島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも

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第二十話

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第二十話


さて、今日こそは残り一つの素材を取りにいかねば。
トウドウさんの地図を頼りに、森の中を歩いています。

「再生の実という物らしいです」
「今度は実なのね!」
「「み~! 美味しいといいね~」
「ノルさん、ノアさん、食べる為ではありません。世界樹のお薬の為です」
「「そっかぁ。でも、美味しいと、いいよね!」」

実となっているのならば、食べられるのでしょうか? 

「美味しい方が、世界樹だって嬉しいよね~」
「そうだよね~」
「「ね~」」

ノルさんとノアさんが、別々に喋った⁉ 初めて聞きました‥‥。

「そう言えば、世界樹が治ったらどうなるのでしょうか?」

世界樹は瘴気を浄化し、世界を守る。今は枯れかけているので、その浄化も追いつかず、瘴気が大地から漏れ出している。その漏れ出た瘴気をシロさん達が散らしてくださっていた。
瘴気が世界中に溢れ出すと、大災害や飢饉、流行り病といった様々な事が起きるらしい。そして、世界は‥‥。

「そうねぇ。一気に世界が平和に! ってなればいいけど、そうはならないわね」
「それは、瘴気が生きるものの不の感情から生まれるから、ですか?」
「そうよ。世界樹は瘴気を浄化するけれど、瘴気が生まれないようにする事はできなもの」

不の感情を欠片も抱かない者はいない。
私も、国を追い出された時に「滅びればいいのに」くらいは思った。まぁ、直ぐに思い直しましたが。あの国は王子がアレなだけで、陛下や王妃様にはよくしていただいた。自分の家族も‥‥まぁ、アレだが、アレな人達ばかりではなかった‥‥はずだ。
なんと言うか、思い返してみると、私はあまり他人に興味が無かった。
治療や魔獣討伐の記憶はあるが、人の顔をあまり覚えていない。少々申し訳ない気がする。

「だ、大丈夫よ! 世界樹が治れば、世界が滅びる事もないし! 魔獣も多少はおとなしくなるだろうし! それから‥‥あ! 日照りや豪雨とかも落ち着くんじゃないかしら」
「おぉ」

それは、とても良いです! 

「あとは‥‥って、ちょっと! あんたも何か言いなさいよ!」

ピヨさんが私の肩の上から飛び立ち、シロさんの頭の上へと着地。そのまま流れるような動きでシロさんの頭を突きます。
そう言えば、シロさんがずっと静かです。元々あまり口数は多い方ではありませんが、静かすぎる気がする。
ピヨさんに突かれても、何の反応も無い。どこか具合が悪いのでしょうか?

「シロさん、大丈夫ですか?」
「‥‥ん? あぁ、すまん。どうした?」
「体調がよろしくないようでしたら、日を改めましょうか?」
「いや、違う。その‥‥」

シロさんが言い淀むのは珍しい。
もしかして、朝食が美味しくなかったとか⁉

「あ、あの」
「メェちゃん、着いたみたいよぉ~!」

シロさんに聞こうとした瞬間、先行して飛んでいたピヨさんの声が聞こえて来た。

「あ、はい!」

ピヨさんの声がした方へと歩いていくと、少し開けた場所の真ん中に、周りよりも二回り程大きな樹が立っていた。
枝を広く四方に伸ばし、支える幹は太くどっしりと地に根を下ろしていた。

「確か‥‥大樹から垂れ下がる白い髭を探せ、でしたね」

トウドウさんの地図にはそう書いてあった。樹に髭?
不思議に思いながらも樹に近付いて行くと、青々と茂る葉の切れ目の下に、ヒラヒラと風に揺れる白い‥‥髭だ。

「髭ですね」
「髭ね」

真下までやって来ましたが、やはり髭です。
ピヨさんは不思議そうにしていますが、シロさんが嫌そうな顔になっています。

「それは、まぁ‥‥髭だ」
「はい。髭です」
「いや、その‥‥古龍、エンシェントドラゴンの、髭だ」
「はい?」

古龍の、髭? いや、髭と言うからにはその持ち主がいるわけで、うん?

「エン⁉ まさか、いらっしゃるのですか、ここに」
「はぁ~‥‥おい、爺、起きろ!」

シロさんは深いため息を一つ吐くと、上に向かって叫んだ。
少しの間の後、風が樹を撫で、葉擦れの音が通り過ぎると、なんとも気が抜けるような寝起きの声が聞こえて来た。

「ふ‥‥ふぁ~‥‥なんじゃ、騒々しい」
「爺、さっさと実を寄越せ」
「シ、シロさん、その様に言っては」

シロさんは、相手が古龍だと言った。それが本当ならば、とんでもない存在である。
人の身である私からすると、聖獣であるシロさん達も十分とんでもない存在ではあるが、古龍とは別格である。
神々と共に世界を造ったとか、とにかく古龍の出て来ない伝承などほぼ無いのではと言われるほどだ。
悠久の時を生き、最も神に近い存在。その吐息は山を消し去り、尾の一振りで嵐を割るとか‥‥。

「ん~~? おぉ~、にゃんこではないかぁ。久方ぶりだのぉ」
「にゃんこ?」
「俺をそれで呼ぶな!」
「相変わらずミーミーと、元気な事だ」

上におられる方に「にゃんこ」と呼ばれたシロさんが、背中の毛を逆立てて威嚇しています。
どうやら知り合いのようです。

「どうでもいいから、さっさと下りて来い!」
「ふ~む。ほれ、昔の様に遊ぶか? 小さい頃はよくじゃれておったろ」

髭がゆらゆらと揺れ始めた。シロさんの小さい頃‥‥それは、とても見てみたい。

「‥‥むしってやる」

元の大きさになっているシロさんの目の前で、ゆらゆらと揺れる白い髭。
シロさんが前右足をスッと上げた瞬間、ジャキン、と爪を出した。
騎士が持つ剣よりも鋭く、大きな爪。正しく、凶器!

「シロさん、駄目です!」

慌ててシロさんの前足に飛びつき、ぶら下がってしまった。本当に大きい。

「メェ、心配するな。実に傷一つ付けない」
「そういう問題じゃありません」

プラプラと揺れてみましたが、あまり効き目はありません。
とは言え、本当にシロさんがやる気ならば‥‥私にも考えがあります。

「ん~? 人間がおるな。アキとは違うのぉ」

慌てて地面に着地すると、礼をとった。

「お、お初にお目にかかります。メルリアと申します」
「メルリアか。ふむふむ。して、先程からにゃんこが鳴いておるが、再生の実を欲してここまで来たんか?」
「はい。世界樹の治癒をトウドウさんから受け継ぎました」
「そうか‥‥人とは、かくも儚きものよ。瞬き一つの間に過ぎ去ってゆく。それ故、紡いでいくのだろう。実なら好きなだけ持って行くと良い」

古龍がそう言うと、白い髭を伝って緑の蔦が伸び下りてきた。そして瞬く間に、拳程の大きさの赤い実が幾つも実った。
てっきり、この樹に生っているのかと思った!

「あ、ありがとうございます」

これ、古龍に生っているのでしょうか?
恐る恐る実を一つ採ると、上の方から「痛っ」と声がして固まった。

「ほっほっ! 冗談だ」

古龍の冗談、心臓に悪い!

「‥‥悪趣味爺」
「にゃんこはミーミーと元気だのぉ」
「俺をにゃんこと呼ぶな!」
「ほっほっ。この間まで「怖くて樹から降りれない」と鳴いておったくせに」
「千年以上前の事だ! くそっ‥‥これだから、ここには来たくなかった‥‥」

まるでお祖父ちゃんと孫の様な、微笑ましい会話だ。
ここからでは古龍殿の姿は見えないが、瘴気の影響は感じられない。少し安心しました。
ですが、ピヨさんは気圧されたのか私の服の中に隠れてしまい、ノルさんとノアさんもそれぞれ私の足にしがみ付いている。
まぁそれはさておき、これで世界樹の薬が作れます。

「ほっほっほっ。さてはて、メリルラと言ったかの」
「メルリアです」
「メヌノル?」
「‥‥メェ、で大丈夫です」
「ふむふむ、メェか! それではメェ、またいつでも実を取りに来るといい。ここは儂の昼寝すぽっとだからの」
「すぽっと?」

「すぽっと」とは、場所と言う意味らしいと、シロさんが教えてくださった。

「アキが教えてくれた、異世界の言葉らしい」
「不思議な言葉ですね。ところでその、いつでもとはどう言った意味でしょうか? これで薬は作れるのでは」
「作れる。だが、アキは三月に一度来ておったぞ?」

どういう事でしょう。三月に一度?
トウドウさんの残してくださった、世界樹の薬に関する本をパラパラとめくっていく。そして最後の一枚をめくると『ち・な・み・に、薬の投与は状態を見つつ、三月に一度から半年に一度ね! じゃあ、ク―たんによろしく!』と書いてあった。
驚き過ぎて、顔が無に‥‥いや、もともと表情はありませんが。
そうですよね。もしも薬が一度で終わるならば、トウドウさんがしっかりと治しているはず。と言うか、クーたんって何? 誰⁉
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