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拾肆
第76話
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「──介、起きろ。恭介、・・・恭介」
「んっ、」
肩に触れた手が優しく少年の体を左右に揺さぶる。
ぐっと眉間に皺を寄せて布団の中で丸めていた体を伸ばし、ぼんやりと寝ぼけたまま自分の名前を呼ぶ男を見上げた。
「・・・兄、さん?」
ゆっくりと瞬きを繰り返す恭介を見下ろす喜島の顔が、ほんの一瞬驚きに面食らったかのようになる。
「恭介、父さんが呼んでる。そろそろ下に降りよう」
「・・・父さん?」
モゾモゾと寝返りを打ち、喜島の声を反復し、サッと血の気が引く。
「ッわぁ?!喜島っ!勝手に部屋入ってくるなよ!」
「悪い。そう思ったんだけど、何回ノックしても反応がなくて」
布団を肩まで被って思わず怒鳴りつけると、悪びれる様子のない淡々とした声が頭上から帰ってくる。
布団に隠れた下半身のスースーする感覚と謎の不快感は、恭介があの時自慰行為をした後にそのままの状態で寝落ちしてしまった事をさしている。
このまま起き上がる訳には行かない。
喜島を何とか部屋から追い出さなければ。
「っ出てけよ!入ってくるな!」
頭に敷いていた枕をベッド脇に立っている喜島めがけて思いっきり投げつける。
「・・・父さんが恭介を連れて来いって。また寝るといけないから、俺と──」
「ッ~!あーもー!わかったから外で待ってろよ!」
「わかった」
枕を拾い上げた喜島がこの横暴に怒るでもなく頷くと、小さく相槌をして部屋を出ていく。
恭介の心臓は跳ね上がるほどにドキドキと脈打っていた。
「っ、大丈夫、大丈夫、バレてないよな」
慌てて布団を捲ると、膝下辺りまでずり下げたままのズボンとパンツ、太ももにこびり付いて固まった精液が目に映る。
もちろん手のひらにもべっとりと付いた精液が固まりかけている。
「ッ~~!」
しまった!今日に限って寝落ちするなんて!
もしかしたら部屋の匂いでバレたかも!布団がズレて見えていたかも!
ティッシュで手のひらや太ももについた精液を拭い、先程の喜島の顔を思い出す。
まるで何も無かったかのような涼しい顔をしていた。
「・・・」
ムクリと起き上がり覚悟を決めて恭介が部屋の戸を開けると、廊下の壁に背を預けてウトウトと首を上下に揺らす喜島の姿があった。
風呂上がりなのか髪の毛はしっとりと湿っていて、普段は左右に分けられている前髪が目を隠す程に垂れ下がっている。
「(今朝のせいで、寝れてないのか?)」
起こさないよう気をつけながら喜島の顔をのぞき込む。
薄く開かれた唇からは落ち着いた呼吸音が漏れて、伏せた瞼のまつ毛が時より揺れる。
「・・・おい」
「・・・」
「おいっ、喜島」
「っ、あぁ、ごめん。恭介、もういいのか?」
「うん。あ、俺、風呂入る」
自慰の最中に眠ってしまって汚れたから気持ち悪くて。なんてましてやオカズにしてしまった張本人に言えるはずもなく、気まづくなって顔を逸らす。
「そうか。実は俺も少し前に風呂使ったからバスタオル掛かってるけど、嫌だったら取り替えてくれ」
「っわ、かった・・・」
ドキリとする。
あの後、風呂でどうしてたんだろう。
普通に風呂に入ったのだと考えればいいはずなのに、どうしても変な想像をしてしまう。
「取り敢えず下、降りようか。父さんがこの後幹部会らしいから」
「うん」
喜島と暮らすようになって今まで約一年、何かにつけて理不尽に突っかかってきたが、数時間前のあの出来事から突っかかる気も起きない。
それどころか、心臓が煩くてまともに目を合わせる事も難しい。
「・・・恭介、一回起きたのか?」
「・・・」
「恭介が昼まで寝てるの、珍しいなと思って」
喜島の問いかけには答えなかった。
少し立ち止まって喜島が黙ったままの恭介を振り返ろうとしたが、喜島の目が恭介を捉えることは無かった。
自分よりも大きな義兄の背に続いて階段を降りて行った。
「んっ、」
肩に触れた手が優しく少年の体を左右に揺さぶる。
ぐっと眉間に皺を寄せて布団の中で丸めていた体を伸ばし、ぼんやりと寝ぼけたまま自分の名前を呼ぶ男を見上げた。
「・・・兄、さん?」
ゆっくりと瞬きを繰り返す恭介を見下ろす喜島の顔が、ほんの一瞬驚きに面食らったかのようになる。
「恭介、父さんが呼んでる。そろそろ下に降りよう」
「・・・父さん?」
モゾモゾと寝返りを打ち、喜島の声を反復し、サッと血の気が引く。
「ッわぁ?!喜島っ!勝手に部屋入ってくるなよ!」
「悪い。そう思ったんだけど、何回ノックしても反応がなくて」
布団を肩まで被って思わず怒鳴りつけると、悪びれる様子のない淡々とした声が頭上から帰ってくる。
布団に隠れた下半身のスースーする感覚と謎の不快感は、恭介があの時自慰行為をした後にそのままの状態で寝落ちしてしまった事をさしている。
このまま起き上がる訳には行かない。
喜島を何とか部屋から追い出さなければ。
「っ出てけよ!入ってくるな!」
頭に敷いていた枕をベッド脇に立っている喜島めがけて思いっきり投げつける。
「・・・父さんが恭介を連れて来いって。また寝るといけないから、俺と──」
「ッ~!あーもー!わかったから外で待ってろよ!」
「わかった」
枕を拾い上げた喜島がこの横暴に怒るでもなく頷くと、小さく相槌をして部屋を出ていく。
恭介の心臓は跳ね上がるほどにドキドキと脈打っていた。
「っ、大丈夫、大丈夫、バレてないよな」
慌てて布団を捲ると、膝下辺りまでずり下げたままのズボンとパンツ、太ももにこびり付いて固まった精液が目に映る。
もちろん手のひらにもべっとりと付いた精液が固まりかけている。
「ッ~~!」
しまった!今日に限って寝落ちするなんて!
もしかしたら部屋の匂いでバレたかも!布団がズレて見えていたかも!
ティッシュで手のひらや太ももについた精液を拭い、先程の喜島の顔を思い出す。
まるで何も無かったかのような涼しい顔をしていた。
「・・・」
ムクリと起き上がり覚悟を決めて恭介が部屋の戸を開けると、廊下の壁に背を預けてウトウトと首を上下に揺らす喜島の姿があった。
風呂上がりなのか髪の毛はしっとりと湿っていて、普段は左右に分けられている前髪が目を隠す程に垂れ下がっている。
「(今朝のせいで、寝れてないのか?)」
起こさないよう気をつけながら喜島の顔をのぞき込む。
薄く開かれた唇からは落ち着いた呼吸音が漏れて、伏せた瞼のまつ毛が時より揺れる。
「・・・おい」
「・・・」
「おいっ、喜島」
「っ、あぁ、ごめん。恭介、もういいのか?」
「うん。あ、俺、風呂入る」
自慰の最中に眠ってしまって汚れたから気持ち悪くて。なんてましてやオカズにしてしまった張本人に言えるはずもなく、気まづくなって顔を逸らす。
「そうか。実は俺も少し前に風呂使ったからバスタオル掛かってるけど、嫌だったら取り替えてくれ」
「っわ、かった・・・」
ドキリとする。
あの後、風呂でどうしてたんだろう。
普通に風呂に入ったのだと考えればいいはずなのに、どうしても変な想像をしてしまう。
「取り敢えず下、降りようか。父さんがこの後幹部会らしいから」
「うん」
喜島と暮らすようになって今まで約一年、何かにつけて理不尽に突っかかってきたが、数時間前のあの出来事から突っかかる気も起きない。
それどころか、心臓が煩くてまともに目を合わせる事も難しい。
「・・・恭介、一回起きたのか?」
「・・・」
「恭介が昼まで寝てるの、珍しいなと思って」
喜島の問いかけには答えなかった。
少し立ち止まって喜島が黙ったままの恭介を振り返ろうとしたが、喜島の目が恭介を捉えることは無かった。
自分よりも大きな義兄の背に続いて階段を降りて行った。
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