とける。

おかだ。

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拾陸

第85話

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「てめぇ!」

大きな物音と男の叫び声に女が目を開けた。

隣で眠っていた男の姿がなく、声の主は男だろう。

「ん・・・ダイキ?」

ソファから立ち上がり大きく欠伸すると、声のした方へ足を進める。

声の主がどこにいるかは人目でわかった。

「ダイキ?そこにいるの?」

開け放たれた和室からは明かりが漏れ、畳が擦れるような音が聞こえてくる。

あの部屋には芥が眠っているはずだ。

女が寝ぼけたまま和室の入口に立ち、部屋の惨状を目にして呆気に取られる。

「なに・・・これ?」

女の声に弾かれるように振り返った男が慌てて引き攣った笑顔を浮かべる。

「あっ、あのさ、寝苦しそうに魘されてたから「押し入れじゃなくて部屋の真ん中で寝ればいいじゃん」って。移動させてやろうと思って腕掴んだら起きちゃって・・・。暴れたからさ!な?落ち着かせようと思ったら勝手に倒れて頭ぶつけてさ」

胸あたりまでたくし上げられたシャツは血で汚れていて、腹にはテラテラと白濁した体液が付いている。

男が言っていることが嘘なのはこの状況だけでわかる。

「・・・死んだの?」

「えっ?」

「死んだの?って!聞いてんの!」

女の金切り声にビクついた男が慌てて少年の口元に顔を近付ける。

弱々しい呼吸音が男の耳にあたり、男が安堵したように首を横に振る。

「芥、芥、大丈夫?」

呆然とする男の横に座った女が少年の頭を持ち上げ、自身の膝に乗せる。

「っ・・・、ぅう''」

強いビンタを二発も食らったせいで赤黒く染まった頬を女が撫でる。

「芥っ、わかる?ママよ?」

「母さん、俺・・・」

女の優しい口調に安心した芥の目尻から涙がこぼれる。

女の背後には気まずそうに男が背を丸めて座っており、ハッと顔を青くした少年がたくし上げられた服を直し後ろに後ずさる。

「母さんっ、俺・・・!そいつがっ!」

「芥、お父さんには内緒にして」

「え?」

恐怖と怒りで震える声が、母の一言で疑問に変わる。

「お母さん、これが知られたらお父さんに怒られてどんな目に遭うか。芥は優しい子だから、許してあげられるわよね?」

宥めるような、それでいて有無を言わせない母の声に喉が引き攣る。

信じられないと言うように女の奥に座る男を睨みつけると、ほっと胸を撫で下ろす男が映る。

「芥、あんたも悪かったのよ。こんな所で寝るから。あんたも誘ったんでしょ?ダイキの事」

「は・・・、?」

「お父さんにバレたら、お母さんだけじゃなくて芥も打たれるのよ?嫌でしょ?ね?」

力なく項垂れる芥の頭を慰めるように女の手が撫でた。
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