推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

24.

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実際、円山梅内まるやまばいないは地下入口前に立って。
参拝に入ろうかとするであろう、付近の客を「れぬ」とばかり、押し戻していた。
結構、強引に見える。
円山の容姿。
釆原凰介うねはらおうすけの持って来たファイル情報で見た通り、というか杵屋依杏きねやいあ杝寧唯もくめねいの前を通り過ぎた、三人の僧侶。
その中の一人。

強いて言うなら円山は、岩撫衛舜いわなでえいしゅん田上紫琉たがみしりゅうという僧侶と比べると。
多少体型が、大きめという感じに見受けられるくらいで。
背丈は程々。
あとは眼鏡。
そして剃った頭にころも

釆原の話とファイルの情報によると、地下入口のセキュリティ管轄に携わっている当人らしい。
その当人が、人力で参拝客を押し留めていた。






寺のセキュリティ導入はいいものの、今の場合は無線もないというし。
宝の持ち腐れ感が、どうにも。
依杏いあには否めない感じがした。

「地下に人を、入れない計画とは」

と釆原が、鐘搗深記子かねつきみきこに尋ねた。

「御覧の通り。円山は地下でまた、何か起こるんじゃないかと。気にしているに違いない。見ての通りよ」

と半ば、溜息交じり。

「しかし。数登すとうの姿が見えないわね。さては、地下に入っているのかもしれないけれど。ちょっといてみましょう。円山!」

と言って、大きく一呼吸。
深記子はそちらへまた。
せかせかと速歩はやあし






なんとなく、客を「入れぬ」か「OK」か、で押し問答している様子。
傍観しつつ。
で、依杏たちも地下入口付近に到着。
結構距離は、ここまで長かった。

そろそろ時間的にも、恋愛成就キャンペーンの開始時間に、差し掛かる頃ではないだろうか。
と依杏は思った。
しかし今の場合、彼女は、腕時計を忘れていた。
スマホを見ているような、感じでもないでしょう。
と更に彼女は、思いつつ。






「今は大丈夫でしょう? 何故強引に。お客様がたを、おとおししないの」

と深記子。

「大丈夫も何も。付近への警戒は必要でしょう。イレギュラーなことばかり起こる。寺の者もみんな、大騒ぎです」

と円山は若干、怒ったように言っている。
それと声を潜めた感じに。

「それは、梵鐘ぼんしょうが勝手に鳴ったのを。気にしているわけね」

「当然です。大騒ぎ、とは言い過ぎましたが。こう、恋愛成就キャンペーン中にいろいろ起こっていては。私も何のために、セキュリティを強化したのか分からない」

テンションはロー。
ネガティブ感満載の発言。

「この際、今日だけは。地下を閉鎖してはと。私は思うのですが」

「あら。地下に数登すとうが居るのに、閉鎖するの? だったら参拝客の方をまず、絶対地下へお通しして。話はその後。今居る方々は、お通ししなさい」

円山まるやまは眼をぱちくりしている。

「数登さんが?」

「ええ、そう。あなたがここへ、辿り着く前じゃないかしら。地下へ入ったって。そうでしょう?」

「そうでしょう、と言われましても」

「ああ。それと。付近で麗慈れいじを見なかった? もしかしたら数登と一緒かもしれないし。どう思う?」

と深記子、は依杏たちを振り返り言った。

「そうかもしれませんね」

寧唯ねいは苦笑。

「それこそ私は、存じていないことでして……」

と円山は言う。

「確認がまだです。説明も。数登さんが地下へ、というのは本当ですか?」

「ええ。携帯、いえスマホで急遽、連絡も取ったそうだから」






端末としては、ファイルより若干小さいもので。
円山梅内まるやまばいないの、手にしている端末である。

彼と深記子が何やら言い合っている間に、地下入口の押しとどめは一時なくなった。
ので、押し留められていた付近の、参拝客たちは各々、地下へ入って行った。
IDカードを通す盤が、入口についている。

依杏。

「寧唯ってIDカード、持っていたっけ?」

「それは、郁伽いくか先輩が。あたしは、慈満寺じみつじに回数来ているってだけで」

と寧唯は苦笑した。

「こう、タイミング的にどうだろう。そろそろ嘘がバレるんじゃない?」

「確かに」

と依杏が言いかけて。
絶妙のタイミングで。

「やはり、ないですね」

と円山。

「一応、端末に記録が残る。仕様になっておりますので」

「ええと。それは、どういうこと?」

と深記子。

「数登さんの記録が、ないということです。セキュリティ上、IDカードの情報というのはここの」

と円山は地下入口の、盤を指して言う。

「盤を一回通すと、中枢へ全て記録され、今ある端末に各々残る仕組みになっています。一時情報としてですが。一日程度で記録は、別場所へ移されますから、端末からは消去されます。ですが一日程度であれば。残るはずです。その記録がないとなると」

「何かの間違いではないの? 寺の者はセルフで。IDカードなしでも通れる仕様だった、とかじゃなくて?」

「いや、それは……」

と円山。

「そこまでこのシステムは、オールマイティではありません」

「結構不便ね。とにかく私も、地下へ行ってみたほうが早いか」

と深記子。

「何か不具合がいろいろあった、とかではないの? 今日はシステムの方でも何かあったんでしょう」

「ああ、御存知でしたか」

「イレギュラーは他にもあったんですか?」

と寧唯が横からいた。

円山。

「ええと。この方々は」

「ああ、数登が地下に居るということを確かめて下さったの。見憶えあるでしょう? この人は記者さん」

と深記子は、釆原を振り向きつつ。

円山は、訊いたものの。
あまり関心がなさそうに、再び端末に視線が戻る。

「ええ。釆原さんなら存じていますが。イレギュラーはありましたよ。例えば、不正アクセス」

「不正アクセス」

依杏と寧唯は声が揃った。

「ええ。今日中、数回に渡って。攻撃ではないんですが。ただもし影響があるとするんなら。地下入口で集まった情報の消去などにも関係してくるかと」

「それは、つまり?」

と深記子は尋ねる。

「数登さんが仮に、『絶対』とおっしゃる通りに地下へ入っていたとしても。仮にイレギュラーが起こっているとして。その記録が消されている可能性も、否定できないということです」

円山は言った。
  
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