とける。

おかだ。

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拾肆

第75話

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──ぎしっ

古い床板が軋んだ音だった。

「ん?」

自身の下半身を寛げ喜島の下腹部に手を伸ばしかけた橘がふと訝しげに片眉をあげる。

「っ!」

恭介が思わず隣にある自室に転がり込み、ベッドに潜り込み息を殺す。

「(橘は何やってたんだ?!あれって、あれって、セックスだよな?・・・エロいキス、してたしっ!でも、喜島アイツは嫌がってた?止めなくてよかったのか?いやっ、あんなの俺が止められるわけっ!)」

ぐるぐると考えを巡らせるが、心臓がドクドクとうるさく脈打つせいで考えが纏まらない。

「(何よりもなんでっ、アイツの声でってんだ、俺・・・)」

心臓が痛い。股間も──。

かあっと顔が熱くなり、先程のやり取りを思い出す。

いつも腹が立つほど涼しい顔で口数の少ない義兄が嫌がる姿に、それでも無理やり暴かれ感じさせられる姿に興奮してしまった。

──コンコンッ

スリッパが板張りを擦る音がして、が恭介の部屋の戸を叩く。

恭介の部屋だけは中学に上がると同時に襖を木のドアに変えたのだ。

襖だけだとプライバシーが無さすぎる。
中学生には死活問題だった。

鍵も付けてもらえば良かったと冷や汗を流す。

──コンコンコンッ

「・・・坊ちゃん。部屋に、いますよね?」

「っ・・・」

夏なのが憎らしい。

冬であれば厚手の掛け布団に潜ることが出来るが、ベッドの上には薄手のブランケットしかなく、顔を覆うことは出来ない。

一体、どんな顔をしていればいいのだ。

「入りますね」

声からして橘だろう。

思わず体が震える。

ギュッと体を丸めて目をつぶる。

「・・・なんだ、本当に寝てるのか」

「・・・」

男の掌が恭介の頬をペチペチと叩く。

「・・・ベッドが軋んだ音?いや、実は起きてたりして」

あんなに慕っていた男が急に恐ろしくなる。

怖い。このまま黙って目を閉じていれば何をされるか分からない。

──自分も首を絞められてあんな事をされるんじゃ?

思い切って今起きた体を装い体を起こそうか。



「・・・っ橘、さん。ケホっ、けほけほっ」



遠くから橘を呼ぶ弱々しい声。

苦しそうに喉を詰まらせ噎せている。

「へへ、」

下卑た笑みを浮かべた橘が、喜島が横たわったままであろう隣の部屋に目を向けた。

──喜島芥だ。

思わず息を飲む。

喜島は馬鹿だ。あのまま、じっとしていれば。
もしくはこちらに気があるうちに下の階に逃げれば橘から逃れる事が出来ただろう。

パタパタと足音が小走りに恭介の部屋を出ていくと、再度隣の部屋が騒がしくなる。

『っ───!親父──下にっ・・・!』

『・・・聞こ──しねぇ─。恭介坊ち──寝てる。おま──騒─なきゃ─』

ところどころ聞き取れないが、二人がまた先程のように揉めているのは明白だ。

畳の擦れる音や衣擦れの音、暫くするとぱちゅぱちゅといやらしい水音まで聞こえ、壁越しの苦しそうな吐息にどうしようもなく恭介の顔が熱くなる。

時折壁に体がぶつかるのか、ドンッと大きな音がする。

「(っ、隣で寝てるってわかってるのに、)」

喜島の引きつった堪えるような声が橘に乱暴に揺さぶられる度にプツプツと跳ねる。

「(喜島、芥・・・)」

先程頬を叩かれた場所に手を当てる。

コレであんなに怖かったんだ。

きっと合意ではない。
あんな大きな男に組み敷かれ、揺さぶられ、十九歳の青年がどれ程の恐怖かしれない。

「(芥・・・、兄さん)」

ゴソゴソと股間の膨らみに手を伸ばし、ゆっくりと扱く。

壁越しに聞こえるくぐもった声に耳をすまして、必死に手を上下させる。

「っふ、はぁ、はぁ、っ!」

ブルブルっと腰を震わせ、手のひらにドロリと欲望を吐き出す。

「っ兄さん、」

はぁはぁと荒い息を繰り返し、枕に顔を押し付けた。

どっと疲れが押し寄せて体が重くなる。



眠たい。
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