120 / 136
無を以て追跡と
8.
しおりを挟む
『ネタをですか』と言ってきたな。
と釆原は思って、警備員を見た。
菊壽はベンチから立って、背伸びをしている。
笑顔の警備員。と、視線を落とした。
「あ、連絡きましたよ! 騒がれている香炉の件ですね。ああー、釆原さん疑われていますよ」
『ネタ』の上に、次は名前。
「下の名前まで、出ていますか」
「出ていなくても僕分かりますよ。釆原凰介。姉と一緒の人です」
釆原は眼を丸くした。
「維鶴」
「ねえ、忘れちゃいました? 三日前会ったはずなのになー、僚稀ですよ」
率直に言って、顔が違った。
「ノーメイクなんす、今日」
言われて、少しずつ釆原の中で納得がいった。
色がだいぶ違う、例えば瞳や肌の色だ。
ノーメイクと言われれば、面影だけはどことなく、見覚えがあるような気がした。
「そんなに変わるものなのか?」
釆原は苦笑しながら言った。
「どう見せるかです、大事なのは!」
アバウトすぎる、と釆原は思った。
「で、僕、戸祢僚稀って言います」
菊壽に名刺を渡す僚稀。
菊壽も反射的に名刺を僚稀へ。
「仕事はこうですけれど、釆原さんと菊壽さんのことを疑ってはいないから、安心して。何なら、一緒に追いましょうか?」
「追うというより、接触してきた男について話して欲しい」
「うーん、そうねえ」
「数珠はしていたか」
「手元まで見なかったなあ。ただ、二人連れでしたね」
「なんかもっとこう、ありませんかね。すごく分かる特徴とか!」
菊壽が言った。
しかし『すごく分かる特徴』と言ったって、自分たちも定金から与えられた情報は虎目石と『数登』という名前だけなのだ。と釆原は思った。
とりあえず経緯を整理してみる。
・遭遇した美野川心櫻嬢は、数登から花束を受け取った
・実透宝覚は酒で潰される
・祭壇の花が足りなくなっていた
・僚稀に伝言を残して、定金春弦宛の小さなケースと花束を残していった
・今までのことに関係しているであろうは、葬儀屋の『数登』
・ただし金の香炉の盗みに関しては、関係性は不明
・連れの女と一緒らしい、五味田茅斗(後輩)いわく
「なるほどねー。随分と不可解だな」
「何か花束以外に、何か持っていたりしなかったですかね」
僚稀が言って、そこへ菊壽が尋ねた。
「そうですね、持っていたといえば持っていたかもしれないけれど、その数登さんの連れって、女の子だったんでしょう?」
釆原は眼をぱちくりする。
「何か、都合でも悪いか?」
「いや、そういうんじゃなくて、僕に接触してきた人にも連れがいたけれど、たぶん男だったと思うなー。分かんない。いや、顔が綺麗でさ、女の子みたいだったのは間違いないです」
釆原と菊壽は顔を見合わせる。
そんなことって、ある?
「お化粧の仕方とかケアとか、教えて欲しかったなあ」
僚稀が言う。
と釆原は思って、警備員を見た。
菊壽はベンチから立って、背伸びをしている。
笑顔の警備員。と、視線を落とした。
「あ、連絡きましたよ! 騒がれている香炉の件ですね。ああー、釆原さん疑われていますよ」
『ネタ』の上に、次は名前。
「下の名前まで、出ていますか」
「出ていなくても僕分かりますよ。釆原凰介。姉と一緒の人です」
釆原は眼を丸くした。
「維鶴」
「ねえ、忘れちゃいました? 三日前会ったはずなのになー、僚稀ですよ」
率直に言って、顔が違った。
「ノーメイクなんす、今日」
言われて、少しずつ釆原の中で納得がいった。
色がだいぶ違う、例えば瞳や肌の色だ。
ノーメイクと言われれば、面影だけはどことなく、見覚えがあるような気がした。
「そんなに変わるものなのか?」
釆原は苦笑しながら言った。
「どう見せるかです、大事なのは!」
アバウトすぎる、と釆原は思った。
「で、僕、戸祢僚稀って言います」
菊壽に名刺を渡す僚稀。
菊壽も反射的に名刺を僚稀へ。
「仕事はこうですけれど、釆原さんと菊壽さんのことを疑ってはいないから、安心して。何なら、一緒に追いましょうか?」
「追うというより、接触してきた男について話して欲しい」
「うーん、そうねえ」
「数珠はしていたか」
「手元まで見なかったなあ。ただ、二人連れでしたね」
「なんかもっとこう、ありませんかね。すごく分かる特徴とか!」
菊壽が言った。
しかし『すごく分かる特徴』と言ったって、自分たちも定金から与えられた情報は虎目石と『数登』という名前だけなのだ。と釆原は思った。
とりあえず経緯を整理してみる。
・遭遇した美野川心櫻嬢は、数登から花束を受け取った
・実透宝覚は酒で潰される
・祭壇の花が足りなくなっていた
・僚稀に伝言を残して、定金春弦宛の小さなケースと花束を残していった
・今までのことに関係しているであろうは、葬儀屋の『数登』
・ただし金の香炉の盗みに関しては、関係性は不明
・連れの女と一緒らしい、五味田茅斗(後輩)いわく
「なるほどねー。随分と不可解だな」
「何か花束以外に、何か持っていたりしなかったですかね」
僚稀が言って、そこへ菊壽が尋ねた。
「そうですね、持っていたといえば持っていたかもしれないけれど、その数登さんの連れって、女の子だったんでしょう?」
釆原は眼をぱちくりする。
「何か、都合でも悪いか?」
「いや、そういうんじゃなくて、僕に接触してきた人にも連れがいたけれど、たぶん男だったと思うなー。分かんない。いや、顔が綺麗でさ、女の子みたいだったのは間違いないです」
釆原と菊壽は顔を見合わせる。
そんなことって、ある?
「お化粧の仕方とかケアとか、教えて欲しかったなあ」
僚稀が言う。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

聖女の如く、永遠に囚われて
white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。
彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。
ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。
良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。
実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。
━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。
登場人物
遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。
遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。
島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。
工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。
伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。
島津守… 良子の父親。
島津佐奈…良子の母親。
島津孝之…良子の祖父。守の父親。
島津香菜…良子の祖母。守の母親。
進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。
桂恵… 整形外科医。伊藤一正の同級生。
秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。


パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる