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ワインレッドの雨あがり

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 アタシちょっと、飲みすぎかも。
 ははは、笑っちゃうよね。女一人、飲んだくれて……
 でもこの店のハウスワイン、美味しいんだもん。スッキリした白で、いい感じに冷えてて。
 まぁ今日ばかりは、とことん飲んでやれ。なにしろ色々あったからさぁ。
 
 ひとりこの店に入った理由わけはね、ほんの雨宿りのつもりだったの。にわか雨が降ってきたのよ、急に。でもお酒も飲みたかったんだ。職場で嫌なことがあったからさぁ……

 あのね、会社で辞める辞めないの騒ぎになっちゃったのよ。いま考えるとあの時、余計なこと言っちゃったのかも。でも感情を心に納めておくのは無理だった……
「じゃあ私、辞めます」
 そう言ったわ、確かに。感情が先走ってたから、後には引けなかったし。
 なんか今さ、職場に居場所がないって感じ。「会社としてもキミは不要だし…」そう言われているみたいな……

 アタシの存在価値って、いったい何だろう……
 彼氏いない、親友もいない、親兄弟なんて、もうずっと疎遠。アタシ生きてる意味、無くない? あぁもう、存在自体 消えてしまいたいくらい……
 どうしたらいいの? 教えて、誰か。アタシ、悔しくて、切なくて、悲しくて……

 えっ……あっ!なに?これ…… 何でこんなにテーブルが濡れてるの……
 アタシの瞳から湧き出た大量の悲しみ……それがこんなにも、テーブルを濡らしちゃったみたい……


「そのままで、いいんですよ」

 後ろで誰かが、そう言った。
 あっ……
 その瞬間だった。アタシの抱えていた苦しみが、サァーっと消えたのは。アタシはアタシのままでいいんだ! そう気付かされた。
 声がした方を振り返る。一人の店員さんが、微笑んでいた。

 それはそうと今、何時? 24:50か…… 雨も上がっているし……もう帰ろうか。
 なぜか今、すごく幸せな気分だった。よし、このまま帰ろう。
 お会計のときアタシは、あの店員さんにお礼を伝えた。
 
「あの… そのままでいいんですよ、という言葉に救われました。ありがとうございました」

「お洋服、大丈夫でした?」
「は?」
「グラス倒されて、テーブル濡れてたから…」

 あぁ、そうか。アタシったら、ただの酔ッパライ…… 恥ず……
 でもなんか嬉しかった。アタシ、あの店員さんに恋しちゃったのかな……

 ルンルン気分で店を出る。
 舗道のあちらこちらに、水溜りができていた。前から車が来る。パシャッ……
 水溜りは車にかれ、一瞬 濁った。そしてすぐ、元に戻る。
 水面みなもが街の灯りを映していた。ワインレッドのネオンが、なぜか心に沁み渡る夜だった。
 


ー終ー
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