とける。

おかだ。

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拾陸

第83話

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「・・・っん、ダイキ?もう帰る?」

「や、トイレ。すぐ戻るから」

腰に絡みつく女の両腕を鬱陶しそうに解いた男が、枕元のスマホに目を向ける。

時刻は午前3時丁度だ。

昼過ぎ頃に女の家に転がり込んでから大体十三時間ほどが経っただろうか。

「はー疲れた。年増の女抱くのも苦労するわ」

ソファで眠る女を見下ろし嘲るようにため息を着く。

こうして女と寝るのは夜の宿代だ。

定住していなかった男が手っ取り早くタダで宿を調達するにはこうするのが一番楽だ。

女の満足するまで抱いてやって、褒めて、甘えればいつだって転がり込める。

「次は口直しに若い女の所行くか」

寝こける女にバレないように静かにズボンを履き終え、シャツを着る。

後で女が怒ってきても問題ない。

また甘えればコロりと次も泊まらせてくれる。

「じゃ~な、馬鹿女」

忍び足で玄関に向かおうとした男がふと足を止める。

「・・・ん?」

玄関に1番近い部屋から漏れる光。

このぼろアパートには部屋はリビングの他に風呂とトイレ、それと小さな和室だ。

今日は和室には女の息子が寝ているはずだ。

ツンとした表情が気に食わない無愛想なガキだ。

「チッ、電気なんて付けて結局聞いてたんだろ」

勢い良く和室の襖を開けると、そこには学生鞄が転がるだけで芥の姿は無い。

壁にはまだ未成熟で小柄な体に不釣り合いな学ランが掛けられている。

「なんだよ、エラソーな態度とった割に外に逃げたのか?」

フンっと鼻で笑い部屋を後にしようとした男が立ち止まる。

「・・・ん、かぁ、さん」

小さく掠れた声が男の耳に入った。

「・・・芥、君?起きてるのー?」

足音をころして押し入れの前まで行くと、慎重に押し入れの襖を開けた。

見ると押入れの中に見事に隠れ家のような小さな部屋ができており、狭い中に敷かれた布団に体をよじらせるようにして少年が寝ていた。

「あはっ、なんだよコレ。こんなところで寝なくても部屋の真ん中に布団敷いて寝ればいいだろ」

狭そうに眠っている少年を見下ろしてケタケタと笑った男が思いついたようにスマホを取りだしパシャリとシャッターを切る。

パシャッパシャッパシャッ

フラッシュをたく度に少年の寝顔が少し歪む。

「ごめ・・なさ・・・」

「あ?」

少年の震える唇からこぼれた声に男がその手を止める。

「母さん、、ごめんなさい・・・かあさっ・・・」

「なんだよコイツ母親に怒られる夢でも見てんのか?」

ニヤリと笑った男がカメラをビデオモードに切り替える。

開いた押入れの前に立ち、そこで眠る魘される芥をスマホに収める。

昼間の少年の態度が気に食わなかった腹いせに、次会った時に見せてやろう。

嫌がる?顔を真っ赤にして怒る?恥ずかしくて泣いてしまうだろうか?

ほくそ笑みながらスマホ画面に映る少年を見つめる。

寝苦しそうに寝返りをうつ度に首筋の汗が光り、張り付く髪の毛を鬱陶しそうに手のひらが拭う。

「んっ、うぅ・・・父、さん、ゆるして・・・」

伏せられたまぶたの隙間から涙がこぼれ、男が思わず目を見張る。

ビデオモード状態のスマホを手に持ったまま、ゆっくりと少年の頬に手を伸ばし、涙を拭う。

「ゆるして・・・」

「っ・・・」

うわ言のように許しを乞う芥がどんな夢を見ているのかは分からない。

涙を拭った男の手が徐々に乱暴になってゆき、柔らかくキメ細かい少年の頬を揉みしだく。

「っぁ、う''・・・?な、に・・・」

頬の痛みに薄く目を開けた少年が、今度は視界に飛び込んできた男と自分に向けられたスマホに驚愕する。

「っ!何して!?離せっ気持ち悪い!なんだよっ終わったんなら出てけっ!」

芥の頬を乱暴につまんだままの男の手を少年が払い除ける。

少年は上半身を起き上がらせ後ろに後ずさるが、なんせ狭い押し入れでは下がる余地がない。

「あ、ああ、そうだよな」

まだ冷静になれずにいる男が少年の罵倒に従ってビデオを切る。

「・・・っ早くどいて」

やけに素直な男に怯えるように芥が口を開く。

男が少年をもう一度見ると、先程拭ってやったはずの涙がポロポロと頬を伝った。

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