棘バラの口付け

おかだ。

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Past5(ローランド)

episode65

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二階席から二人の男がホールを見下ろしている。

一人は不機嫌そうに椅子へ腰掛ける先王であるアレル、横に座っているのはマイヤー枢機卿だ。

「・・・あの男。随分と、・・・ローランド陛下と親しげですな」

「・・・」

マイヤーの皮肉るような言葉にアレルが豊かな口髭を不機嫌そうに撫でつける。

「私の進言を無下になさるからこうなったのです。大切なご子息があのような男に堕ちる事などなかった」

「・・・世継ぎは?オリヴィアからは問題ないと聞いているがマイヤー殿の計画は失敗したと聞いたぞ」

アレルが階下の二人を注視したままマイヤーを非難すると、ニヤケずらを顰めた男が食い気味に言い訳をこぼす。

「国一番の薬師に作らせた薬が効かぬのであれば、手の打ちようもありません。一時は焦りましたが、オリヴィア様のお助けもあり無事母体に子種を注ぐ事に成功したと従僕からも報告を受けております」

「そうか。クラリサは表に出ていて良いのか?腹の子に障ると悪い」

「大丈夫でしょう。経験の豊富な乳母を付けておりますし、大勢が集まる場に王妃が不在となればどんな憶測を呼ぶか」

ローランドのあの素っ気ない態度では、「二人は不仲なのでは」などと邪推する輩はいくらでも出てくるに違いない。

マイヤーが苦々しげにローランドの側に立つ少女を見下ろす。

元々気の優しい性格の少女だった為か、ローランドとフィリップの二人を困惑するように遠巻きに眺めている。

オリヴィアの推薦で彼女がローランドの花嫁にと選ばれた時から憂慮していた事ではあるが、気の強いマリドとは違いクラリサは気が弱い。

彼女の気の弱さがフィリップとローランド二人の関係をアレルやオリヴィアにとって、ひいては自身にとっても都合の悪い方向へ悪化させやしまいかと別の悩みの種を増やしてしまっていた。

「・・・手のかかる子だ。 彼奴の父親ジョージの件であの子ローランドのこの父に対する反抗も減ったが・・・」

先王アレルは二人の関係を苦々しく思ってはいるが、美しく奔放であったローランドの首に枷を付けることが出来て一安心といった様子だった。

「そう簡単に行かぬと思うがな・・・」

小さな声で呟いたマイヤーの声はアレルには届くことはなかった。
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