが、別に利用しているわけでも。担当しているわけでもない」
円山梅内は、眼に見えての苛立ちが。
「私が言っているのは、不正アクセスで侵入してきた、何者かが敢えて。地下に入った方々の情報を、利用どころか削除しているのかなという。という可能性ですよ」
釆原。
「ですが、何のために?」
「わかるなら述べています。あくまで私がしたのは、仮定の話。とにかく。数登さんが地下に入っている、という情報は。複数情報があるのに対して、端末、利用記録とも残っておりません」
「情報を消すために。不正アクセスなんてする必要性は」
「ちょっと待って!」
鐘搗深記子が、割って入った。
「円山は要するに、端末に数登の情報はない、と言いたい。よくわかったけれど。私は地下に行って来るから。その前に、不正利用というのは?」
「ええ。ただ不正と言っても、微々たるもので、過剰ではありません。せいぜい二、三。あまり目立った動きもなく。先程言った、データ消去とやらを可能だったかも、不可解です。そう長い時間の、アクセスでもなく」
と円山。
「地下入口を、閉じないのですか?」
「とにかく、出来ないわ。参拝の方々だって、いらっしゃる」
「では、方々が参拝を終えていらしたら、その後閉じましょう。今日はいろいろ起こり過ぎます」
「恋愛成就キャンペーンがある。それまで、閉鎖に持って行く時間的な、余裕がある?」
「それは……」
なんだか喧嘩腰が、眼の前で起こるのが多い。
とか杵屋依杏は思って、そちらを傍観していたが。
不正アクセスの件は気になった。
それと。
地下に入るのだけなのに、そんなに人々のデータって。
必要?
場所は寺である。
慈満寺は要塞だ、とか円山が宣うなら。
話は分からなくも。
単純に寺。
参拝客が来て、あと出土品が出るから。
そのマニアが居て。とかいう場所なのである。
「やっぱり」
と依杏は尋ねてみた。
「この場所。二回、人が死んでます」
と続け。
「だからこの場所で、セキュリティ強化した面っていうのは。あるんでしょうか。地下に入る人の、データを複数取っておくって」
「直球で意見する子ですね」
と円山は少々、驚く様子で。
その後、表情が解れた。
依杏。
「パッタリ人が死んでたっていうのを。二回もだったから。私も新聞で見て知ってて……」
「丁度この場ですから。説明しておくのは悪くない」
と円山。
「セキュリティの強化は。単的に言えばね。まあ、不正アクセスは、今はどこでも不思議ではなく。ただ、慈満寺のような場で起こるというのは。外部に漏れて、外部の得になるような重要データ、というのも所有しておりませんから」
と苦笑。
「このIDロック盤の他、少し上を見ていただくと」
監視カメラ。
深記子。
「前は、こんなもの。付いていなかった」
「ええ。西梅枝教授と話し合った末、設置しました。その他、地下内部にも設置。不定期で収集する、映像データを送ってきます。もしかすると、先程の不正アクセスは、その映像目的だった、という可能性も否定は難しい」
「どちらにせよ。不正アクセスの理由としては薄いわね」
と深記子。
「場所は、どこからのアクセスだったの?」
「実を言うと、経由には慈満寺が」
「あら。じゃあ内部の者がってこと? 振るって突き止めた方がいいわ」
「では、この際。地下入口も閉じ」
また押し問答になってくる。
依杏が疑問に思った点。
地下入口を、恋愛成就云々前に閉じろ。
閉じるな。
それ以前に。この場合。
宝物殿の扉って一体、何のためにあるのだろう?
前に、閉まったまま?
深記子は、円山の反対を押し切って。
入口に入ろうとしている。
地下への誘導は一応、完了した?
それなら、と。
なんだかんだと。
するの、しろ、だの。
押し問答は朗々と。
結局、円山は深記子と一緒に、地下へ入って行った。
依杏たちの後方から、参道を来ていた鐘搗紺慈ら。
彼女が振り向きざま、彼らが視界に狭く映る。
いずれにしろ、数登珊牙は地下には居ない。
居るの閉じるの、押し問答の中。
釆原だけ、先だって脇道へ逸れる。
依杏と寧唯は、少しその押し問答の様子を見守ってから。
逸れる形に。
「宝物殿の扉って、開くの?」
と依杏は寧唯に尋ねた。
「深記子さんによると、不可能でもない。っていう様子だったじゃない」
依杏。
「確率としてはある、とか?」
「もしさ。宝物殿の宝物目当ての人を防止する目的で。大事な扉に栓をして~。とか」
「でも、そうしたからって、地下で参拝客が死ぬ理由に、ならないよ」
「ここは寺だよ。オカルト事項なんて、過密状態で起こり得る」
「沢山起こるっていう理由ないけど」
「オカルトに理由を探すなんて野暮だって。イアンは」
と寧唯は苦笑。
「ただ、人が死んだのは秘密でもない。ただの事実」
依杏。
「ちょっと、心配。確かに今日、イレギュラーは沢山過ぎるかも」
「数登さんも、大変なところで。慈満寺派遣になってません?」
と寧唯は釆原に振った。
「釆原さんは宝物殿の扉、どう思います?」
「俺は、あの二人どっちも。なんか怪しいと思う。先だって数登は調べているし」
と釆原。
ごもっとも。
と依杏は思いつつ。
参道を後ろへ引き返す。
ちょっぴり、違和感。
歩きすぎ?
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