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Past5(ローランド)
episode66
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「へ、陛下っ・・・。私、何かしてしまったでしょうか?」
「・・・」
ローランドが黙ったまま銀杯に自分とフィリップの分の葡萄酒を注ぎ、飲めと言わんばかりに頬ずえをついたままじっと男を赤い瞳で見つめていた。
男が緊張からか思い切りそれを飲み干すと、青年が可笑しそうに笑う。
「はは、それは一杯でお前の屋敷が三軒は建つんだぞ?味わって飲んだらどうだ」
「え''っ?!」
ゴホゴホとむせるフィリップを見つめていたローランドも、男に倣うように並々と注がれた葡萄酒を飲み干す。
「・・・あ、あの。私など中流階級の者がこんな陛下と二人きりで、場違いでは・・・」
ローランドがあまり派手な酒の飲み方をするのを見た事がなかったため飲みっぷりに驚いたが、目の前に座る美しい青年と視線がかち合い気まずさからフィリップが本題に切り込む。
「・・・畏まるな。今は俺とお前だけだ。護衛の兵も適当に誤魔化して他へやった。ここには正真正銘、俺とお前しかいない」
大きな部屋の入口へと目をやるローランドの耳飾りが揺れ、キラキラと光を反射する。
いつもはローランドを見張るようにドアの両脇に立つ二人の近衛兵も、今は立っていない。
大きな部屋には本棚と二人が向き合って座っている机と椅子、大きなカウチとベッドがあるのみで見た感じは豪華な客室と言ったところだろう。
「あ、あの・・・」
舞踏会の途中、いきなりローランドに腕を引かれてこの部屋に連れられてきたはいいが、前回の険悪な別れからまさか二人きりになる機会があるとは思っておらず、フィリップも何が何だかわからない状態だ。
前に垂れた艶やかな金髪を後ろに掻きあげたローランドの指先が、気だるそうに耳飾りを外す。
「・・・重くてかなわない。この耳飾り一つだけでローゼンの民が1年は気楽に暮らせるだろう」
乱暴に机に放られた耳飾りにフィリップが目線を落とす。
「・・・ローランド様、私は、正直貴方が何を考えているかわからないです。てっきり私は貴方に嫌われたかと・・・」
青年の肩がピクリと震え、暫くの沈黙。
手持ち無沙汰になった男の両手が空になった銀杯を握る。
「・・・フィル。俺、彼女と寝たよ」
「・・・えっ。ぁ、あ!お、おめでとう、ございます」
「ああ」
咄嗟に出た取り繕うような祝辞にローランドがフッと小さく笑う。
「暫くは挿れられる側だったから、上手く出来たかどうか・・・はは」
「っ・・・」
「まだ孕んだと決まった訳では無いが、きっと成功するだろうとマイヤーの奴も言っていたよ」
俯いたまま机の上の耳飾りを弄っていた青年が、くつくつと笑い出す。
「・・・ローランド様?」
「・・・お前も俺の子を、世継ぎを望むか?」
意地悪な質問だ。
男の身体が一瞬石のように固まる。
フィリップがローランドに向ける感情はきっとその問いに「いいえ」と答えるだろう。
目の前の美しい青年もそれを知っていて、わざと聞いているのだ。
「っ・・・それは、、きっと。民も喜びます。城下でもお子は男の子か女の子かと、その話で持ち切りですし。若く美しいお二人へのご結婚の祝福を肌で感じています」
「・・・民、か。まるでお前は嬉しくないようだ」
「っ!決して、決してそんな事は・・・!きっと、お二人に似た聡明で美しいお世継ぎが誕生なさる事でしょう」
「ふふ、そうか」
慌てて訂正を入れたフィリップがローランドの方へ顔を向けると、男の視界に映る青年の顔がくにゃくにゃと歪んでボヤけている。
緊張が悪く作用したのか、たった一杯の葡萄酒で酔っ払ったのだろうか。
意識し始めたせいかぐらぐらと頭が揺すぶられている感覚に、気を紛らわそうと言葉が次から次へと溢れる。
「ええ、その際はぜひ我が校へ。私がしっかりとお世継ぎをお守り致します」
国王が管理する ローゼンヴァルド第一校に王族の子息が就学するのは当たり前の事だったが、あの事件以降学校が閉鎖するのではとの噂も少なくはあるが聞く。
ましてや事件に深く関わっていると言わざるを得ないフィリップが、今後の処遇を決める立場の王に対して言えるセリフでは無い。
混乱した頭ではそのタブーに気付くのには時間がかかり、男がお詫びと訂正を入れる前に黙って全てを聞いていたローランドが閉じていた唇を静かに開いた。
「・・・」
ローランドが黙ったまま銀杯に自分とフィリップの分の葡萄酒を注ぎ、飲めと言わんばかりに頬ずえをついたままじっと男を赤い瞳で見つめていた。
男が緊張からか思い切りそれを飲み干すと、青年が可笑しそうに笑う。
「はは、それは一杯でお前の屋敷が三軒は建つんだぞ?味わって飲んだらどうだ」
「え''っ?!」
ゴホゴホとむせるフィリップを見つめていたローランドも、男に倣うように並々と注がれた葡萄酒を飲み干す。
「・・・あ、あの。私など中流階級の者がこんな陛下と二人きりで、場違いでは・・・」
ローランドがあまり派手な酒の飲み方をするのを見た事がなかったため飲みっぷりに驚いたが、目の前に座る美しい青年と視線がかち合い気まずさからフィリップが本題に切り込む。
「・・・畏まるな。今は俺とお前だけだ。護衛の兵も適当に誤魔化して他へやった。ここには正真正銘、俺とお前しかいない」
大きな部屋の入口へと目をやるローランドの耳飾りが揺れ、キラキラと光を反射する。
いつもはローランドを見張るようにドアの両脇に立つ二人の近衛兵も、今は立っていない。
大きな部屋には本棚と二人が向き合って座っている机と椅子、大きなカウチとベッドがあるのみで見た感じは豪華な客室と言ったところだろう。
「あ、あの・・・」
舞踏会の途中、いきなりローランドに腕を引かれてこの部屋に連れられてきたはいいが、前回の険悪な別れからまさか二人きりになる機会があるとは思っておらず、フィリップも何が何だかわからない状態だ。
前に垂れた艶やかな金髪を後ろに掻きあげたローランドの指先が、気だるそうに耳飾りを外す。
「・・・重くてかなわない。この耳飾り一つだけでローゼンの民が1年は気楽に暮らせるだろう」
乱暴に机に放られた耳飾りにフィリップが目線を落とす。
「・・・ローランド様、私は、正直貴方が何を考えているかわからないです。てっきり私は貴方に嫌われたかと・・・」
青年の肩がピクリと震え、暫くの沈黙。
手持ち無沙汰になった男の両手が空になった銀杯を握る。
「・・・フィル。俺、彼女と寝たよ」
「・・・えっ。ぁ、あ!お、おめでとう、ございます」
「ああ」
咄嗟に出た取り繕うような祝辞にローランドがフッと小さく笑う。
「暫くは挿れられる側だったから、上手く出来たかどうか・・・はは」
「っ・・・」
「まだ孕んだと決まった訳では無いが、きっと成功するだろうとマイヤーの奴も言っていたよ」
俯いたまま机の上の耳飾りを弄っていた青年が、くつくつと笑い出す。
「・・・ローランド様?」
「・・・お前も俺の子を、世継ぎを望むか?」
意地悪な質問だ。
男の身体が一瞬石のように固まる。
フィリップがローランドに向ける感情はきっとその問いに「いいえ」と答えるだろう。
目の前の美しい青年もそれを知っていて、わざと聞いているのだ。
「っ・・・それは、、きっと。民も喜びます。城下でもお子は男の子か女の子かと、その話で持ち切りですし。若く美しいお二人へのご結婚の祝福を肌で感じています」
「・・・民、か。まるでお前は嬉しくないようだ」
「っ!決して、決してそんな事は・・・!きっと、お二人に似た聡明で美しいお世継ぎが誕生なさる事でしょう」
「ふふ、そうか」
慌てて訂正を入れたフィリップがローランドの方へ顔を向けると、男の視界に映る青年の顔がくにゃくにゃと歪んでボヤけている。
緊張が悪く作用したのか、たった一杯の葡萄酒で酔っ払ったのだろうか。
意識し始めたせいかぐらぐらと頭が揺すぶられている感覚に、気を紛らわそうと言葉が次から次へと溢れる。
「ええ、その際はぜひ我が校へ。私がしっかりとお世継ぎをお守り致します」
国王が管理する ローゼンヴァルド第一校に王族の子息が就学するのは当たり前の事だったが、あの事件以降学校が閉鎖するのではとの噂も少なくはあるが聞く。
ましてや事件に深く関わっていると言わざるを得ないフィリップが、今後の処遇を決める立場の王に対して言えるセリフでは無い。
混乱した頭ではそのタブーに気付くのには時間がかかり、男がお詫びと訂正を入れる前に黙って全てを聞いていたローランドが閉じていた唇を静かに開いた。
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