推測と仮眠と

六弥太オロア

文字の大きさ
上 下
129 / 136
  無を以て追跡と

17.

しおりを挟む
姿勢。あの声。
そう、レブラだ。

今は全く髪型が違うが。



いて言えば胸、いや体の形まで変えている。と言っていい。
だが面影がある。

そう釆原うねはらは思った。






レブラが大穴から数登すとうの方へ振り返る。

その途端に下では大きな声が上がると同時に、何やら乱闘するような騒ぎまで聞こえてきた。






僚稀は釆原に目配せする。

釆原たちが上がってきた階段した、何やら物々しい集団が集まってきているのが分かった。



レブラと数登がこのビルへ入る時に見た装甲車。

そして追って来た一人の捜査員。



今は、捜査員は一人だけではないのだろう。

そしてレブラも一人で来たのではなかったのだろう。






「レブラは香炉目当てだったんじゃないですかやっぱり!」

小声なのに大声を張り上げるように僚稀は言った。

「盗むためにちゃんと準備してきたということだな」

「そうなりますね。盗むっていうより守りなんじゃないですかレブラにしてみれば」



レブラは記者を嫌っていた。

となれば、いま階下にいる奴らは自分たち相手に容赦ないかもしれない。






動けば見つかりそうな距離。

釆原と僚稀は息を詰める。






数登は大穴から、下を見つめているようだ。
釆原たちの方へは向かない。

その手を軽く下に向けて振っている。



釆原と僚稀はポカンとなった。






「残念ですが、あの香炉は本物ではありませんよ」

数登は振り向いた。

「装飾は全て手作業とあなたは云っていましたが、あの型番のものはカタログで何度も取り上げられています。九十九つくも社ではそうなんです。レブラさん」

言って微笑む。






一瞬騒ぎが止んだ。

レブラもポカンとしているように見える。



「あなたの声を聞いてすぐに分かりました。アイドルのかたではないか、と」

「知っていたのか」

数登はかぶりを振る。

「例えばの話ですが、相手の発声方法が腹式ふくしきに近いものか、それとも喉からなのかということについては、僕にも分かります。その防弾チョッキもまた、音程を上げ下げするのに一役買っていたのかもしれません。今は恐らく本来の音程に戻っているのでしょうがね」






辺りが帯電していくようだ。

止まっていた下の騒ぎが徐々に動き出す。






「レブラという名前はどこで知ったのかと訊いている」

嵐道らんどうさん、少なくとも偲ぶ会に関わっている者なら、分かり得ますよ」

「分からなくていい」






レブラは数登に近づいた。

帯電どころか、その体格まで変わっていくように見えた。

それは俺だけだろうか。






僚稀と目配せする。

騒ぎは広がり、下の階段に身を潜めていた者たちも身を乗り出す。






数登が言った。

「あなたには本当に《守る》という感情がありましたか」



レブラは数登に掴みかかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ミステリH

hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った アパートのドア前のジベタ "好きです" 礼を言わねば 恋の犯人探しが始まる *重複投稿 小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS Instagram・TikTok・Youtube ・ブログ Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...