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「問」を土から見て
2.
しおりを挟む「謎解き!」
依杏は課題も何もかも放り出して郁伽に向き直った。
郁伽は苦笑する。
「どんなですか」
「とりあえず資金源にはなるんじゃない?」
「だからどんなですか」
慈満寺のことがあってから、というか数登はそれ以前にも何件か【調査対象になりそうな案件】と取っ組んだ経験があるということだが、依杏は九十九社に入って何件か依頼を受けるようになった。
実は通信制の高校の費用もその依頼を、資金源にしてまかなっている部分がある。
だが解決できるような案件もまた少ないのが現状である。
依杏としては「スターアニスに似ているシキミの種の、毒ではないか」という予想が失敗したということが心残りで、毒に関する謎解きとかなんか来ないかなと待ち構えているのだが、今のところはない。
「どんなっていうか。謎って言うほどでもないかもね。なくなるんだって、物が」
「そ、それはどういう」
「例えばね、ステージへ上がっている最中とか、イベントに参加している時とか。自分の手が離せない時に何か、なくなることが多いんだって」
【~している】ということは、つまり。
「だ、誰なんですか依頼してきた人って」
「たぶん見たことあると思う。あれスイッチ消したの」
勢い余って依杏はパソコンをシャットダウンしていた。
そういえば課題をやったのに、上書き保存していなかった。
郁伽はパソコンのスイッチを入れて操作していく。
「え」
依杏は思わず画面を見て眼を丸くした。
「そうバーチャルアイドルが依頼人。T―Garmeね」
「ガルメさん……」
依杏は眼が点になる。
「ガルメさんってAIだって云っていましたよね」
郁伽は笑った。
「やだなあ本気じゃないさ。ネタというか自称だよ。ちゃんと中の人がいてね、その子に頼まれたの」
映像で動き回っているガルメは、相手のバーチャルアイドルと楽しそうに話をしている。
「相手の方はU-Orothéeっていうバーチャルアイドル。私もまだ、中の人に会ったことはないんだけれど、何でも調査能力に長けているとかいう設定みたい」
珊牙さんなら何か知っているかな?
珊牙さんと、アイドル。
依杏はかぶりを振った。
「それって刑事さんとかの知り合い多いみたいな、ですか」
「どうかな。あくまで設定だしね。で、T―Garmeの本名は賀籠六」
「賀籠六……」
「絢月咲ね。写真はこれ」
「うわあかわいい」
依杏は思わず言っていた。
郁伽のスマホを思いきり覗き込む。
「自称AIで照れ屋だからバーチャル。だから顔出しはしたことがない」
依杏はきょとんとするが、言った。
「で、その賀籠六さんが困っているということですね」
「そういうことね。出られる?」
依杏は頭を縦に振る。
資金源の方が課題より重要だ。
依杏の思考は謎解き最優先になりつつあり、自分でも「珊牙さんに似てきた」と思ったり思わなかったりする。
*
「なるほど。では二ヶ月前から今月にかけて二十五件目ということになりますね」
「そのうち私と杵屋が解決出来たのは三件。あとの十二件は珊牙さん」
「そこそこでしょうかね」
要するに残った十件は解決出来ていない。
と依杏はツッコミを入れた。
頭の中で。
「新規のがプラス一で二十六件です。だからこれから、それを解決というか今から話を聞いて参ります」
郁伽は言った。
今三人はホワイトボードのある小会議室にいる。
小さな丸いマグネットでボードに貼り付けてあるのは推測と、要するに謎解きに関する資料で。
そして部屋自体、葬儀屋の仕事とは別のものとして扱われている。
「依頼はどんなものですか?」
数登は郁伽にそう尋ねた。
「T―Garme、実の名前は賀籠六絢月咲。歌の活動ありという点では私と同じだけれど、あの子の場合はバーチャルの容姿があるっていうのが……あれ」
数登は茶を啜っている。
「探し物の依頼です」
「そうですか」
湯呑を置いた。
「残った十件のうち一件が畑に関するものでしたが、その件で僕も少し野暮用が」
職員が一名入って来た。
「與護さんの法要の件なんですが……」
「僕も畑で野暮用が」
「ああ、何またですか!」
「以前のものとは別件でしてね」
数登は微笑んだ。
職員はかぶりを振って出て行った。
「なんか探し物より畑の方が気になってきたな」
郁伽は言った。
「あのう法要はいいんですか」
依杏も言った。
「出張の法要で、アツも病院のあと取材に行くそうです。何かあれば電話で連絡をします」
「誰かまた偉い方のとかですか」
「人数確保はしてあるんでしょう」
依杏と郁伽は同時に言った。
「ええ」
ガルメの自宅は西陣にある駅から二駅と徒歩十五分の所らしく、依頼なので依杏も自宅へ行く許可を得た。とのことで。
その西陣駅へ行く途中に畑があった。
「珊牙さんの畑で野暮用ってなんですか」
依杏は尋ねる。
「以前のは確か【ビニールハウスが一夜にして消える】とかいう」
郁伽も言った。
「誰がどういうふうにやったかっていう証拠とか手掛かりが少なすぎたのと、そのビニールハウスが消えたのは一回だけで、しかもちゃんと戻ってきたから未解決リストへ」
「そうですね」
数登は苦笑した。
「ただ今回は、土の中で何かが起こったようです。所謂掘り出し物があるかもしれません」
依杏と郁伽は顔を見合わせる。
何やら人だかりが出来ている。
「探し物の件は、お任せしますよ」
数登は微笑んだ。
「Yes,sir!」
郁伽は言った。
数登は人だかりの方へ向かう。
*
「お疲れ様! さ、ちょっと早く入って!」
ガルメこと絢月咲は依杏と郁伽の腕を引いて、ドアの奥へ連れ込んだ。
あるいは押し込んだ。
勢いよくドアを閉める。
「さあこれでよし」
絢月咲は手をパンパンとやる。
「大丈夫よね二人だけ? 実は数登さんにも頼みたかったんだけれどね」
「珊牙さんには報告してあるから何かあれば連絡する。で、どの部屋なら入ってもいいの?」
「大丈夫よちゃんと今日は片付けたんだから!」
依杏は少し機嫌を損ねたように見える、絢月咲の顔を見上げた。
詳細を言えば絢月咲に腕を引っ張られた際、依杏は玄関でこけた。
依杏が、映像で見た彼女の姿はバーチャルそのものだった。
頭身や体のパーツなどはバランスが良く、とても可愛らしい顔立ちだった。
全体の色としては白が多いかもしれない容姿で、青いメッシュにシェルピンク調の髪色が印象的で。
実物の賀籠六絢月咲はとてもスラリとした体型で高身長だった。
依杏から見れば。
写真で見たとおりだが髪の色は黒。
T―Garmeが長い髪なのに対して絢月咲は黒のセミロング。
照れ屋と言っていたけれど、全然そんな感じがしないなあ。
ただ物静かな方ではありそう、と依杏は思った。
依杏と郁伽は居間に通された。
確かによく片付いている。
体を包みこむようなソファにテーブルセット。
質素で全体的に狭い造りだが、そこはバーチャルアイドル、一応二階に撮影用のスタジオを備えているらしい。
依杏と郁伽は紅茶を淹れてもらった。
九十九社ではずっと湯呑の茶なので、依杏はなんだか外国にいるような気持ちになった。
出された瞬間飲んだ。
「お、美味しい……」
「お砂糖はいる?」
「大丈夫ですそのままでとっても美味しいです」
「よかった」
絢月咲は微笑んだ。
「さて本題に入りましょう」
映像で動いていたガルメさんと、絢月咲さんとは性格というかキャラが違うみたい。
依杏はそう思って、絢月咲の顔を見つめた。
「最近、なくし物が多いのよ」
絢月咲はそう言った。
「杵屋にしたら紅茶の方が本題だったかもね」
「そ、そんなことないですよ!」
郁伽に言われて、依杏はむくれた。
「で、なくし物はどんなのが多いの?」
「あんまり思い出せないんだけれど、とにかくなくし物が多いの」
「じゃあ種類はいいや。どういう状況でなくしたかは憶えている?」
「それはこの間話したよ」
「思い出しやすくするためだよ。なんでも良いから書いてみて。それでなくした物を思い出していけばいい」
「なるほど……」
絢月咲は紙に書き出していった。
それで結局、絢月咲が何をなくしたのかがちゃんと一覧表になる。
郁伽はその一覧に眼を通す。
「えーとポイントカードにスマホケース、扇子にハンカチ……。なんだかまるで繋がりがないわね」
「家の中でもなくし物が増えたっていうか、そこには一つしか書かなかったけれど。扇子以外は大したものじゃないから。いま一覧に書いたのはほぼ外出先のものね」
「落とし物と考えれば考えやすいですけれど、家の中で落とし物っていうのは変ですね」
依杏は言った。
「出てこないってことですよね、なくしたまま」
絢月咲は肯いた。
依杏と郁伽は顔を見合わせる。
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