異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第三十三話 忘れてた

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第三十三話 忘れてた


浮島に来てから一週間が経ち、ここでの生活にも慣れて来た。

「ダイフク、よろしくね」

浄化槽に入れていたスライムがくれた小さなスライムに、ダイフクと名付けた。
彼(彼女?)の寝床は台所。野菜くず等の処理をお願いしている。
いつもの様に朝ご飯の支度をしていると、突然「ピルピルピル」と音がなって、ビクッとなった。

「ビックリしたぁ・・・ああ、これか」

すっかり忘れていた、イヤーカフスだ。

「はいはいっと。もしも~し」
『ヒナ!?ヒナちゃんなの!?』

大音量!耳、痛っ!

「クレス、もうちょっと声、小さく・・・」
『ごめんなさい、つい興奮しちゃって。あぁん、嬉しいわぁ。ヒナちゃんの声~』
「切る」
『いや~!大丈夫、落ち着くから。ス~、ハ~』

いや、変態電話だろ。

『それで、ヒナちゃんは今どこにいるの?』
「遠いお空の上です」
『ちょっと、死んじゃったみたいな言い方しないでちょうだい!』

嘘は言ってない。

「まぁ、そんなに遠くないよ」
『そうなの?良かったぁ』
「でも、王都には暫く行かない」
『え!?』
「話すと長くなるから、また今度」
『聞きたいけど、私も今店に戻った所なのぉ』
「お疲れ」
『ありがとぉ。でもぉ、まだ暫くそっちには行けないのぉ』

おや、一応こっちに来る気だったんだ。

「そうなんだ」
「ヒナ様、おはようございます。おや、お電話中でしたか」
「おはよう、セバス。ごめん、ちょっと待っ」
『ちょっと!男の声が聞こえたわよ!』

耳!キーンってなった!

「セバスって言って、今一緒に」
『一緒に暮らしているの!こうしちゃいられないわ!速攻で仕事終わらせて、そっちに行くから!』
「・・・・・切れた」

一度ああなると人の話をほぼ聞いていないから、まぁ良いか。

「ごめん、お待たせ」
「いいえ。お邪魔してしまい、申し訳ございません。少し気になる事がございまして」

食後でも大丈夫だと言うので、皆でご飯を食べてから出かけた。
やって来たのは、島の端。

「あちらを」

セバスが指した方を見る。

「あれは・・・港町?」

お久しぶりの「千里眼」を使うと、港町の入江に何か大きな物が見えた。

「どうやらクラーケンのようです」
「クラーケン・・・ああ、あのでっかいタコ!」
「イカです」

ぐっ・・・。

「本来クラーケンは港に近付きません。そして、どうやら苦戦しているようですね」
「あらまぁ」

水柱が上がり、船が壊されている。
足に捕まっている船もあるし、あの米粒みたいに見えるのは、人?

「頑張ってるけど、ちょっとヤバそうだねぇ」
「はい。それで、いかがなさいますか?」
「へ?」

いかがも何も、何故私に聞く?

「あの中に、ヒナ様のお知り合いがいたようなので。写真にも写っておられました」
「知り合いで、写真?」

戦っている米粒・・・基、人達をよく見ると、冒険者のような感じに見える。そしてその中に、ジローらしき姿が見えた。

「あらま、いたよ。セバス凄いねぇ」
「お褒め頂き光栄ですが、行かなくてよろしいのですか?」
「う~ん、でも、Sランクの冒険者って言ってたしねぇ」
「Sランク・・・かなりお強いのでしょう。ですが、いくら強くとも、人質がいるとなると・・・」
「人質・・・ああ、船ね!船に人が乗ってるね!」

それで手が出せない?となると、ヤバいのでは?
鍵を使って町に行く?いや、ちゃんとした扉の記憶なんて無いし!

「あっちゃ~」
「ヒナ様、こちらをお使いください」
「犬笛?」

何故今、犬?

「こちらは、モチさんを御呼びする笛。モチ笛です」
「モチ笛・・・」
「モチさんならば、ヒナ様をあそこまでお連れする事が出来るでしょう」
「セバス、頭良い!」

早速笛を吹いてみた。微かにピーっという音が聞こえた気がする。
すると、モチさんが風に乗って現れた。

「モチさん、こちらを」

セバスがモチさんの首に、レースのリボンを掛けた。

「ヒナ様、こちらにお摑まりください」
「首締まらない?大丈夫?」
「クゥ!」
「大丈夫だそうです」
「じゃあ、よろしくお願いします!」

モチさんの背中に乗せてもらい、リボンを握った。
するとモチさんは島の端からピョンっと飛び降り、身体を広げた。

「いってらっしゃいませ」

セバスののんきな声が聞こえたきがするが、それどころじゃない!
お腹の下の方が、ひゅってなった!

「凄い!モチさん、凄く気持ちいいよ!」
「クゥ!」

でもちょっと目が痛いので、ゴーグル装着。
何処までも続く青い空。高い建物の無い、緑豊かな大地。
太陽の光を反射して、キラキラと光る青い海と白いイカ。

「そうだった。堪能してる場合じゃなかった。モチさん、イカの近くで降りるから、その後は安全な所にいてね」
「クゥ!」

これはオッケーって事で良いのかな?うん、良しとしよう。
段々とイカが近付いて来た。

「お、ジロー発見。じゃあ、行ってきます!」
「クゥ!」

ちょっと怖いけど、モチさんから飛び降りた。





「キャ~!」

クラーケンが足を振る度に、悲鳴が聞こえてくる。

「あぁ、クソ!これじゃ手も足も出ない!」
「おい、そっち来るぞ!」
「うわぁ!」

ちょっとした護衛任務だった。
どこぞの貴族のご令嬢が、海を見たいと言った。
少し前までは、「海の悪魔」と呼ばれる魔物が出て、何艘も船が沈められていた。
だが、その魔物が討伐された。
豪華な船に、ヒラヒラとした洋服の令嬢が乗り込んだ。
入江の中だけと言う約束だったが、令嬢の命令のせいで陸から離れすぎた。
そこへ運悪くクラーケンが出た。
錯乱状態になった令嬢が陸へ戻せと命令。案の定、船を追って来たクラーケンと入江で交戦となった。

「ジローさん、大丈夫ですか!?」
「止血はした。まだ剣は握れる」

そのご令嬢を守る為、左腕一本持ってかれた。

「危ない!」

血を流し過ぎたせいか、クラリと眩暈がした。そこへ、クラーケンの足が迫る。

「最後に、ヒナの飯が食べたかったな」

衝撃に備えて構えた瞬間、薄桃色のフワフワしたものが、クラーケンの足を止めた。
それは、死を覚悟して尚、瞼の裏に浮かんだ姿。

「ヒナ!?」
「おひさ・・・って、腕どこ行った!?」

思わず膝から力が抜けて、座り込んだ。

「お前・・・相変わらず緊張感の無い」
「ちょっと待ってね。えっと・・・あった。これ、飲んで」
「ああ、ポーションか。有難い」

ヒナがポーションを投げて渡してきた。
一気に飲み干すと、焼いて止血した場所が見る見る内に肌の色に戻り、失ったはずの腕が何事も無かった様に存在した。

「な!?」
「よし。じゃぁ、いってきまぁす!」
「は!?おい!」

止める間も無く、クラーケンの足を切り落とし、そのまま本体の方へと向かって行ってしまった。

「はぁ~、まったく!」

痛みどころか緊張までも一気に吹き飛んでしまった。
既に安心感さえあるから、もう笑うしかない。

「う・・・」

声の方を振り返ると、今回の合同依頼で臨時パーティを組んだ中の一人がいた。
しまった。見られた。
欠損した部位を完璧に元に戻すポーションなど、この世に無い。そんな物を使い、しかも放って寄越した者を見られてしまったのだ。
どう説明しようかと悩んでいたが。

「美しい・・・」

予想外の言葉に、更に力が抜けた。
その男は獣人で、ヒナと同じ猫の耳と尾が付いていた。
微妙な気分になりながら、ヒナの戦いっぷりを見守る事にした。





おお、何とか間に合った!
ジローの腕が治るのを見届け、一気に走りだした。
アイテムバッグから槍を取り出し、ジャンプ!

「とう!」

思い切りぶん投げた槍が、一直線にイカの眉間に突き刺さった。
グネグネと動いていたイカの足は徐々に力を失っていき、船も多少の揺れはあったものの、無事着水した。

「「「「「うおおおおおー!!」」」」」

大きな声が聞こえて来て、ちょっとびっくりした。
こっちを見て、ポカンとしてる冒険者もいる!

「よし、逃げよう」

モチ笛を吹くと、直ぐにモチさんが来てくれてそのまま背中に飛び乗った。

「モチさん、風は私が作るから!」
「クゥ~!」

魔法で風を作り出すと、その風に乗ってモチさんが高く舞い上がる。

「凄い!凄い!」
「ク、クゥ~!」

モチさんも楽しそうだ。
目一杯空の散歩を堪能した後、島に戻るとセバスが出迎えてくれた。

「お疲れ様でした」
「楽しかった!セバスもモチさんも、ありがとう!」
「クゥ!」
「あ・・・」

しまった!

「どうされたのですか?」
「少し、貰ってくれば良かった」

新鮮なゲソ・・・。
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