とける。

おかだ。

文字の大きさ
上 下
76 / 89
拾肆

第76話

しおりを挟む
「──介、起きろ。恭介、・・・恭介」

「んっ、」

肩に触れた手が優しく少年の体を左右に揺さぶる。

ぐっと眉間に皺を寄せて布団の中で丸めていた体を伸ばし、ぼんやりと寝ぼけたまま自分の名前を呼ぶ男を見上げた。

「・・・?」

ゆっくりと瞬きを繰り返す恭介を見下ろす喜島の顔が、ほんの一瞬驚きに面食らったかのようになる。

「恭介、が呼んでる。そろそろ下に降りよう」

「・・・父さん?」

モゾモゾと寝返りを打ち、喜島の声を反復し、サッと血の気が引く。

「ッわぁ?!っ!勝手に部屋入ってくるなよ!」

「悪い。そう思ったんだけど、何回ノックしても反応がなくて」

布団を肩まで被って思わず怒鳴りつけると、悪びれる様子のない淡々とした声が頭上から帰ってくる。

布団に隠れた下半身のスースーする感覚と謎の不快感は、恭介があの時自慰行為をした後にそのままの状態で寝落ちしてしまった事をさしている。

このまま起き上がる訳には行かない。

喜島を何とか部屋から追い出さなければ。

「っ出てけよ!入ってくるな!」

頭に敷いていた枕をベッド脇に立っている喜島めがけて思いっきり投げつける。

「・・・父さんが恭介を連れて来いって。また寝るといけないから、俺と──」

「ッ~!あーもー!わかったから外で待ってろよ!」

「わかった」

枕を拾い上げた喜島がこの横暴に怒るでもなく頷くと、小さく相槌をして部屋を出ていく。

恭介の心臓は跳ね上がるほどにドキドキと脈打っていた。

「っ、大丈夫、大丈夫、バレてないよな」

慌てて布団を捲ると、膝下辺りまでずり下げたままのズボンとパンツ、太ももにこびり付いて固まった精液が目に映る。

もちろん手のひらにもべっとりと付いた精液が固まりかけている。

「ッ~~!」

しまった!今日に限って寝落ちするなんて!

もしかしたら部屋の匂いでバレたかも!布団がズレて見えていたかも!

ティッシュで手のひらや太ももについた精液を拭い、先程の喜島の顔を思い出す。

まるで何も無かったかのような涼しい顔をしていた。

「・・・」

ムクリと起き上がり覚悟を決めて恭介が部屋の戸を開けると、廊下の壁に背を預けてウトウトと首を上下に揺らす喜島の姿があった。

風呂上がりなのか髪の毛はしっとりと湿っていて、普段は左右に分けられている前髪が目を隠す程に垂れ下がっている。

「(今朝のせいで、寝れてないのか?)」

起こさないよう気をつけながら喜島の顔をのぞき込む。

薄く開かれた唇からは落ち着いた呼吸音が漏れて、伏せた瞼のまつ毛が時より揺れる。

「・・・おい」

「・・・」

「おいっ、喜島」

「っ、あぁ、ごめん。恭介、もういいのか?」

「うん。あ、俺、風呂入る」

自慰の最中に眠ってしまって汚れたから気持ち悪くて。なんてましてやオカズにしてしまった張本人に言えるはずもなく、気まづくなって顔を逸らす。

「そうか。実は俺も少し前に風呂使ったからバスタオル掛かってるけど、嫌だったら取り替えてくれ」

「っわ、かった・・・」

ドキリとする。

あの後、風呂でどうしてたんだろう。

普通に風呂に入ったのだと考えればいいはずなのに、どうしても変な想像をしてしまう。

「取り敢えず下、降りようか。父さんがこの後幹部会らしいから」

「うん」

喜島と暮らすようになって今まで約一年、何かにつけて理不尽に突っかかってきたが、数時間前のあの出来事から突っかかる気も起きない。

それどころか、心臓が煩くてまともに目を合わせる事も難しい。

「・・・恭介、一回起きたのか?」

「・・・」

「恭介が昼まで寝てるの、珍しいなと思って」

喜島の問いかけには答えなかった。
少し立ち止まって喜島が黙ったままの恭介を振り返ろうとしたが、喜島の目が恭介を捉えることは無かった。

自分よりも大きな義兄の背に続いて階段を降りて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...