推測と仮眠と

六弥太オロア

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  無を以て追跡と

15.

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赤、黄土色、砂色。
多彩な色彩と言っていいが、『穴』の開いた廃ビルの色彩という意味で。

外からの夕陽の色も反映されてくる。



「レブラって観覧車が怖かったんじゃないのか」

「あんまり外が見えなければ大丈夫なんじゃないすかね」

釆原うねはらが尋ねて僚稀は答えたものの、上からは下がよく見え、下からは上がよく見える状態なのだ。
床部分がほぼないために。

時には吊り橋のような不安定な足場しかない場所も。

だが上方じょうほうの二人に下を見て怯える気配は全くなく。






釆原と僚稀は上へ上るのに集中した。

下から気配もするが恐らく、捜査員だろうと釆原は思った。



葬儀屋の数登すとうと葬儀屋の女性に化けているレブラの会話は、『なに葬』の話だとかに移っていった。






床部分が唯一存在する、七階部分だと思われる辺り。

鉄階段が続き、数登とレブラは吸い込まれるように上る。

「やっぱり女性の声でしたね」

僚稀が言った。






だがまあ、相手はレブラだ。
アイドルとして活躍していた当時の歌唱力から考えるに、自分の声音を変えることくらい朝飯前かも、しれない。

と釆原は思った。



だが思ったもののいまいちピンと来ない。

僚稀が言うように、レブラではなく別人であれば、葬儀屋。
今はドームにいるであろう定金さだかねの言葉を借りるなら、『新入社員』の女性ということになる。






釆原と僚稀も上方じょうほうの床を貫く鉄階段を上へ。



大穴から、オレンジに染まった光が飛び込んでいる部屋。

釆原は小さな物体の影を目に留めた。



数登が言った。

「置いてきたのはレプリカなんですね」

「そう、だって盗まれたら大変じゃあないですか」



佇む二人分の影。
それが逆光となって釆原と僚稀の眼に映る。



小さな物体は『葬儀屋の女性』のそばに。
それを抱え上げて包みを解いたようだ。

周囲に光が溢れた。






「あ、あれ金の……!」

言いかけて僚稀は口をつぐんだ。

釆原は小声で言った。

「レプリカってどういうことだ」

「ドームに置いてきた方がレプリカっていうことなんじゃないんですか。つまり……」

「今持っている方が本物ということ?」

釆原のハテナが増える。

「実際盗まれてしまったじゃありませんか。今こうして本物を守ることが出来たのを、私は誇りに思います」

「そうですね」

『葬儀屋の女性』が言ったのに、数登は笑って答えたようだ。



釆原と僚稀は顔を見合わせる。

『守った』ってどういうことだよ、と。
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