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「鳴」を取る一人
14.
しおりを挟む「慈満寺のマニアなら、割かしセキュリティ方面に力を入れているっていうのも、知っています?」
「ああ、確かにね。その問題の地下入口は、IDカードで開けるようになっているんでしょう」
「なら話が早い。実験でもそういうデジタル方面は重宝されますからね」
「ふうん」
「仕事内容としては、更に一個あって。そっちは画面を確かめる方だったんですけれど。さっき言った一個目のはこっちで」
と麗慈が言い、どこから取り出したかスマホを触り出す。
「これじゃあ画面自体小さいわね」
と郁伽がポツリ。
「大きくも出来ますけど」
言うなり、空中に複数画面が出現した。
四角い、透明度の高い、仮想表示であろう画面。
よく映画なんかに出て来そうなやつである。
郁伽はポカンとして見ている。
「僕はこっちの方面で、結構マニアックな感じですね」
と麗慈はニコニコして言う。
「細かい説明は省きます。まずこっち。さっき言った『別の音が鳴るか、鳴らないか』の方の実験結果です。青い欄があるでしょう。そこに波形があるのと、ないのとある。波形のある方は、珊牙さんが鳴らした梵鐘の方です。こっちは眼で見ても」
「鳴っているということ?」
と郁伽はやっと聞いた。
「そういうことですね。波形があるので。で、こっちの欄では波形がゼロですね。何も映っていないでしょう。だから肝心の音も実際には鳴っていない。レコーダーもありますけど」
「ええ。一応こうして眼で見ているから、大丈夫です。それで、続きは」
と数登。
「一番結果として欲しかったのは、どっちの欄にも波形が取れる形だったんですけれど。今回は片っ方だけだったということですね。前回の画面はあります。両方の欄に波形が出ているでしょう」
つまり麗慈は、こう言いたいらしい。
恋愛成就キャンペーン中に、鐘楼で鳴らされた梵鐘と、その他に別の音が鳴ったということ。
麗慈は地下で人が死んだ日に、たまたまその梵鐘とは別の音が鳴ったのを、お堂の裏の部屋で聴いていたという。
咄嗟に録音したのが、今出した画面で出た波形の記録だったということで。
「じゃあ、両方の波形が取れるっていうのが、今回目指していた形というわけね。というか今回も両方取れる形が理想だったと」
と郁伽。
「そうです。でも実際には別の音は、今回鳴らなかった。ただ、問題は珊牙さんが梵鐘を鳴らしたから、っていう仮定も立てられるし。それに、今は恋愛成就キャンペーンの時間中ではないので」
郁伽のスマホに連絡が入っていた。
彼女が見ると、先程送ったものに対する返信で。
「人相送れって言うけれど、私たちなにも写真も持っていないんですよね。六月にレストランで、数登さんと会っただけだし。ということで、数登さんの人相はないですが、一応私たちの写真送っておきます。確認材料にはなるかと」
と送って寄越したのは、寧唯だった。
「すいません、釆原さんのファイルを渡したい件でこんなのが」
「なんです?」
と数登。
郁伽。
「いや私、数登さんの人相知らないかって、連絡送っていたんですよね」
と郁伽は苦笑。
「でもまあ実際、今居るわけだし。それでファイルの件、どうしたら」
「写真をまず見せてください」
「了解しました」
空中の複数の画面に、その写真が出る。
杵屋依杏と、釆原、それから寧唯だ。
「どこで撮ったんですかね」
と郁伽。
「さあ。少なくとも、境内には違いないでしょう。三人でこっちに向かっているのかもしれません」
「その三人、間違いないですね。さっき山門近くの敷石の所に座っていたから。郁伽さんの知り合いだったんですね」
と麗慈は少しムッとして言った。
「で、地下の入口に関しても。いろいろ気を付けなきゃいけなかったので。そっちも制御をしておく必要があった」
「と言うと?」
と郁伽。
「一応、梵鐘を鳴らす実験なので、念には念を押してですね。地下入口の制御を厳しくしたんです。一時的にだけれど。例の件では地下で人が死んだのは事実ですから。こういう制限を勝手にいじっているとか、あんまり寺の人には言っていないんですよ。今回の実験、寺の人に許可取ってやったわけでもないから」
と麗慈。
「数登さんとの実験であって、慈満寺全体でのイベントではなかったということね」
「そういうことです。だから、あんまり公にはしたくない感じだったけど」
「デジタル系の制御で、あなたはマニアックっていうこと」
「そういうことですね」
と麗慈。
郁伽には、理解の範疇を超えていたものの。
地下入口の全体的な管轄としては、当然慈満寺の管轄である。
セキュリティ方面、およびデジタルで統括する所の。
そこに麗慈は、個人で割って入ったということらしい。
技術的には、やはり「マニアック」と言えるのだろうか。
その地下入口の制御に少し、時間を取られた。
その間に、数登に着信が入って、彼は石段から移動。
郁伽は、麗慈が作業するのを見ている。
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