異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第四十六話 お花見・本番

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第四十六話 お花見・本番


トン、カン、トン、カン。
金槌を打ち付ける音が響く。

「ふぅ・・・朝からうるさくてごめんね!」
「クゥ!」

桜の樹のうろから、モチとモチの家族が顔を出す。
う~ん、可愛い!
今日はお花見!
木枠を作り、畳を乗せる。
地面にゴザだけだと、お尻が痛くなるからね!
テーブルを置いて、座布団を人数分設置。

「後は、料理を並べて・・・」

お酒も用意してあるし・・・。

「ヒナしゃま~!」
「くだもの、とってきたぁ!」
「いっぱいありますよぉ」

最初に到着したのは、猫達とクロ。
果樹園で果物を収穫してきてくれた。

「ありがとう、皆のご飯も沢山あるからね」

猫達はおさかな型のクッキーが主食。
偶に果物も食べるが、クロみたいに私と同じ食事はしない。
少し寂しいけどね。
猫達に手伝ってもらい、食器を並べていく。
そうこうしている内に、皆が集まり出した。
ジロー、クレス、アヌリ、セバスにツバキ。

「ヒナ様、亀爺をお連れいたしました」
「ありがとう!」

セバスが亀爺を連れてきてくれた。

「ふぉっふぉっ。お招きいただき、感謝するぞ」
「ゆっくりしていってね」

亀爺の席は、水をはった木桶だ。

「お、おい!」

ジローが指した方を見ると、ドラゴンが・・・一、二、三、四?多くない?
最初にリシュナが人化しながら降り立った。その姿も優雅で、女王様だ。

「ヒナ、来たぞ」
「ようこそ」

挨拶をしていると、次々に人化して降りて来きた。

「はじめまして。君がヒナだね。私はリシュナの夫、ジェイクだ」

リシュナの旦那さんと言う事は、国王!
数名連れて来るとは聞いていたけどさ!
ダンディなオジサマだ。

「あ、あの・・・先日は、どうもすみませんでした!」

いきなり頭を下げたのは、アルシェだ。

「もう気にしなくて大丈夫だから、ね?」
「ありがとうございますぅ」

う~ん、若干怯えられてる気がするぅ。まぁ、思いっきり殴ったしね。

「妹の事、私からも詫びよう」

妹・・・兄妹か。って事は、クロのお兄ちゃん!

「本当にもう気にしていませんから。二人も、あの通り元気ですし」
「寛大なお心、感謝する。俺の名はジェフだ」
「ヒナです」

一通り挨拶が終わり、それぞれの席に着いた。

「え~っと・・・今日はお集りいただき、ありがとうございます。ささやかではございますが、皆さんに楽しんでいただけると・・・あ~、こういうの苦手。いっぱい飲んで食べて、楽しみましょう!乾杯!」
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」

やれやれだ。

「おっと、あれを用意しないと」

皆が料理を食べ始め、そこかしこから「美味しい」と言う声が聞こえてくる。
一先ず、上々なんじゃないかな。

バーベキューコンロに行き、昨日仕込んでおいた物を取り出す。

「五平餅!」

平たい串に潰したお米を付けて、草鞋型に成形。それを、炭火で焼いて行く。

「五平餅には、これでしょ」

これまた仕込んでおいた、特製タレ!赤味噌ベースの、甘辛!
お米に少し焦げ目が付いたら、刷毛でタレを塗り、もう一度焼く。

「はぅ」

久しぶりの香ばしい香に、思わずヨダレが・・・。
今度、味噌カツ作ってみようかな。

「良い匂いだな」

一番にやって来たのは、やっぱり食いしん坊のジローだ。

「来ると思った。食べる?」
「もちろん」
「はいよ。熱いからね」

ジローに一本渡すと、躊躇無くかぶり付いた。

「熱いって言ったのに」
「はふっ、はっ、美味い!」

やっぱり、自分の作った物を「美味しい」って言われるのは嬉しい。

「ヒナ様、こちらをお持ちしても?」
「ありがとう。よろしく」

セバスに食事は必要ないので、もっぱら給仕に回ってもらってる。
ツバキは桜の木の上で、モチ一家と楽しそうだ。

「う~ん・・・あ、忘れ物。ちょっと家に行って来るね」

今朝作ったプリンを、冷蔵庫の中に忘れて来た。
セバスに後を任せ、取りに戻る事にした。





「やっぱりヒナちゃんの料理は美味しいわねぇ」
「当然だ」
「ヒナの料理を食べたら、王都の料理が味気なく感じたな」
「分かる!そうなのよねぇ」

珍しく気があっているジローとクレスに、陶酔状態のアヌリ。
リシュナ達につられて、いつもよりお酒が進んでいる様子。
それを見て、リシュナがふと一息ついた。

「おい、そこのオス共」

リシュナの手には、透明な酒の入った升。その中には、一枚の桜の花びらが浮いている。

「お前達は、ここで何をしておるのだ」
「「「え?」」」
「えっと・・・私は、ヒナちゃんや猫ちゃん達のお洋服を作ったり?」
「俺は、畑仕事だな」
「私は、ヒナ様のお傍にいられるのなら、何でもやります」

それぞれの答えだが、リシュナは深くため息をついた。

「情けない。服、畑仕事に雑用?そんな物、お前達がおらぬでも、ヒナ一人で出来るじゃろう」
「それは」
「まぁ」
「お前達がヒナの事を憎からず想うておるのは分かる。それが友情であろうが恋情であろうが、どうでも良い。衣食住をヒナに頼り切る・・・まぁ、あ奴の事じゃから、どうとも思うておらんじゃろうがな」
「リシュナ」

夫であるジェイクが止めようとするが、「お主は黙っておれ」とピシャリと言われてしまった。

「ヒナの傍は、居心地が良い。飾らぬ言動に、裏表の無い性格。見返りを求める気すらない。お前達はどうじゃ?戯れにヒナの心をくすぐる程度で、自分達の居場所を得たつもりになっておるだけ。たとえお前達が明日ここを去ると言うても、ヒナは笑顔で送り出すだろうのぉ。少しは寂しがるやもしれぬが、そんな浅い穴なぞ、直ぐに塞がるじゃろうて」

リシュナの言葉に、三人は飲み込む言葉すらなかった。

「そうじゃのぉ・・・お前達が開ける穴なぞ、ジェフが三日で埋められる程度じゃな」
「母上、変な所で私を出さないでいただきたい」
「じゃが、嘘ではなかろう。何もかもをヒナに与えられ、挙句に助けられ、それでも尚、己が男だと言えるのかのぉ。儂は何も、此処を去れと言っておるわけではない。お前達が去れば、ヒナは少なからず悲しむ。それを想うて尚、このままにはしておけぬのじゃ」

リシュナが酒の口を付けると、桜の花びらがゆらゆらと揺れた。

「我の予想じゃと、お前達の中の一人でも、ヒナから言い寄られた者はおるまい」
「「ぐっ」」
「私は、ヒナ様をお慕いしておりますが、けして恋情の様な邪な気持ちでは」
「ならば、ヒナの写真でも貰い、立ち去ればよかろう」
「それは・・・」
「我は、ヒナが幸せならば何も言わぬ。我が息子の命の恩人であり、大恩ある友人じゃ。幸せに暮らしてほしい。じゃが、このままではどうなる?ズルズルとヒナの優しさに浸かり続けるのか?まるで、母御に甘える子供のようじゃのぉ」

彼女の言葉に、ジロー、クレス、アヌリの三人は、己の拳を握りしめる事しか出来ない。
言い返す言葉が、見つからないのだ。

「それでも、ヒナはお前達をここから追い出す事はせぬだろう。あの優しい娘は、一度懐に入れた者は死ぬまで忘れる事は無いだろうからな。じゃが、ヒナを泣かせる事があれば・・・ヒナが許しても我が許さぬ。その時は、古龍族全てを敵に回す覚悟をせよ」

一瞬、強い風がざぁっとふいた。殺気とも呼べる空気が、花びらと共に舞い踊る。

「う、わぷっ!?」

突然聞こえた声に、空気が一瞬にして緩んだ。

「うわっ、口の中に入った。今の風、凄かったねぇ・・・あれ?どうしたの?」
「何、皆ちと飲み過ぎただけじゃ。お主の作る料理が美味いからのぉ」
「あはは、ありがとう。甘い物持って来たけど、入る?」
「勿論じゃ!さぁ、はよう!」

それぞれにプリンを配り、果物や三色団子も出した。

「ん~、想像以上じゃ!」
「そう?それは良かった。あ、三色団子もどうぞ」
「もちろん、両方頂こう」
「わぁ、これ美味しい!」
「この団子、酔いが治まったような?」
「ああ、緑色のにはお茶の葉を混ぜてあるので、胸焼けに効くかもしれないですね」

リシュナ達には好評だ。ジロー達は・・・酔い過ぎたのかな?
結構強いお酒も出したしね。

「はい、お茶。多少気分が良くなると思うよ?」
「ん?ああ、ありがとう」
「とっても美味しいわ、ヒナちゃん」
「ありがとう!」

お花見は概ね好評で幕を閉じた。
来年もまた、皆で集まってワイワイできたら良いなぁ。
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