推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

6.

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数登すとうと言います。ああ、詳しくはこちらに」

腰掛けた彼は言った。
依杏と寧唯は変わらず固まっている。






小さい紙片。
取り出して、数登はテーブルへ載せた。

何故か裏を上にして置いている。
たぶん名刺だろうということは、分かる。

「そ、葬儀屋さん?」

と寧唯は言った。
一度、視線を落とす。

「ええ」

「葬儀屋さんですか」

「そう」






例の鐘搗紺慈かねつきこんじとも、というか鐘搗紺慈について来たのだろうか?
寧唯の言う、出張葬儀がなんとやらで?

「あの、そのパンフレット」

と依杏は数登に言った。

「ああ。慈満寺じみつじのものです。あなたがた、特に、レジの方がお詳しいようで」






当のレジの方というのは、今は郁伽である。
どうやら郁伽の話を、聞いていたようだ。

数登さんとかいう、この人の耳にも届いていたらしい。
と依杏は思った。

寧唯は葬儀屋?、と言った。
確かに彼は僧侶という感じがしない。
でも葬儀屋っていう雰囲気でもない。

郁伽先輩の眼の、色は不思議な色だ。
この人のもそうだ。
と依杏は思った。





「あの、どこかでお会いしました」

依杏は言った。
数登はかぶりを振る。

「はじめまして」

なんだか見覚えがある。
何故だろう。

寧唯。

「鐘搗住職と、どういうご関係で」

ぎこちない。

「出張葬儀とか」

「ええ。正解」

「そうですか」

寧唯は変わらずぎこちない。

数登。

「鐘搗住職と円山まるやまさんと出張葬儀に行った、帰りです。慈満寺のキャンペーンのことは、御存知で」

「ええと、知ってます」

依杏が言った。

「慈満寺では人が亡くなっていることも、御存知ですか」

依杏と寧唯は顔を見合わせる。

数登は立ち上がって、会釈した。

「そのパンフレットですが、地下全体が映っていれば。少し見所があったと思いますが」











外が妙に明るい。
六時。午前!?

依杏は跳ねた。次の日になっている。
慈満寺に行くのだ、今日は。
寝すぎた。

何も食べずに十二時間睡眠。
新記録だったが、きっと連絡が入っているに違いない。

今は家に一人だ。
テスト後からのその後の、授業のない、夏の期間。

テスト後のレストラン、その後から時間も日数も経っている。
今日は、実際に慈満寺へ行く日。






野昼やちゅう駅前。ゴマ像のところ。午後二時。遅れたら罰金」

郁伽いくかから連絡が来ていた。
慈満寺に行くのは、レストランで言っていた通り三人。

時間はたっぷりある。
依杏は少し呼吸を整えた。






空羽馬くうまは大学生。
依杏は高校生だ。

空羽馬は恋愛に奥手のタイプだ。
気の多い方ではない。

『将来』のことを考えたときに、どうなのだろうという考えが、空羽馬にはあったらしい。
依杏は否定できなかった。

家庭不和のことを、空羽馬は気になっていたのだろう。
それは仕方のないことだった。

恋愛するなら、なるべく懸念の少ない方がいい。






さて、何か食べよう。
依杏は冷蔵庫を開けたが、何か作れる量ではない。

慌てて靴を履いた。






郁伽から連絡のあった、ゴマ像というのは『ゴマフアザラシ』の像のことで。
像は駅でのアイドル的マスコット。

成分は花崗岩。おそらく子供のゴマフアザラシ。
丸々しているやつである。






依杏はコンビニまで自転車を走らせた。
で、停留所からバスに乗る。

前日の雨が随分と残っていた。






最低限身だしなみは整えたかった。
シャワーを浴びて、食べたり着替えたりしてから、家を出た。

寧唯にはバスの中で一報を入れた。
レストランで本当は言えば良かったかもしれないが。

『空羽馬と別れた』と。
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