異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第六十一話 おにぎり

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第六十一話 おにぎり


「セバス・・・びっくりしたぁ」

口から心臓が発射されるかと思った・・・。

「申し訳ございません。随分と悩まれていたようでしたので」

本当に神出鬼没だな。

「転移石の魔道具でしたら、ございますよ」
「へ?あ、ああ、あるんだ」
「はい。ですが、少々大きいので、外へ」

と言う事で、外へ来ました。
少し開けた場所に立つと、セバスが自分のアイテムバッグからセレブのおしゃれな庭にありそうな石の台を取り出した。
皿状の上部に、下はロウソク立てみたいに細い。
小鳥が水浴びしてそうなアレだ。「おはよう、小鳥さん!ウフフ」みたいな。
世界一有名なネズミさんの映画に出て来るアレ。

「本体はこちらです」

バレーボール程の大きさの水晶玉を、セバスが石台の上に置いた。

「ヒナ様」
「はいはい、魔力ね」

だと思った。
人差し指で水晶玉に触ると、淡く光り出した。

「終わり?」
「はい。では、こちらへ」

家の前まで戻って来た。
石台が小さく見える。

「それでは、こちらに魔力を流してください」
「はいは・・・い?」

魔力を流し、気が付いたら石台の横に立っていた。

「ヒナしゃまが!」
「ヒナしゃまが消えちゃった!
「ヒナしゃま~!」

突然消えた私に、猫達がパニック寸前。
慌てて戻ると、しがみ付かれた。

「ごめん、ごめん。驚かせちゃったね」

全員の頭を撫でてあげると、落ち着いてくれた。

「ビー玉に魔力を流すと、あの石台の所に転移するって事?」
「はい。防犯上、先ずは本体に魔力を登録する必要がございます」
「ビー玉を拾った知らない人が突然現れたら、ビックリするもんね」

悪用する人もいるかもしれないしね。

「登録した人以外が使ったら、どうなるの?」
「木端微塵に吹き飛びます」
「それは、石が?それとも・・・」

セバスがニヤリと笑った。怖い!多分これを作ったであろう道明寺さんも、怖い!

「絶対に落とさない様にします」

急いでアイテムバッグに入れた。
何はともあれ、これで帰って来るのには困らない。

「もしかして、空を飛べる道具とかある?」
「タケ〇プターですか?」
「真っ先に出てきたのがそれ!?出来ればもうちょっと異世界っぽいのが良いんだけど」
「申し訳ございません。飛行関係の魔道具はございません」
「意外。道明寺さんなら、作っていそうだったけど」

彼女なら、真っ先に作ってそうだけどなぁ。

「高所恐怖症でしたので」
「・・・よくそれで浮島作ったね」





今日は、エストを迎えに行く日です。
モチにお願いして森の手前に下ろしてもらい、待ち合わせ場所に向かった。
そう言えば時間を決めていなかったな。まぁ、待てば良いか。
最悪、来ない事も考えておかないとね。
渡した薬を飲めば、あのまま騎士団にいる事はできるだろう。
自分で言うのもなんだが、初対面の、喋る二足歩行の猫が「一緒に来る?」とか、怪しすぎる。
待ち合わせ場所にたどり着くと、既にエストがそこにいた。
樹の根本に座っている彼に近付くと、異変に気付いた。
エストのお腹の部分。白いシャツが真っ赤に染まっていた。

「エスト?」

息、はあるな。

「う・・・ヒナ、か・・・すまん」

意識もある。ポーションを取り出して口元に持って行く。

「飲める?」
「駄目・・だ。見せ、るな」

見せるな、か。
エストの右腕は、まだそのまま。私が渡したポーションは飲んでいないみたいだ。

「大丈夫。これはそこまでの効能はないよ」

エストに渡してあったのは部位欠損も治すポーションだが、今持っているのは多少深い傷でも治る、この世界にもあるポーションだ。
エストはじっと私の目を見つめると、素直にポーションを飲んでくれた。

「さて、と。そろそろ出てきたら?」

私がそう言うと、樹の裏側から十数名出てきた。
そして、その中には見知った顔が一つ。

「メ・・・メタル・アンモナイト」
「メリル・アルトナイルだ!」

エストに殴られた、女騎士さんだ。

「やはり、魔獣と結託していたか。下民のやりそうな事だ!」
「ん、ん?どゆこと?」

エストの方を見ると、少し息が整って来たようだ。だが、まだ顔は青白い。
立ち上がれないのもそのせいだろう。

「騎士団を辞めた後、ボアを討伐した功績で騎士の位を授かる事になったんだが・・・」
「もしかして、断ったの?」
「俺はお前さんについて行くと決めたからな」
「そうだ!お前如き下民が!国王陛下からの温情を断るなど不敬!」
「う~ん、でも受けたら受けたで「下民ごときが」とか言うよね?」
「当たり前だ!」

どうせいっちゅうんじゃい。

「そもそも、あの討伐自体が自作自演なのだろう!そこの魔獣を使い、呼び寄せたのだ!」
「・・・ああ、私の事?いや、そもそも魔獣じゃないし。洋服着た可愛らしい猫なのに。それとも、二足歩行で喋れるってのが魔獣の条件だったりする?」

この世界に来て、何度も間違えられてきた。いい加減慣れて来たな。

「これでも一応、獣人でね。身分証もあるけど、見る?」

町に入る意外はアイテムバッグに入れてあるからね。取り出そうと動いた瞬間、カチャリ、と金属音が聞こえた。
女騎士が腰に下げた剣に手を掛けていた。

「それで?結局どうしたいの?」
「あの男とお前の首を持ち、国王陛下に真実を申し上げる!さすればその男の名誉は地に落ちのだ!」

結局私怨?

「相当恨まれてるみたいだけど、何したの?」
「あれだ。殴っただろう」
「え、あれ?助けてもらっておいてお礼も言わず、人の食べ物取ろうとして怒られた、あれ?完全に逆恨みじゃん」

それはもう、騎士じゃなくて山賊じゃない?
思わずそう言うと、周りを取り囲む男達の何人かが噴き出した。

「ぶふっ!」
「くくっ」
「だ、黙れ!魔獣風情が!」
「だから、魔獣じゃないって。分かった!またお腹減ってるんでしょう。えっと・・・ああ、おにぎりがあった。はい、あげる」

手の平の上に乗せて差し出すと、おにぎりにぐさりと剣が刺さった。

「魔獣風情からの施しなんぞ、受けぬ!」
「食べ物を粗末にしちゃ駄目でしょ」
「ふん!こんな物」

女騎士が剣を勢いよく振った。
そして、私に剣を向ける。

「さっさとその首を寄越せ!」

すると、今度はさっきよりも大勢の吹き出し笑いが聞こえて来た。
ってか、全員肩を震わせて笑いを堪えている。

「な、なんだ?貴様、何をした!?」
「いや、何をしたも何もさぁ・・・それ」

女騎士の剣を指してあげた。
その剣先には、先程のおにぎりが刺さったままだ。
おにぎりに、水も付けないで刺せばそうなるよね。
彼女は振り払ったつもりだろうけど、お米って引っ付くんだよね。
ノリとして使われていた事もあるくらいだからね。

「何だこれは!うわっ、べたべたする!貴様、こんな物を私に食べさせようとしたのか!」
「美味しいよ?」

剣に刺さる前はね。

「お嬢、お嬢」
「何よ!」
「もう止めましょうよ。剣も使い物にならない事ですし」
「嫌よ!絶対に嫌!」

何か始まったな。
男達の一人が、何故か女騎士を宥めに来た。

「そう言わずに。腹を刺してあんなに狼狽えてたじゃないですか」
「う、煩い!ちょっと、やめなさい!」

男がパチンと指を鳴らすと、周りの男達が女騎士を囲んで連れ去って行った。

「すみませんねぇ、うちのお嬢がどうしてもってんで」
「はぁ・・・」
「腹の傷は・・・大丈夫そうですね。これ、アルトナイル家からのお詫びっす」

何が何やら。思わず袋を受け取ると、ずっしりと重い。

「お嬢には結婚でもして、騎士団を辞める事になってますんで」
「はあ」
「隊長さん。いや、元隊長さん。この国を出るんですよね?」
「ああ、そうだ」
「申し訳ないっすけど、腹の穴はそれで勘弁してもらえませんかね?中にポーションも入ってますんで」
「ああ、構わない」
「そちらの・・・お嬢さんも?」

一瞬迷ったな?

「私は別に。おにぎり一個駄目になっただけなんで」
「ああ、あれね。美味いのにもったいない」
「知ってるの?」
「小さい頃、母親が食べさせてくれたんで」

この人もヒノモト出身かな?もしかして、結構いるのかも。

「そっか。じゃあ、はい」

おにぎりが三つ入った包を渡した。
握って直ぐにアイテムバッグに入れたから、まだほんのり温かい。

「マジっすか!俺もあんたについて行こうかな・・・」
「そんなに食べたきゃ、国に帰りなよ」
「ははは。考えときます。そんじゃ」
「はいはい」

男が森の中へと消えて行った。

「やれやれ・・・渡したポーション飲めば良かったのに」
「あんなもん飲んでみろ。何処で手に入れたか吐き出すまで拷問されるぞ」
「そこまで!?」
「部位欠損を直すポーションなんて、伝説級だろう」
「伝説にあるなら良いじゃん」

絶対に存在しないって訳じゃないんだ。

「それくらい、凄い物だって事だ!」
「変な猫にもらいましたぁ、で良いんでない?」
「国中から猫がいなくなるぞ」
「じゃあ、エストはこの国の英雄だね」
「は?」
「だって、猫狩りなんて事になったら・・・ねぇ?」

黙って見ているわけないし?そんな事になったら、ちょっと何するか分かんないなぁ。

「はぁ・・・」

エストが大きなため息をついて、立ち上がった。

「大丈夫?」
「ああ。国を出るなら、早い方が良いだろ。ここからだと、トーナ王国か?いや、あの国は砂漠だしな。そうなると・・・」
「ああ、大丈夫」

周りに人がいないのを確認して、エストの手を握った。
触ってないと駄目らしいからね。

「すぐそこだから」

転移石を発動させた。
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