異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第四十七話 いってらっしゃい

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第四十七話 いってらっしゃい


「う~ん・・・」

お花見から一週間が経った。
満開だった桜も大部分が散り、小さな葉が出始めている。
大量の花びらが神社の境内に降り積もって、凄い事になった。
何かに使えるかもしれないので、全部アイテムバッグに入れて、お掃除完了。

「皆の様子が、変だ」

ぼんやりしているような?
昨日は、縁側でぼ~っとしていたジローが、突然叫んで走りだした。
クレスは食後の跡片付けを手伝ってくれたりするし、アヌリもソワソワと落ち着かない様子だ。
明らかに三人ともおかしいんだけど、聞いてもはぐらかされるだけ。

「私、何かやらかしたかなぁ?」

飲み過ぎて記憶が飛んだわけでもない。いくら考えても、分からん。

「う~ん・・・良し!」

こうなったら、古来より伝わるコミュニケーション方法を使うしかない!
そしてその日の夜、縁側に並ぶ私と三人。

「「「「・・・・・」」」」

気まずい。
酒と肴と猫と男達。
いつもなら喧嘩を始めるクレスとジローが、夜空を見上げてちびちびと飲んでいる。
ぬぁぁぁ~~~~~!
苦手!こういう空気、超苦手!駄目、無理!

「え、え~っと、ワタシ、ソロソロネヨウカナァ」
「「「おやすみぃ」」」
「お、おやすみぃ」

はぁ・・・失敗しちゃった。





「気を遣わせちゃったわねぇ」
「あ~・・・くそっ」
「・・・・・」

自分達が落ち込んでいるのか、どうにもやるせない気持ちがモヤモヤと渦巻いていた。

「「「はぁ~・・・」」」
「ふぉっふぉっふぉっ。悩んでおるのぉ」

一斉にため息をつくと、暗がりから声が聞こえてきた。

「誰だ!」

身構える三人だが、ひょっこりと顔を出したのは、亀爺だった。

「亀爺、だったわよね」
「何してんだ、こんな所で」
「ふむ・・・ここは、何処じゃ?」
「ここは、ヒナの家だ。爺さんの泉は」
「ふぉっふぉっ。そうじゃった、そうじゃった。此処は、ヒナの家じゃったのぉ」

亀爺の含みのある言い方に、一瞬戸惑う三人。

「それで?お主達、暗い顔をしておるのぉ。まぁ、大方、古龍の女王が言った事を気にしておるんじゃろうがのぉ」
「「「ぐっ」」」
「ふぉっふぉっ!ヒナも、罪作りな女子じゃて」
「ヒナちゃんは悪くないわ。私達が、甘えてしまったのよ・・・」
「そう、だな」
「ヒナ様をお守りすると言いながら、守られてしまうなんて・・・」

三人が項垂れると、亀爺は「ふむ」と少し考えた。

「あれは、ただ守られるだけの女子ではあるまいて。そちらの獣人はまぁ、あれじゃが・・・お主達二人でれば、他を探すと言う選択肢もあろう。まぁ、世界中探す事になるだろうがのぉ。儂がもう少し若かったら、求愛ダンスを踊っておる所じゃわい」

亀爺が手をふりふりと振る。どうやら求愛のダンスらしい。

「ふぉっふぉっ。お主達がどうするにせよ、ヒナを泣かせればあの古龍の女王に消し炭にされるだけの事」
「だけって・・・」
「ヒナに、お前なんぞ要らぬ、と言われるよりはマシであろう」
「確かに、それは嫌だな」
「絶対に、嫌よ!」
「やっと見つけたのです。踏んでいただくまでは、死ねません!」
「アヌリ・・・お前はちょっと黙ってようか」

友情?恋情?今の気持ちに名前を付ける事は出来ないけれど、掴んだ縁を手放すつもりは無いから。

「ふぉっふぉっ。答えは出たようじゃの」
「ああ。ありがとな、亀爺」
「なんの、なんの・・・ところで、此処は何処じゃったかの?」
「あ~、俺が連れて行ってくる」
「またね、亀爺」
「ありがとうございました、亀爺殿」

スッキリとした顔の三人。ジローが亀爺を抱え、泉の方へと歩いて行った。

「さぁ、片付けちゃいましょうか」
「そうだな」

クレスとアヌリが食器を持って台所へと向かうと、ホッと一息ついた。
柱に身体を預け、そっと目を閉じる。

「・・・・・やれやれだね」

あの時、何かがあったんだろうなとは思っていた。

「せめて最後に少しだけ、許してね」

きっとまた会えるように。





その日は、意外とあっさり来た。
あの夜の次の日、三人から話があると言われた。
先ず、ジローが冒険者として忙しくなるから、暫く帰って来られない事。
アヌリは一度故郷へ帰り、己を見つめ直したいとの事。
そしてクレスも、暫く本業に打ち込みたいとの事を伝えられた。
急に三人全員がいなくなるとは少し予想外だった。
準備期間は三日。
そして、今日がその三日目だ。
畑の前には、いつもの扉。行先は、クレスのお店があるアレストロ王国、王都の近くにある空き家だ。

「はい、これ」

三人に、それぞれ巾着を渡す。
中には、ポーションや少量の食料等、必要最低限の物が入れてある。
三人は大事そうに受け取ると、少し寂しそうに微笑んだ。

「じゃあ、またな」
「寂しくなったら、連絡を頂戴!」
「ヒナ様のいる所、何処へでも!」
「あはははは・・・」

リシュナに渡したイヤーカフスが最後だった。
ジローとクレスは持っているが、アヌリの分が無かった。
なんとか自分で作れないかと試行錯誤したが、無理だったのでセバスに作り方を教えてもらいに行ったところ、「ありますよ?」と軽く言われ、両手に小山で出された。早く言ってよ!
今は、アヌリの耳にもイヤーカフスが着けられている。

「いってらっしゃい!気を付けてね!」

そう言って、三人を見送った。

「ヒナしゃま!キジたちが、いるからね!」
「キュ!」

猫達がギュッと抱きしめてくれた。

「ありがとう、皆。じゃあ、今日もお仕事、がんばろうね!」
「「「「「あい!」」」」」
「キュ!」

今日も頑張るぞ!

「っと、そう言えば、なんで皆一緒に行ったんだろう。やっぱり、喧嘩する程仲が」
「誰か一人が残るのはズルい!だそうですよ」

予想以上の子供みたいな理由に、帰って来るのはいつになるやらと、ため息をついた。





「う~ん・・・」

ジロー達が島を出て数日が経った頃、私は田んぼの前で唸っていた。

「どうされたのですか?」
「ああ、セバス。ちょっと、虫がねぇ」

稲の天敵、虫が出た。まさかこっちの世界にもいるとは。

「合鴨・・・は、いないよね?」
「合鴨おりませんが、鴨でしたらおります」

早速、会わせてもらう事になった。
セバスに案内されてやって来たのは、亀爺がいる野原からもう少し先に進んだ場所にある、小さな池だった。

「モニュナさん、いらっしゃいますか?」

モニュナ?どこかで聞いた事があるような・・・あ!あれだ!亀爺を掘り起こした時に、「モニュナは元気か?」ってきかれた!誰だよって思ってたけど、まさかの鴨!

「グァ!」

草の合間から、てっぷりとした鴨が一羽姿を現した。

「こんにちは、モニュナさん」
「グァ!グァ!」
「はい。今日はヒナ様をお連れいたしました」

鴨と目が合った。

「ヒナと言います」
「グァ。グァ、グァ~」
「よろしくね、と仰っております」
「こちらこそ。今日はお願いがあって来ました」

モニュナさんに田んぼの説明をして、うちに来てもらえないかと聞いてみた。

「グァ、グァ~、グァ」
「家族を連れて行って良いなら、行くそうです」
「もちろん、大歓迎です」

と言う事で、お引越し。

「グァ!」

モニュナさんが一声かけると、草に隠れていた小さな鴨達がひょこひょこと顔を出した。

「モニュナさんのお子さん達と、旦那さんです」

数えてみたら、子供が二十匹いた。凄いな、モニュナさん。
肝っ玉か母さんって感じ。

「それじゃあ、いきましょうか」

私、セバス、モニュナさん、子供たち、そして旦那さんと歩き出す。

「グァ、グァ、グァ」

何とも賑やかなご一行だ。ってか、可愛い!
小さなお尻をふりふりしながら、一生懸命歩いている。
偶に違う方向に行こうとすると、旦那さんが追いかけて行って連れ戻していた。
三十分程で家に到着。そのまま畑へと案内すると、子供たちが嬉しそうに田んぼへと散って行った。
和むわぁ。
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