推測と仮眠と

六弥太オロア

文字の大きさ
上 下
133 / 136
  無を以て追跡と

21.

しおりを挟む
 
「依頼されている葬儀って、なに

釆原うねはら数登すとうに尋ねる。

「釆原さんも一緒に来ますか?」

数登は拳銃を拾い上げながら言う。

「葬儀は向かいのビルなんです」

「葬儀がビル?」

数登は微笑んだ。

「説明というのは難しい」

「そうかもね」

数登は釆原に金の香炉を渡して、自分は拳銃に弾を装填した。






いつの間に弾を抜いたのだろう。

と釆原は思った。



そのあいだも床は傾き続けている。






レブラを追うためによく分からない手掛かりを追ってここまで来て、レブラに辿り着けば今度はビルが傾きはじめる。

なんとしていいか釆原にはよく分からなかったが、頭の中は冷静だと自分では思っている。
だが明らかに画としては危機感満載。






レブラは眼を丸くしていたのだがわれに返ったように。
数登とじりじり距離を詰め始める。

数登はそれに気付いて少し構えの姿勢を取った。






「あるのなら本物の香炉を出してもらおうか」

レブラは言った。とても冷静に。

「その香炉は本物なのか」

数登はかぶりを振った。

床の傾きが一段と激しいものになった。

九十九つくも社としても美野川みのかわ様の御夫人に酷く手を焼いていました。そしてあなたはアイドルとしての活動休止以前、集中的に御夫人から酷い扱いを受けていたと言いたい。僕の受けた依頼は、美野川嵐道らんどう様が【書斎】として利用していたビルの葬儀です」

数登のその言葉を皮切りにしたように床がドッとなった。

「その前にまずここを、出ましょう」

数登は言った。

「逃げるのか」

レブラは数登の言葉に抵抗しようとしたのだろうが体のバランスを、支えきれない。

僚稀はレブラを支えようとして移動を試みて、言った。

「ちょっと何が何だか分かんないですけれど、レブラさんを連れて降りますよ僕!」

そこに居た一同ポカンとなる。

僚稀は大穴の手前へたどり着き、そこから下を覗いた。

「飛び降りてもたぶん……下に居る人が準備してくれているっぽいんで。命あっての物種ものだねです」

レブラは抵抗しようとしなかった。






捜査員も「逃げる」ことを選択するものが多かった。

床、というよりビル全体が傾く中で逃げ道として確保できるのは、開いた大穴と、釆原うねはらたちがこのビルの上に上がるために使用した階段部分。

ただこちらはかろうじて。






「どうしますか。釆原さん」

数登は尋ねた。

僚稀はもうレブラを抱え込むようにして大穴へ向かっている。

「下で待っていますから!」

僚稀はレブラと共に飛んだ。
大穴から恐らく何事もなく、地面に向かって。

「オウスケさん」

なんでもいいが話している場合じゃないだろう」

数登すとうは急斜面になった床を慣れた様子で、滑るようにして移動した。






レブラに関するいろいろをまだ全て、当の数登から聞き出せたわけではない。

手掛かりを追ってここまで来て、自分が姿を消すなんてことになったらどうしようもない。






釆原も数登の後に続いて、斜めになった床を滑ろうとした。
だが大穴側にあった物体も同じく滑って来て、それをけようとして体をずらし、避けたはずが脚の方へ怪我をした。

思ったより傷は深そうだ。
数登の元へ着いた時には、血で赤く染まった自分の脚を見る破目はめになった。

釆原はスーツを裂いて脚へ巻こうとするが、手が覚束なかった。
痛覚よりも感覚の麻痺が先だったのかもしれない。

数登もまたスーツを裂いて、それで釆原の脚を止血する。






「耐えられますか」

なんとか」






スマホが振動する。

菊壽きくじゅかもしれない。



数名の捜査員も数登の傍へやって来た。

釆原たちのいるビル内部にいた大体の人が、大穴から下へ降りた。
だが降りずに残った人々も。
その数名がいま数登のそばに。



どこかでまた爆発音がする。






「【書斎】だろうか」

釆原うねはら数登すとうに尋ねる。

「今の傾きから判断するに、【書斎】のビルはこのすぐ下でしょう」

数登は言った。

「であればもう少し、大きな衝撃があるはずです」

要するに別場所で爆発したのだなと、釆原は思うことにした。

「どこから出る」






数登は少し構え拳銃を発砲。
三、四回。
下へ向けて。

そして捜査員の持っていた銃の銃身全体を使って、衝撃を更に加える。
底が抜けた。
砂埃が舞った。



揺れがある。

釆原は体を支えきれない。
だが一人の捜査員に肩を貸されて、なんとか立った。






血が濃く重くなっていた。

釆原はシャツと破れたスーツ上下。残りの布を全て脚へ回した。






底が抜けた穴の部分を、覗き込むようにする捜査員。

数登と釆原たちにとって、「床面」となっている部分が更に傾く。

「下は向かいのビルの、屋上部分です」

捜査員が言うので数登すとうも底から外を覗く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ミステリH

hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った アパートのドア前のジベタ "好きです" 礼を言わねば 恋の犯人探しが始まる *重複投稿 小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS Instagram・TikTok・Youtube ・ブログ Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...