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「鳴」を取る一人
23.
しおりを挟む「それでだ。もし円山さんが地下にいたら」
と杝寧唯。
「数登さんが地下にいるっていう話さ。深記子さんに、嘘だってバレちゃうな」
「今のうちに、釆原さんだけ。お堂の裏へ向かってしまうとか」
と杵屋依杏は、焦って言っている。
「いま深記子さんは、鐘楼のほうに行っちゃってるので」
「いや、少しタイミングを見たほうがいい」
と釆原。
「あれだと、彼女戻ってくるらしい成り行きだ。地下へ誘導してから、お堂へ動いたほうがいいと思うけれど。俺は」
「そうでしょうか……」
「拡いから少しでも、お堂への距離を稼ぐのは構わないと思う。距離だけ稼いでおいて。後、俺は途中で反転」
「分かりました」
鐘搗深記子は、衣を着ている。
そのため動きにくい、と本人で云っていたものの。
意外と、戻ってくる際の脚はそうでもなかった。
「恐らく恋愛成就キャンペーンへ参加するより。あなたがたも地下の件のほうが、今は気になっているんでしょう?」
と、少し息が切れながら言う深記子。
戻って来た。
「円山は地下が気になって。そちらへ行っているみたい」
「無線みたいなの。何か、円山さんとか、寺の人同士で持ち合ったりしていないんですか?」
と寧唯が尋ねる。
この様子だと持っていなそうな気がするが。
依杏は思った。
深記子。
「一応無線はあるけれど、あまりにも人が来る日は。電波が混線してしまうから。敢えて今日は、使っていなくてね。それに、地下ではあまり電波も通じない」
「地下の宝物殿って、扉。閉じているんですよね」
「ええ。何故、閉じているか知りたい?」
寧唯が大仰に。
「なんというか、噂があるんですよ」
「噂?」
と深記子が眼をぱちくり。
「オカルトな感じのやつで。地下で死んだ人々は、地下の宝物殿目当てだったんじゃ。とかいう」
入屋高校内での、慈満寺の噂として。
二つある結果になる。
一つは、慈満寺の鐘が鳴るから人が死ぬ、とかいうので。
更に一つは、寧唯の言った地下の宝物目当てで、人が死ぬ。というやつ。
絵的には、さんざオカルトで固めて。
人が死ぬという噂へ掛けつつ。
しかも場所は寺だ。
だから余計に話題としては、方面的にも盛り上がった。というのがある。
人々の死ぬ件で。
「開けようと思えば、開けられるのだけれど」
と深記子。
「今は事情があって閉じているの。だからあまり、宝物目当てでどうっていうのは、私は信じられないけれど」
と苦笑。
「そもそも鐘が鳴ってという件もね。ただ、寺の職員にも気にしている人はいる。円山がその一人」
「で、岩撫衛舜さんと。田上紫琉さんは……」
と杵屋依杏は、訊いてみた。
「何か数登さんに関して、彼ら。言っていました?」
「いえ、彼ら二人とも。数登を見ていないというのよ。やはり地下へ行くので構わないというか。数登は地下に居るってあなた、さっき言っていたでしょう。円山がもしかすると」
「もしかすると?」
と寧唯。
「彼、気にしいだから。さすがに今日みたいなことがあれば、余計に騒ぐに違いない」
距離はあったが、見えて来た。
距離があって、垂れ幕が小さく見えていたのが、形がはっきりしてくる。
色とりどりはここでも。日の光に映え。
主に朱色が目立つ、カラーリングだと分かった。
お堂。深記子によれば本堂というらしい。
主に、恋愛成就キャンペーンでもメインになる場所。
地下入口方面に、人は少なそうで。
お堂と対照的で、色は少なめ。
何しろ参道途中にあるだけの、エリアを取った場所という印象である。
朱色が目立つ一方。
地下入口は石造りで、灰色が強い印象だ。
それに鐘楼。
三点結んで、地点。
今はその真ん中を過ぎた辺り、なのかもしれない。
やがて速歩になって来た各々。
依杏はなんだか、余計に焦りが増した。
お堂の裏に、無事に行くことが出来るだろうか?
三点の真ん中地点を通り過ぎて、地下寄りに進む四人。
やはり、ファイルに載っていた円山梅内だった。
彼が地下入口に居て、参拝客を留めているのが分かった。
四人で、更に脚が速くなる。
「やっぱり。円山は余計に、気にしいだから」
と鐘搗深記子。
「あの様子じゃ。地下へ人を入れない計画みたい」
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