異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

文字の大きさ
上 下
77 / 141
連載

第九十一話 阿呆の夜明け

しおりを挟む
第九十一話 阿呆の夜明け


「うっぷ・・・」
「うう・・・」

ジローとクレスの弟分であるカムラの、突然の訪問から一夜明けた。
食堂には、魂の抜け殻が二つ転がっている。
結局二人ともギブはせずに一旦は落ちたんだが、目が覚めた二人で何故か飲み比べ勝負が始まった。
ドングリのお酒をショットグラスで何杯飲めるか・・・阿呆極まりない勝負だ。
私とクレスは二人を放置してそれぞれ眠りについたのだが、朝起きてきたら二人が転がっていた。

「まったく・・・」
「ほんっと、馬鹿ねぇ」

二人にお茶を出した後、皆の朝食を用意。それから二人にお茶漬けを出した。

「少し食べたら?」
「ヒナ~、ポーション・・・」
「アホな勝負をした人には、あげません」
「ううう・・・」

何をやってるんだか。
なんとか起き上がったジローが、お茶漬けを一口。

「は~・・・染みるぅ」

心底緩み切った顔である。
それを見たカムラが、恐る恐る起き上がった。

「いただきます」

丁寧に手を合わせてから匙を持った。
ジロー達と比べると少し若いが、この人も整った顔をしているなぁ。

「・・・美味しい」

ほぅっと息を吐いたカムラ。
背中を丸めて食べるジローとは反対に、背筋はピッと真っ直ぐ。
本当に真面目を絵に描いた様な人だな。

「ご馳走様。俺、今日は寝るわ」
「はいはい」

ジローはさっさと自分の部屋へと戻ってしまった。
勝負がどうなったかは、分からない。

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「あの・・・昨夜は申し訳ございませんでした。ヒノモトを救って頂いたお礼も言わずに・・・」
「大丈夫、気にしてないよ。二人が心配だったんでしょう?」

出会いがしらに「化け物」とか言われなかっただけ、マシである。

「貴女がいなければ、ヒノモトは多大なる被害を受けていました。いいえ。最初の攻撃で消し飛んでいたでしょう。心より、御礼申し上げます」

カムリはコタツから出て正座をすると、綺麗に両手を揃えて頭を床に付けた。

「あ~・・・うん。どういたしまして」

照れる!

「謝罪も感謝ももう良いから!ほら、もっと食べる!?」
「ヒナちゃんったら、照れてる!可愛い~」
「う・る・さ・い」
「キャ~」

クレスは朝から元気だ。

「心苦しいですが、私はそろそろ。殿へのご報告もありますので」

殿!やっぱり、国王じゃなくて殿かぁ。うんうん、だよねぇ。
でも、報告・・・。

「あの、私の事も・・・」
「申し訳ございません。私は殿に忠誠を誓う身。嘘偽りを報告するわけにはいきません」

ですよねぇ。

「ヤマタノオロチを倒した白い猫の事は、ジローの事も含めご報告しなければなりません。ですが・・・ここに来たのは、あくまで私的な事。私は昨夜、旧知の者に会いに来ただけ。少しだけ酒を飲みすぎ、夢を見たに過ぎません」

おおお!良い人だ!

「あらあら、随分と男前に育っちゃってぇ。小さい頃は、くれちゅ~って後を追いかけて来たのに」
「くれちゅ・・・ぶふっ」

あ、笑っちゃった。

「黙れ、変態エルフ」
「怖い話を聞いた夜、一人じゃ寝られないからって」
「だ・ま・れ」

真面目なカムラが、少しくだけたかな。

「コホン。それでは、私は失礼する」
「あ、帰りは」

どうやって帰るのだろう?
ここには追跡魔法で来たと言っていた。
多分、対象の近くへ瞬間移動する魔法だと思う。
飛行系魔法は途絶えたとセバスが言っていたから、飛べないよな?

「?」

カムラの顔に「何を言っている?」と書いてあるようだ。

「アンタもしかして、ここが何処か分かってないの?」
「何処って、ヒノモトだろう」

あ~、やっぱりかぁ。
クレスと顔を合わせ、二人で苦笑した。
説明するよりも見た方が早いと、三人で外に出た。

「こっちよ」
「何だ?幻惑の結界でも張って・・・」

島の端っこまで来て、カムラが言葉を失った。
本当に知らなかったようだ。
まぁ、来たのは夜中だったしね。と言うか、落ちなくて良かった!

「な・・・は?」
「ヒノモトは、あ・そ・こ・・・って、あらやだ。白目向いちゃってる。そう言えば、高い所苦手だったわね」
「えぇぇ」

ど、どうしよう。

「こんな事だろうと思った」
「ジロー」
「俺が送ってくる」

ジローはそう言うと、カムラを引きずる様にして転移石に向かい、消えた。

「まったく・・・久しぶりに会えて嬉しかったくせに、素直じゃないんだから」
「あ、やっぱり?」
「私達があの施設を出たのは、カムラがまだ成人前だったからねぇ。お酒を一緒に飲めて、嬉しかったはずよ。ほんっと、脳筋馬鹿ねぇ」

年の離れた兄弟というより、なんだかジローがお父さんに見えて、ちょっと微笑ましかった。

「そう言えば、カムラはエルフじゃないよね?二人と一緒の頃に施設にいたんでしょう?」
「そうよぉ。カムラは・・・ふふふ、秘密」
「えぇぇ」
「どうせまた来るだろうから、その内分かるわよ」
「・・・ケチ」
「・・・ヒナちゃぁん?私はまだ、許してないんですからねぇ?」
「ひっ」

ヤマタノオロチと戦った事がクレスにバレた日、最初は泣いて心配してくれていたのだが、突然現れたセバスとツバキによって上映会が始まり、そこからは笑顔でのお説教が始まった。
ちょっとヤマタノオロチよりも怖いと思ったのは、秘密である。





「って事があったんだよ」
「そうだったのか。その・・・すまない」

エストが帰って来たのは、カムラが来た次の日お昼頃だった。

「そんな大変な時に俺は・・・」
「大切な人のお墓参り、でしょう?」

エストはお世話になった人のお墓参りの為、帰省中だった。

「・・・あまり無茶な事はするなよ」
「わっ」

頭をワシャワシャと撫でられた。

「次に何かあったら、直ぐに通信で知らせる事」
「え・・・」

すっかり忘れていたなんて、言えない。
私、こんな猪突猛進ではなかったんだけどなぁ・・・これはきっと、猫の習性だな!
猫まっしぐら、的な奴だ!

「返事は?」
「ふぇい!」

そして、クレスの言っていた「その内」と言うのは、意外と直ぐにやって来た。

『あ~・・・・ヒナ』
「ジロー、どうしたの?」

夕方、もうそろそろ晩御飯の用意をしようかと言う時に、ジローから通信が入った。

『あ~・・・』
「ん?ジロー?」
『カムラがどうしても島に行きたいって言っててな』
「じゃあ、晩御飯用意しておくね。でも、大丈夫なの?高い所駄目なんでしょう?」
『下を見なきゃ大丈夫らしい。そんじゃ、連れて行くな』

少しして、ジローがカムラを連れて帰って来た。

「はいはい、そんじゃいただきまぁす」

いつもの様に食事が始まる。
今日の晩御飯は、コロコロ煮込みハンバーグ!
炒めた大量のみじん切りした玉ねぎ、生のパン粉、ココの実、モー実、ひき肉状にしたミトの実を、塩コショウをしてこねる!
お肉が白っぽくなったら、ピンポン玉より少し大きめに丸める。
そうそう、最近、キッチンを改装しました。
ここに住む人達はかなりの量を食べるので、フライパンでは「もう無理!」となった。
だって、餃子とかさぁ・・・フライパン三つを三回戦とか、なんの苦行ですか!
と言う事で、鉄板を用意しました!お好み焼き屋さんの厨房にあるような、かなり大き目サイズ。
いやぁ~、楽だわぁ。
調子に乗って、焼き台も作ったらエストにため息を吐かれたんだよねぇ。
いやだって、焼き鳥とか美味しそうじゃん?
おっと、今はハンバーグだった。
鉄板で焼いたハンバーグを鍋に移し、刻みトマトに黒コショウ、ケチャップをコンソメスープでのばして入れる。
秋に収穫しておいたマッシュルームを薄切りにして加え、コトコト煮込んで出来上がり。

「チーズ入りも美味いな」

中にチーズを仕込んだものも作ったが、一つ難点が・・・どれがチーズ入りで、どれが入っていないか分からなくなる。
そこで頼りになるのが、鑑定さんだ。
ハンバーグを一個一個鑑定して、均等になるように盛り付ける。便利!
お腹いっぱいになり、後片付けが終わり、年少組が眠りについた頃。

「「「「「乾杯!」」」」」

まぁ、こうなるよね。
しおりを挟む
感想 449

あなたにおすすめの小説

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。