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Past3(アルマ)
episode69
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突き抜けるような青空。
王都一と名高い名門騎士育成学校“ヴァルアロ”の稽古場。
青々と茂る芝生の上には朝早くから貴族の子息達が集まり、向かい合い技を競い合うように剣を交えている。
ヴァルアロの首席卒業生で名誉団長であるエドウィンにいい所を見せようと、少年達のやる気は十分だ。
「──う、団長!エドウィン団長!」
「・・・・・ん、、?ああ、悪い、聞いてなかった」
一人だけ 夢現なのが当の本人であるエドであり、ヴァルアロ生を束ねる学徒長の少年がぼうっと虚空を眺めたままの青年を見かねてその肩を揺すぶった。
「そんなに惚けてどうされたんですか?いつもは稽古にも熱が入るのに、上の空ですね」
「・・・そうか?俺はいつもと同じつもりだけど」
少し押し黙ったエドが学徒長の少年の視線から逃れるようにそっぽをむく。
「もしかして、昨日までのパーティーで気になるご婦人でも?」
「っ、いや、関係ない。それに俺は警備に当たっていたし・・・疲れが溜まってんのかもな」
「・・・そうですか。ぼうっとしながら頬を赤らめて唇を触っていらしたので、団長をそんなお顔にさせるお相手がいるのだと思って。俺もみんなも団長が気になっちゃって・・・あはは」
少年がエドに耳打ちをすると、青年の落ち着いた表情が以外にも驚きに変わる。
「あれ、団長もしかして──」
「っよし!今から全員相手してやるから一列に並べ!お前も!無駄な探り入れてる暇があったら技を磨け!」
「っ!はい!失礼しましたっ、団長!」
腰に提げていた鞘から剣を抜いたエドが広場に集まっていた少年達に鋭く声を掛けると、少年達の顔が嬉しそうにぱあっと輝く。
若くして国王直属の近衛兵分隊を束ね、尚且つ齢十四にして第三王子のアルマの専属護衛を命じられたエドに稽古を付けてもらいたい若者は山ほど居る。
ヴァルアロ以外の騎士学校ではこうしてエドが稽古を視察するのですら大変名誉なことであり、エドの母校であるヴァルアロ生ですらエド自ら稽古の相手をして貰えるとなると泣いて喜ぶ者さえ居るほどだ。
「疲れるのは嫌いなんだがな──」
今度は生徒たちに気付かれないようにまだ熱を持つ下唇を柔く噛む。
二日前の出来事が頭から離れない。
キスなんて女ともアルマにだって何度もしたことがある。
今更、こんなに気にすることでは無いはずだ。
それなのに何故───。
「っくそ・・・!」
焦れる気持ちを払い除けるようにリズム良く生徒をいなし、スキが生まれた所から攻撃をくわえていく。
「どうしたっ!怯まずに打ち込んで来いっ!」
イライラを誤魔化すように声を張上げ剣を振り上げた時だった。
「っ団長───!!」
「っ!?」
先程の学徒長の少年の悲鳴に似た声に振り下ろしかけた剣の動きを止める。
「ヒッ、ひぃ・・・!」
ピタリと止まったエドの切っ先が向かい合った生徒の簡易兜越しの鼻先に触れる。
対峙していた少年はすっかり戦意を喪失したようで、怯えた表情で芝部の上へへたり混んでしまった。
「っ良かった・・・!エドウィン団長の手加減無しの打ち込みを食らったら、流石に稽古用の剣と兜越しでもタダではすみませんから」
ホッとした表情でへたり混んだままの少年の元に駆け寄った学徒長が、怯えたまま立ち上がれない少年を助け起こす。
「っ悪い・・・。今日の稽古はここまで。次回またこの埋め合わせをするから、今日は勘弁してくれ」
「そんな!こちらこそすみませんでした!お疲れの時にお呼びしてしまって・・・!」
「悪いな」
ザワつく生徒達から逃げるように剣を腰の鞘にしまい慌ただしく稽古場を出て行く。
はっきりしない自分への怒りを生徒に向けるなど言語道断だ。
脳裏に張り付いたアルマの蕩けた表情と唇の感触にゾクリと身体が震える。
「ああ、クソっ!」
小さく舌打ちをして更衣室の机に剣を放った。
王都一と名高い名門騎士育成学校“ヴァルアロ”の稽古場。
青々と茂る芝生の上には朝早くから貴族の子息達が集まり、向かい合い技を競い合うように剣を交えている。
ヴァルアロの首席卒業生で名誉団長であるエドウィンにいい所を見せようと、少年達のやる気は十分だ。
「──う、団長!エドウィン団長!」
「・・・・・ん、、?ああ、悪い、聞いてなかった」
一人だけ 夢現なのが当の本人であるエドであり、ヴァルアロ生を束ねる学徒長の少年がぼうっと虚空を眺めたままの青年を見かねてその肩を揺すぶった。
「そんなに惚けてどうされたんですか?いつもは稽古にも熱が入るのに、上の空ですね」
「・・・そうか?俺はいつもと同じつもりだけど」
少し押し黙ったエドが学徒長の少年の視線から逃れるようにそっぽをむく。
「もしかして、昨日までのパーティーで気になるご婦人でも?」
「っ、いや、関係ない。それに俺は警備に当たっていたし・・・疲れが溜まってんのかもな」
「・・・そうですか。ぼうっとしながら頬を赤らめて唇を触っていらしたので、団長をそんなお顔にさせるお相手がいるのだと思って。俺もみんなも団長が気になっちゃって・・・あはは」
少年がエドに耳打ちをすると、青年の落ち着いた表情が以外にも驚きに変わる。
「あれ、団長もしかして──」
「っよし!今から全員相手してやるから一列に並べ!お前も!無駄な探り入れてる暇があったら技を磨け!」
「っ!はい!失礼しましたっ、団長!」
腰に提げていた鞘から剣を抜いたエドが広場に集まっていた少年達に鋭く声を掛けると、少年達の顔が嬉しそうにぱあっと輝く。
若くして国王直属の近衛兵分隊を束ね、尚且つ齢十四にして第三王子のアルマの専属護衛を命じられたエドに稽古を付けてもらいたい若者は山ほど居る。
ヴァルアロ以外の騎士学校ではこうしてエドが稽古を視察するのですら大変名誉なことであり、エドの母校であるヴァルアロ生ですらエド自ら稽古の相手をして貰えるとなると泣いて喜ぶ者さえ居るほどだ。
「疲れるのは嫌いなんだがな──」
今度は生徒たちに気付かれないようにまだ熱を持つ下唇を柔く噛む。
二日前の出来事が頭から離れない。
キスなんて女ともアルマにだって何度もしたことがある。
今更、こんなに気にすることでは無いはずだ。
それなのに何故───。
「っくそ・・・!」
焦れる気持ちを払い除けるようにリズム良く生徒をいなし、スキが生まれた所から攻撃をくわえていく。
「どうしたっ!怯まずに打ち込んで来いっ!」
イライラを誤魔化すように声を張上げ剣を振り上げた時だった。
「っ団長───!!」
「っ!?」
先程の学徒長の少年の悲鳴に似た声に振り下ろしかけた剣の動きを止める。
「ヒッ、ひぃ・・・!」
ピタリと止まったエドの切っ先が向かい合った生徒の簡易兜越しの鼻先に触れる。
対峙していた少年はすっかり戦意を喪失したようで、怯えた表情で芝部の上へへたり混んでしまった。
「っ良かった・・・!エドウィン団長の手加減無しの打ち込みを食らったら、流石に稽古用の剣と兜越しでもタダではすみませんから」
ホッとした表情でへたり混んだままの少年の元に駆け寄った学徒長が、怯えたまま立ち上がれない少年を助け起こす。
「っ悪い・・・。今日の稽古はここまで。次回またこの埋め合わせをするから、今日は勘弁してくれ」
「そんな!こちらこそすみませんでした!お疲れの時にお呼びしてしまって・・・!」
「悪いな」
ザワつく生徒達から逃げるように剣を腰の鞘にしまい慌ただしく稽古場を出て行く。
はっきりしない自分への怒りを生徒に向けるなど言語道断だ。
脳裏に張り付いたアルマの蕩けた表情と唇の感触にゾクリと身体が震える。
「ああ、クソっ!」
小さく舌打ちをして更衣室の机に剣を放った。
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